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作者: 寿甘
残酷な描写あり R-15
次の目的地
「これからどうするんだい?」

 方舟からキャンプに戻り、ホワイトがミスティカとクリオに向かって尋ねた。方舟をもっと調べるのか、それとも別の遺構を調べに行くのか。ミスティカの目的を考えれば、遺構探索以外の調査方法もあるかもしれない。その方針によってはホワイトも同行してくれるのだろうかと考えると、とても頼もしく感じると共に早く独り立ちしたいという気持ちも生まれた。

「そうですね……しばらくは遺構を調べて回りたいと思います。クリオさんは予定がありますか? 良かったら次も手伝っていただきたいのですが」

 歴史の裏側を暴こうとしている聖教徒様は、自分のことを役立ったと思ってくれているらしい。嬉しさと同時に申し訳なさが生まれてくる。戦闘で足手まといにならないようにしなくては、と。自分は戦闘員ではないとうそぶいていたが、やはりエクスカベーターにはアルマを使った戦闘の能力が必要だと痛感した。それに戦闘技能だけではない、探索能力も未熟に過ぎる。無警戒にドアを開いてしまったことが一番の失態であり、心に刺さる一本の大きな棘となって強く脳裏に焼き付いている。自己申告していた戦闘面での役立たずぶりは言い訳がつくが、自信満々に語っていた探索面で下手を打って雇い主を危険な目にあわせたのだ。ミスティカが許しても自分が許せない。そんなクリオの頭に、ある男の顔が浮かんだ。

「オイラはメルセナリアに行きたいんだ!」

「メルセナリア?」

 メルセナリアという国の名前はミスティカも知っている。だがここからメルセナリアまではだいぶ遠い。間にいくつもの国を挟んでいるのに、一足飛びにそこへ向かう理由が思いつかず、首を傾げた。

「メルセナリアか。世界一発掘料が安くて、世界一危険な遺構がある国だな。なんと言っても最大の遺構の横に首都がある、イカれっぷりが半端じゃねえ国だ。そりゃあ実に面白そうだな」

 ホワイトがミスティカにも分かるように解説を入れつつ、行くのなら自分も同行すると暗に示した。そう聞くとミスティカも真面目に考える。確かに自分はより危険な場所を探索する必要がある。だが方舟で死にかけたばかりなのに経験も積まずにいきなり最高難度の遺構を目指すのは正しいのだろうか。ホワイトが同行してくれるならなんとかなるかもしれないが。旅費に関しては問題がない。ガーディアンを管理所に引き渡せば少なくない額の報酬が貰えるだろう。クリオのアルマも新型に買い替えることができる。

「そうですね……メルセナリアを目指すことには賛成ですが、途中の国で発掘をしたりはしないのですか?」

 ミスティカは世界中全ての遺構を調べて回りたい。クリオもそう言っていたはずだ。なのに目の前にある数々の遺構を無視していきなり遠くの国からというのが、どうにも引っかかった。彼女の言わんとすることが伝わり、クリオは自分がそこに行きたい理由を明かした。

「お世話になったエクスカベーターがそこで発掘してるんだ。オイラがエクスカベーターになったら一緒に発掘しようって……」

「ではメルセナリアに行きましょう!」

 クリオが言い終わらないうちに、ミスティカが行くことを決めた。人との繋がりは何よりも大切にするべきだ。約束があるなら、何よりも優先しなくては。大聖堂で数々の悲劇を目撃した彼女にとって、人が悲しむような出来事は少しでも減らすべきものだった。

「決まりだな。なら俺も同行させてもらうぜ。いいよな?」

「もちろん! 助かります」

「よろしくお願いするっス!」

 ホワイトに自分の用事はないのだろうか、と少し気になったが自分達の安全を考えたらこの男が同行してくれるのは何より助かる。一緒に来てくれると言っているのだから、ここは素直に甘えておくべきだと思うミスティカだった。クリオはホワイトとスピラスのどちらが強いのだろう、もしかしたら知り合いかもしれないなどと考えていた。

「ところで、ホワイトさんのアルマにはナンディさんのような識別名はあるのですか?」

 量産機でも名前を付ける乗り手は少なくない。ましてやホワイトが駆る人型アルマはどう見ても特別製だ。何らかの識別名がついていない方がおかしい。するとホワイトはまた白い歯を見せて答えた。

「ああ、こいつは『シヴァ』だ。大昔の地球では雷の神様だったって話だぜ」

 これも遺構に残された断片的な情報から得られた知識だ。実際のシヴァ神とはかなり違うイメージで伝わっているが、神話に類するものはどれもそうやって捻じ曲げられてきたのが現実だ。

「オイラもこいつにカッコいい識別名をつけようかな」

 自分のイヌ型を撫でながら言うと、ミスティカとホワイトが口々に忠告をしてきた。

「それより、新しいアルマを買ったらどうです? 今のイヌ型ではメルセナリアまでの旅に耐えられないと思いますよ」

「同感だ。ガーディアンを売ればまとまった金も入るだろ、ナンディほどじゃなくてもタフなアルマを手に入れた方がいい。初めての機体に愛着が湧くのも分かるが、そいつに長旅をさせるのは酷だぜ」

 二人から言われ、クリオも顎に手を当て考える。確かに長年金を貯めて買った機体に愛着がある。だがそれ以上に、自分が買った機体をスピラスに見せたい気持ちがあった。しかし現実的にこのイヌ型でいくつもの国境を越えるのは厳しい。そんな逡巡しゅんじゅんの空気を感じ取ったホワイトが、重ねて言葉をかけた。

「コツコツ金を貯めて買った機体も、初めての発掘で得た金で買った機体も、どちらも記念になる。お世話になったエクスカベーターに見せるんだったら、自分が成長した証を見せた方がいいんじゃないかね?」

 自分の躊躇ためらいの理由を言い当てられたクリオは、ホワイトの言葉を素直に受け入れることにした。気持ちを分かってもらえるというのは、なんだかとても気持ちのいいものだと思う。

「そうだね、せっかくだからいいアルマで向かうよ!」

「記念撮影をしましょう」

 ミスティカが気を利かせて、クリオを初めての愛機と共に撮影した。中古の安い機体だが、クリオの命を守って方舟を探索したかけがえのない仲間だ。映像を記録に残して、機体にはお別れの挨拶をする。

「短い間だったけど、ありがとうな。また次の新人を守ってやってくれよな」

 また中古屋に並び、新たな新米エクスカベーターを乗せることになるのだろう。ひとしきり別れを惜しんだ後は、ガーディアンの残骸を売り払った金を持って新品を売るアルマの店に行くことにした。キャンプはみすぼらしいが、この国最大の遺構を前に展開する店は、素晴らしい品ぞろえを誇っている。きっといい出会いがあるに違いないと笑いあいながら、三人はまず管理所に向かった。
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