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作者: 月兎 咲花
残酷な描写あり
魔女と最後の彼女への手紙
 あれから数日が立った――。
 彼女とは相変わらず昼休みに会い、談笑をする。
 その間彼は決して僕の中から出てくることはない。
 楽しく笑いあっている時間の刹那、僕はふと考える。
 あと何度こうやっていられるのだろうか。
 彼女の口ぶりからすると、おそらくそんなに残りもないのだろう。
 それをお互いにわかっていても、いやわかっているからこそ、今までと同じ何も変わらない関係のままで学校では居たいとお互いに思っているのかもしれない。
 どちらかが、そっとどちらかに押してしまえばこの関係はおそらく崩れてしまうだろう。
 それくらい今の僕らの関係は危ういんだと思う。
 
 あれからもなお僕は夜な夜な家を出ては、近くの河原で剣を出して素振りをする。
 少しでも彼女と戦えるように。
 ある時から彼も協力をしてくれるようになった。
 僕の体を使い、数々の剣技を実践する。
 それを見て、体感して、実践をする。
 毎日それを繰り返す。
「やっと少し、剣に使われなくなってきたな」
「この剣は彼女に届くか?」
 僕は自分のなかの彼に問う。
 「まだ全然及ばない、が。運が良ければ届くかもな」
 つまり僕の実力そのレベルってことだ。
「全盛期の私ですら届かなかったのだ。付け焼刃の君には到底届かないさ。ハハ」
 僕は無心で体を動かすが、意に反して口だけは僕の意志ではない意志で動かされる。
 試しに僕は聞いてみた「二人でならどうなんだ?」と。
「んー、今の君とならきわどいところだけどなぁ。届かなくはないかもなぁ。ただ運はかなり必要だな。ただ私は君と組む気はさらさらにけどね」
 そう言うと、僕の口角が上がるのを感じた。
「そもそもさ、あの時彼女を殺せたんじゃないのか?なんでそれを止めたんだよ」
 僕は何度目かわからない、同じ質問を彼に投げかけた。
「……」
 彼はこの件に関してだけは絶対に答えない、必ず沈黙するのだ。
「ふぅ」
 一通りいつもの素振りが終わり、座り込んだ。
「よくもまぁ、毎日頑張れるよな。暇なのか?」
 彼に嘲笑われる。
 最近では彼とも少しだけ、こんな風におしゃべりすることもある。
「あーあー、はいはい、暇なんですよー」
 僕はヤケクソ気味に答える。
 仰向けになって星空を眺める。
「彼女との決着までもうそんなに時間はないんだろ?」
 彼に問いかける。
「おそらくな」
 彼は短くそうとだけ答えた。
「はぁ、そんなに急かされたってさぁ。どうにも出来ないってばよ」
 僕は夜空に吐き捨てる。
「最初よりはマシにはなっただろ、人としても。この時代に人の肉を抉る感触を知っているのなんて、医者か殺人鬼くらいだもんな」
 そういうとケタケタと彼は笑った。

 もう何度味わったのかわからない、彼女の肉を切り裂く感触。
 今でも時折夢に出てきて目が覚めることがある。
 あの日を僕は一生忘れられないのだろう。
 そんなことを考えながら夜空を見上げる。
 今日は月も明るく、雲もない。
 時折流れ落ちる流れ星に、何か願うか考える。
 今の僕には星に願うほどのものはないが、叶えたいと思うものはいくつかはある。
 まぁ一つは僕の中に居る彼を早く追い出したいなんだけど、それは自分で何とか叶えるとしよう。
 しいて言うなら、あの日の彼女とのデートをやり直せればなとは思った。
 進んでしまった時間を巻き戻すことは出来ない。
 それを分かったうえでの行動だった。
 彼に邪魔をされなければあのまま終われたかもしれないのに、とは未だに思うことはある。
 あの日以降、彼とは少し対等に話をすることが出来る様になった。

 あの日の夜から何度も彼に問いかけた。
 最初こそ無言を貫いた彼だったが、根負けしたのか少しずつお互いのことを話し始めた。
 彼の生い立ちや、彼女と出会ってからのこと、一緒に居た間のこと、そして別れた後のことを。
 彼から毎日少しずつ、気分が良ければ少し多く。
 そんな風に彼から少しずつ、彼の人生を聞いた。
 僕は今更彼の人生に共感することも、同情することもないけれど、それでも静かにゆっくりと彼の話を聞いた。
 彼は言った、自分にとって彼女は母であり、姉であり、また愛しい人であったと。
 自分の命は彼女のおかげであったのだから、せめてそのすべてを彼女の為に使い切りたかった。
 そのためならどんなことでもしようと思った、と。
 彼は会話の端々でそういったようなことを繰り返し言っていた。
 僕は彼の言葉の中で唯一気になったのは、彼女のことを一人の女性としても見ていた様な節がある点だった。
 彼のいう愛とは……。
 僕は一度考えかけたことを、考えないことにした。
 彼の中に出てくる彼女は少し今の彼女とは乖離している様な気もする。
 気になる点は少しあるものの彼の語る彼女と、僕の知る彼女は概ね同じだったのでそれ以上を深く考えるのはやめた。

 ある日彼から提案を受けた。
「あの電車で直接稽古をつけてやるよ」
 僕はあのボコボコにされた、日を思い出す。
 あの時の恐怖はまだ体から離れないのか、少しだけその提案に体がこわばるのを感じた。
 でも僕は「やるよ、頼む」そう彼に言った。
「いいねぇ」その言葉に、あの時の気持ちの悪い笑みを思い浮かべて寒気がした。
 そして彼は「明日にでもあの電車に乗れ」それに僕が分かったと返すと、「じゃあ、明日」そう言って声を掛けても反応をしなくなった。
 僕は一人夜道を歩きながら、明日彼と対峙する恐怖を少しでも踏みつぶすように足に力を入れた。
 
 翌日、約束した通り僕は電車に乗る。
 カツッ、カツッ、カツッ――
 あのヒールの踵を鳴らすような音が車両の奥から僕の方へと近づいてくる。
 今日僕は近づいてくる彼を初めて正面で待ち構えた。
「それなりに強くはなったようだな」
 彼は僕に向かってあの凄惨な笑みを浮かべながら言った。
 あの笑顔に僕は変わらず悪寒を覚える。
 その刹那――。
 彼は僕の眼前で剣を振り下ろした。
 反射的にその剣を弾き返した。
 彼がその光景に目を少し見開いたのが分かった。
 僕が反射的にでも反応できたことがよっぽど意外だったみたいだ。
 今度は剣で薙ぐ、がそれを受け流す。
 その後来るだろうと予想した蹴りを剣を盾にして防いだ。
 攻勢には出られないが、前回のように一方的に痛めつけられもしない。
 前回とは違って攻めあぐねる彼は僕から距離を取って思案する。
「あれからかなり努力をしたようだね、ここまで防がれるのはびっくりしたよ」
 彼はなおも少し余裕を見せつつ愉快そうに言った。
「あなたのおかげだよ」僕はそう言って攻勢に出て、彼に向かって剣を振り下ろした。
 彼は余裕の表情で僕の剣をいなす。
 いなして、すぐ僕の喉元へ剣を突きつける。
「これで一回死んだね」
 僕は一歩引くと、突きを繰り出す。
 僕の剣をさばきながら体を逸らす。
 すぐに薙ぐがまた剣で弾かれる。
「くっ、そ」
 僕の攻撃は全く当たらない。
「ガッ、ハッ」
 気が付いたら至近距離まで来ていた彼に蹴り飛ばされる。
「おうぇ、がはぁっ、はぁはぁ」
 あれだけ練習して、彼の攻撃もあれだけ見て見慣れているはずなのに全く反応できない。
 自分の無力感を少し感じる。
 力の差は相変わらず歴然だった。
 ちょっとだけ見える様になっただけで、届くには至らない。
 そんな状態で彼女に挑むのかと思うと、寒気がする。
 なんとか必死に立ち上がり握る手に力を入れるが、恐怖で歯がガチガチと鳴る。
 怖い……、怖い……、怖い……。
 僕は彼に成すすべがないと感じ、足がすくんで急に動けなくなってしまった。
 なんとか足に力を入れて踏ん張ろうとするが、うまく立てない。
 目の前で彼は憐れみの目を僕に向ける。
 どうせ僕にはあなたみたいな才能はないさ、そう思うと視線が彼の足元にまで下がる。
 立ち上がる気力も、手に込めた力も抜けていくように――。
 
 コツッ、コツッ、コツッ――――
 この場にはありえないはずの足音がする。
「やぁ、やぁ、二人とも元気かなー」
 そう言いながら僕の後ろから彼女は現れた。
 彼はギョッっとした顔をしている。
「どうやってここに入った?さすがのお前でもここには入っては来れないはずだぞ」
 彼はいつもの彼と言った感じではない様子で狼狽えている。
「入るまでになかなか大変だったよ、そもそもタイミングがはっきりしなかったからね」
「どうやって干渉してるんだ!!」
 彼は彼女に叫んだ。
「この剣よ」
 彼女は僕の剣を指さした。
「剣を通して干渉しているだと、どうやっ……!?」
 彼は何か心当たりがあるように、言葉を止めた。
「あの時か、お前の首を斬ったとき」
「よくわかったね、そうだよ。代わりにレディーの体に一生モノの傷をつけたんだ責任は取ってもらうよ」
 彼女はそう言って僕に振り返って、ウインクをした。
「おかしいと思った、綺麗に治るはずの傷が治らないなんてな。私もてっきり外で切り落としたからかと思っていたが」
 彼は少し落胆したように言った。
「そんな訳ないでしょ、どこで斬られようと一緒よ」
 彼女はそう言い放った。
 僕が一生懸命箱以外で出せるようにした努力はいったい……。
「でも、あの時はホントにびっくりしたわ。まさか切り落とされるとはねー。おかげでここに来られたんだけどね」
 彼女は笑ってる。
「それにあの時私を貫かなかったのは、今回のことを警戒してのことよね。でも残念だったわね」
 今度は嘲笑うようにして彼を見た。
 彼は彼女のそのセリフに少し悔しそうな表情をする。
「それにもう一つ確認したいことがあったんだ。お前が本当にアイツのかってことを私はどうしても確認したかった」
 それから一つため息を吐くと
「まさかお前があいつを語っていたとはな。爺」
 彼女がそう言うと、彼の姿が変わっていく。
 髪は白髪のままだが髪は短くなり、体格も顔も変わる。
 その姿は初老の老人だった。
「お久しぶりですね、魔女」
 彼は恭しく彼女に頭を下げた。
「爺、久しぶりだな。だけどその悪趣味は許容できないわよ」
 彼女は少し苛立った様に言った。
「これもあなたの願いを叶える為ですから」
 そう言ってのける。
「あくまでこれも私の願いを叶える為というのか」
 彼女の苛立ちがさらに強くなった。
「左様でございます」
 彼は彼女をまっすぐにみる。
「よりにもよって、アイツの容姿をして彼に近づくなんて私は……私は……」
 彼女はわなわなと震えている。
 彼の「剣」が「杖」へと変わると、彼女は彼に肉薄するほど近づいた。
 彼女は老人に必死に攻撃をするが、ことごとくいなして避ける。
「くっ」
 攻撃が当たらないことに彼女は苛立ち始める。
 老紳士の体裁きには無駄がない。
 老紳士は決して攻撃に転じることはないが、ただ避けることにだけ注力しているようだ。
 この狭い車内で器用に避け続けている。
 時折彼女の攻撃による衝撃が僕にまで届くが、老紳士は眉一つ動かさない。
「お互いにかなり衰えましたなぁ」
 老紳士は彼女に向かってしみじみと語る。
「うすさいよ、あんたはとうの昔に死んだはずだろ」
 彼女は老紳士に向かって吠える。
 僕は突然青年が老紳士に変わったことに混乱して彼女らのやりとりをただ眺めるしかなかった。
「爺はどうやってここに居るんだ?何故まだ生きてる?」
 彼女は爺と呼ぶ老紳士に問いかける。
「私は生きているわけではございません。思念体というのが一番近いと思いますよ」
 そう静かに答える。
「散々サンプルとしてあなたの血を得ましたから、自分にもいろいろと試した結果こういう風に残りました。不死を追い求めていたわけですからある意味それを達成できたとも言えますかね」
 爺は彼女に真意を語る。
「爺、貴様そのために私に近づいていたのか!!」
「そうですよ、あなたの代わりを私がするための研究ですよ。私があなたの代わりに永遠に生きる、それが私の望みでした」
 彼は首を振りながら、やれやれといった感じだった。
「私の代わりになってどうするんだ」
 彼女は彼に問う。
「私には富も名声も、子もあった。けれども命だけはどうにもならない。だからその命を未来にまで継ぐことで自分を残そうと思っていた。だけど、ずっと考えていたのですよ。自分に永遠の命があれば、それさえあれば家族なんてものは要らないと」
「それで私を探してたのか!!」
「その通りです、あなたの噂は私のところにまで入ってきていましたし。本物の魔女ならば不死でなくとも人よりも遥かに寿命はあるのではと考えました」
 彼らは攻防を辞め、互いに睨みあいながら昔話をしている。
「あなたを見つけたときは、歓喜に打ち震えましたよ。それにあなたはふさぎ込んでいたので研究を持ちかけるのも簡単でしたから」
「そのためにあの子を唆したのか!!」
「私にも情くらいありますよ。私の夢と引き換えに、せめてあなた方の夢も叶えようと手を貸したに過ぎませんよ」
 爺と呼ばれた彼は、またため息を吐く。
「それでも、お前さえ現れなければ私はあいつが死ぬまで一緒に居られたんだ」
 彼女は拳を握りしめながら、握り込んだ拳が震えている。
「あそこまで病んでたなら、同じ結末……いやもっと悪い未来もあったかと思いますよ」
 爺に正論を言われて、彼女は押し黙る。
「それに彼も、周りが見えていなかった。時間が経たないと見えないことも多かったんですよ」
 続けてしみじみと語る。
「じゃあ、何故。彼の姿で出てきたんだ?」
 彼女は単純な疑問を口にした。
 するとあの気持ちの悪い満面の笑みを老紳士はした。
「私は彼を食べました。あなたの力の一端を得るために」
 その言葉彼女はギョッとした。
「食った?食ったとはどういうことだ!!」
 彼女は頭を振りかぶって混乱した様子で問う。
「彼はあなたを殺す為に度に出たと言ったのは嘘ですよ。彼があなたを殺すことが出来ないとわかり旅に出ようとしたところを私は彼を殺した。その体を使って、あなたの血と肉体を使っていろいろな実験をした。その一環で私は彼も食べたのです」
 彼女が呆然自失としているのが後ろからでもわかる。
「目も、髪も、舌も、骨も、筋繊維も、体のあらゆる部分を食べ、血を飲みました。それでも得られた力はこの程度でしたがね」
「旅に出たというのは嘘だったのか……」
 暗い声で彼女は問う。
「嘘ではありませんよ、きちんと旅に出たではありませんか」
 彼は右の人差し指を上に向けて「天国へ」と言った。

 その言葉で、彼女の纏う空気が変わったのが分かった。
 彼女の体を覆うように少し光の膜の様なものが見える。
 足元からはいつか見た植物たちが芽吹く。
 老紳士はその彼女の様子を見ると嘆息した。
「はぁ、あなたを怒らせるつもりはなかったのですがね。魔女様を怒らせて良いことは何もないですから」
「うるさい、お前はもう二度と口を開くな!!」
 彼女は怒りのまま、老紳士に拳を向ける。
 杖を盾にして自身の体と彼女の拳の間に挟み込むが、吹っ飛ばされる。
 激しく車両の壁に打ち付けられる。
 ドサッと床に落ちると「やれやれ、こんな狭いところでは避けるのも難しいですね」
 老紳士はまだ余裕があるようなそぶりだった。
 彼女はさらに追撃をする。
 拳を叩きつけ、蹴り込む。
 老紳士は防戦一方だ。
 ダメージは受けているが、最小限なのかそれほどダメージを負っているいるようには思えない。
「はぁはぁ」
 彼女は肩で息をしながら老紳士を睨みつけるが、睨まれている老紳士は落ち着き払っている。
「あなたは相変わらずですね」
 老紳士はそういうと、彼女に蹴りを入れる。
 彼女はその蹴りを受け止められず、少し後ろに蹴り押される。
「はぁはぁ、爺、あんたはやっぱり強いな」
 彼女は少し笑った様だった。
 「あなたには敵いませんよ」
 老紳士はそう言って首を振った。
「そもそも、あなたに敵う存在そのものもおりません」
「はいはい、私は結局孤独な女さ」
 彼女は吐き捨てるように言った。
 僕は彼女らの戦いを見ているが全く参加出来る気がしない、僕が入ればたちまちミンチにされるだろう。
 それくらい彼女らの強さは圧倒的だった。
 彼女らが睨みあっているとき、僕の手に力が集まっていく感覚が強くなっていく。
 意識していないのに勝手に剣が出現した。
 その剣はから何か意志を感じる。
(彼らを止める、手を貸して欲しい……)
 剣がそう僕に語り掛けてきた気がした。
 「どうやって止めるんだよ」
(とりあえず、突っ込んだら?)
 剣から語り掛けてくる奴は平然と言い放った。
「死ぬわ!!」僕は大きな声で言うと彼らは僕へと意識を向けた。
 彼女は後ろを向かず「いきなり大声出してびっくりするんだけど」と言う。
 老紳士も怪訝そうにこっちを見ている。
(自己紹介はあとだね、とりあえず力を貸すから彼女の頭上を越えてアイツを斬れ)
 僕はその言葉に足に力を込めて、踏み込み彼女の頭上を越えるイメージを持って飛ぶ。
 老紳士目掛けて、綺麗に彼女の頭上を飛び越えそのまま斬り込んだ。
 僕の一太刀は老紳士の杖と共に片腕を斬り飛ばした。
「なにっ!?」
 老紳士は初めて表情を崩して、驚いた。
 しかしほとんど幻であるためか、切り落とした腕の切断面から血は一滴も流れない。
「何故だ、何故腕が戻らんのだ」
 老紳士は続けて腕を切り落とされて戻らないことに動揺していた。
 僕の剣を見ると目を大きく見開いた。
「お前の剣は一体誰の剣なんだ、私が与えた剣じゃない……」
 僕の出した剣を見て、老紳士は驚きを隠せない。
 老紳士に言われ僕も剣を見るが特に変わったという感じはしない。
 「その剣はなに……?」
 後ろから見ていた彼女にも、この剣に心当たりはなかった様で初めて見たような反応だった。
 だがこれで形成は逆転した、あとは彼女に任せても良いだろう。
「あとは任せてもいいのかな?」
 僕は彼女にそう声を掛けた。
「もちろん任せて、これはあいつと私の問題だから」
 彼女の言葉は力強かった。
 僕は自分の意志で剣を消すと、老紳士に背を向けて彼女の居る方へ向かう。
「僕の出番はここまでだね」
 彼女と掌を叩きあって、後ろに戻った。
「やれやれ、片腕と杖がなくなっては流石に為す術がないですね」
 と、老紳士は苦笑した。
「私は一生、たとえここで消えようともあなたを許さないだろう。けど一度ここで決着はつけよう」
 そういって彼女はヒールで老紳士を蹴りつけた。
 その瞬間この車両が衝撃でへしゃげるのではないか思うほどの衝撃が僕を襲った。
 壁に押し付けられた老紳士の真ん中に穴が開いた。
「あなたは相変わらず、デタラメですね」
 床に落ちた老紳士は痛みも特に無さそうで、相変わらず落ち着き払っている。
 それを見た彼女はため息を吐く。
「これで、終わりね」
 その言葉に僕はもう一度、彼女の頭上から剣を振り下ろした。
「私の負けですね……」
 そう言って老紳士は消えていった。
「これで終わったかな」
 僕が彼女に問うと。
「さぁね」
 とだけ、彼女は答えた。
「ところでだけど、なんで君はここに居るの?」
「ただのあなたのストーカーよ」
 彼女は笑って僕に答えた。
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