残酷な描写あり
R-15
七話：模擬モンスター戦②
愛花はモンスターに向けて射撃を加えながら優雅に微笑む。
「私、葉風さんと競ってみたかったんです」
「私なんかじゃ愛花に敵わないよ」
「貴方はもっと自信を持った方が良いわ」
葉風は顔を曇らせる。そこにマネッティアとルドベキアが現れた。
「初心者だけどよろしく、葉風さん」
「う、うん。私もそんなに上手いわけじゃないけど」
「謙遜することないわ。訓練での射撃は凄かったもの」
「足を引っ張らないか心配だけど、精一杯頑張るわ。サポート、お願い」
「うん、分かった」
モンスターは基本的に6種類に分けられる。
『スモール級』
モンスターの中で一番の小型種。
『ミディアム級』
スモールより大きいタイプ。
このタイプまでならば防衛軍の剣で倒せる。
『ミドル級』
ミディアムよりも大きい。
マジックアイテムなどの高火力兵器で倒せるレベル。
『ラージ級』
このタイプからはマジックアイテムは全く通用せず、魔導杖を持ったでしか倒せない。
『ギガント級』
かなり大型のモンスターを
このタイプからは撃破に高出力魔力砲撃が必須となる。
『アルトラ級』
いわば親玉に相当するタイプで、魔導士はこれの撃破を最大目標としている。ネスト営巣が主な活動だが、ネストを失えば「巣無しのアルトラ」となり極めて凶暴となる。2代目アールヴヘイムはこれの1体を撃破したことで名を上げた。
『レストア(レストアード)』
戦いを生き延びたデストロイヤーがネストで修復・回復した姿。
大きさが小さい程数が多い傾向にあり、まずはそれを掃討してから大型個体に対処するというのがレギオンの基本方針だ。
その為、距離をとっての制圧射撃からの近接攻撃への移行が理想的なのだが、即席のチームで尚且つチーム同士で争っているとそうはいかない。
即席故に援護もままならず、生き残るのが精一杯だ。
「なかなかやるなー、難易度はハードだからレギオンレベルでの対応が必要な数と質なのに」
「そうだね。マネッティアちゃんとフミちゃんが意外と動けてる。倒すまではいかないけど、引きつけて味方に撃破させられてるね」
「弱い駒が強い駒を釘付けにするのも仕事のうちだからなー」
「チーム戦にして競わせる方向したけど、ちょっと意地悪してみようかな」
「意地悪？」
「ギガント級の投入」
「それはキツイだろー」
「倒す倒せるじゃなくて、緊急時に協力ができるか知りたいの」
「ま、良いんじゃないか？」
「じゃあ、投入っと」
ドスン！！ と音を立ててギガント級モンスターが空から降ってきた。小さい相手に手間取っていた2チームは悲鳴のような声を上げた。
「ギガント級ですって！？」
「流石にこれは……あの二人なかなか鬼畜でいらっしゃるわね」
「この数にギガント級の相手なんて」
「これはチームで競っている場合ではありませんね。御三方、手を組みましょう」
「……たぶんそれが一番でしょうけど、それができるかどうかを試すなんて酷いですわ」
「作戦を立てるなら早くして！ 私以外役に立たないんだから」
タツナミがモンスターを切り裂きながら叫ぶ。事実、フミとマネッティアは戦果を上げれず避けているので精一杯だった。
「どうします？」
「まずギガント級の相手は無理ですわ。撤退戦、もしくはギガント以下のモンスターの殲滅を優先するべきでしょう。その間、ギガント級が大人しくしているとは限らない」
「囮が必要、ということですね。ならば私がやりましょう」
「できますの？」
「私の魔導杖は防御型の試作機ですから」
「皆さん、集合ですわー！」
ルドベキアがみんなを集めつつ、射撃をしてモンスターを牽制する。
「ギガント級の相手は無理と判断。そこで愛花さんが囮となり、時間を稼ぎます。その間に私たちは他のデストロイヤーを掃討。その後、ギガント級デストロイヤーに攻撃を仕掛けます」
「一人でギガント級の相手なんてできるもんなの？」
「やって見せますわ、タツナミさん。私の実力を見せて差し上げます」
「そう。ならそれで良い。初心者二人は無理しないで引き撃ちしてて。味方に当てなきゃそれで良い」
「引き撃ち？」
「後退しつつ射撃の意味です」
「では、作戦開始！」
タツナミとルドベキアが突っ込み、愛花の道を切り開く。愛花は素早く駆けて、ギガント級に射撃する。ギガント級は俊敏な動きで愛花に襲い掛かった。ギガント級のレーザービームやパンチを魔導杖で捌く。
ルドベキアと葉風とフミは射撃を加えてモンスターの群れを削っていった。
「良い判断だな。誰か一人を囮にして時間を稼ぐ。全員が生き残るのはこれしかない」
「あとは地力と集中力が試される」
結論から言って全滅した。
ギガント級以外のモンスターは掃討したものの、ギガント級に攻撃が通じずすり潰されて全滅した。
ボロボロのルドベキアたちに対して、クローバー達は笑顔で迎え入れる。
「みんな凄いよ！ チーム同士の連携、突発的な事態に対する共同戦線、作戦の立案と実行、誰をとっても高得点！」
「もし人数が多くて、高出力魔力砲撃ができればクリアできたかもナー」
「お褒め頂き光栄ですわ」
「ギガント級の投入は流石に酷いです」
「ごめんね。みんなの咄嗟の判断力が知りたくて。戦場だと突発的な事態が起こる可能性がある。それに対する反応も訓練しておかないとね」
「……意地が悪い」
たははは、と梅は笑う。
「これにて訓練は終了だ！ 各員帰って良いぞ！」
「ありがとうございました」
オープンテラスに行くと上級生のうち一人が週刊ユグドラシル新聞を見ていた。
「あら、フミさん良かったじゃない。週刊ユグドラシル新聞人気みたいよ」
「えへへ、照れます」
フミは頬を赤くするが、その上級生は予想もしない行動に出た。
「こんなもの！」
「あぁ！？」
フミは小さく悲鳴を漏らす。なんとその上級生は掲示板に貼られた新聞を引き裂いたのだ。
「ちょっと！」
「貴方、一体何をしているの」
ルドベキアよりマネッティアが飛び出し、ツカツカと上級生に詰め寄った。上級生は少し狼狽えたようだが、すぐに開き直ってマネッティアに向き直る。
「何か文句あるの？」
「なんで新聞を破り捨てたの」
「あんな気分が悪くもの、捨てた方がマシだわ」
「気分が悪い！？」
たまらずフミが姿を表す。すると上級生は嘲るように肩をすくめた。
「あら？ みんな揃って覗き見されていたのかしら？ お上品ねぇ、ということはあの扇動者も隠れているのかしら？」
「扇動者？」
「知らないの？ 魔導士を死地へ駆り立てる血塗れの扇動者、クローバー」
「そんなこと、聞いたことありませんけど？」
「そりゃあ一般的には魔導士を鼓舞して任務をクリアしていく女神様だもんねぇ。幸運のクローバーは有名ですもの。でも、あれはそんなものじゃない。死に掛けの魔導士や防衛軍に特攻させる冷徹な扇動者」
「クローバー様をそんな風に言わないでください。クローバー様は私を救ってくださいました」
「もしかして貴方が姉妹誓約の契りを結びたいという魔導士さん？ やめた方が良いわよ。あの女は自分の姉妹誓約の姉を操って特攻させたんだから！」
上級生たちは声を荒げた。その言葉にマネッティアたちは衝撃を受ける。それが事実なのか確認する前に、良く通る声が廊下に響き渡った。
「あら、これは何の騒ぎでしょう？」
「愛花さん」
愛花の後ろには葉風の姿も見える。
「さて、どうやら口論の真っ最中とお見受けしましたが、いかがなさいますか？ もしこれ以上やるなら教導官をお呼びしてもよろしいですよ」
「別にそこまでのそこまでの騒ぎじゃないわ。余計なことをしないでもらえる？」
教導官を呼ばれてはたまらないと思ったのか、上級生は狼狽える。
「そこの掲示物は正式な許可を取って貼られたものですか？」
「はい！ 先生に許可もいただいてます！」
「では校則違反を犯しているのはその二人ということになりますね。いかがなさいますか、マネッティアさん。もし貴方が望むのなら教導官の元に連行することも可能です」
「いえ、それは良いわ。クローバー様も、それを望まないだろうし」
マネッティアがそう言った瞬間、上級生はほっとしたような表情をした。
「私、葉風さんと競ってみたかったんです」
「私なんかじゃ愛花に敵わないよ」
「貴方はもっと自信を持った方が良いわ」
葉風は顔を曇らせる。そこにマネッティアとルドベキアが現れた。
「初心者だけどよろしく、葉風さん」
「う、うん。私もそんなに上手いわけじゃないけど」
「謙遜することないわ。訓練での射撃は凄かったもの」
「足を引っ張らないか心配だけど、精一杯頑張るわ。サポート、お願い」
「うん、分かった」
モンスターは基本的に6種類に分けられる。
『スモール級』
モンスターの中で一番の小型種。
『ミディアム級』
スモールより大きいタイプ。
このタイプまでならば防衛軍の剣で倒せる。
『ミドル級』
ミディアムよりも大きい。
マジックアイテムなどの高火力兵器で倒せるレベル。
『ラージ級』
このタイプからはマジックアイテムは全く通用せず、魔導杖を持ったでしか倒せない。
『ギガント級』
かなり大型のモンスターを
このタイプからは撃破に高出力魔力砲撃が必須となる。
『アルトラ級』
いわば親玉に相当するタイプで、魔導士はこれの撃破を最大目標としている。ネスト営巣が主な活動だが、ネストを失えば「巣無しのアルトラ」となり極めて凶暴となる。2代目アールヴヘイムはこれの1体を撃破したことで名を上げた。
『レストア(レストアード)』
戦いを生き延びたデストロイヤーがネストで修復・回復した姿。
大きさが小さい程数が多い傾向にあり、まずはそれを掃討してから大型個体に対処するというのがレギオンの基本方針だ。
その為、距離をとっての制圧射撃からの近接攻撃への移行が理想的なのだが、即席のチームで尚且つチーム同士で争っているとそうはいかない。
即席故に援護もままならず、生き残るのが精一杯だ。
「なかなかやるなー、難易度はハードだからレギオンレベルでの対応が必要な数と質なのに」
「そうだね。マネッティアちゃんとフミちゃんが意外と動けてる。倒すまではいかないけど、引きつけて味方に撃破させられてるね」
「弱い駒が強い駒を釘付けにするのも仕事のうちだからなー」
「チーム戦にして競わせる方向したけど、ちょっと意地悪してみようかな」
「意地悪？」
「ギガント級の投入」
「それはキツイだろー」
「倒す倒せるじゃなくて、緊急時に協力ができるか知りたいの」
「ま、良いんじゃないか？」
「じゃあ、投入っと」
ドスン！！ と音を立ててギガント級モンスターが空から降ってきた。小さい相手に手間取っていた2チームは悲鳴のような声を上げた。
「ギガント級ですって！？」
「流石にこれは……あの二人なかなか鬼畜でいらっしゃるわね」
「この数にギガント級の相手なんて」
「これはチームで競っている場合ではありませんね。御三方、手を組みましょう」
「……たぶんそれが一番でしょうけど、それができるかどうかを試すなんて酷いですわ」
「作戦を立てるなら早くして！ 私以外役に立たないんだから」
タツナミがモンスターを切り裂きながら叫ぶ。事実、フミとマネッティアは戦果を上げれず避けているので精一杯だった。
「どうします？」
「まずギガント級の相手は無理ですわ。撤退戦、もしくはギガント以下のモンスターの殲滅を優先するべきでしょう。その間、ギガント級が大人しくしているとは限らない」
「囮が必要、ということですね。ならば私がやりましょう」
「できますの？」
「私の魔導杖は防御型の試作機ですから」
「皆さん、集合ですわー！」
ルドベキアがみんなを集めつつ、射撃をしてモンスターを牽制する。
「ギガント級の相手は無理と判断。そこで愛花さんが囮となり、時間を稼ぎます。その間に私たちは他のデストロイヤーを掃討。その後、ギガント級デストロイヤーに攻撃を仕掛けます」
「一人でギガント級の相手なんてできるもんなの？」
「やって見せますわ、タツナミさん。私の実力を見せて差し上げます」
「そう。ならそれで良い。初心者二人は無理しないで引き撃ちしてて。味方に当てなきゃそれで良い」
「引き撃ち？」
「後退しつつ射撃の意味です」
「では、作戦開始！」
タツナミとルドベキアが突っ込み、愛花の道を切り開く。愛花は素早く駆けて、ギガント級に射撃する。ギガント級は俊敏な動きで愛花に襲い掛かった。ギガント級のレーザービームやパンチを魔導杖で捌く。
ルドベキアと葉風とフミは射撃を加えてモンスターの群れを削っていった。
「良い判断だな。誰か一人を囮にして時間を稼ぐ。全員が生き残るのはこれしかない」
「あとは地力と集中力が試される」
結論から言って全滅した。
ギガント級以外のモンスターは掃討したものの、ギガント級に攻撃が通じずすり潰されて全滅した。
ボロボロのルドベキアたちに対して、クローバー達は笑顔で迎え入れる。
「みんな凄いよ！ チーム同士の連携、突発的な事態に対する共同戦線、作戦の立案と実行、誰をとっても高得点！」
「もし人数が多くて、高出力魔力砲撃ができればクリアできたかもナー」
「お褒め頂き光栄ですわ」
「ギガント級の投入は流石に酷いです」
「ごめんね。みんなの咄嗟の判断力が知りたくて。戦場だと突発的な事態が起こる可能性がある。それに対する反応も訓練しておかないとね」
「……意地が悪い」
たははは、と梅は笑う。
「これにて訓練は終了だ！ 各員帰って良いぞ！」
「ありがとうございました」
オープンテラスに行くと上級生のうち一人が週刊ユグドラシル新聞を見ていた。
「あら、フミさん良かったじゃない。週刊ユグドラシル新聞人気みたいよ」
「えへへ、照れます」
フミは頬を赤くするが、その上級生は予想もしない行動に出た。
「こんなもの！」
「あぁ！？」
フミは小さく悲鳴を漏らす。なんとその上級生は掲示板に貼られた新聞を引き裂いたのだ。
「ちょっと！」
「貴方、一体何をしているの」
ルドベキアよりマネッティアが飛び出し、ツカツカと上級生に詰め寄った。上級生は少し狼狽えたようだが、すぐに開き直ってマネッティアに向き直る。
「何か文句あるの？」
「なんで新聞を破り捨てたの」
「あんな気分が悪くもの、捨てた方がマシだわ」
「気分が悪い！？」
たまらずフミが姿を表す。すると上級生は嘲るように肩をすくめた。
「あら？ みんな揃って覗き見されていたのかしら？ お上品ねぇ、ということはあの扇動者も隠れているのかしら？」
「扇動者？」
「知らないの？ 魔導士を死地へ駆り立てる血塗れの扇動者、クローバー」
「そんなこと、聞いたことありませんけど？」
「そりゃあ一般的には魔導士を鼓舞して任務をクリアしていく女神様だもんねぇ。幸運のクローバーは有名ですもの。でも、あれはそんなものじゃない。死に掛けの魔導士や防衛軍に特攻させる冷徹な扇動者」
「クローバー様をそんな風に言わないでください。クローバー様は私を救ってくださいました」
「もしかして貴方が姉妹誓約の契りを結びたいという魔導士さん？ やめた方が良いわよ。あの女は自分の姉妹誓約の姉を操って特攻させたんだから！」
上級生たちは声を荒げた。その言葉にマネッティアたちは衝撃を受ける。それが事実なのか確認する前に、良く通る声が廊下に響き渡った。
「あら、これは何の騒ぎでしょう？」
「愛花さん」
愛花の後ろには葉風の姿も見える。
「さて、どうやら口論の真っ最中とお見受けしましたが、いかがなさいますか？ もしこれ以上やるなら教導官をお呼びしてもよろしいですよ」
「別にそこまでのそこまでの騒ぎじゃないわ。余計なことをしないでもらえる？」
教導官を呼ばれてはたまらないと思ったのか、上級生は狼狽える。
「そこの掲示物は正式な許可を取って貼られたものですか？」
「はい！ 先生に許可もいただいてます！」
「では校則違反を犯しているのはその二人ということになりますね。いかがなさいますか、マネッティアさん。もし貴方が望むのなら教導官の元に連行することも可能です」
「いえ、それは良いわ。クローバー様も、それを望まないだろうし」
マネッティアがそう言った瞬間、上級生はほっとしたような表情をした。