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作者: 遠堂沙弥
残酷な描写あり R-15
5 「登場人物」
 アンフルール学園。ここは様々な階級の子供たちが入学を目指す名門校。その多くはラヴィアンフルール国に勤める為。騎士、技術者、学者、医者など。様々な分野を学べる教育の場として名高い。
 最近では邪教集団の行動が活発になってきていることから、その防衛の為に戦う力を得て騎士団に入る者も増えていた。特にこの一年A組は騎士団に希望する者を優先的に配属されていて、教科も戦闘訓練がほとんどだ。
 そしてこの私、モブとして転生したE・モブディランはモブのくせになぜかこのA組に配属されている。
 私としては最推しである先生が担当するクラスの生徒になれて幸せ一杯なんだけど、遠くで眺めるだけでいいのなら普通科のB組で良かったのでは? と今さらながら後悔している。
 本物のEの意思なのか、元々そういう設定なのか、途中で覚醒した私にはわからない。
 とにかく私は一年A組の教室で、割り振られた席に着いて、先生の登場を待つ。ドキドキ……。
 ちらりと周囲を見回して、ゲームの攻略対象三人がクラスメイトであることを確認する。
 みんなのステータスは大体覚えてるけど、初期値までは覚えてない。
 まずはこのゲームの主人公でありヒロインね。さっきのピンク髪。私は頭の中で、ゲーム内で見たステータス画面を思い出す。確かこんな感じだったはず。

【名前】  サラ・ブラウン
【役職】  ヒーラー
【家柄】  一般庶民
【スキル】 病気以外の怪我を治癒する

 性格はゆるふわ天然、一言で言うと女子から嫌われやすいタイプ。だから乙女ゲームであるにも関わらずほとんどのプレイヤーが主人公のことを好きになれず、夢女として理想のヒロインを勝手に作り上げて、自分の推しとラブラブになる夢小説がどんどん発展していったのよね。
 このサラが悪いわけじゃないけれど、うん……あまりにおとぼけキャラ過ぎてイライラしたのは覚えてる。
 その次にヒロインとの正規ルートでもある攻略対象の一人、彼はエドガーやルークほどじゃないけど人気あったのよね。正統派が大好きな女子に受けていたっけ? 

【名前】  ウィリアム・ホランド(通称ウィル)
【役職】  ファイター
【家柄】  一般庶民
【スキル】 筋力強化

 校舎の運動場側にある席に座っているウィルを見る。整えているのか整えていないのかわからないような癖の強い茶色の髪の毛、顔はおとなしい雰囲気をしているけど人懐っこいような子供っぽい顔をしている。性格も正義感が強いけど引っ込み思案で、やはりおとなしい感じは拭えない。非モテ気質っていうのかな。
 幼馴染のサラ以外の女子と会話することが困難で、男子とつるむことが多い。それでも引っ込み思案の性格が災いして、なかなか自分から友達を作れないのよね。そういう弱々しい部分がプレイヤーの心をくすぐるんだけど、なぜかウィルをメインにした夢小説では攻めタイプだったのは、まぁ……、うん……、言うまでもないかな。

 そして私は苦虫を噛み潰したような表情で、斜め前の席に座っているツンツン頭の金髪を睨みつけた。睨みつけてもどうせ点の目に変化は見られないんだろうけど。

【名前】  エドガー・レッドグレイヴ
【役職】  魔法剣士
【家柄】  中流貴族
【スキル】 火属性魔法を放ったり、武器に属性を付加させることが可能

 戦闘民族みたいな奴なのよね、エドガーって。好戦的で自分が一番優れているっていう自信に満ち溢れていて、同じく幼馴染のウィルをからかっていじめてはその力を誇示している。それでもエドガーが人気なのは、その後にある心の成長とか、行動とかそういうところなんだけど。私はこういう熱いタイプ好きじゃないのよね。
 私も結構ケンカを買っちゃうタイプの人間だったりするから、エドガーと会話しようものならずっと口ゲンカばかりしてそう。疲れるし拗れるからあまり近付きたくないタイプかな。

 それから私は教壇の目の前の席に座っている赤い髪の男子を見た。背後からじゃわからないけど、彼はゲーム内屈指のイケメンだ。端正な顔立ち、涼やかな雰囲気、それもそのはず……。

【名前】  ルーク・ラドクリフ
【役職】  魔術士
【家柄】  ラヴィアンフルール国第二王子
【スキル】 あらゆる属性の魔術を操ることができる

 そう、王子様なのよね。冷静沈着ですごくクールなんだけど、ちょっと天然が入ってるというか、俗っぽいことがわからないせいなんだけど。冗談を真に受けたりして周囲を混乱させることもザラというか。そういう天然クールなところが人気なのもひとつなんだけど、ルークのストーリーも泣けたのよね。

 攻略対象はあと二人いるんだけど、実はこのクラスの生徒じゃない。一人は普通科、もう一人は邪教信者の一人だったりする。色んなパターンの恋愛ストーリーを練り込んだ作品だから、本来敵となる人物が攻略対象になっても不思議じゃないわよね。

ーーガラッ。

 唐突に勢いよく開かれる横スライド式のドア。クラスの生徒達は雑談をやめて背筋をまっすぐにする。優秀な生徒しか配属が許されないようなクラスだから、何が理由で除籍されるかわかったものじゃない。
 全員それがわかってるからこそ品行方正に振る舞っている。かくいう私も例外じゃないので、スキルがちゃんとオンになってることをサッと確認してから背筋を伸ばした。
 のそりと入ってくる黒い人影。やる気のなさそうな雰囲気がその見た目と動き全てに反映されているかのよう。
 長身で長い足はまっすぐに教壇へと進んでいく。出席簿を教卓に置いて、出欠確認をする為に開いた。
 真っ黒い前髪が顔の半分を隠しては、片手でサラリと耳にかける。今にも眠ってしまいそうな目が生徒全員を見渡した後、低い声で挨拶した。

「おはよう、みんな。今日は入学式だが、騎士団エリートコースを選択した君達は式に参加している時間がない。早速だが今日から授業を始める。それじゃあ出欠を取るぞ」

 ぶっきらぼうに淡々とそう告げたこのクラスの担任こそ、私が愛してやまないレイス・シュレディンガー先生だ。
 一見怖い雰囲気で近寄り難いけど、本心はとても優しくて気遣いが出来る紳士で、強くてたくましくて、そして猫が好きだ。そう、私も猫が至上だと考えている。
 最初こそこの見た目と横暴みたいに見える振る舞いが、クラスの一部に不評を買うけれど。でもそうじゃないの。先生はあえて厳しくすることで、騎士団になることを諦めさせようとしているだけなの。試練なの。
 騎士団になると本気で死と隣り合わせの職務が待っている。遊び半分、かっこいいから、給料が高いから、そんな理由で騎士団に入ってほしくなくて先生はわざと現実の厳しさを突きつけているだけなのよ。
 なんたって先生は第七師団の騎士団ちょ「おいそこ!」

「はっ……、はいっ!?」

 突然怖い形相で睨みつけられて、先生に指を指される私。心の声が聞かれたの? そんなはずはない。だって先生のスキルは……。

「校則を読んでないのか。教室内ではスキルをオフにしておけって書いてあるだろう!」
「はいっ、すみません!」

 そう、先生のスキルは「相手のスキル無効化」だったの忘れてた。先生は相手の姿を視認している間、もしくは相手の肉体の一部に触れている間、その人物のスキルを無効化することが出来る。
 つまり私のモブスキルで存在を消すことが先生には通用しないということに。

 い、いきなり先生に怒られた……。
 しかも推しに認識された。
 嬉しいけどつらい。
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