第4話 王に選ばれし民 2 ―薔薇の蕾―
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「な、なんだ!! ……どこだ?!」
轟音を聞いたセイギは空を見渡した。
『また何処かの空が割れるのか……』と思ったから。
しかし、何処を見てもその様子はない。しかも今回は光が無い。瞼を閉じさせる程の目映い光が無いんだ。
― 前とは違う……空が割れた時とは違う……
セイギはすぐにそう察した。
「もしかして……」
察すると、彼は何処を注視すべきなのかに気が付いた。現在、世界中を探しても轟音と関係の深いものは一つしかない。
それは、紅の穴……
「あっ………」
紅の穴に視線を移した瞬間、思わずセイギの口から吐息が漏れる。
「なんだアレはボズ!!」
ボッズーも同じく。ボッズーもセイギと同じく紅の穴を見下ろしていた。そして、紅の穴を見下ろした瞬間、その目に映った物に驚くと同時に、ボッズーは思った。『初めて光体を見た時に、アイツらを"蛍"と言ったのは間違いだったかも知れない……』と。
何故なら、二人の目に映った物は……
「蕾……薔薇の蕾か?」
巨大な花の蕾だったからだ。
その蕾は紅の穴の前に浮かび、光体と似て目映く光っていた。だが、その大きさは光体とは比べられない程に巨大で、ボッズーが光体を蛍と思ってしまうくらいに巨大な紅の穴と同等の大きさをしていた。茎は無い、ただ蕾だけが浮かんでいる。
「何だよアレ……ヒマワリの次は、薔薇かよ……」
「確かに……似てるボズな。でも、本当の薔薇と違って……」
「「禍々しい……」」
二人の言葉は被った。
目映く光るその姿は美しいとも言えるのに、セイギとボッズーはそう感じた。
特にセイギは吐き気をもよおしそうになるくらいの嫌悪感を感じていた。さっきまでの笑顔は遠い昔になり、仮面の奥の顔は眉間に深い皺が寄り、乾こうとしていた肌にも再びジットリとした汗が吹き出し始めていた。
その嫌悪感は光体と同族だと分かっているからか……いや違う。おそらく本能だ。人間としての本能が、生き物としての本能が、眼前の蕾がこの世に現れてはいけない悪魔の産物だと教えてくれているのだ。
「ボッズー………」
「あぁ、分かってるボズよ」
セイギの指示は言葉にしなくてもボッズーには伝わった。セイギの考えは光体の時と同じだ。戦うんだ。敵が、輝ヶ丘の人々に被害を及ぼすその前に……
「行くボズよ!」
ボッズーは蕾に近付こうと再び翼を四本にした。でも、その瞬間、
「あっ……!!!」
「うわっ!!!」
蕾が激しい光を放った。その光は轟音と共に輝ヶ丘を襲った光と似ていて、セイギとボッズーの目を眩ませる。
しかし前の光とは違い、蕾が放った光は雷の様にすぐに消えた。それは十秒にも満たない一瞬の出来事。
「うっ……うぅ!! ちきしょうッッッ!!!」
その一瞬の中、光を避けた瞼のその奥で、セイギの瞳の中の炎は、《正義の心に》燃える炎は、敵の先手に驚倒し風前の灯へと変わる…………訳がない、逆に烈火の如く燃え上がった。
「ちきしょう!! お前等の好き勝手にさせて堪るか!!! こんな光ッ!! なんだっつんだ!!! ナメんなぁぁッッッ!!!」
燃え上がる正義の心を湛えてセイギは瞳を開いた。
「な、なんだ!! ……どこだ?!」
轟音を聞いたセイギは空を見渡した。
『また何処かの空が割れるのか……』と思ったから。
しかし、何処を見てもその様子はない。しかも今回は光が無い。瞼を閉じさせる程の目映い光が無いんだ。
― 前とは違う……空が割れた時とは違う……
セイギはすぐにそう察した。
「もしかして……」
察すると、彼は何処を注視すべきなのかに気が付いた。現在、世界中を探しても轟音と関係の深いものは一つしかない。
それは、紅の穴……
「あっ………」
紅の穴に視線を移した瞬間、思わずセイギの口から吐息が漏れる。
「なんだアレはボズ!!」
ボッズーも同じく。ボッズーもセイギと同じく紅の穴を見下ろしていた。そして、紅の穴を見下ろした瞬間、その目に映った物に驚くと同時に、ボッズーは思った。『初めて光体を見た時に、アイツらを"蛍"と言ったのは間違いだったかも知れない……』と。
何故なら、二人の目に映った物は……
「蕾……薔薇の蕾か?」
巨大な花の蕾だったからだ。
その蕾は紅の穴の前に浮かび、光体と似て目映く光っていた。だが、その大きさは光体とは比べられない程に巨大で、ボッズーが光体を蛍と思ってしまうくらいに巨大な紅の穴と同等の大きさをしていた。茎は無い、ただ蕾だけが浮かんでいる。
「何だよアレ……ヒマワリの次は、薔薇かよ……」
「確かに……似てるボズな。でも、本当の薔薇と違って……」
「「禍々しい……」」
二人の言葉は被った。
目映く光るその姿は美しいとも言えるのに、セイギとボッズーはそう感じた。
特にセイギは吐き気をもよおしそうになるくらいの嫌悪感を感じていた。さっきまでの笑顔は遠い昔になり、仮面の奥の顔は眉間に深い皺が寄り、乾こうとしていた肌にも再びジットリとした汗が吹き出し始めていた。
その嫌悪感は光体と同族だと分かっているからか……いや違う。おそらく本能だ。人間としての本能が、生き物としての本能が、眼前の蕾がこの世に現れてはいけない悪魔の産物だと教えてくれているのだ。
「ボッズー………」
「あぁ、分かってるボズよ」
セイギの指示は言葉にしなくてもボッズーには伝わった。セイギの考えは光体の時と同じだ。戦うんだ。敵が、輝ヶ丘の人々に被害を及ぼすその前に……
「行くボズよ!」
ボッズーは蕾に近付こうと再び翼を四本にした。でも、その瞬間、
「あっ……!!!」
「うわっ!!!」
蕾が激しい光を放った。その光は轟音と共に輝ヶ丘を襲った光と似ていて、セイギとボッズーの目を眩ませる。
しかし前の光とは違い、蕾が放った光は雷の様にすぐに消えた。それは十秒にも満たない一瞬の出来事。
「うっ……うぅ!! ちきしょうッッッ!!!」
その一瞬の中、光を避けた瞼のその奥で、セイギの瞳の中の炎は、《正義の心に》燃える炎は、敵の先手に驚倒し風前の灯へと変わる…………訳がない、逆に烈火の如く燃え上がった。
「ちきしょう!! お前等の好き勝手にさせて堪るか!!! こんな光ッ!! なんだっつんだ!!! ナメんなぁぁッッッ!!!」
燃え上がる正義の心を湛えてセイギは瞳を開いた。