第3話 慟哭 3 ―敵の名はデカギライ―
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「何ッ!!」
セイギが敵の嘘に気が付いた時、突然、セイギの背後からも笑い声が聞こえた。
「フハハハハハハハッ!!」
しかも、その声は何故か目の前の敵と全く同じ声。そして、声が聞こえると同時にセイギのうなじに何か固い物が当たる感触がした。
「馬鹿だな、お前!! 罪を償う? 俺がそんな事する訳ないだろ!!」
背後からの声だ。やはり目の前の敵と同じ声。それもその声は『"俺が"そんな事する訳ないだろ』、まるで目の前の敵が喋っている様な台詞を吐いた。
― どういう事だ……
セイギは混乱した。
敵の嘘、これは警戒していた。だから、すぐに反撃する方法は考えていた。しかし、敵に新手が現れてしまった。
敵の増員、これは油断していた。だから、セイギの体はビクりと動く。
敵の声……これは訳が分からない。声色も言葉も意味が分からない。『何故目の前の敵と同じ声なのか、何故目の前の敵が話している様な言葉を言うのか……』、セイギの頭に疑問が浮かぶ。だが、考える時間を敵が与えてくれる訳はなかった。
「おっと動くな、撃つぞ! ちょっとお前と話がしたいんだ。わざと撃たずにいるんだぞ。ハハハッ! 騙して悪いなぁ、俺にはこんなもん熱くねぇんだよ……」
セイギが新手の出現にビクりと動いた時、目の前の敵は慌てる素振りを消してセイギの手を振り払うと、高笑いを上げながらコートをバサリと翻し、コートについた火を消した。
「お前……仲間がいたのか!!」
敵に言いたい事はもっとある。でも、混乱するセイギの口から出たのはこの言葉だけだった。
「「フハハッ!! 仲間? ハハッ! 違うなぁ、仲間なんて物は俺の邪魔しかしない! チョウもボンも邪魔者でしかなかったからなぁ……だから、俺は俺しか信じない」」
敵はセイギの言葉を鼻で笑い、立ち上がった。
そして、その声は目の前の敵の口からも、セイギの背後からも聞こえる。二重になっている。
「じゃあ、俺の後ろにいるのは……」
セイギは後ろを振り向こうとした。しかし、固い物が邪魔をして……いや、それは何かはもうセイギは大体分かっている。敵が言った『撃つぞ!』という言葉から推測されるに、おそらく銃だ。うなじに当たる銃が邪魔をして、振り返る事が出来ない。
「フハハハッ!!」
目の前の敵の銃口がセイギに向けられた。
「フハハハッ! お前の後ろにいるのは誰か?フハハッ!! それはなぁ………俺だよ!! 俺なんだよ!!! フハハッ!! 良いだろう、お前に見せてやるよ!! 俺の力を………」
目の前の敵はそう言うと、全身から光を放ち始めた。それは粒子状の光。その光は敵の真横に集まると、大きさも何もかもが敵と同じに形を作っていく。
「何ッ!!!」
「「「俺は俺しか信じない」」」
声が三重になった。
「クソ……そういう事か……」
セイギは敵が何をしようとしているのかに気が付いた。
敵と同じ姿を形作った光は徐々に色を持ち始める。敵と同じ、真っ白な色を……
「分身……」
「「「フハハッ! 幼稚な言葉で言えばそうだな!」」」
敵は更に光を放ち、四体、五体と、自分自身を作り出す………
「どうだ? 俺は最強だろ?」
「まだまだ増やそうか? 絶対絶命だな……お前」
そして、一人一人が別々に話し始める。
「フハハハハハハハッ! 何が罪を償うなら助けてやるだよ。ハハッ! 今度はお前が助けを乞う番になったなぁ。さぁ、助けてくれって言えよ……」
「誰が……誰がお前なんかに!!」
「フハハハハハッ!! ……威勢が良いねぇ! だがなぁ、俺も同じだよ、誰がお前なんかに助けを乞うか!! 俺はな、お前みたいな正義漢を気取った奴を見ると反吐が出るんだよ! なぁ、『罪を償え』ってどういう意味だ? 罪って何だよ? 俺は俺の生きたい様に生きているだけだ。それが駄目だって言うのか? 俺はそれをお前に聞きたいんだ!」
その言葉にセイギはすぐに切り返す。
「当たり前だろ! 人を殺して良い訳ねぇだろうがッ!!」
「フハハハハハッ!! そうか、そうか! お前ならそう言うと思ったよ!」
「この状況でも綺麗事が言えるなんてなぁ!」
現れた分身達はセイギを囲み始め、そしてセイギに銃を向ける。今のセイギは、正に四面楚歌……
「人を殺しちゃいけない……か。なぁ、おい。それは一体誰が決めたんだ? ハハッ! 下らねぇ! 人間だ、人間なんだよ! 人間が勝手に決めた事なんだよ!!!」
「何故だか分かるか、クソガキ? それはなぁ、強い者を淘汰する為なんだ! 弱い奴等の群れは、そうでもしないと生きれないからな! 下らねぇ……下らねぇよ!! マジで下らねぇ!! 弱者はサッサと死ねば良いんだよ! それが自然の摂理だ! 人間は下らねぇ生き物だ!」
敵の言葉は正に暴論。セイギは黙ってはいられない。
「それはお前の勝手な持論だろ!! 人の命に、弱いとか強いとか、そんなもんは無い!! 死んで良い命なんか無いんだ!!」
「ハハハッ! 綺麗事だねぇ……だけど、俺には効かない。俺には俺のポリシーがあるからな。俺以外の命は、俺が生きる為だけにあるんだよ!俺は俺らしく生きる!! だからなぁ……俺は棄ててやるよ、俺らしく生きる為なら、人なんか棄ててやるよ! そして、新たな世界を作るんだ!ハハハッ! 先ずは今まで俺の生き方を邪魔してきた刑事どもを一人残らず消してやる……ハハハッ! そして、いつかはお前も消す……神は言ったよ、自らの望みを叶えれば、俺は更に進化出来るってな。ハハハッ! だから覚えておけ、俺の名を、俺の名は《デカギライ》!! 必ず俺はお前を消す力を掴んでやるよ!!!」
「何を言って……」
「うるせぇな、クソガキ! そろそろお前とのお喋りも終わりだ!黙れ……」
「………BANGッ!!」
無数の《デカギライ》の弾丸が、セイギに迫る………
―――――
そこからの記憶はセイギには無い。
気が付けばセイギは、ボッズーに抱えられて燃える山を見下ろしていた。
「何ッ!!」
セイギが敵の嘘に気が付いた時、突然、セイギの背後からも笑い声が聞こえた。
「フハハハハハハハッ!!」
しかも、その声は何故か目の前の敵と全く同じ声。そして、声が聞こえると同時にセイギのうなじに何か固い物が当たる感触がした。
「馬鹿だな、お前!! 罪を償う? 俺がそんな事する訳ないだろ!!」
背後からの声だ。やはり目の前の敵と同じ声。それもその声は『"俺が"そんな事する訳ないだろ』、まるで目の前の敵が喋っている様な台詞を吐いた。
― どういう事だ……
セイギは混乱した。
敵の嘘、これは警戒していた。だから、すぐに反撃する方法は考えていた。しかし、敵に新手が現れてしまった。
敵の増員、これは油断していた。だから、セイギの体はビクりと動く。
敵の声……これは訳が分からない。声色も言葉も意味が分からない。『何故目の前の敵と同じ声なのか、何故目の前の敵が話している様な言葉を言うのか……』、セイギの頭に疑問が浮かぶ。だが、考える時間を敵が与えてくれる訳はなかった。
「おっと動くな、撃つぞ! ちょっとお前と話がしたいんだ。わざと撃たずにいるんだぞ。ハハハッ! 騙して悪いなぁ、俺にはこんなもん熱くねぇんだよ……」
セイギが新手の出現にビクりと動いた時、目の前の敵は慌てる素振りを消してセイギの手を振り払うと、高笑いを上げながらコートをバサリと翻し、コートについた火を消した。
「お前……仲間がいたのか!!」
敵に言いたい事はもっとある。でも、混乱するセイギの口から出たのはこの言葉だけだった。
「「フハハッ!! 仲間? ハハッ! 違うなぁ、仲間なんて物は俺の邪魔しかしない! チョウもボンも邪魔者でしかなかったからなぁ……だから、俺は俺しか信じない」」
敵はセイギの言葉を鼻で笑い、立ち上がった。
そして、その声は目の前の敵の口からも、セイギの背後からも聞こえる。二重になっている。
「じゃあ、俺の後ろにいるのは……」
セイギは後ろを振り向こうとした。しかし、固い物が邪魔をして……いや、それは何かはもうセイギは大体分かっている。敵が言った『撃つぞ!』という言葉から推測されるに、おそらく銃だ。うなじに当たる銃が邪魔をして、振り返る事が出来ない。
「フハハハッ!!」
目の前の敵の銃口がセイギに向けられた。
「フハハハッ! お前の後ろにいるのは誰か?フハハッ!! それはなぁ………俺だよ!! 俺なんだよ!!! フハハッ!! 良いだろう、お前に見せてやるよ!! 俺の力を………」
目の前の敵はそう言うと、全身から光を放ち始めた。それは粒子状の光。その光は敵の真横に集まると、大きさも何もかもが敵と同じに形を作っていく。
「何ッ!!!」
「「「俺は俺しか信じない」」」
声が三重になった。
「クソ……そういう事か……」
セイギは敵が何をしようとしているのかに気が付いた。
敵と同じ姿を形作った光は徐々に色を持ち始める。敵と同じ、真っ白な色を……
「分身……」
「「「フハハッ! 幼稚な言葉で言えばそうだな!」」」
敵は更に光を放ち、四体、五体と、自分自身を作り出す………
「どうだ? 俺は最強だろ?」
「まだまだ増やそうか? 絶対絶命だな……お前」
そして、一人一人が別々に話し始める。
「フハハハハハハハッ! 何が罪を償うなら助けてやるだよ。ハハッ! 今度はお前が助けを乞う番になったなぁ。さぁ、助けてくれって言えよ……」
「誰が……誰がお前なんかに!!」
「フハハハハハッ!! ……威勢が良いねぇ! だがなぁ、俺も同じだよ、誰がお前なんかに助けを乞うか!! 俺はな、お前みたいな正義漢を気取った奴を見ると反吐が出るんだよ! なぁ、『罪を償え』ってどういう意味だ? 罪って何だよ? 俺は俺の生きたい様に生きているだけだ。それが駄目だって言うのか? 俺はそれをお前に聞きたいんだ!」
その言葉にセイギはすぐに切り返す。
「当たり前だろ! 人を殺して良い訳ねぇだろうがッ!!」
「フハハハハハッ!! そうか、そうか! お前ならそう言うと思ったよ!」
「この状況でも綺麗事が言えるなんてなぁ!」
現れた分身達はセイギを囲み始め、そしてセイギに銃を向ける。今のセイギは、正に四面楚歌……
「人を殺しちゃいけない……か。なぁ、おい。それは一体誰が決めたんだ? ハハッ! 下らねぇ! 人間だ、人間なんだよ! 人間が勝手に決めた事なんだよ!!!」
「何故だか分かるか、クソガキ? それはなぁ、強い者を淘汰する為なんだ! 弱い奴等の群れは、そうでもしないと生きれないからな! 下らねぇ……下らねぇよ!! マジで下らねぇ!! 弱者はサッサと死ねば良いんだよ! それが自然の摂理だ! 人間は下らねぇ生き物だ!」
敵の言葉は正に暴論。セイギは黙ってはいられない。
「それはお前の勝手な持論だろ!! 人の命に、弱いとか強いとか、そんなもんは無い!! 死んで良い命なんか無いんだ!!」
「ハハハッ! 綺麗事だねぇ……だけど、俺には効かない。俺には俺のポリシーがあるからな。俺以外の命は、俺が生きる為だけにあるんだよ!俺は俺らしく生きる!! だからなぁ……俺は棄ててやるよ、俺らしく生きる為なら、人なんか棄ててやるよ! そして、新たな世界を作るんだ!ハハハッ! 先ずは今まで俺の生き方を邪魔してきた刑事どもを一人残らず消してやる……ハハハッ! そして、いつかはお前も消す……神は言ったよ、自らの望みを叶えれば、俺は更に進化出来るってな。ハハハッ! だから覚えておけ、俺の名を、俺の名は《デカギライ》!! 必ず俺はお前を消す力を掴んでやるよ!!!」
「何を言って……」
「うるせぇな、クソガキ! そろそろお前とのお喋りも終わりだ!黙れ……」
「………BANGッ!!」
無数の《デカギライ》の弾丸が、セイギに迫る………
―――――
そこからの記憶はセイギには無い。
気が付けばセイギは、ボッズーに抱えられて燃える山を見下ろしていた。