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作者: 寿甘
残酷な描写あり R-15
ビーコン
 交流所は、遺構の中の大部屋――おそらく体育館――を利用しており、広い空間に駐機スペースと人間用のソファーとテーブルなどがある。リゾカルポがアルマから降り、幾つもあるソファーのうち一つを指差し、そこに向かった。ここで話そうというジェスチャーだ。長い黒髪が印象的な女性で、年齢は不明だがミスティカよりは年上に見える。三人もアルマから降り、彼女の前にあるテーブルを囲むように置かれたソファーにそれぞれ座った。

「オイラ達は発掘隊だけど、今日は奈落の先に降りて消息不明になったスピラスを探しにきたから、もう他の発掘隊が入った形跡のある扉だし調べるのは後からでいいかなって思って」

 クリオが申し訳なさそうにミスティカを見ながら、先ほど扉を無視した理由を述べた。発掘隊のリーダーはミスティカで、彼女は遺構を調査したくて来ているのだ。個人的な感情を任務より優先させたのは間違いない。ミスティカは「一回の探索で全ての目的を果たす必要はないのですから」と言ってクリオをなだめるが、彼の言葉を聞いたリゾカルポは不思議そうに言う。

「えっ、スピラス? アンタらアイツのこと知ってるのかい。生きてるよ」

 事も無げにスピラスの生存を告げる。あまりにあっさりと伝えられたので、聞き間違いかなにかかと思わずにいられない三人であった。

「いっ、生きてる!? ホントッスか?」

 若干取り乱しつつ、クリオが聞き返す。望みは薄いと思っていた。わずかな希望に縋って、雇い主に気を使わせながら無茶な探索を強行したつもりだった。なのに、その後ろめたさが一瞬で打ち砕かれたのだ。朗報過ぎて白昼夢でも見ているのかと思わずにいられない。

「アンタ達、発掘経験あんまりないね。エクスカベーターの知り合いもいないんでしょ?」

 そう言って、リゾカルポは懐から手のひらに収まるぐらいの小さな機械を取り出した。円筒型の機械で、上部に『クラーケン』と書かれており半分から下の部分が緑色にゆっくりと点滅している、ただそれだけの機械だ。

「これは、エクスカベーターが別の発掘隊で交流のある相手に渡すビーコンさ。こいつとリンクしているアルマが、活動中なら緑色に、活動困難な破損をしたら黄色に、機能停止したら赤色に点滅して現在の状態を知らせてくれる。他にも助けて欲しい時にはSOSのサインを発信することもできる。遺構で何かあった時にこれを見た外の発掘隊が救援に向かったりするわけだ。緑色に点滅していたら元気にやってる証拠だ」

 そういえばこんなものが店に売っていたと思い出しつつ、緑色に点滅するそれを見て目を輝かせているクリオの姿を慈しむように眺めるミスティカだった。ホワイトはビーコンのことを知っていたが、いわゆる一匹狼なので利用するつもりがなかった。信頼できる知り合いができたら渡すのもいいなと思うが、現時点ではまだそこまで頼れる相手の心当たりがない。ミスティカとクリオがもっと成長したら渡してもいいかなと考えている。

「よかった……本当によかった」

 安堵し、涙を流すクリオにリゾカルポが別のビーコンを差し出す。

「それはアタシが預かったものだからアンタにはやれないけど、代わりにこれを渡しとくよ。アタシの『アラネア』とリンクしたビーコンだ。何かあったら探しに来ておくれ。ここを押すと機体との距離が表示されるからね」

「良いんですか? 初対面の、経験も浅い発掘隊に」

 成り行きとしてビーコンを渡される流れなのは理解できるが、これはいざという時に救援してもらう相手に渡すものだ。遺構の探索に慣れていない自分達が受け取っていいものだろうかと困惑した態度を見せるミスティカだが、リゾカルポは楽し気な笑顔を向けた。

「心配しなくても、ビーコンは一つだけじゃないんだ。アタシは知り合った発掘隊には渡すようにしているのさ。少しでも生き残る確率を上げたいからね」

 なるほど、と納得して手を出したミスティカにリゾカルポは重ねて言葉を投げかける。

「それに、アンタ達は方舟でGCP-1型を確保した発掘隊だろ、有名だよ。腕は確かなんだから、そう謙遜しなさんなって」

 あれだけ大々的に報道されたのだから当然だが、リゾカルポもミスティカ達のことは知っていたらしい。それでもここまでおくびにも出さなかったのは、彼女の社交スキルの高さによるものだろう。

 ビーコンを受け取ると、リゾカルポはすぐ立ち上がり言う。

「焦ってスピラスを探しに行く必要もなくなったんだ、アンタ達は無理せず探索していきな」

 確かに、一度目の調査で奈落の先まで行こうとしていたのはスピラスを助けたいという理由からだ。本人が救援を必要としていない状態なら、無理して自分達が危険な目にあうより発掘を優先しつつ奈落までの安全なルートを開拓していった方がいいだろう。三人が顔を見合わせて頷きあっていると、リゾカルポは自分のクモ型アルマ『アラネア』に乗り込んで交流所から出ていく。

「アタシは一足先に奈落へ向かうよ。進入口の前にもエクスカベーターの集結地があるんだ。そこで仲間と待ち合わせさ」

 スピーカーを使って三人にそう伝えると、大きな機械だというのに音も無く扉から通路へと降りていった。

「それじゃあ、俺達もその集結地とやらを目標にしつつのんびり発掘行といきますかね」

「そうですね。せっかく資材も持ってきましたし、急がないにしても奈落の入口までは行っておきたいですね」

「よし、じゃあ今度こそオイラに任せて! ばっちり攻略してやるから」

 すっかり明るい空気に包まれた三人は、リゾカルポに感謝しつつまた通路へ戻るのだった。
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