残酷な描写あり
R-15
9話：レギオン結成②
デストロイヤーは無事殲滅された。
しかし重傷者を出してしまった。それも真昼の判断ミスによってだ。シノアは全身を包帯で巻かれてチューブに繋がれている。
真昼は病室で重体のシノアを眺めていた。
幻覚の時雨が真昼を抱きしめながら囁く
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
『真昼……あれは少し思慮不足だったね。一年生のスキルを確認する前にラプラスを使うのは』
「その通りです。私の慢心がこの事態を招いた」
『まさかアサルトパーサークの持ち主だとは、運がない。あれだけ真昼の事を慕っていた子が、アサルトバーサークというのはある意味運命的だけどね』
「……」
『ラプラスには負の魔力の浄化効果もある。狂乱状態になるアサルトバーサークを正常に引き戻すにはまたとないスキルだ。スキルの相性はばっちりだね』
「たぶん、これで彼女は私を嫌いになりました」
『そうかな？ 失敗は誰にでもある。それが一流と呼ばれる者にもだ。だけどこれで幻滅して近づくのをやめるなら好都合だ。真昼は、ボクのものだからね』
「シノアちゃんには申し訳ない事をした」
『気に病む事はないよ。大丈夫。なんとかなるさ、いつもそうだっただろう？ もし気になるなら記憶を書き換えて仕舞えば良い』
「そんな事、できません」
『トラウマを持った子達には使ってきたじゃないか。少しくらい私利私欲の為に使っでもバレはしないよ』
「お姉様は使い過ぎでしたけどね……そうじゃなくて、自分のやった罪はちゃんと罰を受けないと」
『でも訓練校からはお咎めなしだろう？ ならそういう事じゃないかな。衛士の戦いには不測の事態は起こり得るものだ。それにいちいち責任を感じていては身が持たないよ』
「はい」
『といっても、聞かない子だよね。君は。ボクが死んだのも抱え込んで。全く優しすぎるんだから』
ガラガラと病室のドアが開いて風間と二水が入ってきた。
真昼は微笑みを浮かべで挨拶をする。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう真昼様。あの後からずっとここにいたんですの？」
「うん、授業はもう単位は取れているし、早く謝りたかったから」
「あれは……まぁ、なんとも言えませんわね」
普通に考えれば、冷静さを失いラプラスでスキルを強制発動させて一気呵成に撃滅命令を出した真昼が悪いのだが、それを真正面から指摘する度胸は風間にはなかった。
「シノアちゃんのことよろしくね」
「承りましたわ」
そう言って真昼は去っていった。
風間と二水は椅子に座り、シノアの様子を見る。
「ラプラスによる支配も完全ではない、という事ですのね」
「はい。アサルトバーサークはトランス状態になり、敵味方問わず攻撃するスキルです。防御力、攻撃力は上昇しますが、使い所を見誤れば大惨事を起こします」
「それを、他人の手で強制的に発動されて仕舞えば、シノアさんはどうしようもない、ですわね」
うっ、とシノアが声を漏らした。ゆっくりと瞼が開き、焦点があっていく。
「ここは、どこかしら」
「横浜衛士訓練校の病室でしてよ。どこまで記憶がおありですの？」
「確か、真昼様がラプラスを発動してから……そこから記憶が」
「なら、その説明をさせて頂きますわ」
風間は事のあらましを説明した。
ラプラスによってレアスキルが強制発動され、アサルトバーサークが発動。デストロイヤーに向けて特攻を仕掛ける。それと同時にデストロイヤーに向けて射撃攻撃が行われそれに巻き込まれて吹き飛ばされ重傷を負った。
それに気づいた真昼はすぐさまシノアを担いで横浜衛士訓練校の保健室へ急いだ。そこで治療が行われて、真昼に看病されていた、という流れだ。
「そうだったの、心配をかけたわね、二人とも」
「全くですわ。まぁ、今回は仕方ありませんけど」
「真昼さんがあんなに怒るなんて、驚きました」
「あの方、衛士を守ることに命をかけているようにお見受けしますわ。だから、衛士をたくさん殺したあのレストアのデストロイヤーが許せなかったのでしょう」
「剣山みたいでしたからね」
「案外、穏やかそうに見えて激情家なのかもしれませんわね」
「激情家ですか、そういえば真昼様はある時を境に性格がかなり変わられたそうですよ」
「その情報はどこから？」
「それは秘密です。もしシノアさんが動けるなら資料室に行ってみませんか？ 真昼様のことが何かわかるかもしれませんよ」
「資料室？」
「はい、横浜衛士訓練校の資料室には衛士の情報が記載されているんです。参加した作戦や死亡記録まで」
「どうですの、シノアさん。動けそうですか？」
「ええ、行ってみましょう。レギオンを作るに当たっても、私は真昼様のことを知らなければいけないわ」
三人は病室から抜け出し、資料室へ向かった。資料室には高性能PCとデータバンクがあり、すぐに検索ができるようであった。ログインをして、『一ノ瀬真昼』と入力する。するとパッと情報が出てきた。
「上の方は私達でも知っている情報ばかりですね。遂行した作戦、成功率、スキル：ラプラス」
「ラプラスの最初の覚醒者ですから、かなり研究を受けたそうですね。あまり進展はなかったそうです」
「他にもっと情報は？」
「うーん、アールヴヘイム時代に姉妹誓約を結んでいますね。もう破棄されていますが」
「破棄？」
「ええと、茨城撤退戦後に破棄扱いになってますね」
姉妹誓約の契りの破棄は相当に悪い評判を残す。余程なことがない限り、解消する事はない。あるとすれば余程の不一致があったか、または死亡したかのどちらかだ。
「そのお相手は？」
「夕立、時雨様。もう亡くなられてます。茨城撤退戦でアルトラ級デストロイヤーと戦闘後にデストロイヤーの群れと遭遇。防衛軍と共に避難民を逃す殿役となり、デストロイヤーに生きたまま捕食されたと記録にはあります」
その記録に目を剥く。
「捕食？ デストロイヤーによる殺害ではなくて捕食ですの？」
「過去にもその例は確認されています。その報告者は真昼様です。更にこの件を筆頭に真島真由様の新型戦術機の実験中の事故で須藤燈火様が廃人化、超高出力砲の無断使用によって一般市民への多数の死傷者と不祥事が続き初代アールヴヘイムは解散となってます」
「色々と知らない情報があってびっくりですわね。それで真昼様に変化があったのはいたからですの？」
「アールヴヘイム解散後からですね。それぞれが次のレギオンに加入する中で、一人だけで活動して臨時補充隊員や臨時遠征衛士として名を馳せます」
臨時補充隊員とは、レギオンに欠員が出た時に補充されるフリーの衛士のことだ。また単独での任務や外征任務などもこなす。
「ほぼ休みなしでデストロイヤーを殲滅し続けて、各地の衛士を支援、絶望的な戦況をひっくり返す偉業を何度も達成されています。この事から軍から銀十字貢献勲章が授与されています」
「中等部の頃でも嫌でも耳に入ってきましたからね。真昼様の噂は」
「ええ、民間人の間でも桃色とクローバーの天使の話はよく聞く話よ」
精神疾患：サバイバーズギルド
症状：幻覚と妄想
「これは」
「もっと深く読んでみましょう」
二水はクリックして格納されていた情報を広げる。
『一ノ瀬真昼は茨城撤退戦の際に姉妹誓約の夕立時雨や防衛隊、民間人を見捨てて逃亡したことからサバイバーズギルドや幻覚に囚われていると面談で判明した』
『サバイバーズ・ギルト (Survivor's guilt) は、戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら、奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感のこと。「サバイバー」 (survivor) は「生き残り・生存者・遺族」を、「ギルト」(guilt) は「罪悪感」を意味する英語』
『一ノ瀬真昼は自身が生き残ってしまったことに罪悪感を感じて、それを誤魔化すために戦地に赴いていると推測される』
『幻覚は夕立時雨を見るという症状が報告されている。彼女は自身に優しく語りかけ、罪の意識をなくそうとしてくれている。またその様子が生前の夕立時雨と酷似している事から強い安心感を覚えている』
その記述に三人は絶句した。
「あの真昼様にこんな事情があったなんて」
シノアは資料を見て拳を握る。
「私、決めたわ。今の真昼様を一人には出来ない。必ずみんなで戦えるレギオンを作ってみせる」
横浜衛士訓練校の鐘が鳴った。授業開始五分前の合図だ。三人は慌てて電源を消して資料室から飛び出した。
しかし重傷者を出してしまった。それも真昼の判断ミスによってだ。シノアは全身を包帯で巻かれてチューブに繋がれている。
真昼は病室で重体のシノアを眺めていた。
幻覚の時雨が真昼を抱きしめながら囁く
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
『真昼……あれは少し思慮不足だったね。一年生のスキルを確認する前にラプラスを使うのは』
「その通りです。私の慢心がこの事態を招いた」
『まさかアサルトパーサークの持ち主だとは、運がない。あれだけ真昼の事を慕っていた子が、アサルトバーサークというのはある意味運命的だけどね』
「……」
『ラプラスには負の魔力の浄化効果もある。狂乱状態になるアサルトバーサークを正常に引き戻すにはまたとないスキルだ。スキルの相性はばっちりだね』
「たぶん、これで彼女は私を嫌いになりました」
『そうかな？ 失敗は誰にでもある。それが一流と呼ばれる者にもだ。だけどこれで幻滅して近づくのをやめるなら好都合だ。真昼は、ボクのものだからね』
「シノアちゃんには申し訳ない事をした」
『気に病む事はないよ。大丈夫。なんとかなるさ、いつもそうだっただろう？ もし気になるなら記憶を書き換えて仕舞えば良い』
「そんな事、できません」
『トラウマを持った子達には使ってきたじゃないか。少しくらい私利私欲の為に使っでもバレはしないよ』
「お姉様は使い過ぎでしたけどね……そうじゃなくて、自分のやった罪はちゃんと罰を受けないと」
『でも訓練校からはお咎めなしだろう？ ならそういう事じゃないかな。衛士の戦いには不測の事態は起こり得るものだ。それにいちいち責任を感じていては身が持たないよ』
「はい」
『といっても、聞かない子だよね。君は。ボクが死んだのも抱え込んで。全く優しすぎるんだから』
ガラガラと病室のドアが開いて風間と二水が入ってきた。
真昼は微笑みを浮かべで挨拶をする。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう真昼様。あの後からずっとここにいたんですの？」
「うん、授業はもう単位は取れているし、早く謝りたかったから」
「あれは……まぁ、なんとも言えませんわね」
普通に考えれば、冷静さを失いラプラスでスキルを強制発動させて一気呵成に撃滅命令を出した真昼が悪いのだが、それを真正面から指摘する度胸は風間にはなかった。
「シノアちゃんのことよろしくね」
「承りましたわ」
そう言って真昼は去っていった。
風間と二水は椅子に座り、シノアの様子を見る。
「ラプラスによる支配も完全ではない、という事ですのね」
「はい。アサルトバーサークはトランス状態になり、敵味方問わず攻撃するスキルです。防御力、攻撃力は上昇しますが、使い所を見誤れば大惨事を起こします」
「それを、他人の手で強制的に発動されて仕舞えば、シノアさんはどうしようもない、ですわね」
うっ、とシノアが声を漏らした。ゆっくりと瞼が開き、焦点があっていく。
「ここは、どこかしら」
「横浜衛士訓練校の病室でしてよ。どこまで記憶がおありですの？」
「確か、真昼様がラプラスを発動してから……そこから記憶が」
「なら、その説明をさせて頂きますわ」
風間は事のあらましを説明した。
ラプラスによってレアスキルが強制発動され、アサルトバーサークが発動。デストロイヤーに向けて特攻を仕掛ける。それと同時にデストロイヤーに向けて射撃攻撃が行われそれに巻き込まれて吹き飛ばされ重傷を負った。
それに気づいた真昼はすぐさまシノアを担いで横浜衛士訓練校の保健室へ急いだ。そこで治療が行われて、真昼に看病されていた、という流れだ。
「そうだったの、心配をかけたわね、二人とも」
「全くですわ。まぁ、今回は仕方ありませんけど」
「真昼さんがあんなに怒るなんて、驚きました」
「あの方、衛士を守ることに命をかけているようにお見受けしますわ。だから、衛士をたくさん殺したあのレストアのデストロイヤーが許せなかったのでしょう」
「剣山みたいでしたからね」
「案外、穏やかそうに見えて激情家なのかもしれませんわね」
「激情家ですか、そういえば真昼様はある時を境に性格がかなり変わられたそうですよ」
「その情報はどこから？」
「それは秘密です。もしシノアさんが動けるなら資料室に行ってみませんか？ 真昼様のことが何かわかるかもしれませんよ」
「資料室？」
「はい、横浜衛士訓練校の資料室には衛士の情報が記載されているんです。参加した作戦や死亡記録まで」
「どうですの、シノアさん。動けそうですか？」
「ええ、行ってみましょう。レギオンを作るに当たっても、私は真昼様のことを知らなければいけないわ」
三人は病室から抜け出し、資料室へ向かった。資料室には高性能PCとデータバンクがあり、すぐに検索ができるようであった。ログインをして、『一ノ瀬真昼』と入力する。するとパッと情報が出てきた。
「上の方は私達でも知っている情報ばかりですね。遂行した作戦、成功率、スキル：ラプラス」
「ラプラスの最初の覚醒者ですから、かなり研究を受けたそうですね。あまり進展はなかったそうです」
「他にもっと情報は？」
「うーん、アールヴヘイム時代に姉妹誓約を結んでいますね。もう破棄されていますが」
「破棄？」
「ええと、茨城撤退戦後に破棄扱いになってますね」
姉妹誓約の契りの破棄は相当に悪い評判を残す。余程なことがない限り、解消する事はない。あるとすれば余程の不一致があったか、または死亡したかのどちらかだ。
「そのお相手は？」
「夕立、時雨様。もう亡くなられてます。茨城撤退戦でアルトラ級デストロイヤーと戦闘後にデストロイヤーの群れと遭遇。防衛軍と共に避難民を逃す殿役となり、デストロイヤーに生きたまま捕食されたと記録にはあります」
その記録に目を剥く。
「捕食？ デストロイヤーによる殺害ではなくて捕食ですの？」
「過去にもその例は確認されています。その報告者は真昼様です。更にこの件を筆頭に真島真由様の新型戦術機の実験中の事故で須藤燈火様が廃人化、超高出力砲の無断使用によって一般市民への多数の死傷者と不祥事が続き初代アールヴヘイムは解散となってます」
「色々と知らない情報があってびっくりですわね。それで真昼様に変化があったのはいたからですの？」
「アールヴヘイム解散後からですね。それぞれが次のレギオンに加入する中で、一人だけで活動して臨時補充隊員や臨時遠征衛士として名を馳せます」
臨時補充隊員とは、レギオンに欠員が出た時に補充されるフリーの衛士のことだ。また単独での任務や外征任務などもこなす。
「ほぼ休みなしでデストロイヤーを殲滅し続けて、各地の衛士を支援、絶望的な戦況をひっくり返す偉業を何度も達成されています。この事から軍から銀十字貢献勲章が授与されています」
「中等部の頃でも嫌でも耳に入ってきましたからね。真昼様の噂は」
「ええ、民間人の間でも桃色とクローバーの天使の話はよく聞く話よ」
精神疾患：サバイバーズギルド
症状：幻覚と妄想
「これは」
「もっと深く読んでみましょう」
二水はクリックして格納されていた情報を広げる。
『一ノ瀬真昼は茨城撤退戦の際に姉妹誓約の夕立時雨や防衛隊、民間人を見捨てて逃亡したことからサバイバーズギルドや幻覚に囚われていると面談で判明した』
『サバイバーズ・ギルト (Survivor's guilt) は、戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら、奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感のこと。「サバイバー」 (survivor) は「生き残り・生存者・遺族」を、「ギルト」(guilt) は「罪悪感」を意味する英語』
『一ノ瀬真昼は自身が生き残ってしまったことに罪悪感を感じて、それを誤魔化すために戦地に赴いていると推測される』
『幻覚は夕立時雨を見るという症状が報告されている。彼女は自身に優しく語りかけ、罪の意識をなくそうとしてくれている。またその様子が生前の夕立時雨と酷似している事から強い安心感を覚えている』
その記述に三人は絶句した。
「あの真昼様にこんな事情があったなんて」
シノアは資料を見て拳を握る。
「私、決めたわ。今の真昼様を一人には出来ない。必ずみんなで戦えるレギオンを作ってみせる」
横浜衛士訓練校の鐘が鳴った。授業開始五分前の合図だ。三人は慌てて電源を消して資料室から飛び出した。