第3話 空が割れた日 12 ―俺と君は友達だ―
12
「うん……それもそうなんだけどさ」
声の主は誰なのか分かった。でも、一つ疑問があった。
「何か?」
「声変わり……」
「声変わり?」
「うん……だって、あれから何年経ったよ? それなのに全然声変わりしてないじゃん? あの時、君は俺達と同い年くらいだったよね? だからどうしてもピンと来なくて……」
「ふふ……確かに。でも気にしないで。私は歳を重ねる事は無いのです。私にはもう年齢という概念は無いのですから」
「え? そうなの?」
不思議な回答だ。でも、こんな不思議な回答に正義はもう戸惑う事はなかった。逆に笑顔を浮かべたくらいだ。
何故なら、不思議な少年は出会った時から不思議な少年なのだから『不思議な事が普通だ!』と正義は思ったんだ。
「ふふ……そうなんです。私は、貴方達の常識とはかけ離れた場所へ来てしまっているから」
「そっかぁ、へへっ! まぁそうだよな! 君は昔から不思議だったもんな! へへっ、不老不死じゃん! ヤバイじゃん! でも、すぐに気付かなくてごめんな……まさか歳取らないとは思わなくってさ! 久し振り、元気してた?」
「ふふ……『元気してた?』ですか?まるで友達みたいに接してくれるのですね」
「え? だって俺達は友達だろ?」
「友達……私が?」
「そうだよ! あれ? 覚えてない? 俺達さ、雨ん中、鬼ごっこしたじゃん!」
正義は腕を振って走る真似をした。
「ふふ……ありましたね。そうですか……私を友達と呼んでくれますか」
「あぁ、勿論! でもさ、俺達馬鹿だよな! 雨宿りしに大木の下に来たのに、気付いたら鬼ごっこしててさ!」
正義は懐かしそうに語った。
「そうでしたね。あれは貴方が誘ってくれましたね。嬉しかったですよ……」
その言い方は本当に嬉しそう。
「へへっ! だって君が寂しそうな顔してたじゃん? こっちは五人もいるんだ! 誘わない理由はないよ! でも、その後が驚いたぜ! 君が未来から来たんだって知ってさ! へへっ! でも懐かしいなぁ~~! あっ、今度さ、勇気達も呼んで皆でダベろうぜ!」
「ふふ……"そうなる未来"を私は夢見ています」
「『そうなる未来』か……へへっ、そっちは大丈夫だぜ。任せろ!」
そう言って正義は腕時計を掲げた。
「あ……着けてくれているんですね。ソレを」
「あっっったり前じゃん! これは俺の宝物だ。それにこれが無いと戦う事が出来ないだろ? それじゃあ未来が変えられねぇ! あっ、そうだよ! 君が未来を見せてくれた日に、この腕時計を叩いて小さいタマゴを俺にくれたろ? 『きっと役立つ筈』って! ソイツさ、みるみる内にでかくなって、今も元気にやってるぜ! ボッズーって名前なんだ!」
「ボッズー……」
「うん! ソイツさ語尾に『ボッズー』って付けるんだ。だからボッズー! たまにムカつく時もあるけど、良い奴だから今度君にも会わせたいな! ……ってその為にも今日頑張らねぇとな!! へへへっ!!」
正義は口を大きく開いてニカッと笑った。
「その笑顔……」
「ん?」
「その笑顔です」
「えが……お??」
正義は首を傾げた。
「ふふ……貴方自身では分からないのでしょうね。でも、その笑顔なんです。その笑顔が人類の希望なんですよ。だから私は戦いが始まる前に貴方に会いたかった。その笑顔を貴方がまだ持っているかどうか知りたくて……」
「へ? 俺の笑顔が希望? なんだよそれ? どゆ意味?」
「ふふっ、深く考えないで。ありのままの貴方の笑顔が良いのですから」
「う~ん……よく分かんねぇなぁ」
「あ、だから考えないで。困った顔をしないで、笑顔を見せて!」
「あっ……笑顔? へ……へへへへへ」
でも、お願いされて出来るのはギコチナイ笑顔。まるで腹話術の人形みたいな。そんな正義を見て、正義の旧友の笑い声は大きくなった。
「ハハハッ! 貴方は相変わらず面白い人ですね!」
「だってさぁ……」
正義が見せるのはやはり困り顔。正義は笑顔を褒められてもいまいちピンときてなかった。だって『自分の笑顔が人類の希望』と言われても、本人はそんな大それた物だと思っちゃいないのだから。
「まぁ、うん、君がそんなに褒めてくれんなら、俺はいつまでも笑い続けてやるぜ! どんなにヤバイ敵が来たってな!! こんな感じ? へへっ!!」
「あ、そんな感じです! ふふ……ありがとう。その意気です。そのままでいて下さいね。貴方はずっと変わらずにそのままでいて下さい」
「あぁ、勿論だぜ! 変えろって言われても、多分俺はそんな変わんないぜ! 馬鹿だしさ! へへっ! 任せといてよ、俺を信じろって!!」
正義は胸をドンッと叩いた。
「ふふっ、心強いです。しかし、まだ一つだけ不安が……」
「不安? なんだよ?」
「他の四人の事です……もう空は割れようとしています。私が貴方達に伝えた未来……"今日"では、夕方17時の筈だったのに……」
「今はまだ14時……全ッ然早いよな。何故だ? 間違っちまったのか?」
「いえ、間違う筈などありません。しかし、これは私があの日、貴方達に未来を教えてしまったからかも。そのせいかも知れません。"今日"が変わってしまったのかも……私の責任です」
「今日が……変わった? 歴史が変わっちまったってヤツか?」
「分かってくれましたか?」
「あぁ、ドラえもん見てたからな。未来人が過去に干渉すると歴史が変わっちゃうってヤツだろ?」
「えぇ……その通り」
正義の旧友は、暗く沈んだ声でボソリと答えた。
「すみません……私のせいだ。このままでは他の四人は間に合いません」
「へへっ!」
でも、正義は笑顔だ。
「え? 何故、笑うのです?」
「へへっ! おいおい、君がさっき笑えって言ったんだろ? へへへっ! そんな自分を責めんなって、君は世界を救おうと思ったんだろ? だったら仕方ねぇことさ! 大丈夫! 俺を信じろって言ったじゃん! 勇気達が間に合わないなら、俺が一人でも敵を食い止める! 五人揃うまで、それまで一人でも俺がやってやるぜ!」
「貴方は、どこまでも前向きなのですね……」
「へへっ! 俺、馬鹿だからな! いや、俺だってさっき輝ヶ丘であの音を聞いた時は慌てたさ、ヤベェと思った! でもね君に会えて勇気が湧いた! 今はもう勝てる気しかしねぇ!! 何度も言うけど、任せろって!」
やはり正義の笑顔は『人類の希望』なのかも知れない。だって、その笑顔は正義の旧友にも希望を与えたのだから。
「ありがとう。救われる思いです。貴方は優しい人だ……強い人だ。私と違って。やはり貴方を選んで良かった。本当に良かった……」
噛み締める様に言った旧友の声は、聞いているだけでも胸を撫で下ろしたのが分かる。
しかし、
この旧友との再会ももう終わりにしなければならない……
「あっ………!!」
正義と話していた旧友が突然、叫び声をあげた。
「ん? どうした?」
「もうこんな所まで来ていたのか……」
「え?」
「もうすぐ、空が……空が割れます。正義さん、今から貴方を、貴方自身の世界へと戻します! 宜しいですか?」
「来んのか……遂に」
ゴクリ……正義は生唾を飲み込んだ。
しかし、質問など不要だった。正義の答えは決まってる。
「あぁ、頼むッ! 始まるな、戦いが!!」
力強く答えた正義の瞳には真っ赤な炎が燃えていた。それは、敵を目の前にして赤井正義の《正義の心》が燃え始めた証だ。
《正義の心》それは英雄の証、そしてそれは悪しき心を討ち倒し、絶望を希望に変える聖なる力
「遂に私たちの……戦いが始まります。ガキセイギ、頼みましたよ! 世界を……必ず世界を救って下さい! 必ず倒して!!」
その炎は旧友にも見えたのだろう、共鳴する様に旧友の語気は強くなる。
「あぁ!!! 負けやしねぇ!! 絶対に勝つッ!! だから見ててくれ俺達の事を! そして、また会おうなッ!! みんなで一緒に平和を掴んでやっからさぁ!!」
旧友に鼓舞された正義の心は、より熱く燃え上がる。
「ありがとう……貴方を選んで本当に良かった。……さぁ、今から貴方の魂を肉体に戻します」
「おう!! ………あッ!!」
旧友がそう言うと、再び激しい風を受ける感覚と強い重力を受ける感覚が正義を襲ってきた。
「うッ………うわッ!!」
「さようなら……」
旧友がそう言うと、純白の世界はゆらゆらと蜃気楼の様に揺れ始め、旧友の声は遠くへと消えていった。
「うん……それもそうなんだけどさ」
声の主は誰なのか分かった。でも、一つ疑問があった。
「何か?」
「声変わり……」
「声変わり?」
「うん……だって、あれから何年経ったよ? それなのに全然声変わりしてないじゃん? あの時、君は俺達と同い年くらいだったよね? だからどうしてもピンと来なくて……」
「ふふ……確かに。でも気にしないで。私は歳を重ねる事は無いのです。私にはもう年齢という概念は無いのですから」
「え? そうなの?」
不思議な回答だ。でも、こんな不思議な回答に正義はもう戸惑う事はなかった。逆に笑顔を浮かべたくらいだ。
何故なら、不思議な少年は出会った時から不思議な少年なのだから『不思議な事が普通だ!』と正義は思ったんだ。
「ふふ……そうなんです。私は、貴方達の常識とはかけ離れた場所へ来てしまっているから」
「そっかぁ、へへっ! まぁそうだよな! 君は昔から不思議だったもんな! へへっ、不老不死じゃん! ヤバイじゃん! でも、すぐに気付かなくてごめんな……まさか歳取らないとは思わなくってさ! 久し振り、元気してた?」
「ふふ……『元気してた?』ですか?まるで友達みたいに接してくれるのですね」
「え? だって俺達は友達だろ?」
「友達……私が?」
「そうだよ! あれ? 覚えてない? 俺達さ、雨ん中、鬼ごっこしたじゃん!」
正義は腕を振って走る真似をした。
「ふふ……ありましたね。そうですか……私を友達と呼んでくれますか」
「あぁ、勿論! でもさ、俺達馬鹿だよな! 雨宿りしに大木の下に来たのに、気付いたら鬼ごっこしててさ!」
正義は懐かしそうに語った。
「そうでしたね。あれは貴方が誘ってくれましたね。嬉しかったですよ……」
その言い方は本当に嬉しそう。
「へへっ! だって君が寂しそうな顔してたじゃん? こっちは五人もいるんだ! 誘わない理由はないよ! でも、その後が驚いたぜ! 君が未来から来たんだって知ってさ! へへっ! でも懐かしいなぁ~~! あっ、今度さ、勇気達も呼んで皆でダベろうぜ!」
「ふふ……"そうなる未来"を私は夢見ています」
「『そうなる未来』か……へへっ、そっちは大丈夫だぜ。任せろ!」
そう言って正義は腕時計を掲げた。
「あ……着けてくれているんですね。ソレを」
「あっっったり前じゃん! これは俺の宝物だ。それにこれが無いと戦う事が出来ないだろ? それじゃあ未来が変えられねぇ! あっ、そうだよ! 君が未来を見せてくれた日に、この腕時計を叩いて小さいタマゴを俺にくれたろ? 『きっと役立つ筈』って! ソイツさ、みるみる内にでかくなって、今も元気にやってるぜ! ボッズーって名前なんだ!」
「ボッズー……」
「うん! ソイツさ語尾に『ボッズー』って付けるんだ。だからボッズー! たまにムカつく時もあるけど、良い奴だから今度君にも会わせたいな! ……ってその為にも今日頑張らねぇとな!! へへへっ!!」
正義は口を大きく開いてニカッと笑った。
「その笑顔……」
「ん?」
「その笑顔です」
「えが……お??」
正義は首を傾げた。
「ふふ……貴方自身では分からないのでしょうね。でも、その笑顔なんです。その笑顔が人類の希望なんですよ。だから私は戦いが始まる前に貴方に会いたかった。その笑顔を貴方がまだ持っているかどうか知りたくて……」
「へ? 俺の笑顔が希望? なんだよそれ? どゆ意味?」
「ふふっ、深く考えないで。ありのままの貴方の笑顔が良いのですから」
「う~ん……よく分かんねぇなぁ」
「あ、だから考えないで。困った顔をしないで、笑顔を見せて!」
「あっ……笑顔? へ……へへへへへ」
でも、お願いされて出来るのはギコチナイ笑顔。まるで腹話術の人形みたいな。そんな正義を見て、正義の旧友の笑い声は大きくなった。
「ハハハッ! 貴方は相変わらず面白い人ですね!」
「だってさぁ……」
正義が見せるのはやはり困り顔。正義は笑顔を褒められてもいまいちピンときてなかった。だって『自分の笑顔が人類の希望』と言われても、本人はそんな大それた物だと思っちゃいないのだから。
「まぁ、うん、君がそんなに褒めてくれんなら、俺はいつまでも笑い続けてやるぜ! どんなにヤバイ敵が来たってな!! こんな感じ? へへっ!!」
「あ、そんな感じです! ふふ……ありがとう。その意気です。そのままでいて下さいね。貴方はずっと変わらずにそのままでいて下さい」
「あぁ、勿論だぜ! 変えろって言われても、多分俺はそんな変わんないぜ! 馬鹿だしさ! へへっ! 任せといてよ、俺を信じろって!!」
正義は胸をドンッと叩いた。
「ふふっ、心強いです。しかし、まだ一つだけ不安が……」
「不安? なんだよ?」
「他の四人の事です……もう空は割れようとしています。私が貴方達に伝えた未来……"今日"では、夕方17時の筈だったのに……」
「今はまだ14時……全ッ然早いよな。何故だ? 間違っちまったのか?」
「いえ、間違う筈などありません。しかし、これは私があの日、貴方達に未来を教えてしまったからかも。そのせいかも知れません。"今日"が変わってしまったのかも……私の責任です」
「今日が……変わった? 歴史が変わっちまったってヤツか?」
「分かってくれましたか?」
「あぁ、ドラえもん見てたからな。未来人が過去に干渉すると歴史が変わっちゃうってヤツだろ?」
「えぇ……その通り」
正義の旧友は、暗く沈んだ声でボソリと答えた。
「すみません……私のせいだ。このままでは他の四人は間に合いません」
「へへっ!」
でも、正義は笑顔だ。
「え? 何故、笑うのです?」
「へへっ! おいおい、君がさっき笑えって言ったんだろ? へへへっ! そんな自分を責めんなって、君は世界を救おうと思ったんだろ? だったら仕方ねぇことさ! 大丈夫! 俺を信じろって言ったじゃん! 勇気達が間に合わないなら、俺が一人でも敵を食い止める! 五人揃うまで、それまで一人でも俺がやってやるぜ!」
「貴方は、どこまでも前向きなのですね……」
「へへっ! 俺、馬鹿だからな! いや、俺だってさっき輝ヶ丘であの音を聞いた時は慌てたさ、ヤベェと思った! でもね君に会えて勇気が湧いた! 今はもう勝てる気しかしねぇ!! 何度も言うけど、任せろって!」
やはり正義の笑顔は『人類の希望』なのかも知れない。だって、その笑顔は正義の旧友にも希望を与えたのだから。
「ありがとう。救われる思いです。貴方は優しい人だ……強い人だ。私と違って。やはり貴方を選んで良かった。本当に良かった……」
噛み締める様に言った旧友の声は、聞いているだけでも胸を撫で下ろしたのが分かる。
しかし、
この旧友との再会ももう終わりにしなければならない……
「あっ………!!」
正義と話していた旧友が突然、叫び声をあげた。
「ん? どうした?」
「もうこんな所まで来ていたのか……」
「え?」
「もうすぐ、空が……空が割れます。正義さん、今から貴方を、貴方自身の世界へと戻します! 宜しいですか?」
「来んのか……遂に」
ゴクリ……正義は生唾を飲み込んだ。
しかし、質問など不要だった。正義の答えは決まってる。
「あぁ、頼むッ! 始まるな、戦いが!!」
力強く答えた正義の瞳には真っ赤な炎が燃えていた。それは、敵を目の前にして赤井正義の《正義の心》が燃え始めた証だ。
《正義の心》それは英雄の証、そしてそれは悪しき心を討ち倒し、絶望を希望に変える聖なる力
「遂に私たちの……戦いが始まります。ガキセイギ、頼みましたよ! 世界を……必ず世界を救って下さい! 必ず倒して!!」
その炎は旧友にも見えたのだろう、共鳴する様に旧友の語気は強くなる。
「あぁ!!! 負けやしねぇ!! 絶対に勝つッ!! だから見ててくれ俺達の事を! そして、また会おうなッ!! みんなで一緒に平和を掴んでやっからさぁ!!」
旧友に鼓舞された正義の心は、より熱く燃え上がる。
「ありがとう……貴方を選んで本当に良かった。……さぁ、今から貴方の魂を肉体に戻します」
「おう!! ………あッ!!」
旧友がそう言うと、再び激しい風を受ける感覚と強い重力を受ける感覚が正義を襲ってきた。
「うッ………うわッ!!」
「さようなら……」
旧友がそう言うと、純白の世界はゆらゆらと蜃気楼の様に揺れ始め、旧友の声は遠くへと消えていった。