第1話 少年とタマゴ 17《前編》 ―今だッッッ!!!―
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「ねぇ、ちょっとお兄さん、この部屋寒くない?」
「はぁ?」
ボンはちょっと驚いた。
ボンからすれば、捕まってからずっと大人しく黙っていた少年が突然喋り出したのだから。
「俺、凍えちゃいそうでさ! 暖房効いてるの?ウォーって音してるけどコレ壊れてんじゃないの?」
しかも突然喋り出したかと思ったら、妙に馴れ馴れしい。
「おいッ! 何勝手に喋ってんだッ! 黙ってろよッ!!」
少年のヘラヘラとした態度が癪に触ったのか、ボンはギリギリと歯軋りをする表情で殴りかかる様に少年の胸ぐらを掴んだ。
「あぁー! ちょっ……ちょっと待って! 寒いって言ってるだけじゃん!」
少年は目を半分閉じて首を引いた。
体を縛られているから動かせるのはここぐらいなんだ。
「なんだよお前急にッ! うッせーなッ!」
キレるボンに揺さぶられて少年の顔がグワンと回る。
「うわぁー! イテテテっ!! ちょっと待って! ちょっと待って! 殴らないで! ほらほらほら! よく見てよ! 俺ってさ、よく見ると可愛い顔してない?」
少年は今度はさっきと逆に首をグイッと前に出してボンの顔に自分の顔を近付けた。
ボンは『なんだ急に?』とでも言いたげにムッとした表情を浮かべた。
「へへっ! 売れるところには売れると思うんだよな~! これ以上顔にアザ作っちゃったら台無しじゃない? あっ……それに、勝手したら兄貴が黙ってないんでしょ?」
「おい……オイオイオイッ!! 黙ってろって言ってるだろッ!」
少年の言葉と挙動はまるでボンを挑発しているかの様だ。
最後の一言はボンの逆鱗に触れてしまった。
ボンは胸ぐらを掴んだ手に更に力を入れて、もう一方の手を振り上げた。
「あ、ちょっと……」
戸惑う少年を無視し、ボンは拳を振り下ろした。
「うわっ!!!!」
「兄貴なんか関係あっかよッ!!」
ボスッ………
乾いた音を立ててボンの拳は柔らかいソファの背もたれに沈んだ。
自分の顔面目掛けて飛んでくる拳を、少年が咄嗟に顔を横に動かし避けたのだ。
「テメェッ! なに避けてんだよッ!」
「うわっ……とととと、怒んないでって! へへ……やっぱりねぇ」
『ふふん……』と少年は余裕綽々に鼻を鳴らして笑った。
「なにぃ?」
ボンがそんな少年を睨み返すと、少年はもう一度『ふふん……』何かを企むような笑みを見せた。
「なに笑ってんだよッ!」
「へへ……」
少年は激昂するボンにまだまだ余裕の笑みを見せる。
「……やっぱねっと思って!」
「あぁ?」
ボンの怒りは止まらない。ボンはソファに沈んだ拳を上げて、今度は両手でグッと少年の胸ぐらを掴み、不敵な笑みを浮かべるその顔を自分の顔に近付けた。
「なにがやっぱりなんだよッ!」
少年は笑みを浮かべたまま激昂するボンにこう言った。
「やっぱりボンさん、あの兄貴に不満タラタラなんだ……あっ! ちょっと待って!」
鬼の形相のボンが再び殴りかかろうとしているのを察した少年はそれを慌てて止めた。そして、
「取り引きしよう! 取り引き! だから殴んないで!」
「あぁ?!」
突然飛び出た少年の言葉に、ボンはその意味を理解出来なかった。ただ唸るだけ。
でも、その言葉のお陰でボンの怒りの勢いを抑えることは出来た。
「だ・か・ら! 取り引きですよ! 取り引きっ! お金!! 俺、乗ってきた自転車に隠してるんすよ! さっき、タバコも買えないって言ってたよね? 何十万……ってのは無いけど、数万ちょっとなら持ってんだ! 嘘じゃないですよ! こう見えても旅人なんで! 何かあったときの為にって親が持たせてくれて!」
少年の口から飛び出る言葉の波は矢継ぎ早だ。ボンに止められる前に全て言い切ってしまおうとしているんだ。
「ほら! あなた達、あの兄貴に大分虐げられてますよね? ちゃんとお金貰えてます? 数万円じゃもしかしたら少ないかもしれないけど、まだ兄貴は気付いてないっす! もし兄貴に見つかったら、また取られちゃいますよ! 良いんすか? 兄貴が気付くその前に……ね?」
少年の誘いはまるで禁断の果実だった。
ボンには"手を出してはいけないモノ"と分かっていた。
ボンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
それはチョウも同じく。
「なぁ……ボン、ねぇ、ボン?」
「なんだよ……」
ボンはチョウの方を見ずに言った。
その額には深い皺が寄っている。
「ねぇ……この誘い乗っちゃおうよぉ、俺、お金欲しいよぉ」
子供が我が儘を言うようにチョウは言った。
そんなチョウをボンはキッと睨んだ。
「チョウ……黙れ、静かにしろ……」
そう言うと、ボンは少年の耳に顔を近付け、呟いた。
「ソレ……どこにあるんだよ」
「ねぇ、ちょっとお兄さん、この部屋寒くない?」
「はぁ?」
ボンはちょっと驚いた。
ボンからすれば、捕まってからずっと大人しく黙っていた少年が突然喋り出したのだから。
「俺、凍えちゃいそうでさ! 暖房効いてるの?ウォーって音してるけどコレ壊れてんじゃないの?」
しかも突然喋り出したかと思ったら、妙に馴れ馴れしい。
「おいッ! 何勝手に喋ってんだッ! 黙ってろよッ!!」
少年のヘラヘラとした態度が癪に触ったのか、ボンはギリギリと歯軋りをする表情で殴りかかる様に少年の胸ぐらを掴んだ。
「あぁー! ちょっ……ちょっと待って! 寒いって言ってるだけじゃん!」
少年は目を半分閉じて首を引いた。
体を縛られているから動かせるのはここぐらいなんだ。
「なんだよお前急にッ! うッせーなッ!」
キレるボンに揺さぶられて少年の顔がグワンと回る。
「うわぁー! イテテテっ!! ちょっと待って! ちょっと待って! 殴らないで! ほらほらほら! よく見てよ! 俺ってさ、よく見ると可愛い顔してない?」
少年は今度はさっきと逆に首をグイッと前に出してボンの顔に自分の顔を近付けた。
ボンは『なんだ急に?』とでも言いたげにムッとした表情を浮かべた。
「へへっ! 売れるところには売れると思うんだよな~! これ以上顔にアザ作っちゃったら台無しじゃない? あっ……それに、勝手したら兄貴が黙ってないんでしょ?」
「おい……オイオイオイッ!! 黙ってろって言ってるだろッ!」
少年の言葉と挙動はまるでボンを挑発しているかの様だ。
最後の一言はボンの逆鱗に触れてしまった。
ボンは胸ぐらを掴んだ手に更に力を入れて、もう一方の手を振り上げた。
「あ、ちょっと……」
戸惑う少年を無視し、ボンは拳を振り下ろした。
「うわっ!!!!」
「兄貴なんか関係あっかよッ!!」
ボスッ………
乾いた音を立ててボンの拳は柔らかいソファの背もたれに沈んだ。
自分の顔面目掛けて飛んでくる拳を、少年が咄嗟に顔を横に動かし避けたのだ。
「テメェッ! なに避けてんだよッ!」
「うわっ……とととと、怒んないでって! へへ……やっぱりねぇ」
『ふふん……』と少年は余裕綽々に鼻を鳴らして笑った。
「なにぃ?」
ボンがそんな少年を睨み返すと、少年はもう一度『ふふん……』何かを企むような笑みを見せた。
「なに笑ってんだよッ!」
「へへ……」
少年は激昂するボンにまだまだ余裕の笑みを見せる。
「……やっぱねっと思って!」
「あぁ?」
ボンの怒りは止まらない。ボンはソファに沈んだ拳を上げて、今度は両手でグッと少年の胸ぐらを掴み、不敵な笑みを浮かべるその顔を自分の顔に近付けた。
「なにがやっぱりなんだよッ!」
少年は笑みを浮かべたまま激昂するボンにこう言った。
「やっぱりボンさん、あの兄貴に不満タラタラなんだ……あっ! ちょっと待って!」
鬼の形相のボンが再び殴りかかろうとしているのを察した少年はそれを慌てて止めた。そして、
「取り引きしよう! 取り引き! だから殴んないで!」
「あぁ?!」
突然飛び出た少年の言葉に、ボンはその意味を理解出来なかった。ただ唸るだけ。
でも、その言葉のお陰でボンの怒りの勢いを抑えることは出来た。
「だ・か・ら! 取り引きですよ! 取り引きっ! お金!! 俺、乗ってきた自転車に隠してるんすよ! さっき、タバコも買えないって言ってたよね? 何十万……ってのは無いけど、数万ちょっとなら持ってんだ! 嘘じゃないですよ! こう見えても旅人なんで! 何かあったときの為にって親が持たせてくれて!」
少年の口から飛び出る言葉の波は矢継ぎ早だ。ボンに止められる前に全て言い切ってしまおうとしているんだ。
「ほら! あなた達、あの兄貴に大分虐げられてますよね? ちゃんとお金貰えてます? 数万円じゃもしかしたら少ないかもしれないけど、まだ兄貴は気付いてないっす! もし兄貴に見つかったら、また取られちゃいますよ! 良いんすか? 兄貴が気付くその前に……ね?」
少年の誘いはまるで禁断の果実だった。
ボンには"手を出してはいけないモノ"と分かっていた。
ボンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
それはチョウも同じく。
「なぁ……ボン、ねぇ、ボン?」
「なんだよ……」
ボンはチョウの方を見ずに言った。
その額には深い皺が寄っている。
「ねぇ……この誘い乗っちゃおうよぉ、俺、お金欲しいよぉ」
子供が我が儘を言うようにチョウは言った。
そんなチョウをボンはキッと睨んだ。
「チョウ……黙れ、静かにしろ……」
そう言うと、ボンは少年の耳に顔を近付け、呟いた。
「ソレ……どこにあるんだよ」