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作者: 神無城 衛
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グリニッジ標準時7月19日22時(東京時間13時)

 ナイアガラ号は地球政府の管轄する宇宙港に停泊していた。この日セシリアをはじめとする反乱軍制圧作戦に参戦した各艦長が地球ユニオン領ヨセミテ地域へ叙勲式のために会している。

 新CEOがギルドの軍事力の独占を目論んだことに端を発した、後に星嵐戦争せいらんせんそうと呼ばれるこの戦役は反乱軍主力の壊滅によって終わった。ヨトゥンヘイム要塞は要塞内部の反乱軍正規軍、無理やり船をねじ込もうとした傭兵団の多くに死者を出した。また、開拓可能な惑星がなかったとはいえ、アンダーソン元帥の発令した“ニガヨモギ”は多くのスペースデブリを拡散し、当該宙域は危険地帯と化した。また、ヨトゥンヘイム要塞をそのまま泳がせ、各自治星系で要撃して疲弊したところを叩く長期戦に持ち込めばより安全に反乱軍を無力化できたのではないかという識者も現れ、これらのことからこの作戦を承認したギルドとユニオン政府への世論からの批判が高まり、アンダーソン元帥は自らそのすべての責任を負うとして元帥号を返上するに至った。
一方でギルドの戦力を担っていたアダルヘイムは反乱軍に異を唱えた離反者を中心に再編したものの、反乱軍に加担した者を排除したことでかつての規模の6割まで機能が低下し、特に戦闘員については5割まで低下した。そこで対応策としてユニオン軍が新たに特別支援隊を編成し、先に進めていた協定を締結するまでの当面の間戦闘力を貸与することとなり、その部隊の司令官は上級大将に降格したアンダーソン氏が引き継ぐこととなった。
前CEOが自らの権限を拡大するために起こした反乱は結果的に彼の死を以て終局を迎えた。
壊滅した反乱軍については主要な指揮官と各惑星に派兵されていた艦隊を制圧し逮捕することはできたものの、残党と化したいくつかの部隊と、アダルヘイムが建造していたいくつかの機動要塞のうち、占領されたガストロープニル要塞が辺境の惑星に艦隊を率いて逃れており、行方を追ってはいるものの今現在捕捉できたものは艦隊の一部で、残りはマフィアや反社会的勢力の戦力として吸収され隠蔽されたのだろうと予想されている。ただし、要塞ほどの大型拠点を完全に隠し通すことはできないはずなので、どこかの開拓に適さない放棄された宙域に隠れているだろうというのがギルド、アダルヘイム、ユニオンの公式な見解である。
この戦争はギルドとギルドの保有する軍事力のあり方について世論を沸き立たせたことは言うまでもなく、ギルドは各星系自治政府に対する信用と、統制のとれた軍事力の回復のためにアダルヘイム諜報部とともに積極的な政治活動を行っており、幸いなことに今のところ自治の行き届いた各惑星国家の間で紛争や内乱、侵略行為は起こっていない。
ギルドの抱える戦後措置の問題はそれだけではなく、この戦闘による戦闘損耗の他、物資不足を発端とする同士討ちによる非戦闘損耗、過度のストレスにより精神疾患を患った将兵、症状緩和のため薬物やアルコールなどに依存した将兵のような二次的な疾患の患者、さらには手足を失って生活にすら困窮する兵士や家族を失った遺族に対する補償やケアなど、敵対した反乱軍、自軍のアダルヘイム、ユニオン、戦災に遭ったヤマト、新台国に対して分け隔てなく適正な戦後措置を行うことをギルドとアダルヘイムが公約とし、各自治国に承認された。
この戦役で“ニガヨモギ”の建造と運用の一部に携わったエックハルトは国際裁判所による審理の結果、反乱軍を離反したことにより罷免ひめんされたが、立場上反乱軍を説得できるカードになりえたことを自らの責任とし、今後は生涯をアダルヘイムのCEOの下で働くことで残された自分の責任を果たすと決めた。ただし戦線には出ず、新規に募集している新隊員の練兵に尽くすとした。

 この戦役でバートランド商会をはじめとする予備役の戦力は有用性を見込まれ、さらに戦力の低下した現在の状況下において重要な位置を占めるようになった。新米艦長のセシリアのナイアガラ号や老虎の柏陽号、別の戦線で戦ったハンナの長門をはじめとするギルドの予備役艦隊はギルド直轄の主力艦隊に編入され、自らの事業と併せて残党狩りにと多忙を極めている。
 これを受けてギルドは各予備役艦隊の戦力の増強を図るため、予備役戦闘艦の募集をさらに強化しつつ、反乱軍から離反した兵員や退役軍人を雇い入れることとした。軍隊仕込みの彼らは優秀な戦力となっている。

「…ということがあったの」
叙勲式を終えた翌々日、ユニオン自治区から父の新しく立ち上げた会社へ来たセシリアは仕事の報告をしていた。
「しかしすごいな、大したものだよ」
 この戦役でセシリアは星嵐戦争で困難な状況を打開することに大きく寄与したとして、ギルドから准将相当の地位と権限、そして…
「今日から私は『星嵐せいらんのセシリア』よ」
セシリアには星嵐の称号を授かった。
「それで、この後の予定は?」
「そうそう、うちの社で続けてくれることになったルイーサにも挨拶に行かなきゃ」
「シリウスまで行くのか?」
「いいえ、今日はお父様の仕事について来ているらしくて、近くのレストランでご飯を食べることにしているの。ユカも一緒よ」
「そうか、それじゃあゆっくりしてられないなぁ」
「そうね、また近くに寄ったら顔を出すね」
 セシリアは真夏の日差しの空の下、晴れやかな気分で父のオフィスを後にした。

FIN
昔から宇宙を旅することに憧れがあり、松本零士先生の作品やスティーブンスピルバーグ監督の作品に憧れていました。
今回、こうして自分の作品を世に送り出すことができたことは、これから書き続けることへの第一歩となることでしょう。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
ご覧になった皆様が楽しんでいただければ何よりです。

それでは、また別の機会に…
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