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作者: B-NOVEL管理人
Evil Revenger 復讐の女魔導士 -兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う-
 悲劇とは不思議なものです。
 悲劇のパターンの一つに「死別」がありますが、悲劇になるほど心を通わせた相手と死別したい人はいないでしょう。
 我が身に起きて欲しくないのはもちろん、友人が大切な人と死別して、落ち込んでいる姿を見るだけでも辛いものです。
 
 それなのに、悲劇は紀元前から大人気ジャンルで在り続けています。
 
 悲しい目になんて遭いたくない。
 他人が悲しい思いをしているのも見たくない。
 そう思いつつも、人間という生き物は2000年以上も前から悲劇を求め続けて来たのです。
 実に不思議というしかありません。
 
 しかし人間が悲劇を求め続けてきたのは事実です。
 100年後にはまったく悲劇を求めなくなっている、なんてことは考え難いと言えます。
 ならば人間は、おそらく未来永劫、求め続けるのでしょう。
 
 悲劇を。
 誰かが虐げられる物語を。
 誰かが悲嘆に暮れる物語を。
 誰かが大切な人と死別する物語を。
 
 そんな悲しい性をもった人類に、ぜひともオススメしたい作品があります。
 
 『Evil Revenger 復讐の女魔道士 -兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う-』
 
 という作品です。
 
 
 
 上の前置きでもわかったと思われますが、この作品は悲劇です。
 明言はされていませんが、作品の舞台は所謂『中世ヨーロッパ風』
 現代のような社会保障制度がない世界です。
 そんな世界で、ある兄妹が両親を失ったことが語られてから話が動き始めます。

 主人公の8歳の少女と、12歳の兄の兄妹です。
 もちろん8歳の少女は無力ですから、まだしも働く力のある兄が妹を養うことになります。
 しかし12歳です。
 まだまだ未熟な12歳の少年が、妹のために大変な思いをして食料を確保する生活を強いられるのです。

 そして8歳の少女は、無力な上に無知でもあります。
 まだ社会の辛さ、難しさ、厳しさを知りません。
 その無知のために、ボロボロになって帰ってきた兄にこんな――普通の家庭であれば、普通の――お願いをしてしまいます
 
「兄さん。ねえ兄さん。お腹すいたよう。お腹すいたの、兄さん」
 
 そうして、疲れ果てていた兄は妹に手を上げてしまう。
 そんな形で話が動き始めます。
 
 僕が思うに、悲劇には破ってはいけないルールがあるようです。
 その悲劇が当事者たちにとって、避けようがない『運命』であることです。
 悲劇が『運命』でないと――少なくとも読者が『運命』だと感じられないと――、その悲劇は悲劇ではなくなります。
 その悲劇が『運命』でないと感じた瞬間、読者たちは
 
「いや、こうすりゃ良かったじゃんwww」
「主人公、アホすぎwwww」
 
 という気分になって、物語に入り込めなくなってしまうからです。
 
 脈絡なく主人公にとって良いことばかりが起こる『御都合主義』は、ある程度以上に嫌われるものですが、一定の需要はあります。
 物語を読む人間は少なからず主人公に感情移入するもので、自分に幸運があれば嬉しいのが人情ですから、それも当然です。
 
 対して、脈絡なく不運ばかりの物語を『負の御都合主義』と呼んだりします。
 これには一定の需要もありません。
 ほぼ例外なく嫌われます。
 自分が感情移入している主人公は幸運に恵まれて欲しい。
 少なからずそう思っている読者にとって、受け入れがたいものだからです。
 
 ゆえに、悲劇を書く作者は『筆力』を求められます。
 その悲劇が『運命』であることを読者に伝える『筆力』です。
 神の視点では違っても、当事者である主人公たちにとっては避けられなかったのだ。
 そのように、ただでさえ
 
「主人公たちには幸運に恵まれて欲しい」
 
 と祈っている読者たちを納得させるための『筆力』です。
 この作品の作者『MST』さんには、間違いなくそれがあります。 
 いや、MSTさんの筆力は、それに止まりません。
 
 この人の筆力は、読者たちを強制的に少女の保護者にしてしまいます。
 運命に翻弄される少女の姿にハラハラとさせ。
 彼女が恐怖を抱く人物が登場するシーンでは身構えずにはいられなくさせ。
 彼女が好意を抱く人物にも、少女と同じだけの好感を抱かせ。
 そればかりでなく、最後には少女にとって『やがて殺し合う』仲になってしまう兄すら……にさせてしまいます。
 ……の部分はネタバレになってしまうので伏せましたが、これ以上はぜひ実際に作品を読んで確かめていただきたく思います。
 
 
 
 全18話。
 93646文字。
 内容のヘビーさはともかく、長さは長編としては短めの読みやすい長さになります。
 B-NOVELの評価制度では、読了率が1位(50%)の作品です。
 
 興味をもっていただけた方は、ぜひとも御一読ください。
 それを作者のMSTさんも望んでいると思います。
 この文章を書いた僕としても、この素晴らしい作品と皆様を結びつけることができたのなら、大変誇らしい気分になれるというものです。
 
 最後にMST様。
 この作品をB-NOVELに投稿していただき、誠にありがとうございました。
 またMSTさんの新しい作品が読めるのを、誠に勝手ながら心の底から楽しみにさせていただいています。
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