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作者: ビーグル
第2話 絶望を希望に変えろ!! 18 ―愛よ勇気よ、輝ヶ丘高を脱出せよ―
 18

 時刻は14時を回った。

 ここは輝ヶ丘高等学校。

 桃井愛の教室だ。

 自分の席に座っている愛は、さっきから何度も何度も時計を見ていた。黒板の上の時計を何度も何度も……

 輝ヶ丘大防災訓練が始まるまで、あと約一時間。

 14時30分になると輝ヶ丘校生は担任の引率で教室から移動を開始し、15時までには校庭に集められ、それから30分後の15時30分にはシェルターへの避難訓練が開始する。

 そして、彼女達の約束の時間は17時。

 あと三時間を切っているのだ。でも、その前に愛と勇気はやらねばならぬ事があった。
さっきから愛が時間を気にしている理由は、今はその事の為だ。

 それは何かと言うと、輝ヶ丘高校からの脱出だ。

 愛と勇気の二人は他の先生や生徒達と一緒に訓練に参加する訳にはいかない。
 何故ならば、訓練に参加してしまえば彼女達も地下シェルターへの移動を余儀なくされてしまうから。
 シェルターへの移動は消防署の隊員や輝ヶ丘警察署の警官が引率する。抜け出そうとする者がいればすぐに見つかってしまうだろう。
 約束の時間に約束の場所へと向かわなければならない二人は、その中に混じる事は絶対に避けなければならない。

 今、時計の分針が動いた。14時09分。

 二人が学校から居なくなった事は、教室で点呼を取る際にすぐにバレるだろうが、先日の打ち合わせの時に勇気がこう言っていた。

『俺達が居なくなったという事で少し騒ぎになるかも知れないが、防災訓練は学校行事じゃない。もし教師や生徒が騒いでも時間が来れば訓練は始めなくてはならない。それに俺達が付き合ってると噂されている事は一つの幸いだったかもな、教師も生徒も俺達が抜け出したのを知っても、冷やかしの大騒ぎや不真面目さに怒りを覚えても、『訓練に参加せずに探す!』と強行する者はいないだろう』……と。

 更にこうも、

『訓練が始まってからは、きっと警官か消防隊員が少しの間探す事になるのだろうが、そんな大捜索って事にはならないだろうな。ただのバカップルの逢瀬としか思われないだろうからな。約束の時間がきて、"事"が起こったら、彼らは自分達の仕事に移る。それだけの大事件が起こる筈だから……まぁ、ソレは俺達が一瞬で終わらせるが。そして、全てが終わった後にひょっこりと顔を出せば、少し怒られるだろうけど、それだけで済むさ』……と、自信満々そうな顔で言っていた。

 それを聞いた愛は『正直その算段が当たれば悲しい気持ちになるな……』と思った。"そういう事をする奴"と思われているという事になるのだから。
 しかし『勇気くんの算段は外れないだろうな』とも思った。教師にも、愛と勇気はそういう関係だと思われている節はあったし、防災訓練自体が、関係する全ての人達にとって"こなす行事"となってしまっているから『行方不明になった二人を一生懸命に探す教師は一人もいないだろう』と愛も思ったんだ。

 では、二人はいつ動き出そうとしているのかそれは14時10分。
 何故この時間なのかというと、先程まで愛達が参加させられていた、校長の長いスピーチが特徴の体育館でのオリエンテーションの後、諸々の片付け等をして担任が教室へと現れるのが大体14時20分だからだ。
 それは今までの経験で愛も勇気も知っていた。
 ならば、多少の誤差も考えてタイムリミットは14時10分と二人は決めた。

 そして、再び分針が動いた。

 時刻はジャスト。14時10分。

 愛が動き出す。

「ん? どこ行くの?」

 愛が自分の席から立ち上がると、隣の席の果穂が聞いてきた。

「あ……ちょっとトイレに」

 愛は果穂の顔を見ずにそれだけ言って答えた。 『人の顔も見ずに話をするなんて失礼だよね……』と愛は思っていたが、昼休みに勇気から『そうしろ……』と教え込まれたのだから仕方がない。
 そして返答も『「ちょっとトイレに……」これだけを言うんだ』と指示された。
 嘘が苦手な愛だ、勇気は愛自身が作った嘘に任せれば、ボロが出るかも知れないと思ったのだろう。

 それから、愛は教室を出るとトイレがある方向へと歩き出した。だが、トイレへは行かない。向かうは校庭の反対。裏庭だ。
 そこが勇気との待ち合わせ場所。
 愛達二年生の教室は二階、だからまずは一階へと降りるために、愛はトイレの前を通り過ぎて、その先にある階段へ向かった。

『一階へ降りたら、階段の目の前の裏庭に面した窓から外へ出るんだ』と勇気から指示があった。
『勿論、周りに他の生徒が居なければだ……』と。『もしも人が居た場合は、変にコソコソすれば逆に疑われる、その時は堂々と扉を通って裏庭へ出れば良い』とも。

「階段の目の前の窓……人が居たら堂々と……背筋を曲げず……」

 愛は勇気からの指示をブツブツと口に出して思い出しながら、一階へと降りる最後の一段に足を下ろした。
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