残酷な描写あり
R-15
12 「反撃」
そんな私の意味のない葛藤なんて興味がない、とでも言うようにサラは腕組みをしてヒロインらしからぬ苛立った表情を見せてくれた。サラ、あんたもしかしたらそっちのキャラの方が人気出たかもよ?
「はぁ……、そうやってはぐらかすのね。これじゃあ仲良くやっていくのは無理そうじゃない」
「いやだから何の話かってこっちは聞いてるんですけど? もしかしてブリブリ可愛い天然のほほんキャラだったサラは偽りの姿で、実は先生のことが好きでずっと前から狙ってましたって言わんばかりに近付いたのに、わけのわからないただのモブが目当ての先生に急接近したもんだから、焦って先制攻撃かましたけど先生にバレそうになってやめたら、そのモブがまた先生と二人でどっかに行ったからもうダメだこいつ直接文句言ってやろう……ってな感じで出てきたって、言わないよね?」
しばしの沈黙。
やがてサラは不敵な笑みを浮かべて胸を張る。
「どうやらお見通し、ってわけか……」
あ……、そういう?
「私はずっと前から騎士団長レイス・シュレディンガー様のことが好きだった。そして一生懸命魔法の技術を磨いて、幸い私にはその才能があって無事にこのアンフルール学園に入学出来たのに。私ほどのヒーラーはそうそういないから、先生もきっと注目してくれると思っていたのに。なのに……、教室の壁に張り付いていそうな目立たないのっぺりした女子ばかり先生は気にかけて!」
張り付いてはいませんが?
「私よりずっと先生と同じ空気を吸って! 先生の側でその匂いを嗅いで! 私以上にたくさん会話をしたって事実だけで、私……っ! もう我慢出来なくて!」
なんか同類きた。
他人がやってると思うと気色悪いわね。
「私の先生にこれ以上近付かないでくれる? 私はこれからもっとヒーラーとして研鑽を積んで先生のお役に立てるようになるんだから! その為には先生にとって特別な生徒なんて私以外にいらないの!」
「あんたバカじゃないの? そんなことしたって先生は生徒を誰一人として特別扱いなんてしないし、私が仮にこれ以上先生に近付かないようにしたところで、生徒想いの先生はより一層私の身を案じて個人的に話しかけたりするようになるけど?」
思いがけない反撃にサラが呆気に取られている。
そうよね、目立たない空気のカスみたいなモブがこんな反撃してくるなんて思わないわよね。
でもサラ……、あんたは先生のことを何もわかっちゃいない。
だからこそ私の逆鱗に触れたのよ。
「何もわかってないみたいだから言うけど、先生は私のことをサラと同じ自分が受け持ったクラスの生徒の一人としてしか見てないわよ。先生という役職だからこそ一人の生徒を特別視することはないって、それを一番わかっているのは先生だからね。だからあんたがいくら私を陥れようと、それで先生が才能豊かなあんただけを見るなんてことはないわ! それどころか先生は大切な生徒の為なら、自分の命に換えてでも助けようとする。あんたが私を攻撃すればするほど、それはあんたにとって逆効果になって返ってくるだけだからね!」
ぐぬぬといった感じでサラの表情が苦痛に歪んでいく。
そういう表情すれば一部のそういうのが好きな性癖持ちに刺さるかもしれないわよ。
作中でしなかったことを後悔することね。
「だからこんなつまらないことはもう二度としないでちょうだい。私はこれ以上先生と二人きりの空間に閉じ込められるのは耐えられないんだから」
「え? だってあなた、先生のこと好きなんじゃ? ずっと先生のこと目で追ってたのに……」
「……出来ることなら二人きりで会話したくないし、私の存在をこれ以上先生に認知されたくない」
「そう、だったの?」
私だって先生と二人きりで会話したいわよ〜!
先生に名前で呼ばれたいわよ〜!
二人で並んで歩いたりしたいわよ〜!
たまにボディタッチされたりして、にこってお互い微笑み合いたいわよ〜!
私がこんな性格じゃなければ!
まさか推しを前にしたらこんな考えを持つようになるなんて、私だって思わなかったわよ!
でも今の私の本音のような本音じゃないような言葉で、何かしら誤解が解けたみたい。
サラはいつものきょとんとした顔に戻って、急に自分が暴走したことを恥じてる様子だ。
「え……っと、あの……ご、ごめんね? ごめんね? ごめんね!」
「いや、もう……いいっす」
ヒロインの闇の部分を見るとは思わなかった。
ゲームでも一応ヒロインの闇落ちはなかったから。
「なんて言ったらいいか、その……私てっきり、モブディランさんも……先生のことが好きなのかなって」
好きですよ。大好きですよ。愛してますよ。むしろあんたよりずっと何年も前から先生一筋ですけど何か?
でもまぁこれ以上拗れさせるのはなんか疲れるので、言い訳せずに、訂正せずに、そういうことにしとこう。
「ん、まぁそういうわけだから。先生のことは、うん……ほどほどに頑張りな? じゃ」
そう言って私がすっかり薄暗くなった教室から出ようとする。
慌てて声をかけるサラ。今度は何!
「あ、待って。同じ寮なんだから……一緒に……っ!」
「あー、いい。いいから。私はこれから別の用事があるってことで……ブフォッ!」
どうしても一緒に帰りたくなかった私が適当に誤魔化して帰ろうとしたら何かにぶつかった。
肉の感触だけどちょっと固くて、ちょっと温かくて、ちょっといい香りのする何か……。
「お前ら、まだ残ってたのか。もう閉めるからさっさと帰れよ」
「せ、先生っ!」
「え……?」
サラが先生と言った? じゃあ今この、私がぶつかってるのは?
そっと上を見上げると、そこにはむすっとした表情の先生が私を見下ろし立っている。
これ、先生のご立派な腹筋でしたか……?
「ご……、ごめ……」
それだけ言いかけて後ろを振り向くと、そこには嫉妬に燃えたサラの怒り狂った姿が……っ!
いや、これはどう見てもラッキースケベ……じゃなくて、不可抗力でしょう!
「早く離れたらどうなのかな? モブディランさん?」
あなたさっきまで私のこと本名のちゃん付けしてませんでしたっけ?
でもそうね、その通りだわ。
早く離れます。このままじゃ鼻血まで大噴出してしまうかも!
「さようならっ!」
私は慌てて先生から離れるとダッシュで廊下を駆け出した。
「廊下を走るな!」
その怒声と共に私は早歩きでその場を去る。
背後で誰かが甲高い声を上げてるけど無視だ、無視。
今の私は先生の絶妙に固かった腹筋と先生の香りと温もりと見下ろしドアップを思い出して、今にも心臓が爆発四散しそうなんだから。
「はぁ……、そうやってはぐらかすのね。これじゃあ仲良くやっていくのは無理そうじゃない」
「いやだから何の話かってこっちは聞いてるんですけど? もしかしてブリブリ可愛い天然のほほんキャラだったサラは偽りの姿で、実は先生のことが好きでずっと前から狙ってましたって言わんばかりに近付いたのに、わけのわからないただのモブが目当ての先生に急接近したもんだから、焦って先制攻撃かましたけど先生にバレそうになってやめたら、そのモブがまた先生と二人でどっかに行ったからもうダメだこいつ直接文句言ってやろう……ってな感じで出てきたって、言わないよね?」
しばしの沈黙。
やがてサラは不敵な笑みを浮かべて胸を張る。
「どうやらお見通し、ってわけか……」
あ……、そういう?
「私はずっと前から騎士団長レイス・シュレディンガー様のことが好きだった。そして一生懸命魔法の技術を磨いて、幸い私にはその才能があって無事にこのアンフルール学園に入学出来たのに。私ほどのヒーラーはそうそういないから、先生もきっと注目してくれると思っていたのに。なのに……、教室の壁に張り付いていそうな目立たないのっぺりした女子ばかり先生は気にかけて!」
張り付いてはいませんが?
「私よりずっと先生と同じ空気を吸って! 先生の側でその匂いを嗅いで! 私以上にたくさん会話をしたって事実だけで、私……っ! もう我慢出来なくて!」
なんか同類きた。
他人がやってると思うと気色悪いわね。
「私の先生にこれ以上近付かないでくれる? 私はこれからもっとヒーラーとして研鑽を積んで先生のお役に立てるようになるんだから! その為には先生にとって特別な生徒なんて私以外にいらないの!」
「あんたバカじゃないの? そんなことしたって先生は生徒を誰一人として特別扱いなんてしないし、私が仮にこれ以上先生に近付かないようにしたところで、生徒想いの先生はより一層私の身を案じて個人的に話しかけたりするようになるけど?」
思いがけない反撃にサラが呆気に取られている。
そうよね、目立たない空気のカスみたいなモブがこんな反撃してくるなんて思わないわよね。
でもサラ……、あんたは先生のことを何もわかっちゃいない。
だからこそ私の逆鱗に触れたのよ。
「何もわかってないみたいだから言うけど、先生は私のことをサラと同じ自分が受け持ったクラスの生徒の一人としてしか見てないわよ。先生という役職だからこそ一人の生徒を特別視することはないって、それを一番わかっているのは先生だからね。だからあんたがいくら私を陥れようと、それで先生が才能豊かなあんただけを見るなんてことはないわ! それどころか先生は大切な生徒の為なら、自分の命に換えてでも助けようとする。あんたが私を攻撃すればするほど、それはあんたにとって逆効果になって返ってくるだけだからね!」
ぐぬぬといった感じでサラの表情が苦痛に歪んでいく。
そういう表情すれば一部のそういうのが好きな性癖持ちに刺さるかもしれないわよ。
作中でしなかったことを後悔することね。
「だからこんなつまらないことはもう二度としないでちょうだい。私はこれ以上先生と二人きりの空間に閉じ込められるのは耐えられないんだから」
「え? だってあなた、先生のこと好きなんじゃ? ずっと先生のこと目で追ってたのに……」
「……出来ることなら二人きりで会話したくないし、私の存在をこれ以上先生に認知されたくない」
「そう、だったの?」
私だって先生と二人きりで会話したいわよ〜!
先生に名前で呼ばれたいわよ〜!
二人で並んで歩いたりしたいわよ〜!
たまにボディタッチされたりして、にこってお互い微笑み合いたいわよ〜!
私がこんな性格じゃなければ!
まさか推しを前にしたらこんな考えを持つようになるなんて、私だって思わなかったわよ!
でも今の私の本音のような本音じゃないような言葉で、何かしら誤解が解けたみたい。
サラはいつものきょとんとした顔に戻って、急に自分が暴走したことを恥じてる様子だ。
「え……っと、あの……ご、ごめんね? ごめんね? ごめんね!」
「いや、もう……いいっす」
ヒロインの闇の部分を見るとは思わなかった。
ゲームでも一応ヒロインの闇落ちはなかったから。
「なんて言ったらいいか、その……私てっきり、モブディランさんも……先生のことが好きなのかなって」
好きですよ。大好きですよ。愛してますよ。むしろあんたよりずっと何年も前から先生一筋ですけど何か?
でもまぁこれ以上拗れさせるのはなんか疲れるので、言い訳せずに、訂正せずに、そういうことにしとこう。
「ん、まぁそういうわけだから。先生のことは、うん……ほどほどに頑張りな? じゃ」
そう言って私がすっかり薄暗くなった教室から出ようとする。
慌てて声をかけるサラ。今度は何!
「あ、待って。同じ寮なんだから……一緒に……っ!」
「あー、いい。いいから。私はこれから別の用事があるってことで……ブフォッ!」
どうしても一緒に帰りたくなかった私が適当に誤魔化して帰ろうとしたら何かにぶつかった。
肉の感触だけどちょっと固くて、ちょっと温かくて、ちょっといい香りのする何か……。
「お前ら、まだ残ってたのか。もう閉めるからさっさと帰れよ」
「せ、先生っ!」
「え……?」
サラが先生と言った? じゃあ今この、私がぶつかってるのは?
そっと上を見上げると、そこにはむすっとした表情の先生が私を見下ろし立っている。
これ、先生のご立派な腹筋でしたか……?
「ご……、ごめ……」
それだけ言いかけて後ろを振り向くと、そこには嫉妬に燃えたサラの怒り狂った姿が……っ!
いや、これはどう見てもラッキースケベ……じゃなくて、不可抗力でしょう!
「早く離れたらどうなのかな? モブディランさん?」
あなたさっきまで私のこと本名のちゃん付けしてませんでしたっけ?
でもそうね、その通りだわ。
早く離れます。このままじゃ鼻血まで大噴出してしまうかも!
「さようならっ!」
私は慌てて先生から離れるとダッシュで廊下を駆け出した。
「廊下を走るな!」
その怒声と共に私は早歩きでその場を去る。
背後で誰かが甲高い声を上げてるけど無視だ、無視。
今の私は先生の絶妙に固かった腹筋と先生の香りと温もりと見下ろしドアップを思い出して、今にも心臓が爆発四散しそうなんだから。