3-1
「では陣立てを確認する」
イアンが満を持して、今日の戦の話しを始めた。
「先方はエリオット伯と、リッパ―騎士団にお願い致す」
「承った、リッパ―尖槍陣の恐ろしさを、いやというほどお目に掛けてやろう」
満足そうに老伯爵は、腕を組んだまま応える。
「この齢になってもうひと働き出来るとは思ってもおらなんだ、今日は心ゆくまで楽しませて頂くとするか」
エリオット伯と似た年齢の老武人が、にこやかな表情で口元を緩める。
彼の乳兄弟で、リッパ―騎士団指揮官のターキー将軍だ。
昔はサイレンの猛虎とまで呼ばれ、常に先陣を切って敵目がけて駈ける姿は、サイレン軍の名物とまで言われていたほどであった。
「アムンゼイ侯の神狼傭兵騎士団は、エリオット伯の援護として先陣を補佐して頂きたい」
「わかった、しかしわたしは戦場では役に立たぬ、それどころか足手まといとなりかねん。この帷幕にて戦況を見ておることにする。騎士団はバルクとオウガの二将軍に任せてある、傭兵ながらかれこれ十年以上仕えてくれておる信用できる人間だ。此度は珍しく無償にて参加してくれておる、勝ち戦のあかつきには、うんと礼をはずまねばならんと思うておるところだ」
後ろに控えている二人の男が諸将に頭を下げる。
「いくら欲しい、オウガ。諸将たちの前での約束だ必ず守る、好きなだけ言っておけ」
冗談のような口ぶりでアムンゼイが訊く。
「金など要らん、この戦に勝ったらあなたの家臣になろう。禄はそれなりに貰うつもりだがな」
隻眼なのか右目を布で隠した三十歳台後半と思われる、細面の男がぶっきらぼうに応える。
「オウガ同様俺も家臣にしてくれ、そうだな待遇は家老にでもしてもらおうか」
オウガより少し齢上らしい、がっしりとした髭面の男バルクがにやりと笑う。
「おいおい、それじゃ金で済ました方が安くつきそうだな。子々孫々までわたしに集るつもりだなお前ら」
二人から家臣になりたいと言われ、まんざらでもなさそうな顔でアムンゼイが悪態をつく。
さっきは傭兵など信用していないと言っておきながら、内心ではそうではないらしい。
「わかった、約束しよう。必ずわたしの所に戻って来いよ、戻らねば約束を守れぬからな。わたしが噓つきだと想われてしまう──」
そういうと感極まったのか、アムンゼイが二人の肩を抱きしめる。
「あんたらしくないそアムンゼイ、もっと冷淡な男のはずじゃないか。俺たち傭兵の命など所詮は金で買ったもの、死ねばまた補充すればいいだけだろ」
「そ、そうだ、お前たちの命は買ったわたしのものだ。どう使おうが勝手、だから、だから必ず戻って来い、買主の命令だ」
オウガの言葉に、彼はなおさら強く腕に力を込める。
「俺も齢を食っちまったな、長く一つ所にい過ぎたようだ、傭兵としての勘がうまく働かない。しかしな、シャザーンの領主の軍は傭兵なだけにどうだこうだなんて、他のやつらには言わせない。あんたの名誉にかけてさすがは神狼傭兵騎士団だと驚かせてやろう」
見るからに強面の巨体を擁したバルクは、親しみを湛えた声で抱きついて来たアムンゼイの背に手を添える。
「死ぬなよバルク、お前は不死身なんだろ。初めてわたしに逢った時そういって、買い値をふっかけたではないか。今日もいままで通りに、傷一つ負わずに帰って来てくれ」
「わかった、約束はできんが努力はしよう」
アムンゼイの腕をふりほどき、バルクが笑う。
「これが傭兵としての最後の戦だなオウガ」
「応ッ!」
オウガとバルクが固く手を握り合う。
はたしてその言葉の意味は、一体なんだったのだろうか。
この戦で命を落とす覚悟を口にしたのか、それとも明日からは傭兵ではなくポルピュリオウス家の正式な家臣として仕えるようになるという意味なのか。
そのどちらでもあったのかもしれない。
これで先方はリッパ―騎士団二千五百、神狼傭兵騎士団五千の総勢七千五百騎と決まった。
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