第3話 空が割れた日 15 ―さぁ、本番だ!―
15
「これで安心だ! ここに居れば、希望は大丈夫!」
希望が大木の中へ消えると、木目調の扉はまばたきをする一瞬の隙に消えていった。
「ヨシッ! ボッズー、こっからが本番だ!」
そう言うと正義は、パンッと手を叩いてくるりと回り、町を見下ろす事の出来る高台の先に向かって歩き出した。
「本番ねぇ……なんだか余裕綽々に見えるけど、これから激しい戦いが始まるんだぞボッズー。さっきの工場みたいにはいかないんだからなボッズー、分かってんのか?」
そう言いながらボッズーは、正義についていく。
「あぁ、勿論だよ。分かってる!」
正義はボッズーの質問にそう答えた。そして、高台の先に着くと、町を見下ろした。
輝ヶ丘の町は静かだ。驚く程に……
しかし、平穏ではない。もし、何も知らぬ人が今の輝ヶ丘を見ても『明らかに異常だ』と言うだろう。
何故なら、輝ヶ丘の住民は皆、呆然とした表情で空を見上げているのだから。見上げる先は皆同じ、空に浮かぶ蜘蛛の巣状の亀裂だ……
しかし、亀裂を亀裂と認識出来ている人はどれくらいいるだろうか……いや、いる訳がない。誰もが皆、『そんな現象が起こる訳がない』と思っているのだから。
「あれか……」
正義は静かな町並みと空を見上げる人々を一瞥すると、亀裂へと視線を移した。
彼には分かっていた。空に浮かぶ亀裂が何を意味するのか。
当たり前だ。彼はこれから起こる出来事を知る限られた人物の一人なのだから。
そして、亀裂を見詰める彼の顔はもう『へへっ!』と笑ってはいない。今の彼は鋭く、亀裂を睨んでいる。
「なるほどな……」
そんな正義を見たボッズーは呟いた。
「どうやら、『分かってる』ってのは嘘ではないみたいだなボッズー。でも……」
「でも? なんだよ?」
正義は亀裂を睨んだままそう答えた。
「予定よりも敵は早く動いたみたいだぞボズ」
「そうみたいだな……」
「これじゃあ、後の四人は間に合いそうもないボズよ。どうするんだボッズー?」
「どうする?」
正義は亀裂から一瞬目を離し、真横に飛んできたボッズーを見た。
「その質問、意味があるのか? 『やーめた!逃げよう!』……俺がそう言うと思うか?」
正義がこう答えると、
「ははっ!」
ボッズーは笑った。
「ん? 何で笑うんだよ?」
「ははっ! 言わないなぁ! お前は絶対にそんな事は言わない!」
そう言うボッズーは『えっへん!』と腰に手を当てている。
「だって、今の正義の瞳には真っ赤な炎が燃えているんだもん!」
「え? 真っ赤な炎?」
『真っ赤な炎が燃えている』と言われても、正義には何の事やら分からなかった。自分自身の事だから。でも、こう言われたならば分かっただろう。『《正義の心》が燃えている』と。
ボッズーは見たんだ。亀裂を睨む正義の瞳の奥に《正義の心》が燃えているのを。
「そうボズ! 真っ赤な炎ボズ! お前がそう答えるのは分かってただボズよ! でも、お前の口から直接その言葉を聞きたかったんだボッズー!」
「ん? なんだそれは……」
正義は額をポリポリと搔きながら、再び亀裂へと視線を移した。
「じゃあ、俺からも質問だ。俺は一人でもやるよ。みんなが来るまで、俺一人でだって戦い抜く。ボッズー、お前はどうするんだ? 付き合ってくれるか?」
「ははっ! 『どうする?』その質問、意味あるかボズ?」
ボッズーは正義の肩に止まって腕組みをした。その表情は勇ましい。少しわざとらしく作っている感じもするが、ボッズーの瞳の奥にもまた、正義と同じく炎が宿っていた。
「へへっ……いやぁ、ねぇなぁ。お前はそういう奴だ」
「あぁ、そういう奴だボッズー! 俺はどこまでも付いていくぜ! お前が、お前達五人が、世界を平和にするその時まで、ずっとなボッズー!」
「へへっ! さっすがボッズーだ!」
二人はお互いの気持ちを確かめ合うと、拳を強く握った。
ピキピキ……
その時、亀裂が動いた……
「来るみたいだなボズ……」
「あぁ……」
正義はゴクリと生唾を飲み込み、
「ボッズーッ!! 行くぞッ!!!」」
勢い良くダウンジャケットを脱ぎ捨てた。
「おうよッ!!!」
「これで安心だ! ここに居れば、希望は大丈夫!」
希望が大木の中へ消えると、木目調の扉はまばたきをする一瞬の隙に消えていった。
「ヨシッ! ボッズー、こっからが本番だ!」
そう言うと正義は、パンッと手を叩いてくるりと回り、町を見下ろす事の出来る高台の先に向かって歩き出した。
「本番ねぇ……なんだか余裕綽々に見えるけど、これから激しい戦いが始まるんだぞボッズー。さっきの工場みたいにはいかないんだからなボッズー、分かってんのか?」
そう言いながらボッズーは、正義についていく。
「あぁ、勿論だよ。分かってる!」
正義はボッズーの質問にそう答えた。そして、高台の先に着くと、町を見下ろした。
輝ヶ丘の町は静かだ。驚く程に……
しかし、平穏ではない。もし、何も知らぬ人が今の輝ヶ丘を見ても『明らかに異常だ』と言うだろう。
何故なら、輝ヶ丘の住民は皆、呆然とした表情で空を見上げているのだから。見上げる先は皆同じ、空に浮かぶ蜘蛛の巣状の亀裂だ……
しかし、亀裂を亀裂と認識出来ている人はどれくらいいるだろうか……いや、いる訳がない。誰もが皆、『そんな現象が起こる訳がない』と思っているのだから。
「あれか……」
正義は静かな町並みと空を見上げる人々を一瞥すると、亀裂へと視線を移した。
彼には分かっていた。空に浮かぶ亀裂が何を意味するのか。
当たり前だ。彼はこれから起こる出来事を知る限られた人物の一人なのだから。
そして、亀裂を見詰める彼の顔はもう『へへっ!』と笑ってはいない。今の彼は鋭く、亀裂を睨んでいる。
「なるほどな……」
そんな正義を見たボッズーは呟いた。
「どうやら、『分かってる』ってのは嘘ではないみたいだなボッズー。でも……」
「でも? なんだよ?」
正義は亀裂を睨んだままそう答えた。
「予定よりも敵は早く動いたみたいだぞボズ」
「そうみたいだな……」
「これじゃあ、後の四人は間に合いそうもないボズよ。どうするんだボッズー?」
「どうする?」
正義は亀裂から一瞬目を離し、真横に飛んできたボッズーを見た。
「その質問、意味があるのか? 『やーめた!逃げよう!』……俺がそう言うと思うか?」
正義がこう答えると、
「ははっ!」
ボッズーは笑った。
「ん? 何で笑うんだよ?」
「ははっ! 言わないなぁ! お前は絶対にそんな事は言わない!」
そう言うボッズーは『えっへん!』と腰に手を当てている。
「だって、今の正義の瞳には真っ赤な炎が燃えているんだもん!」
「え? 真っ赤な炎?」
『真っ赤な炎が燃えている』と言われても、正義には何の事やら分からなかった。自分自身の事だから。でも、こう言われたならば分かっただろう。『《正義の心》が燃えている』と。
ボッズーは見たんだ。亀裂を睨む正義の瞳の奥に《正義の心》が燃えているのを。
「そうボズ! 真っ赤な炎ボズ! お前がそう答えるのは分かってただボズよ! でも、お前の口から直接その言葉を聞きたかったんだボッズー!」
「ん? なんだそれは……」
正義は額をポリポリと搔きながら、再び亀裂へと視線を移した。
「じゃあ、俺からも質問だ。俺は一人でもやるよ。みんなが来るまで、俺一人でだって戦い抜く。ボッズー、お前はどうするんだ? 付き合ってくれるか?」
「ははっ! 『どうする?』その質問、意味あるかボズ?」
ボッズーは正義の肩に止まって腕組みをした。その表情は勇ましい。少しわざとらしく作っている感じもするが、ボッズーの瞳の奥にもまた、正義と同じく炎が宿っていた。
「へへっ……いやぁ、ねぇなぁ。お前はそういう奴だ」
「あぁ、そういう奴だボッズー! 俺はどこまでも付いていくぜ! お前が、お前達五人が、世界を平和にするその時まで、ずっとなボッズー!」
「へへっ! さっすがボッズーだ!」
二人はお互いの気持ちを確かめ合うと、拳を強く握った。
ピキピキ……
その時、亀裂が動いた……
「来るみたいだなボズ……」
「あぁ……」
正義はゴクリと生唾を飲み込み、
「ボッズーッ!! 行くぞッ!!!」」
勢い良くダウンジャケットを脱ぎ捨てた。
「おうよッ!!!」