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作者: 杉山英零
【第三話】お着替えっ!(後編)
阪急百貨店で服を購入しようとする。
 俺はスタスタと歩いて、百貨店の中に入った。昔、多分15の頃、母親に連れられて行ったことはあったが、自分だけで行くのは人生初。不安な緊張も入り混じった感情。

「はあ、やっぱり人が多過ぎる。このままでは、全然進めないよう。」

俺は戸惑った。非常に多くの人がいて、思うように進めない。そのうえ、最後に行ってからおよそ10年経っていて、この建物がどのような感じで、何が何階にあるのかなんて、記憶からも消えていた。フロアーガイドを見たいけど、それを見るのさえも困難だ。

「ちょっと、すみませんねぇ。」

こんな一言をぶつかった人全員に言って、進んでいく。エレベーターは絶対に混んでいるから、エスカレーターの方へも向かう。

「やっと着いた…。ええと、婦人服は…ほうほう、X階か」

ようやく、服を売っているフロアーを確認して、その階へと向かう。

「はあっ、はあっ、ようやく着いた…。ここまで辿り着くのに何分くらいかかったのか…」

俺はようやく、婦人服売場に到着した。そこには、かなりオシャレな服が並んでいた。どの服も素晴らしい。けど、出来れば、こんな、感じの、服、が、い、い、な、、、、…っとっと、興奮してしまった。男だからしゃあない。

「何かお探しでしょうか?」

店員さんが話しかけてきた。いかにも清楚系という感じで、彼氏いない歴イコール年齢マイナス10、的な。伝わるかはしらん。

「ええと。おふくろと姉に日頃の感謝の気持ちを込めて、服をプレゼントしたいと思っています。出来れば、普通の店、チェーン店ではまず売っていないようなオシャレな服をプレゼントしたいなあ、と。ついでに、下着やパンツも。」

「は、はい…」

店員さんの返事は、俺の予想とは違った。俺の最後の一言(「ついでに、下着やパンツも。」)にひいてしまったのかもしれない。まあ、こういうところの女性とのコミュニケーションが非常に苦手な俺にしては、よくやったほうだと思う。

「では、こちらの服のセットはいかがでしょうか。」

それは、東京の若者が着ていそうなくらい先進的で、可愛い服だった。俺は、この服が気に入った。よし。この服を買って、ヨルンデに着させて…!

「これ、いいっすね!かっかっかっかっかっかっかっ買ってもいいですすすすすすすすすか?」

ヤバイ。緊張と興奮のあまり、言ってることがおかしい。ただ、店員さんも何とか聞き取れたのか、

「あっ、はい。では、もう一着お選びなさいますか。」

俺は頷いた。そうして、好みに合った服を一着一着選ぶ。これは駄目、あれも駄目。これは悪くない…これはすげぇ良い!そうして、俺は下着やパンツも選ばねばならなかった。女性のコーディネートって、選ぶのが割合大変なんだな。で、俺は選び終わった。レジへ向かう。

「すみません、会計お願いします」

「分かりました。…一点、…一点、…一点…………合計、九二〇〇〇円となります。ポイントカードはお持ちでしょうか。」

俺は、その額を聞いて、気絶しそうになった。財布の中にはいくら入っているだろうか。俺は確かめた。入っていたのは…一〇〇〇〇〇円。残りがわずか八〇〇〇円となってしまう。ただ、ここまでしてやって来たのだから、服を買うっきゃない!

「持ってないです!」

そうして、俺は無事金を払って、店を後にした。エスカレーターを使って降りて、出る。貯金を崩しに、銀行へ向かう。

「貯金残高は七八九五〇円…バイトの時間をもう少し増やさないとな。」

いよいよ金欠でヤバそうになってきたので、俺は、今まで週二で働いていたのを、週四に増やすことにした。光風台のスーパーでパートとして働いている。

 俺は、改札口を通って、ホームへと向かった。と、その時。コンコースで、見覚えのある人物を見かけた。あれは…敬斗ではないか!俺は話しかけた。

「よう、敬斗!」

「おお、白国じゃないか!お前、ここまで何しに来たんだ?普段は家に籠もっているだろうに。」

「おいっ。ああ、俺は阪急百貨店に服を買いに」

「マジで!?誰のためにこーたん?」

「ええと…おおおおおおおおおっ、おふくろとああああああああああっ、姉貴のため。」

「お前、むっちゃ噛んでるぞ。絶対嘘やな。まあ、別にええけどさ。ほな、また関学で会おう!」

「おう、じゃあな!」

…俺は、話し終えて思った。今、敬斗に、俺にも(事実上の)彼女が出来たことを伝えれば良かったじゃないか!ちょっとやっちまったな、と思いながら、電車に乗る。発車時刻は午後4時✕✕分。気づかなかったが、もう夕方だったらしい。空席はまばらで、行きよりは乗車率がやや高そうだ。電車は、定刻どおりに無事発車していく。

「ふうっ、疲れた」

俺は、ふかふかの座席のせいもあってか、ウトウトしてしまった。その間にも、電車はどんどん北へと向かう。

「…はっ!」

俺は目覚めた。電車は、普段よりもスピードがかなり出ていた。あたりを見渡す。普段とは全然違う景色だ。

「本日も、ご(誤)乗車有難う御座いました。まもなく、終点の日生中央乗り間違え乙日生中央にっせいちゅうおうに到着致します。お忘れ物のないようにご注意願います。…」

俺は乗り間違えた。詳しく説明すると、俺は本来、妙見口ミョーケングチゆきの電車に乗り、笹部駅ささべえきぃで下車しなければならなかった。が、誤って、日生中央めったにいかない場所ゆきの電車に乗ってしまったたのである。これはまずい。

 ドアーが開いた。多くの客が、続々と降りていく。俺は、隣に止まっていた山下ゆきに乗り換えた。電車はかなり古そうだ。

「なんでだよぉ。こんな日に限って、何で乗り間違えてしまうんだよ、俺ぇ。」

ちょっと悲しくなりながら、俺は電車に乗って、山下まで向かい、そこから笹部駅まで乗った。

 家につく頃には、日は山に隠れようとしていた。

「ただいま、ヨルンデ。何してたんだ」

家に帰ると、そこには本が散乱していた。

「なっ、お前。何をしていたんだ…?」

「ああ、本を読んでいたの。ニンゲンカイの、イルボンのね。ここは『ヒョーゴケン』の『カワニシ』というところなのね。初めて知ったわ。」

「うんうん、良かった。で、服も買ってきたぞ。本は片付けておくから、料理してくれよ。」

「ええっ、食材がないわよ。」

そうだった。俺は、レトルト食品しか買っていなかった。

「分かった。水曜日、大学帰りに野菜や米などを買ってくるから、その日以降は飯を作ってな。」

「はあい。んじゃあ、今日は初めてのニンゲンカイの『レトルトショクヒン』ね。」

彼女は、目を光らせていた。俺は、そんな彼女にほのかな恋心をときめかせていた。彼女は、おれの、ことを、すき、な、の、だ、ろ、う、か、、、、、、、、、、、?
【あとがき】
性癖えぐい
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