残酷な描写あり
第14回 絶望を知る 希望を悟る:1-1
「暑い」
セディカは呟いた。
「暑い街道より涼しい山道の方がマシかもねえ。この先にある山も、迂回しないで越えようか」
そう応じるジョイドは、しかしそれほど暑がっているようにも見えない。これも何か仙術で凌いでいるのだろうか。
とはいえ、セディカも——ベールを使わなくなって、頭周りの風通しはよくなっているのだが。
〈錦鶏集う国〉を離れた最初の晩、ジョイドに与えられた少量の塗り薬は、翌朝には少女の額から傷痕をすっかり消し去ってしまっていた。父の非道の証拠、暴力の痕跡、人非人ぶりの象徴が消滅したことに、セディカは何か言い知れない、予想外の喪失感を覚えたのだったけれども、これでもう額を隠す必要はなくなったわけである。セディカ自身が額を見るために用いた手鏡の方に仕掛けがあるのでなければ。
思いがけないことばかりだ。幽霊となった国王の訪問を受けたことも、太子に秘密を伝えるために架空の巫女を装ったことも、方士でもある妖怪同士の戦いに巻き込まれたことも。〈錦鶏〉でのことが特別すぎたものだから、これといって騒動も起こらない今の旅路に、日常に戻ってきたかのような錯覚さえ、感じる。旅そのものが非日常であったし、行きずりの他人であり、方士であり、妖怪である青年たちに連れられていることだって、異常でさえあったはずなのだけれど。
「次の村からは〈金烏〉だよ。〈高寄〉まで最短距離で行くなら、山を一つ越えることになるね。〈連なる五つの山〉に比べれば大した山じゃないけど」
「そりゃ、〈五つの山〉に比べりゃな」
〈金烏が羽を休める国〉の〈高寄と高義と高臥の里〉。それが祖父の故郷であった。父に聞かされた、偽りの目的地。
セディカが現れたとき、会ったこともない親戚は何と言うのだろう。そう考えても不安に押し潰されそうにはならないことに気がついた。拒絶された場合はトシュとジョイドに助けてもらえる気でいるのだなと、自分の内面を推し量って苦笑する。すっかり、当てにしているらしい。
セディカは呟いた。
「暑い街道より涼しい山道の方がマシかもねえ。この先にある山も、迂回しないで越えようか」
そう応じるジョイドは、しかしそれほど暑がっているようにも見えない。これも何か仙術で凌いでいるのだろうか。
とはいえ、セディカも——ベールを使わなくなって、頭周りの風通しはよくなっているのだが。
〈錦鶏集う国〉を離れた最初の晩、ジョイドに与えられた少量の塗り薬は、翌朝には少女の額から傷痕をすっかり消し去ってしまっていた。父の非道の証拠、暴力の痕跡、人非人ぶりの象徴が消滅したことに、セディカは何か言い知れない、予想外の喪失感を覚えたのだったけれども、これでもう額を隠す必要はなくなったわけである。セディカ自身が額を見るために用いた手鏡の方に仕掛けがあるのでなければ。
思いがけないことばかりだ。幽霊となった国王の訪問を受けたことも、太子に秘密を伝えるために架空の巫女を装ったことも、方士でもある妖怪同士の戦いに巻き込まれたことも。〈錦鶏〉でのことが特別すぎたものだから、これといって騒動も起こらない今の旅路に、日常に戻ってきたかのような錯覚さえ、感じる。旅そのものが非日常であったし、行きずりの他人であり、方士であり、妖怪である青年たちに連れられていることだって、異常でさえあったはずなのだけれど。
「次の村からは〈金烏〉だよ。〈高寄〉まで最短距離で行くなら、山を一つ越えることになるね。〈連なる五つの山〉に比べれば大した山じゃないけど」
「そりゃ、〈五つの山〉に比べりゃな」
〈金烏が羽を休める国〉の〈高寄と高義と高臥の里〉。それが祖父の故郷であった。父に聞かされた、偽りの目的地。
セディカが現れたとき、会ったこともない親戚は何と言うのだろう。そう考えても不安に押し潰されそうにはならないことに気がついた。拒絶された場合はトシュとジョイドに助けてもらえる気でいるのだなと、自分の内面を推し量って苦笑する。すっかり、当てにしているらしい。