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作者: 神無城 衛
*3*
 二日目は残っているクルーにお土産を買うことにした。この日はユカと同伴で、久しぶりにガールズトークに花が咲いた。
 二人でああだこうだと他愛もない話で談笑しながら街を歩くのが楽しい、士官学校や船内では身だしなみ以上のおしゃれに気を遣うことがなかったセシリアも一緒にコスメを選んだりしてこの時を楽しんでいた。
「占いだって、寄ってかない?」
ユカが横丁の片隅に怪しげな恰好の老婆を見つけた。どうやら大昔の地球で作られた古風な絵柄の描かれたカードで占うようで、ユカによるとこの界隈ではそこそこに名の通った人物であるらしい。
「私はいいかな、占いって信じてないし…」
カードを切っていた老婆が視線を上げて目が合った。目を細めると静かに口を開いた。
「あなたは船を背負っていて、良い人に恵まれているね。けれど油断しないで、あなたはこれから否応なく時代を揺るがすような大きな嵐に漕ぎ出すことになる。大事な家族を守るためにも、あなたがあなたのまま生きるためにも、その素直さを忘れちゃいけないよ」
「…あの、占ってほしいとは言ってないですよ」
 老婆は再びカードの束に視線を戻し、卓に広げて混ぜ始めた。
「お代はいただかないわ、これは私の授かった使命でもあるから…
時々ね、カードをめくらなくても見える人がいるの。自分の運命の荒波に迷いなく舵を切れる人が、私はそういう人が嵐に迷わないようにこうしてお話しするの。私にできることはそれだけ。嵐の中に航路をつけるのはその人達だから…」
「それじゃあ私も占ってよ。ちゃんとお代を払うから」



 ユカは占いに満足したらしい、ウキウキした顔でセシリアと宇宙港に向かっていた。その老婆曰く占いの結果は忖度なく話し、本人にしか話せないということでセシリアは聞かなかったが、ユカにとっては良い結果だったらしい。
 
そのあとは真面目にお土産のお菓子や煙草を買って、日が沈むころに宇宙港の地上ステーションに帰ってきた。
 いつものように積み込み貨物にお土産を預け、シャトルで宇宙港まで上がり、ナイアガラ号のあるポートに向かい停泊している船に帰ってきた。
 船に挨拶する意味を込めて船体のロゴのある部分に触れる。微かに温もりを感じてそっと頬を寄せていると、応急長が来た。
見られたのかと思ってちょっと恥ずかしかったが、応急長は気がついていなかったようで自分の用件を話し始める。
「船長、ずっと気になっていたのですが…、船長の足元のこの傷だけちゃんと修理されているのに塗装が違っていますが何か意味があるのですか?」
足元に目をやると確かに傷がある、いや、傷があったところを修理してわざと塗装のトーンを少し違えてある。
「これはね、私のお父さんとの思い出なの」
 

それは幼い頃の思い出で、ある時海賊に襲撃され、それを撃破したときにナイアガラ号は軽いダメージを負った。まだ幼かったセシリアは傷つきながら自分たちを守ってくれたナイアガラ号の痛ましい姿を見て自分にも何か出来ないかと考えた結果…
当時の自分の目線の高さにあったその小さな傷に絆創膏を貼ったのだ。
後で父と当時の応急長に聞いたところ、船は絆創膏では治らないけれど、その優しさを船が喜んでいるよと言われたのだった。

「ということがあったの…」
「なるほど…」
応急長は得心したという顔で再び業務に戻っていった。
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