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作者: 寿甘
残酷な描写あり R-15
奈落の入口
 引き続き通路を進んでいく。途中、上や下に部屋がいくつかあったがどこも発掘隊に調べつくされており、アーティファクトの欠片すら見つからない。過去の情報を記録したデータでもないかと探したが、それも見当たらなかった。

「さすがに世界中から発掘隊が集まる遺構なだけあって、根こそぎ持っていかれてるな」

 これは予想していた通りだった。だからこそ、先ほどクリオが扉を素通りしても特に咎めることなく彼の気持ちを優先させたのだ。だからといってリゾカルポの声掛けは余計なお世話だったというわけではない。彼女の教えもクリオにとって大事な経験になったし、何よりスピラスの生存を知ることができたのが何よりの収穫だった。発掘隊本来の目的であるアーティファクト発掘に専念できるのだから。

 貰ったビーコンはクリオが大事そうに抱えている。彼にとってリゾカルポは救いの女神のような存在に思えたのだ。リゾカルポだけじゃない、クリオはこれまでスピラス、ミスティカ、ホワイトなどの大人達の善意に助けられてきた。この恩に報いるためにも、エクスカベーターとしての腕を磨いて彼等からも頼られるようにならねば、と決意も新たに遺構を調べていく。

「曲がり角だね。ここからまた下に落ちる形になるから注意して」

 また垂直に降りる道だ。20メートルほどだろうか。ここは無数の発掘隊が開拓してきたので、下に降りるための足場がところどころに作られている。万一足を踏み外して落ちてもアルマに乗っていれば命に係わるほどの高さではないが、アルマが損傷する可能性があるので慎重に降りる必要がある。

「こんな道を毎回通るのも面倒だ。奈落まで着いたらあのメイン通路に足場を作っていこうぜ」

 迷路のように入り組んだ通路は初見の発掘隊にとっては黄金の道だが、一度探索を終えれば面倒なだけの遠回りだ。過去にも同じことを思った発掘隊はいくらでもいただろうが、それが実現していないのはゴブリンのようなガーディアンが邪魔をするからだろう。

「ゴブリンはどうするのですか?」

「無限に湧いて出てくるわけじゃないだろ。全部たたっ斬って売り払っちまえばいい。邪魔者はいなくなるし金は儲かるしいいことずくめだ」

 ホワイトは簡単に言うが、世界中から集まった発掘隊が成し遂げられなかったのだから、そう甘い話ではない。だがあの大型ガーディアンを一瞬で始末したこの男なら造作もないのだろうと、ミスティカとクリオは納得してしまった。

「なんにせよ、奈落までの道を突破しないと始まらないよ。どんどん進もう」

 その後も時折現れるゴブリンを破壊してはナンディの貨物室に収納しながら地下へと降りていく。めぼしいアーティファクトは取り尽くされているが、過去の情報がいくつか入手できたのでミスティカは上機嫌だ。

「クリオさんが予想した通り、このカプテリオも地球からやってきた空飛ぶ船の一つだったようですね。『地上は一面の森に覆われていて着陸に適した場所が見つからなかった』とあります。今の状況からは想像もつかない状況です」

「どうやったら森に覆われていた星が砂漠まみれになっちまうんだ」

「三天使の神話にヒントが隠されてたりしない?」

「どうでしょう。空に三つ浮かぶ神秘的な月を神話に利用しただけのように思えますが」

 答えの見つからない議論をワイワイと繰り広げながら、奈落を目指す。カプテリオに突入した当初とはまるで違う空気だ。三人でテーマパークにでもやってきたかのようなはしゃぎようである。

「そろそろ例の集結地だと思うが……ああ、あれか」

「すっげー! 遺構の中に町ができたみたい」

 いよいよ奈落の入口にあるエクスカベーターの集結地にやってくると、かなり広い空間に駐機場と簡易的なコンテナ屋台がいくつか並んでいる。エクスカベーター同士の取引や、ここまで足を運んでエクスカベーター相手に商売をする商魂たくましい商人達が集まっているのだ。到着する前に想像していた殺風景な広場とはまるで違う趣があった。

「リゾカルポさんはおりますでしょうか?」

「リゾカルポ? あいつらならさっき奈落に入っていったよ。あそこから生還する最初の発掘隊になるって息巻いてたな」

 その場にいた発掘隊の人間にミスティカが話しかけると、そんな答えが返ってきた。ここまでやってきた感触としては、奈落から下に降りないと満足いく成果が得られなそうに感じた。もちろん地上からここまでの間にまだ調べていない空間は多い。中央通路の反対側などはミスティカ達も一切通っていないので、多くの発掘隊はそちらの探索に行くのだろうと理解している。要するに大半の発掘隊はここから下に降りるのではなく、反対側を今度は地上に向けて登っていくのだ。ここは中間地点なのだろう。

「うん、ビーコンは緑色だ。ここから少し下の辺りにいるみたいだね」

 クリオがビーコンで彼女の乗るアラネアの位置を確認した。まだ危険な目にあっている様子はなさそうだ。どういう理由で奈落から戻ってこられないのか、エクスカベーターの間でも様々な憶測が飛び交っているらしい。

「一番有力なのはアリジゴク説だな」

 アリジゴク。地球ではウスバカゲロウという虫の幼虫を指す言葉だったが、この星にウスバカゲロウはいない。だがアリジゴクという名称は対象を変えて現代まで残っている。この砂漠の星には人間を捕食するアリジゴクがいるのだ。円錐状に窪んだ砂は、入った者が脱出することを拒み、最終的に力尽きた者が下に落ちて捕食者の餌食となる。空を飛ぶ技術がない現代の人類にとっては天敵とも言える存在だ。

「でもそれだとずっと前に降りた人が今も生きてる理由がわからないよ」

「良いところに気が付くな。だから捕食者はとっくの昔に死んでいて、残された罠の中で新しい生態系が作られているんじゃないかって話になってる。食料と水が手に入らないと長期間活動できないからな」

 そんな話を聞いていて、ミスティカは食料や水よりも「どうやって充電しているのか」が気になっていた。アルマは全て充電式だ。一ヶ月もすれば電池切れになるが、一ヶ月以上前に消息を絶ったというスピラスのクラーケンが今も活動を続けている。とはいえ素人が余計な口を挟むべきではないと思って黙って聞いているのだった。
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