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作者: 寿甘
残酷な描写あり R-15
機兵団
 頭上に広がる青い空、そのずっと上には太陽や星が浮かぶ大天だいてんがある。大天の遥か彼方には『地球』と呼ばれる楽園があって、人は数千年前にこの惑星――ステロ・ディオーヴォへとやってきたのだという。この星に住む我々は、神に導かれて空飛ぶ船で旅してきた者達の子孫である。これは神が人間に課した試練なのだ。いつの日か我々人間は空飛ぶ船で大天へと旅立ち、地球に帰る。

 カエリテッラの誇る世界最高の天文学者達は、アーティファクトの力で大天を調査した。その結果、半径1000光年の範囲に人間の住める惑星は存在しないということが分かっている。つまり、1000光年以上の距離を旅する能力が必要というわけだ。今のところ人類は大天どころかこの空を飛ぶ船すら作ることができずにいるのに。

 この『光年』という単位は光が一年間に進む距離という意味らしいが、実際に光が一年間に進む距離は違う。それは地球とステロ・ディオーヴォでは一年の長さが違うからだろうと推測されている。我々が使っている時間の単位、一秒・一分・一時間・一日。これらは地球に暮らしていた頃に決められた単位をそのまま利用しているというのが定説だ。その証拠に、一日の長さは太陽が真上に昇ってから落ちてまた真上に昇るまでの時間とほんの少しズレがある。一月と一年はこの惑星の各周期と一致しているため、地球とは違う暦を使っているようだ。ズレを修正するために数年に一度設定される、どの月にも属さない日を大天回教では『回天の日』と呼び、いつか大天に向けて旅立つ日と定めている。

「地球は楽園だと言うけれど、いったいどのような惑星なのでしょうね」

 ミスティカの問いに答える者は無い。ナンディは独り言に反応しないよう、呼びかけ無しの言葉には答えない。マーニャは砂に潜ってどこかへ泳ぎ去った。また孤独を感じる時間が戻ってきたようだ。広大な領土を持つカエリテッラは、ナンディの速度で砂漠を真っ直ぐ突っ切っても国境まで数日かかる。しばらくは教典を読み返して教えの穴を探す日々だ。

 ある日の夜明け、ミスティカはナンディの胴体部分に用意された簡易ベッドで目を覚ました。大型のアルマには寝室やシャワー室まで完備されているので快適な旅が可能だが、さすがにのんびりとくつろいでいられるほど世界は平和でもない。最小限の利用にとどめ、初めて簡易ベッドで横になったのも旅を始めて数日経ってからだ。そしてミスティカの起床を確認したナンディが注意報を出してきた。差し迫った危険はないが、認識しておいた方がいい事態が発生しているということだ。

『右前方約100キロメートル先の地点で大規模な戦闘の開始を確認』

 操縦席に座ると、ナンディがモニタに広域MAPを表示し、戦闘地域を赤色で示した。100キロも離れていると、さすがにナンディの望遠カメラでは状況を捉えることはできない。先日の経験から思いついた指示を出す。

「ナンディさん、ニュースのライブ配信はないか調べてください」

 自分達の戦闘映像がその日のうちに全世界で報道されていたのだ。ライブ映像ぐらい配信していてもおかしくない。するとすぐにニュース映像がモニタに映し出された。

『WDBニュースでライブ配信を行っていました』

 画面の中では、砂漠に立ち並ぶ鉄の巨人が鉄のサソリ集団に向かって各々武器を構えている。人型のアルマ達の胸には太陽と船のマークがある。つまりカエリテッラの直属だ。

「カエリテッラの機兵団! それに敵はスコーピオンですか」

 機兵団は多くの国の正規軍に存在する精鋭部隊である。特徴は人型のアルマに乗っていることだ。人型のアルマは、ミスティカが駆るナンディのような多脚型のものと比較してパイロットの戦闘技術が強く反映される。つまり弱い人間が操れば弱く、強い人間が操れば強くなるのだ。それも操縦技術より格闘技術が影響する。そして多脚型のアルマより高い戦闘力を持つには相当な実力を必要とするのだ。

 そのため、人型アルマに乗るのは達人級に限られ、どの国も機兵団は相当な強さを誇るのである。

「スコーピオンは機兵団でも苦戦すると聞きました。近づかないようにしましょう」

 画面の中では、ついに砲撃を開始したサソリに対して巨人達が華麗なステップで回避行動を行い、ある者はライフルで射撃し、またある者は鉄の大剣ブレイドで斬りかかる。パイロットの得意な戦い方をしているのだろう。大火力の砲撃一辺倒なスコーピオンに対して多彩な攻撃を繰り出す機兵団は、素人目線では有利なように思えるのだが……それでもサソリは恐ろしい速度で走り回り、足を止めることなく砲撃を繰り返す。人型のアルマは直立二足歩行であるが故の弱点として的が大きい。大量の砲撃を食らって何体かのアルマが損傷する。全体としては一進一退の攻防を繰り広げている状況がずっと流れている。ほぼ互角の戦いと言ってもいいだろう。

「恐ろしい……機兵団相手に一歩も引かないなんて、盗賊団がどうしてここまで強いのでしょう」

 その強い盗賊団を蹴散らした英雄だと思われている自分の立場を完全に忘れ、激しい戦いに恐怖しつつも見入ってしまうミスティカだった。

 もう少し進めば目的の遺構、そしてキャンプと呼ばれる貧民達の集落がある。とばっちりを受けないようにと慎重に距離を測りながら進んでいく。とばっちりどころか、この争いの原因となったのがミスティカなのだが、そのことを本人は全く知らずにいる。そして、この機兵団とスコーピオンの激突を見て好機と考える国があることも。
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