第3話 空が割れた日 17 ―激突!!ガキセイギVS光体!!!!!―
17
そして、時は進む……
――――――
勇気と愛と通信を取った赤井正義=ガキセイギは、空に開いた紅の穴に向かって飛んでいた。
「アレはなんだ? 蛍かボズ? 一体、二体、三体、四体……」
紅の穴から現れた謎の光体の群れを見たボッズーが呟いた。
「蛍? どこに目ぇ付いてんだよ! ありゃヒマワリの種だ!」
確かに、光体は楕円形をしていてガキセイギの言うようにヒマワリの種に見えなくもない。
「いや、アレは蛍だボズよ。光ってるから蛍だボズ!」
「いやいや、ありゃヒマワリの種だ! ……って、んな事どっちでも良いよ! アイツらが何者なのか、それだけ分かってりゃ良い! アイツらは敵だ!!」
「むむっ……まぁ、そりゃそうだな! ソレだけは間違いないボズ!」
「だけど、アイツらはお前が俺によく話してくれる《バケモノ》とはまた違う奴だよな? 確か、バケモノは人間を……」
「そうボズ! バケモノは人間を変化させた奴らの事を言うボズ! あの穴から出てくるならアレはまた違う奴ボズよ! 容赦なく倒して良い奴だボズ!!」
「そうか! なら突っ込め!!」
「ほいやっさ! でも、忘れるなよ! 俺達の本当の目的は!!」
「分かってるよ! あのドデカイ穴を封じる事だろ!」
「そうボズ! あの穴の中から"この世を破滅される王"が現れるんだボズ! その前にセイギ達はあの穴を塞ぐボズ!! でも!」
「でも! それは、俺達が"五人揃わないと出来ない"そうだよな? 分かってるよ! だったら俺はそれまで時間を稼ぐ!! ボッズー、急げ!! まずはアイツらだ!! アイツらが町に攻撃を仕掛ける前にブッ倒す!!」
「OK!! 行くぞボッズー!!」
ガキセイギとボッズーは昂然とした言葉で己の目的を言い合うと、全速力で光体に向かって突進した。
―――――
光体の群れは町への侵入を成功させると、町を見渡す様にゆっくりと回転を始めた。それは品定めでもしているかの様で、『何処にしようか、何処から破壊しようか』そんな聞こえもしない声が聞こえてくる。
目映く光る光体には目も無ければ顔も無い。ガキセイギの表現を借りれば、そのヒマワリの種に似たフォルムの尖った先端から光体は視覚を得ていると認識してしまいそうになるが、果たして本当にそうなのか、実際には分からない。
実体があるのかも怪しい。目に映る姿だけを言えば、光の塊でしかない。
そんな怪奇な存在に、輝ヶ丘の住民達は本能的に恐怖を覚えた。
しかし、それにしても、やはり……
恐怖を感じたとしても、非現実的な存在を目の当たりにした人間は驚愕から思考停止になってしまうのか、光体を目撃した輝ヶ丘の住民はただ唖然とした表情で光体を見ているだけで逃げようとしなかった……いや、人々の唖然とした表情の中には、思考の色も見える。ならば、思考が停止しているのではなく、逆に思考が錯綜し過ぎて取るべき行動が何なのか、その答えが出せずにいるだけなのかも知れない。
………アレはなに? UFO?
………本物? いや、嘘でしょ?
………CG? 違う違う、そんな訳ない
………どうした方が良いの? 逃げた方が良い?
住民達の頭の中ではこんな思考が巡っていたのではなかろうか。
その時、誰かが叫んだ。
「逃げろ!! 皆、シェルターに逃げるんだ!! ここに居ては危ない!! 逃げるんだ!!」
「早く! 立ち止まらないで、逃げて!!」
それは二人の男女。
輝ヶ丘高校の制服を着たその二人は、避難を呼び掛けながら住民達の間を駆け抜けていった。
「シェルター………」
二人の声を聞いた一人の男性が声を発した。今まで光体の動きをただ見守るだけだったその男性は、二人の男女の声を聞くと、我に返った表情になって、走り去る二人の背中を視線で追い掛けた。
「シェルター……そうか、シェルターか!」
走り去っていった二人の男女の呼び掛けによって、自分が取るべき行動が何なのか気付いた男性は、
「皆、逃げましょう! こんな所にいても仕方がない、シェルターに急ぐんです! 早く、早く!!」
大きな声で周りの住民達にも呼び掛け始めた。
これが、スイッチとなった。
この男性の呼び掛けが第一波となって、その波は輝ヶ丘全体へと広がっていく事になる。
輝ヶ丘高校の時と同じだ。
再び、愛と勇気の呼び掛けが避難の波を生み出したんだ。
―――――
住民が避難を始めたとほぼ同時、町を見渡す様にゆっくりと回転していた光体の内、一体が動きを止めた。
やはり、光体はヒマワリの種の先端に似た箇所から視覚を得ているのかも知れない。何故なら、動きを止めた光体が先端を向けた先には、快晴の空を飛ぶ真っ赤な飛翔体がいたからだ。
そして、光体は飛翔体を見詰めながら(先端に目があると仮定して)震え出した。
最初はブルブルと小刻みに、しかし暫くもしない一瞬で、残像を残す程にその震えは激しくなっていった。
―――――
「ボッズー、どうやら俺達見付かっちまったみたいだな……」
ガキセイギだ。
「どうやらそうみたいだなボッズー……」
こっちはボッズーだ。
ガキセイギは気付いた。光体が自分達を見付けた事に。そう、光体が見詰める飛翔体はガキセイギだったんだ。……とは言っても、ガキセイギもボッズーも、『光体に見付かる事なく接近してやろう!』とは考えてはいなかった。
ビルの高さを優に超えてブッ飛ぶガキセイギだ。隠れる場所は無いし、快晴の青空の中を飛ぶ真っ赤な存在を『見つけるな!』という方が無理な話だと二人も分かっていたのだ。
しかし、もう少し近付きたかった。例えば、今は親指大に見える光体が、手のひら位の大きさに見えるくらいには。
だが、気付かれてしまったからには仕方がない。
しかも、
「ヤバいな……あれは何かしてくるぞボッズー!」
光体は謎の震えを見せている。この震え、ボッズーが言うように"何かしてくる"前兆なのは明らかだ。
二人はこの震えをこう捉えた。
「あぁ、仕掛けてくるな……攻撃を」
「弾丸込めちゃってるボッズーね……」
攻撃の前段階だ。
いや、『捉えた』というよりも、この解釈は正しいのだろう。何故なら、光体が震える度にその尖った先端には、何処からか発生した、訳の分からぬ"謎の光"が集まっていっているのだから。
この謎の光は謎の光だが、謎の光が熱を持っているは分かる。謎の光の周りが、遠くからでもユラユラと陽炎の様に揺れているのが見えるからだ。更に、集められた謎の光は球状に形成され、ドンドン巨大になっていく。
そんな物を作ってどうするつもりなのか、そう光体に問い掛けなくても、セイギとボッズーが勘の良くない人間だったとしても、分かる事だった。それは、攻撃だ……
そしてボッズーの言葉通り、この光が『弾丸』ならば、もういつ発射されてもおかしくない状態ではなかろうか。
「どうするボズ? 逃げるか?」
そんな光体を見て、ボッズーは言った。
「ん? 逃げる?」
でも、セイギはそんなボッズーの質問に首を傾げた。
「いや、その逆だ、ブッ飛べ! アイツの正面に向かってな!!」
そして、真逆の回答を出した。
「ははっ! そう言うと思ってたぜボッズー!!」
だが、ボッズーは分かっていた。セイギが何と答えるのかを。
だって、二人の意思は同じだから。一ミリのズレもなく一緒なのだから。ガキセイギの考えはボッズーには分かり、ボッズーの考えもガキセイギには分かる。だから、
「ブッ込むぞボッズーッ!!」
ボッズーは躊躇も戸惑いも見せる事なく、震える光体に向かって真っ正面からブッ飛んだ。
しかし、光体も負けてはいない。
光体の震えは『獲物を捉えた』とでも言う様にもっともっと激しくなっていき、その激しさは仲間を招いた。震える仲間に気付いたのか、他の光体もこちらを向いたのだ。
それでもボッズーはスピードを緩めはしない。緩めるどころか加速させる。
「行くぜぇ!!!」
そしてガキセイギの士気もボッズーの加速と共に増していく。光体とガキセイギとの距離はあと数メートルにまで迫った。ただ、まだガキセイギの大剣が届く距離ではない。
あともう少し、あともう少しで届く。両者がぶつかり合うのはあともう少しだ。
その時、
ドォーーンッ!!!
大砲が撃たれた。先に仕掛けたのは光体だった。光体が作った巨大な光の弾丸はガキセイギに向かって飛んでいく。
「来たかッ!!」
でも、セイギはそれに怯む事はなかった。怯むどころか、その光弾を避けようともせず、真っ正面から迎え撃つ。
「ドリャァッ!!!」
横一線……
ガキセイギは大剣を横に振り抜き、放たれた光弾を真っ二つに斬り裂いた。そして、斬られた光弾は無数の光の粒となり、不思議な事に大剣の刃に吸い込まれていく。
「まだまだ行くぞッ! ボッズー、突っ込め!!!」
「OKボッズー!!」
光体の攻撃は連発が出来ない様だ。光弾を放つと光体は大人しくなってしまった。
その隙をセイギとボッズーは見逃しはしない。セイギは大剣を振り上げ、ボッズーは"上の翼"に風を取り込み"下の翼"で噴き出した。
ガキセイギと光体との距離は、一瞬にして鼻先が突き合う程の距離に……
近付いてみて初めて分かった。光体の体長はセイギの倍以上、おそらく5mは超えている。しかし、そうだとしてもやはり、セイギは怯まない。
「テヤァーーー!!!」
セイギは振り上げた大剣を、光体の先端に向かって思いっ切り振り下ろした。
縦一線……
セイギの斬撃は光体の先端を割った。いや、先端を割っただけじゃない、そこから生まれた亀裂は、稲妻が如く光体の全身に向かって一気に走っていった…………かと思うと
ドゴーーーンッ!!!
………光体は木っ端微塵に爆発した。
「ヨシッ!!」
セイギは小さく呟いた。でも、勝利に喜ぶにはまだ早い。まだまだ敵はいるのだ。
だからガキセイギは止まらない。一体目を倒しても、一寸の油断も見せる事なく、セイギとボッズーは次の標的に向かって行った。
しかし、それは敵も同じくだ。仲間がやられても怯える事は無かった。
今、セイギの目前にいる光体は三体、その三体はセイギから見て扇形を作るように広がっているのだが、ソイツらはいつの間にやら光弾を作り上げていた。そして、向かい来るセイギに向かって一斉に光弾を発射したんだ。
「潜るぞッ!!!」
「ほいやっさ!!!」
敵が攻撃を発射したのを知ると、セイギはボッズーに向かって叫んだ。
指示を受けたボッズーは素早く翼の形を変える。ジェット噴射の様に飛ぶ四本の翼から、空を優雅に羽ばたける二本の翼へと。
そして、セイギとボッズーは"空を潜った"。
『潜る』……それは空を飛んでいる状態では可笑しな言葉かも知れない。だが、適切な言葉はそれしかない。セイギは両手と全身を伸ばして、海に飛び込む様にして言葉通り空を潜ったのだから。
それから、そのまま、セイギとボッズーは空を滑るように飛んだ。まるで海中を優雅に泳ぐ人魚の様に。
加速重視の四本の翼なら、この動きは出来ない。極めの細かい動きを取りたいのならば、バッサバッサと羽ばたく二本の翼が良いんだ。
二本の翼を羽ばたかせ向かうは光体の真下。光弾は避けられた、ならば敵には隙が出来る。
今こそチャンスだ。
再びボッズーは翼を四本へと変えた。でも、ガキセイギからの指示は無い。指示は無くても、ボッズーには彼の意志が伝わった。セイギが何をしたいのか、彼が言葉にしなくてもボッズーには分かるのだ。
ボッズーは翼を四本に変えると、再び"上の翼"から風を取り込み、"下の翼"で一気に噴き出した。ジェット噴射で一気に急上昇。
「トォォォリャ!!」
ガキセイギは大剣を真上に振り上げた。やはりセイギの斬撃は強い。斬られた光体は再び真っ二つに斬り裂かれる。その光体の分かれた胴体の間をガキセイギとボッズーの二人は通り過ぎた。
この後は、分かるだろう…………大爆発だ。
さぁ、次だ。セイギは既に動いてる。二体目を斬ったセイギは、今度は三体目に狙いを定める。急上昇したから今度は敵は自分達の足元にいる。
だからセイギは三体目と定めた光体に頭を向けて一瞬体を屈ませると、空中を蹴って伸び上がり、まるでバネが弾むように一気に光体へと近付いた。
「ドリャァ!!!」
目にも止まらぬ速さだ。二体目を破壊してから三体目を破壊するまで、僅かばかりの時間しか経っていない。
さぁ、次だ………しかし、『僅かばかりの時間』も光体にとっては十分な時間だった様だ。何故なら、四体目の光体は既に攻撃の準備を整えてしまっていたんだ。
ドォーーンッ!!!
新たに光弾を作り出した四体目は、三体目を破壊したばかりで未だ剣を振り下ろす格好でいるセイギに向かって、新たな光弾を発射した。
「ちきしょう!!」
敵との距離は遠くない。近いくらいだ。高速の光弾がセイギ目掛けて一直線に飛んでくる。
「うわっとッ!!」
間一髪、ガキセイギはそれをひらりと体を翻し避けた。
「あっぶねぇ!!」
寸前だ、危なかった。少しでも体が横にズレていれば直撃していただろう。しかし、ガキセイギはそんな事で肝を冷やす男ではないし、まだまだ行くのがこの男だ。
敵の攻撃は連続して放たれる事はない、震え始めてから光弾が作られるまで数十秒の隙が生まれる。その隙を突いて、
「オリャァーー!!!」
ガキセイギは四体目に近付くと、斜めに大剣を振り上げた。
ドゴーンッ!!!
爆発四散し跡形も無くなる光体……
さぁさぁ、これで全ての敵は倒したぞ。人類の勝利だ………と、成れば良かった。でも、そんな訳がなかった。敵は世界を破滅に導く者だ。たった四体である筈がない。
「ん? なんだ?」
ガキセイギの右目の隅に映る、紅の穴に何かが光った。
「あ………!!」
チラリと仮面の中で視線だけを動かしてガキセイギが穴を覗くと……
「おいおい、マジかよ……」
「まだいるのかボッズー!!」
ガキセイギの呟きを聞いたボッズーも穴を見た。
二人の目に映ったもの、それは……増員だった。紅の穴からゾロゾロと、無数の光体が輝ヶ丘の空に侵入してきていたのだ。
そして、時は進む……
――――――
勇気と愛と通信を取った赤井正義=ガキセイギは、空に開いた紅の穴に向かって飛んでいた。
「アレはなんだ? 蛍かボズ? 一体、二体、三体、四体……」
紅の穴から現れた謎の光体の群れを見たボッズーが呟いた。
「蛍? どこに目ぇ付いてんだよ! ありゃヒマワリの種だ!」
確かに、光体は楕円形をしていてガキセイギの言うようにヒマワリの種に見えなくもない。
「いや、アレは蛍だボズよ。光ってるから蛍だボズ!」
「いやいや、ありゃヒマワリの種だ! ……って、んな事どっちでも良いよ! アイツらが何者なのか、それだけ分かってりゃ良い! アイツらは敵だ!!」
「むむっ……まぁ、そりゃそうだな! ソレだけは間違いないボズ!」
「だけど、アイツらはお前が俺によく話してくれる《バケモノ》とはまた違う奴だよな? 確か、バケモノは人間を……」
「そうボズ! バケモノは人間を変化させた奴らの事を言うボズ! あの穴から出てくるならアレはまた違う奴ボズよ! 容赦なく倒して良い奴だボズ!!」
「そうか! なら突っ込め!!」
「ほいやっさ! でも、忘れるなよ! 俺達の本当の目的は!!」
「分かってるよ! あのドデカイ穴を封じる事だろ!」
「そうボズ! あの穴の中から"この世を破滅される王"が現れるんだボズ! その前にセイギ達はあの穴を塞ぐボズ!! でも!」
「でも! それは、俺達が"五人揃わないと出来ない"そうだよな? 分かってるよ! だったら俺はそれまで時間を稼ぐ!! ボッズー、急げ!! まずはアイツらだ!! アイツらが町に攻撃を仕掛ける前にブッ倒す!!」
「OK!! 行くぞボッズー!!」
ガキセイギとボッズーは昂然とした言葉で己の目的を言い合うと、全速力で光体に向かって突進した。
―――――
光体の群れは町への侵入を成功させると、町を見渡す様にゆっくりと回転を始めた。それは品定めでもしているかの様で、『何処にしようか、何処から破壊しようか』そんな聞こえもしない声が聞こえてくる。
目映く光る光体には目も無ければ顔も無い。ガキセイギの表現を借りれば、そのヒマワリの種に似たフォルムの尖った先端から光体は視覚を得ていると認識してしまいそうになるが、果たして本当にそうなのか、実際には分からない。
実体があるのかも怪しい。目に映る姿だけを言えば、光の塊でしかない。
そんな怪奇な存在に、輝ヶ丘の住民達は本能的に恐怖を覚えた。
しかし、それにしても、やはり……
恐怖を感じたとしても、非現実的な存在を目の当たりにした人間は驚愕から思考停止になってしまうのか、光体を目撃した輝ヶ丘の住民はただ唖然とした表情で光体を見ているだけで逃げようとしなかった……いや、人々の唖然とした表情の中には、思考の色も見える。ならば、思考が停止しているのではなく、逆に思考が錯綜し過ぎて取るべき行動が何なのか、その答えが出せずにいるだけなのかも知れない。
………アレはなに? UFO?
………本物? いや、嘘でしょ?
………CG? 違う違う、そんな訳ない
………どうした方が良いの? 逃げた方が良い?
住民達の頭の中ではこんな思考が巡っていたのではなかろうか。
その時、誰かが叫んだ。
「逃げろ!! 皆、シェルターに逃げるんだ!! ここに居ては危ない!! 逃げるんだ!!」
「早く! 立ち止まらないで、逃げて!!」
それは二人の男女。
輝ヶ丘高校の制服を着たその二人は、避難を呼び掛けながら住民達の間を駆け抜けていった。
「シェルター………」
二人の声を聞いた一人の男性が声を発した。今まで光体の動きをただ見守るだけだったその男性は、二人の男女の声を聞くと、我に返った表情になって、走り去る二人の背中を視線で追い掛けた。
「シェルター……そうか、シェルターか!」
走り去っていった二人の男女の呼び掛けによって、自分が取るべき行動が何なのか気付いた男性は、
「皆、逃げましょう! こんな所にいても仕方がない、シェルターに急ぐんです! 早く、早く!!」
大きな声で周りの住民達にも呼び掛け始めた。
これが、スイッチとなった。
この男性の呼び掛けが第一波となって、その波は輝ヶ丘全体へと広がっていく事になる。
輝ヶ丘高校の時と同じだ。
再び、愛と勇気の呼び掛けが避難の波を生み出したんだ。
―――――
住民が避難を始めたとほぼ同時、町を見渡す様にゆっくりと回転していた光体の内、一体が動きを止めた。
やはり、光体はヒマワリの種の先端に似た箇所から視覚を得ているのかも知れない。何故なら、動きを止めた光体が先端を向けた先には、快晴の空を飛ぶ真っ赤な飛翔体がいたからだ。
そして、光体は飛翔体を見詰めながら(先端に目があると仮定して)震え出した。
最初はブルブルと小刻みに、しかし暫くもしない一瞬で、残像を残す程にその震えは激しくなっていった。
―――――
「ボッズー、どうやら俺達見付かっちまったみたいだな……」
ガキセイギだ。
「どうやらそうみたいだなボッズー……」
こっちはボッズーだ。
ガキセイギは気付いた。光体が自分達を見付けた事に。そう、光体が見詰める飛翔体はガキセイギだったんだ。……とは言っても、ガキセイギもボッズーも、『光体に見付かる事なく接近してやろう!』とは考えてはいなかった。
ビルの高さを優に超えてブッ飛ぶガキセイギだ。隠れる場所は無いし、快晴の青空の中を飛ぶ真っ赤な存在を『見つけるな!』という方が無理な話だと二人も分かっていたのだ。
しかし、もう少し近付きたかった。例えば、今は親指大に見える光体が、手のひら位の大きさに見えるくらいには。
だが、気付かれてしまったからには仕方がない。
しかも、
「ヤバいな……あれは何かしてくるぞボッズー!」
光体は謎の震えを見せている。この震え、ボッズーが言うように"何かしてくる"前兆なのは明らかだ。
二人はこの震えをこう捉えた。
「あぁ、仕掛けてくるな……攻撃を」
「弾丸込めちゃってるボッズーね……」
攻撃の前段階だ。
いや、『捉えた』というよりも、この解釈は正しいのだろう。何故なら、光体が震える度にその尖った先端には、何処からか発生した、訳の分からぬ"謎の光"が集まっていっているのだから。
この謎の光は謎の光だが、謎の光が熱を持っているは分かる。謎の光の周りが、遠くからでもユラユラと陽炎の様に揺れているのが見えるからだ。更に、集められた謎の光は球状に形成され、ドンドン巨大になっていく。
そんな物を作ってどうするつもりなのか、そう光体に問い掛けなくても、セイギとボッズーが勘の良くない人間だったとしても、分かる事だった。それは、攻撃だ……
そしてボッズーの言葉通り、この光が『弾丸』ならば、もういつ発射されてもおかしくない状態ではなかろうか。
「どうするボズ? 逃げるか?」
そんな光体を見て、ボッズーは言った。
「ん? 逃げる?」
でも、セイギはそんなボッズーの質問に首を傾げた。
「いや、その逆だ、ブッ飛べ! アイツの正面に向かってな!!」
そして、真逆の回答を出した。
「ははっ! そう言うと思ってたぜボッズー!!」
だが、ボッズーは分かっていた。セイギが何と答えるのかを。
だって、二人の意思は同じだから。一ミリのズレもなく一緒なのだから。ガキセイギの考えはボッズーには分かり、ボッズーの考えもガキセイギには分かる。だから、
「ブッ込むぞボッズーッ!!」
ボッズーは躊躇も戸惑いも見せる事なく、震える光体に向かって真っ正面からブッ飛んだ。
しかし、光体も負けてはいない。
光体の震えは『獲物を捉えた』とでも言う様にもっともっと激しくなっていき、その激しさは仲間を招いた。震える仲間に気付いたのか、他の光体もこちらを向いたのだ。
それでもボッズーはスピードを緩めはしない。緩めるどころか加速させる。
「行くぜぇ!!!」
そしてガキセイギの士気もボッズーの加速と共に増していく。光体とガキセイギとの距離はあと数メートルにまで迫った。ただ、まだガキセイギの大剣が届く距離ではない。
あともう少し、あともう少しで届く。両者がぶつかり合うのはあともう少しだ。
その時、
ドォーーンッ!!!
大砲が撃たれた。先に仕掛けたのは光体だった。光体が作った巨大な光の弾丸はガキセイギに向かって飛んでいく。
「来たかッ!!」
でも、セイギはそれに怯む事はなかった。怯むどころか、その光弾を避けようともせず、真っ正面から迎え撃つ。
「ドリャァッ!!!」
横一線……
ガキセイギは大剣を横に振り抜き、放たれた光弾を真っ二つに斬り裂いた。そして、斬られた光弾は無数の光の粒となり、不思議な事に大剣の刃に吸い込まれていく。
「まだまだ行くぞッ! ボッズー、突っ込め!!!」
「OKボッズー!!」
光体の攻撃は連発が出来ない様だ。光弾を放つと光体は大人しくなってしまった。
その隙をセイギとボッズーは見逃しはしない。セイギは大剣を振り上げ、ボッズーは"上の翼"に風を取り込み"下の翼"で噴き出した。
ガキセイギと光体との距離は、一瞬にして鼻先が突き合う程の距離に……
近付いてみて初めて分かった。光体の体長はセイギの倍以上、おそらく5mは超えている。しかし、そうだとしてもやはり、セイギは怯まない。
「テヤァーーー!!!」
セイギは振り上げた大剣を、光体の先端に向かって思いっ切り振り下ろした。
縦一線……
セイギの斬撃は光体の先端を割った。いや、先端を割っただけじゃない、そこから生まれた亀裂は、稲妻が如く光体の全身に向かって一気に走っていった…………かと思うと
ドゴーーーンッ!!!
………光体は木っ端微塵に爆発した。
「ヨシッ!!」
セイギは小さく呟いた。でも、勝利に喜ぶにはまだ早い。まだまだ敵はいるのだ。
だからガキセイギは止まらない。一体目を倒しても、一寸の油断も見せる事なく、セイギとボッズーは次の標的に向かって行った。
しかし、それは敵も同じくだ。仲間がやられても怯える事は無かった。
今、セイギの目前にいる光体は三体、その三体はセイギから見て扇形を作るように広がっているのだが、ソイツらはいつの間にやら光弾を作り上げていた。そして、向かい来るセイギに向かって一斉に光弾を発射したんだ。
「潜るぞッ!!!」
「ほいやっさ!!!」
敵が攻撃を発射したのを知ると、セイギはボッズーに向かって叫んだ。
指示を受けたボッズーは素早く翼の形を変える。ジェット噴射の様に飛ぶ四本の翼から、空を優雅に羽ばたける二本の翼へと。
そして、セイギとボッズーは"空を潜った"。
『潜る』……それは空を飛んでいる状態では可笑しな言葉かも知れない。だが、適切な言葉はそれしかない。セイギは両手と全身を伸ばして、海に飛び込む様にして言葉通り空を潜ったのだから。
それから、そのまま、セイギとボッズーは空を滑るように飛んだ。まるで海中を優雅に泳ぐ人魚の様に。
加速重視の四本の翼なら、この動きは出来ない。極めの細かい動きを取りたいのならば、バッサバッサと羽ばたく二本の翼が良いんだ。
二本の翼を羽ばたかせ向かうは光体の真下。光弾は避けられた、ならば敵には隙が出来る。
今こそチャンスだ。
再びボッズーは翼を四本へと変えた。でも、ガキセイギからの指示は無い。指示は無くても、ボッズーには彼の意志が伝わった。セイギが何をしたいのか、彼が言葉にしなくてもボッズーには分かるのだ。
ボッズーは翼を四本に変えると、再び"上の翼"から風を取り込み、"下の翼"で一気に噴き出した。ジェット噴射で一気に急上昇。
「トォォォリャ!!」
ガキセイギは大剣を真上に振り上げた。やはりセイギの斬撃は強い。斬られた光体は再び真っ二つに斬り裂かれる。その光体の分かれた胴体の間をガキセイギとボッズーの二人は通り過ぎた。
この後は、分かるだろう…………大爆発だ。
さぁ、次だ。セイギは既に動いてる。二体目を斬ったセイギは、今度は三体目に狙いを定める。急上昇したから今度は敵は自分達の足元にいる。
だからセイギは三体目と定めた光体に頭を向けて一瞬体を屈ませると、空中を蹴って伸び上がり、まるでバネが弾むように一気に光体へと近付いた。
「ドリャァ!!!」
目にも止まらぬ速さだ。二体目を破壊してから三体目を破壊するまで、僅かばかりの時間しか経っていない。
さぁ、次だ………しかし、『僅かばかりの時間』も光体にとっては十分な時間だった様だ。何故なら、四体目の光体は既に攻撃の準備を整えてしまっていたんだ。
ドォーーンッ!!!
新たに光弾を作り出した四体目は、三体目を破壊したばかりで未だ剣を振り下ろす格好でいるセイギに向かって、新たな光弾を発射した。
「ちきしょう!!」
敵との距離は遠くない。近いくらいだ。高速の光弾がセイギ目掛けて一直線に飛んでくる。
「うわっとッ!!」
間一髪、ガキセイギはそれをひらりと体を翻し避けた。
「あっぶねぇ!!」
寸前だ、危なかった。少しでも体が横にズレていれば直撃していただろう。しかし、ガキセイギはそんな事で肝を冷やす男ではないし、まだまだ行くのがこの男だ。
敵の攻撃は連続して放たれる事はない、震え始めてから光弾が作られるまで数十秒の隙が生まれる。その隙を突いて、
「オリャァーー!!!」
ガキセイギは四体目に近付くと、斜めに大剣を振り上げた。
ドゴーンッ!!!
爆発四散し跡形も無くなる光体……
さぁさぁ、これで全ての敵は倒したぞ。人類の勝利だ………と、成れば良かった。でも、そんな訳がなかった。敵は世界を破滅に導く者だ。たった四体である筈がない。
「ん? なんだ?」
ガキセイギの右目の隅に映る、紅の穴に何かが光った。
「あ………!!」
チラリと仮面の中で視線だけを動かしてガキセイギが穴を覗くと……
「おいおい、マジかよ……」
「まだいるのかボッズー!!」
ガキセイギの呟きを聞いたボッズーも穴を見た。
二人の目に映ったもの、それは……増員だった。紅の穴からゾロゾロと、無数の光体が輝ヶ丘の空に侵入してきていたのだ。