残酷な描写あり
第3回 虎が遮る 大蛇が塞ぐ:2-2
戦闘シーン(暴力描写)が含まれます。苦手な方はご注意ください。
「早く入って!」
驚く暇もない、指示のままにセディカは飛び込む。窓があるとはいえ視界は一気に暗くなったが、中も昨夜から今朝にかけて過ごした景色と寸分違わなかった。ジョイドも駆け込んできて、靴を脱ぎ捨てて上がった。
はっと閃いて、数メートルもない距離を戸を閉めに駆け戻る。外を覗いたのは、トシュも続いているかもしれないと思ったためだった。が、トシュは戦意たっぷりに、二頭の虎を前に立ち塞がっていて——。
セディカが後ろ姿を目にした、正にその瞬間。
——狼に、変じた。
白銀に輝く毛並みが日の光に照り映えた。身を伏せるやぐんと大きくなって、虎に劣らぬ体躯を躍らせる。
「あちゃ」
はっと気づくと傍らにジョイドが立っていた。
「大丈夫よ。あいつらが噛みついた相手を狼に変える妖怪だったわけじゃないから」
……仙術で変身した、のではないのか?
不自然な言い様に感じて、セディカはトシュの相棒をまじまじとみつめた。仙術を使うことは聞いているのだ。妖怪の力で変えられてしまった、などというひねった想像を持ち出すまでもないのではないか。虎に噛まれて狼になった、というのも因果の合わない仮定なのに。
おいで、と招きながらジョイドは小屋の真ん中辺りへ戻っていった。戸惑いながらも靴を脱いで続く。ドン! と何かが、単純に考えてあの野牛が、激突して壁を揺らしたが、この小屋はこんなことじゃ壊れないよとジョイドは請け合った。
床には首飾りが広げてあった。白い玉を繋ぐ黒い紐が長く伸びていて、二人か三人は中に立てそう、一人であれば座れそうである。
「この輪っかの中にいて。この小屋自体もあいつらはまず入ってこれないんだけど、念には念をね。ここにいれば君は絶対に安全だから」
セディカが言われた通りにするまで、ジョイドは変わらぬ笑みを浮かべながら見守っていた。セディカが輪の中に正座すると、待っててね、と優しく言い置いて——身を翻して小屋から飛び出していった。靴を引っかけて戸を閉める余裕はあったようだが。
少女は両腕で自分を抱いた。今、一瞬、凄い顔をしなかったか。大丈夫、と繰り返すけれど——本当に、大丈夫なのだろうか?
それに。
狼の姿になったトシュのことを、ジョイドがあんな風に言ったのは。……仙術で変身した、という発想がなかったためではないか? 他者に変えられたのでもなく、自身の術で変わったのでもないのなら、残る可能性は。
……変身したものではなくて、あれこそが真実の姿である——とか……。
我知らず、爪を立てようとするかのような強さでつかんでいる腕が、それだけ強く押さえ込まれているにも拘らずかたかたと震えた。何も知らない、信用できる保証もないと、わかっていたはずだけれど。
そうだとしたら——そうだと、したら……?
驚く暇もない、指示のままにセディカは飛び込む。窓があるとはいえ視界は一気に暗くなったが、中も昨夜から今朝にかけて過ごした景色と寸分違わなかった。ジョイドも駆け込んできて、靴を脱ぎ捨てて上がった。
はっと閃いて、数メートルもない距離を戸を閉めに駆け戻る。外を覗いたのは、トシュも続いているかもしれないと思ったためだった。が、トシュは戦意たっぷりに、二頭の虎を前に立ち塞がっていて——。
セディカが後ろ姿を目にした、正にその瞬間。
——狼に、変じた。
白銀に輝く毛並みが日の光に照り映えた。身を伏せるやぐんと大きくなって、虎に劣らぬ体躯を躍らせる。
「あちゃ」
はっと気づくと傍らにジョイドが立っていた。
「大丈夫よ。あいつらが噛みついた相手を狼に変える妖怪だったわけじゃないから」
……仙術で変身した、のではないのか?
不自然な言い様に感じて、セディカはトシュの相棒をまじまじとみつめた。仙術を使うことは聞いているのだ。妖怪の力で変えられてしまった、などというひねった想像を持ち出すまでもないのではないか。虎に噛まれて狼になった、というのも因果の合わない仮定なのに。
おいで、と招きながらジョイドは小屋の真ん中辺りへ戻っていった。戸惑いながらも靴を脱いで続く。ドン! と何かが、単純に考えてあの野牛が、激突して壁を揺らしたが、この小屋はこんなことじゃ壊れないよとジョイドは請け合った。
床には首飾りが広げてあった。白い玉を繋ぐ黒い紐が長く伸びていて、二人か三人は中に立てそう、一人であれば座れそうである。
「この輪っかの中にいて。この小屋自体もあいつらはまず入ってこれないんだけど、念には念をね。ここにいれば君は絶対に安全だから」
セディカが言われた通りにするまで、ジョイドは変わらぬ笑みを浮かべながら見守っていた。セディカが輪の中に正座すると、待っててね、と優しく言い置いて——身を翻して小屋から飛び出していった。靴を引っかけて戸を閉める余裕はあったようだが。
少女は両腕で自分を抱いた。今、一瞬、凄い顔をしなかったか。大丈夫、と繰り返すけれど——本当に、大丈夫なのだろうか?
それに。
狼の姿になったトシュのことを、ジョイドがあんな風に言ったのは。……仙術で変身した、という発想がなかったためではないか? 他者に変えられたのでもなく、自身の術で変わったのでもないのなら、残る可能性は。
……変身したものではなくて、あれこそが真実の姿である——とか……。
我知らず、爪を立てようとするかのような強さでつかんでいる腕が、それだけ強く押さえ込まれているにも拘らずかたかたと震えた。何も知らない、信用できる保証もないと、わかっていたはずだけれど。
そうだとしたら——そうだと、したら……?