最終話 そして僕は選ばれたらしい
「ん……!?」
唇がとても温かい。他の事が何も考えられない。まるで時間が止まったようで、頭が蕩けてしまいそうになった。どの位合わせていたかも全くわからないまま、リリアはゆっくりと唇を離した。
「……こんなこと、君にしか出来ません。他の誰かになんて、したくありません」
「え、あ……」
「……ハルト君は変な所で強情なので、もう一度いきますよ」
「え!? 待……」
もう一度、体に刺激が迸る。心臓が破裂しそうなくらいに暴れる。体の水分が全て蒸発してしまいそうな気分だ。たまらず僕もリリアの腰に手を回すと、リリアはより強く僕の体を引き寄せ、互いの全身の血の巡りが伝わっているんじゃないかという位に体が密着した。
……リリアが僕を解放してくれたのは、もう数えるのを忘れるくらい何度もキスを重ねた後だった。
「……初めてお会いしたあの時からずっと、貴方の事が気になっていたんです」
ずっと放心しっぱなしで女神像の前で体育座りしている僕の隣で、僕に寄りかかりながら彼女は呟いた。
「噂で聞いた君と実際にあった時の君が全然違っていて……どうしてなのか、って」
「あはは……まあ、色々とね」
「悪いことも沢山言われている所も見ていました。それなのに、君はどうして人に優しくできるんですか?」
「それは……当たり前の事をしてきたつもりで……」
「当たり前じゃないですよ。凄い事なんです」
人には優しくするのが当たり前、前世で僕は親からそう教わっていた。これに従っていれば周囲から感謝されるからと、信じて疑うことが無かった。確かにこの世界に来てから優しさの無い当たり方はされていたけれど、この信条を変えるような事は考えなかった。
「でも、君の優しさは……どこか自分を蔑ろにしているように感じます」
「それは……」
僕は元々、この世界の住人じゃなかった。だから誰の邪魔もしないようにひっそりと生きるのが当然だと思っていた。そんな僕の考えを、リリアは多少なりとも見抜いていたようだ。
「皆が幸せになる事を、僕が邪魔しちゃいけないって思ったから」
「……ハルト君。皆の幸せは、皆で考えるものですよ?」
「あ……」
もし自分のせいでこの世界のシナリオがバッドエンドを迎えてしまったら。イレギュラーである僕の存在が引き金になってしまったとしたら。……自分の行動が世界の結末を変えてしまうなんて、僕はどれだけ自意識過剰だったのだろう。
(ああ……やっとわかった。僕だけがゲームだと知っていたからって、世界のシナリオなんて大きなものを全部一人で抱えるなんて……。無茶なことしてたんだなぁ)
「……いいのかな、僕もこの世界の登場人物でいても」
「ですから、何度も言っているじゃないですか!」
リリアは僕の顔を両の掌で挟んで首を自分の方に向ける。リリアの体温が頬に伝わるのを感じながら、次の言葉をハッキリと僕に刻み付けた。
「私は、ずっと君を選んできたんですよ! これからもずっと、一緒にいてください!」
「!」
僕を縛り付けていた鎖のような枷が、外れたような気がした。これまで考えていたゲームのシナリオの事、サブキャラとしてどうあるべきか等々、僕にとっての観念や常識が盛大に砕け散った。いつの間に空が晴れていたのか、祭壇には光が降り注ぎ、慈愛の女神像の手には、黄金色の光が宿っていたのだった。
これまで幾度も見つめ合ったリリアの瞳。今の僕なら、僕自身の望みを……言える。
「リリアさん……僕と婚約を、してください」
「……! はいっ! 喜んで!」
僕とリリアは思い切り抱き合った。これまでのように一方的なものではなく、お互いに遠慮なく気持ちをぶつけ合った抱擁だった。僕の心が一気に満たされすぎて、頭が沸騰しそうで全く落ち着かない。
「……!」
「リリアさん? ど、どうしたの?」
突然僕を引きはがしたと思ったら、周囲を見回した後に喜びの表情を見せた。
「選択肢が出てこなくなりました! 神様も諦めになられたみたいです!」
「神様……? そ、そういう問題なのかな……?」
「はい! 私がハルト君以外を選ぶことは無いのですから!」
「き、今日のリリアさんは特に積極的過ぎて心臓に悪いよ……」
「婚約も決めたのですから、もう遠慮は要りませんよね?」
「そ、そうだけど……」
ちなみにキスから解放された後、ほぼ手を繋ぎっぱなしである。僕はもうずっとドキドキしたままなのだが、抱き合った時にリリアも同じだとわかってもうキャパオーバー気味だ。
「さて! それでは行きましょう!」
「行きましょうって……どこへですか?」
「私達に協力していただいた皆様へ、感謝とご報告の挨拶をしに行きますよ!」
「ま、待って! もうちょっと休んでからじゃだめ?」
「いいえ! こんな嬉しい事、早く報告したくて仕方がありません!」
「えぇー!? こ、心の準備がぁー……」
協力してくれた皆様、というとプリ庭の主要キャラであるヒーローや関係者たちだろうか。これはつまり、所謂スタッフロールというやつが始まるのだろう。リリアは僕とのルートを選んでくれた、と考えても良いらしい。
(サブキャラとして大人しくするのは、もう無理みたいだ)
この先はきっとハッピーエンドになるはずだと信じて、婚約者と手を取り合いながら一緒に走り出した。
唇がとても温かい。他の事が何も考えられない。まるで時間が止まったようで、頭が蕩けてしまいそうになった。どの位合わせていたかも全くわからないまま、リリアはゆっくりと唇を離した。
「……こんなこと、君にしか出来ません。他の誰かになんて、したくありません」
「え、あ……」
「……ハルト君は変な所で強情なので、もう一度いきますよ」
「え!? 待……」
もう一度、体に刺激が迸る。心臓が破裂しそうなくらいに暴れる。体の水分が全て蒸発してしまいそうな気分だ。たまらず僕もリリアの腰に手を回すと、リリアはより強く僕の体を引き寄せ、互いの全身の血の巡りが伝わっているんじゃないかという位に体が密着した。
……リリアが僕を解放してくれたのは、もう数えるのを忘れるくらい何度もキスを重ねた後だった。
「……初めてお会いしたあの時からずっと、貴方の事が気になっていたんです」
ずっと放心しっぱなしで女神像の前で体育座りしている僕の隣で、僕に寄りかかりながら彼女は呟いた。
「噂で聞いた君と実際にあった時の君が全然違っていて……どうしてなのか、って」
「あはは……まあ、色々とね」
「悪いことも沢山言われている所も見ていました。それなのに、君はどうして人に優しくできるんですか?」
「それは……当たり前の事をしてきたつもりで……」
「当たり前じゃないですよ。凄い事なんです」
人には優しくするのが当たり前、前世で僕は親からそう教わっていた。これに従っていれば周囲から感謝されるからと、信じて疑うことが無かった。確かにこの世界に来てから優しさの無い当たり方はされていたけれど、この信条を変えるような事は考えなかった。
「でも、君の優しさは……どこか自分を蔑ろにしているように感じます」
「それは……」
僕は元々、この世界の住人じゃなかった。だから誰の邪魔もしないようにひっそりと生きるのが当然だと思っていた。そんな僕の考えを、リリアは多少なりとも見抜いていたようだ。
「皆が幸せになる事を、僕が邪魔しちゃいけないって思ったから」
「……ハルト君。皆の幸せは、皆で考えるものですよ?」
「あ……」
もし自分のせいでこの世界のシナリオがバッドエンドを迎えてしまったら。イレギュラーである僕の存在が引き金になってしまったとしたら。……自分の行動が世界の結末を変えてしまうなんて、僕はどれだけ自意識過剰だったのだろう。
(ああ……やっとわかった。僕だけがゲームだと知っていたからって、世界のシナリオなんて大きなものを全部一人で抱えるなんて……。無茶なことしてたんだなぁ)
「……いいのかな、僕もこの世界の登場人物でいても」
「ですから、何度も言っているじゃないですか!」
リリアは僕の顔を両の掌で挟んで首を自分の方に向ける。リリアの体温が頬に伝わるのを感じながら、次の言葉をハッキリと僕に刻み付けた。
「私は、ずっと君を選んできたんですよ! これからもずっと、一緒にいてください!」
「!」
僕を縛り付けていた鎖のような枷が、外れたような気がした。これまで考えていたゲームのシナリオの事、サブキャラとしてどうあるべきか等々、僕にとっての観念や常識が盛大に砕け散った。いつの間に空が晴れていたのか、祭壇には光が降り注ぎ、慈愛の女神像の手には、黄金色の光が宿っていたのだった。
これまで幾度も見つめ合ったリリアの瞳。今の僕なら、僕自身の望みを……言える。
「リリアさん……僕と婚約を、してください」
「……! はいっ! 喜んで!」
僕とリリアは思い切り抱き合った。これまでのように一方的なものではなく、お互いに遠慮なく気持ちをぶつけ合った抱擁だった。僕の心が一気に満たされすぎて、頭が沸騰しそうで全く落ち着かない。
「……!」
「リリアさん? ど、どうしたの?」
突然僕を引きはがしたと思ったら、周囲を見回した後に喜びの表情を見せた。
「選択肢が出てこなくなりました! 神様も諦めになられたみたいです!」
「神様……? そ、そういう問題なのかな……?」
「はい! 私がハルト君以外を選ぶことは無いのですから!」
「き、今日のリリアさんは特に積極的過ぎて心臓に悪いよ……」
「婚約も決めたのですから、もう遠慮は要りませんよね?」
「そ、そうだけど……」
ちなみにキスから解放された後、ほぼ手を繋ぎっぱなしである。僕はもうずっとドキドキしたままなのだが、抱き合った時にリリアも同じだとわかってもうキャパオーバー気味だ。
「さて! それでは行きましょう!」
「行きましょうって……どこへですか?」
「私達に協力していただいた皆様へ、感謝とご報告の挨拶をしに行きますよ!」
「ま、待って! もうちょっと休んでからじゃだめ?」
「いいえ! こんな嬉しい事、早く報告したくて仕方がありません!」
「えぇー!? こ、心の準備がぁー……」
協力してくれた皆様、というとプリ庭の主要キャラであるヒーローや関係者たちだろうか。これはつまり、所謂スタッフロールというやつが始まるのだろう。リリアは僕とのルートを選んでくれた、と考えても良いらしい。
(サブキャラとして大人しくするのは、もう無理みたいだ)
この先はきっとハッピーエンドになるはずだと信じて、婚約者と手を取り合いながら一緒に走り出した。