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作者: 神無城 衛
*1*
グリニッジ標準時4月17日9時(東京時間16日18時)

エウロパを出て10日が経過した。
東京時間の4月16日、ナイアガラ号は滞りなく航行し、シリウス星系の外縁の岩礁地帯にあるゲートに到着した。そこから亜光速航行によりシリウスの有人惑星を目指す。

シリウスの有人惑星に差し掛かると、クルーは慣れた調子で亜光速ドライブを終了し、入港準備にとりかかる。
慌ただしい艦内では子供たちは危ないのでルイーサの部屋で勉強している。この後は入港したらアウレリオも連れて課外授業に出かけるそうだ。
セシリアもギルドの軍服で正装を整えて艦橋にいる。
「こちらEA⁻DIMOS⁻677524、 バートランド商会所属、3級装甲巡洋艦ナイアガラ号です。入港許可をいただきたくお願いします」
『こちらシリウス軌道ステーションです、ようこそナイアガラ号。B-38ポートに入港願います、進入灯に従って入港してください』
「コピー、B-38ポートに入港します」

グリニッジ標準時の9時半(東京時間18時半)ナイアガラ号は大型ポートにゆっくりと入港した。
船を係留するとポーティングブリッジが接続され、作業員のクルーも続々と上陸する。セシリアがフリーフライトチェックを始めると応急長が話しかけてきた。
「船長、先の戦闘では直接的なダメージはありませんでしたが、わずかな損傷があるかもしれません、大事をとって整備ドローンによるスキャンを具申します」
「承諾します、それではダメージ補修に関する報告をお願いします」
「了解です」
 セシリアもひととおり確認したところ目立った損傷はないものの、当たらなかったとはいえ攻撃を受けた以上油断はできない、ましてや今は仕事中で、客人と貨物を無事に送り届けないうちに大切な船を損なうわけにはいかない。応急長の具申はとても正しいと思う。
 応急長もつい3ヶ月ほど前にナイアガラ号に乗り込んだクルーで、歳は私より二つ年下16歳だが、私と同じように幼い頃から他の船に乗っていて、船で育ったことで船に居ないと落ち着かないからという理由で通信制の高等学校を卒業した逸材だ。幼い頃からナイアガラ号と同じくらいの船齢の船で育ったことで、船のことは良く分かっていてとても頼りになる。
 船のチェックとメンテナンスがあることで停泊期間は1週間と決まりその間に船の点検や補給品の調達と搬入、設備更新のための見直しを行う。それが済んだら部門ごとに休暇の計画を立て、地上に降りるなどして休んでもらう。そこで不在の艦の連絡係として艦内の主要な人員から一日毎交代の当直を決めることになった。
 その結果いつものように応急長がそのまま残ることになった。彼は「僕の居場所は自分の乗る船だけ…」と言って惑星に降りることに興味はないらしく、何なら船内の空気を吸わないと悪酔いするとまで言っている。なんとも変わった人物だ。
 
 主計部と機関部のまとめた不足品のリストをもとにクルーがせわしなく物資の搬入を進めている中、ルイーサと子供たち、休暇をもらったアウレリオと行き先に興味を持ったクルー数名がポーティングブリッジを抜けて港へ降りてきた。
子供たちが笑顔で行ってきますと手を振ってシャトルのポートに向かって歩いていった。
今日はバートランド商会シリウス支部で地上にクルーの宿をとっていて、ルイーサたちはそこで休んで、翌日はシリウス独立記念館に行くそうだ。シリウス独立記念館は軌道ステーションの足元にあり、宿からも近い。セシリアも補習を兼ねてユカとともに合流することになっている。
補給品の搬入はクルーに任せてよいということになったのでその日は各々船内や宿で休むこととなった。

翌朝、シャトルで地上ステーションに降りるとルイーサたちと合流した。独立記念館は地上ポートに併設されているらしく、案内表示があった。
地球と違うのは観光客が極端に少ないことで、大概シリウスの地上ステーションに渡航の用向きがあるのは生産される農産物の買い付けのビジネスマンや仕事を求めに来る第一次産業系の労働者がほとんどで、パリッとしたスーツを着ている渡航者が多い。
表示されている看板に従って独立記念館の入り口に向かうとルイーサたちが先に着いて待っていてくれた。
受付によると団体割が使えるというのでそれで手続きすると、一団はルイーサについて館内に入っていった。
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