第25話 リリアは転生者なのか?
僕は今、担任から資料運びを頼まれて廊下を歩いている。雑用を引き受けることは問題無いのだけれど、お出かけした時の事で頭がいっぱいになっていた。その内容とは……。
(リリアはなんであの選択肢を知っていたんだろう……?)
先日のお出かけ時、リリアが言ったお出かけの行き先がゲームの選択肢と完全に一致していた事についてだ。これまでリリアがゲームと認知しているような行動は特に見られなかった。加えて僕が接してきたリリアはずっとゲームとは違う動きをしてきていた。だから……この可能性について考えてこなかったのである。
(リリアもこの世界に転生してきたかもしれない……確かめるべきなのかな?)
そもそも、この世界に僕が来た時点でイレギュラーなのである。僕が暴れん坊のサブキャラになっていないし、リリアは選択肢に無いことばかりする。その上シリウスは悪役令嬢であるエマとなんだかうまく行ってしまいそうになっていると来ている。……一体、この先はどうなってしまうのだろうか。
「おっと」
「あ、すみません!」
悩みが深まりすぎていたために、向かいから歩いてきていた人とぶつかりそうになってしまった。寸での所で立ち止まると、向かいの人が資料を落ちないように支えてくれた。
「ボーっとしちゃってまして……大丈夫でしたか?」
「ううん、君こそ大丈夫かい……ってあれ、ハルト君か」
「あ、クロードさんでしたか。ノエルさんも」
ぶつかりそうになった相手は、クロードだった。その横にはノエルもいる。お互い知っている相手だったため、少し安心した。……いつもこの二人が一緒に行動しているような気がするのは気のせいだろうか。
「結構な量ですね。先生に頼まれた仕事ですか?」
「はい、これを資料室へ戻しに行くところで……よっと」
資料を持ち上げなおして崩れないように整える。僕の様子を見てか、クロードが僕に提案をしてくれた。
「それ、良かったら手伝おうか?」
「え、いいんですか?」
「ええ。君への誤解の件でお返しができていませんでしたから」
「そ、そんなに気を使っていただかなくても」
二人は未だに、僕の事を警戒していた件を気にしていたらしい。既に謝罪はしてくれたし僕も気にしていなかったのだが、二人はいやいやと食い下がる。
「ここは頼って欲しいなー。それとも迷惑だった?」
「いえ、そういう訳では……。じゃあ、お願いします」
「わかりました、三等分……いえ、言い出しっぺの先輩は多めに持ってください」
「えー。……もー、しょうがないなー」
ノエルとクロードは、僕が抱えていた資料の山を分配して持ってくれた。その時、クロードが腕に付けていた時計が資料に当たってカチッという音を出す。その音は、とても心当たりがあった。
「クロードさん、その時計はどこで……?」
「ああ、なんかリリアちゃんにって誰かから渡されたものらしいんだけど……出所もわからないし、いらないからって処理に困ってたところを僕が貰っておいたんだ」
「こ、これがいらないって!?」
僕にとって……ゲームのプレイヤーだった僕にとって、この時計がいらないという発言に衝撃を受けた。なぜならその時計は、この世界がゲームを基に出来ているという事を証明してしまう特別な物だったからだ。
(あの音にこのデザイン……。間違いない、選択肢を間違えたと思った時にやり直しが出来る『巻き戻し時計』だ)
プリ庭を攻略するのに、巻き戻し時計は非常にお助けになるアイテムだ。この前のお出かけイベントで時計屋での買い物をすることで入手できたり、誰かから突発的に支給されることが稀にある。僕がプレイしていた時には手離せなかったアイテムだったのでよく覚えていた。
「ど、どうしたの? 急に大声出して……欲しかったらあげようか?」
「え? あ、いや……そういうわけでは」
「あの時はつい貰っちゃったけど……正直、これ僕あんまり気に入ってないんだよねー。ノエル、要る?」
「私ももう自分の時計を持ってますから、必要ありません」
「という訳なんだけど、どうかな?」
「あー……。そういう事なら、貰っておきます」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
そう言うとクロードは、時計を腕にかけるための細い金の鎖を自分の腕から外し、資料で両手が空いていない僕のズボンのポケットに入れてくれた。
(もしリリアがプリ庭の事を知っていたら、巻き戻し時計をいらないなんて言うはずがない)
つまりリリアは、ここがプリ庭というゲームの世界だという事を知らない。彼女は、僕のように転生してきたわけでは無さそうだ。
(うん、あの質問はきっと偶然に違いない)
ひとまずの疑問が晴れたことで、僕は気持ちが少し楽になった。それがもしかすると表情に出てしまっていたのかもしれない。
(ハルト君、成り行きはあれだけどリリアちゃんからの物を貰って嬉しそうじゃない?)
(……先輩の言った通り、恋の力なのでしょうか)
二人の呟きは、僕の耳には届いていなかった。
(リリアはなんであの選択肢を知っていたんだろう……?)
先日のお出かけ時、リリアが言ったお出かけの行き先がゲームの選択肢と完全に一致していた事についてだ。これまでリリアがゲームと認知しているような行動は特に見られなかった。加えて僕が接してきたリリアはずっとゲームとは違う動きをしてきていた。だから……この可能性について考えてこなかったのである。
(リリアもこの世界に転生してきたかもしれない……確かめるべきなのかな?)
そもそも、この世界に僕が来た時点でイレギュラーなのである。僕が暴れん坊のサブキャラになっていないし、リリアは選択肢に無いことばかりする。その上シリウスは悪役令嬢であるエマとなんだかうまく行ってしまいそうになっていると来ている。……一体、この先はどうなってしまうのだろうか。
「おっと」
「あ、すみません!」
悩みが深まりすぎていたために、向かいから歩いてきていた人とぶつかりそうになってしまった。寸での所で立ち止まると、向かいの人が資料を落ちないように支えてくれた。
「ボーっとしちゃってまして……大丈夫でしたか?」
「ううん、君こそ大丈夫かい……ってあれ、ハルト君か」
「あ、クロードさんでしたか。ノエルさんも」
ぶつかりそうになった相手は、クロードだった。その横にはノエルもいる。お互い知っている相手だったため、少し安心した。……いつもこの二人が一緒に行動しているような気がするのは気のせいだろうか。
「結構な量ですね。先生に頼まれた仕事ですか?」
「はい、これを資料室へ戻しに行くところで……よっと」
資料を持ち上げなおして崩れないように整える。僕の様子を見てか、クロードが僕に提案をしてくれた。
「それ、良かったら手伝おうか?」
「え、いいんですか?」
「ええ。君への誤解の件でお返しができていませんでしたから」
「そ、そんなに気を使っていただかなくても」
二人は未だに、僕の事を警戒していた件を気にしていたらしい。既に謝罪はしてくれたし僕も気にしていなかったのだが、二人はいやいやと食い下がる。
「ここは頼って欲しいなー。それとも迷惑だった?」
「いえ、そういう訳では……。じゃあ、お願いします」
「わかりました、三等分……いえ、言い出しっぺの先輩は多めに持ってください」
「えー。……もー、しょうがないなー」
ノエルとクロードは、僕が抱えていた資料の山を分配して持ってくれた。その時、クロードが腕に付けていた時計が資料に当たってカチッという音を出す。その音は、とても心当たりがあった。
「クロードさん、その時計はどこで……?」
「ああ、なんかリリアちゃんにって誰かから渡されたものらしいんだけど……出所もわからないし、いらないからって処理に困ってたところを僕が貰っておいたんだ」
「こ、これがいらないって!?」
僕にとって……ゲームのプレイヤーだった僕にとって、この時計がいらないという発言に衝撃を受けた。なぜならその時計は、この世界がゲームを基に出来ているという事を証明してしまう特別な物だったからだ。
(あの音にこのデザイン……。間違いない、選択肢を間違えたと思った時にやり直しが出来る『巻き戻し時計』だ)
プリ庭を攻略するのに、巻き戻し時計は非常にお助けになるアイテムだ。この前のお出かけイベントで時計屋での買い物をすることで入手できたり、誰かから突発的に支給されることが稀にある。僕がプレイしていた時には手離せなかったアイテムだったのでよく覚えていた。
「ど、どうしたの? 急に大声出して……欲しかったらあげようか?」
「え? あ、いや……そういうわけでは」
「あの時はつい貰っちゃったけど……正直、これ僕あんまり気に入ってないんだよねー。ノエル、要る?」
「私ももう自分の時計を持ってますから、必要ありません」
「という訳なんだけど、どうかな?」
「あー……。そういう事なら、貰っておきます」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
そう言うとクロードは、時計を腕にかけるための細い金の鎖を自分の腕から外し、資料で両手が空いていない僕のズボンのポケットに入れてくれた。
(もしリリアがプリ庭の事を知っていたら、巻き戻し時計をいらないなんて言うはずがない)
つまりリリアは、ここがプリ庭というゲームの世界だという事を知らない。彼女は、僕のように転生してきたわけでは無さそうだ。
(うん、あの質問はきっと偶然に違いない)
ひとまずの疑問が晴れたことで、僕は気持ちが少し楽になった。それがもしかすると表情に出てしまっていたのかもしれない。
(ハルト君、成り行きはあれだけどリリアちゃんからの物を貰って嬉しそうじゃない?)
(……先輩の言った通り、恋の力なのでしょうか)
二人の呟きは、僕の耳には届いていなかった。