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作者: ビーグル
第1話 大木の中へ 9 ―願いの木―
 9

「ふぃ~! よいしょ~~~!!」

 まるで今までずっと余裕でいたかの様に、正義は爽やかな笑顔を浮かべて滑り台のゴールを滑り降りた。

「おいおい……さっきまで叫び声をあげてた奴とは思えない態度だなぁ。まるでこのジェットコースターを楽しんでいたみたいに……」
 とそんな正義を勇気はツッコんだが、それは勇気も同じだ。今の勇気は、さっきまで正義にすがる程に怖がっていた男とは思えないくらい晴々とした顔をしていた。

「それはお前だって同じだろ~~! なんだよ、その『爽やかな朝だな……太陽が目に染みるぜぇ!』みたいな顔は!」

「なんだよその言い方は……フフッ」
 芝居じみた正義の言い方に勇気は笑った。
「しかし、終わってみれば大した事なかったな」

「へへっ! 終わってみりゃあな!!」

「あぁ!!」

「へへっ!! ……で、ここは何なんだ??」

 二人は笑い合いながら、周囲を見回した。

 二人が遂さっき滑り降りた滑り台のゴールは、《願いの木の門番》と同じく、太くて大きな木に開いた穴だった。
(門番の穴とは違って、ここのは極々普通の穴だが)
 そしてこの部屋もまた、門番があった部屋と同じ様に、クローバーが絨毯みたいに生い茂っている。壁も同じだ。優しげな木目がこっちを見ている。

「さっきの部屋に似ているが……さっきよりか広いな」

「あぁ、一番上の部屋と同じくらいあるな!」
 正義が言う『一番上の部屋』とは、切り株のテーブルがあったあの部屋の事だ。
「……んで、ありゃ何だろな?」

 正義はこの部屋の中央にある物を指差した。

「あぁ、俺もさっきから気になっていた」
 勇気はそう言うと、その『気になる物』に向かってクローバーの絨毯を歩き始めた。

 部屋の中央にある物、それは……木だ。

 その木は大して大きくはない。
 町の公園にある様な木と同じくらいの大きさだ。濃い緑の葉を生やした枝は長く、フサフサとした葉っぱも合わさって、その形は傘を差した人間にも見える。幹の方は中央まではそんなに太くないが、そこから下は地面に向かう程に大きく広がっていく。

「なぁ勇気、これ似てないか?」
 勇気と共に木に向かって歩きながら正義が聞いた。

「あぁ……俺もそう思った」
 勇気は『何に?』とは聞き返さなかった。言わなくても分かったのだ。それくらい似てるのだ。

 この木はアレに……


 何に?


 それは……


「「輝ヶ丘の大木にそっくりだ……」」
 二人は声を合わせてそう言った。

「これが……ボッズーが言ってた《願いの木》かな??」

「かもな……」

 そう言って二人はその木に触れようと手を伸ばした。その時、

「待て!!」

 二人の手を止めようとする声が……

「その木には気軽に触らない方が良いボズ!! 自分の頭の中を整理してからじゃないとな!!」

「おわっ……とと!!」

「おっと……」

 その声に二人は慌てて手を止めた。

「驚かせてすまんボズね。先に言っておけば良かったボズ」
 二人を止めたのはボッズーだ。

「なんだボッズーかよ……」

「驚いた……」

 正義と勇気の二人が振り返ると、希望に抱かれたボッズーが滑り台のゴールを降りてくる姿が見えた。
 愛もそのすぐ後ろにいる。

「頭の中を整理して……とは、一体どういう意味だ?」

「勇気、それは今から説明するボズよ。ちょっと待っててくれボズな! ……ありがと、希望!」
 そう言うとボッズーは希望の手から飛び立って勇気と正義に近付いてきた。
「その木は二人の予想通り、《願いの木》だボズよ。そしてだなボズ、その木はその名の通り"願いを叶える木"なんだボズ!」

「願いを叶える木??」

「そうボズよ、正義。"願いを叶える木"だボズ!この木に触れた者の願いをね……」
 ボッズーは正義と勇気の少し手前で止まると、二人に向かって両手で水を掻き分ける様な仕草を見せた。

「ん? どけ……ってこと?」

 コクリ、ボッズーは頷いた。

「そんな事は口で言え……」

「へへっ!! まぁまぁ、良いじゃねぇかよ勇気!」

 正義と勇気の二人はチラッとお互いの顔を見ると、ボッズーの要望通り、左右に分かれて《願いの木》から少し距離を取った。

「さっき正義が食べた《魔法の果物》も、この木が生み出した物ボズよ。希望の望みを叶える形でね……ね、希望?」

「うん!」
 希望は《願いの木》に向かってゆっくりと歩きながら、ボッズーに向かって頷いた。

 ボッズーも微笑みをたたえながら、希望に向かって頷き返す。
「それじゃ、さっき言った事やってくれるかボズ!」

「うん!」
 ボッズーに元気いっぱいの返事をすると、希望は木に向かって駆け出した。

「さっき言った事ってなんだぁ?」

「それはね!……」
 希望は正義の横を通り過ぎながら、正義の腰をポンっとタッチした。
「……さっき僕がこの木にお願いした事を、もう一度同じ様にお願いするって約束だよ!」

「ここに来るまでの間に希望と約束したんだボズ! 俺達にこの木の凄さを見せてくれボズってね! さぁ見とけよ、勇気、正義!」

「私もね!」
 やっと愛がみんなの近くに到着した。
 愛はニコッと笑いながら、抱き付く様にボッズーの小さな肩を両手で掴んだ。

「へへぇ! そうボズね!」
 デレデレとボッズーは笑う。でもすぐに切り替えて、
「さぁ希望、よろしく頼むボズよ!」
 希望に合図を送った。

「うん!!」
 希望は力強く返事をすると《願いの木》に向かい合って右の手のひらをくっつけた。それから、「すぅ~~……」と息を吸い込むと、木に向かってこう唱え始めた。

「食べたら元気になれる美味しい果物が食べたいな!!」
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