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R-15
ニ話『デートしようか』
 入学式の日──僕は学校を探索していた。

 特に当てもなくふらふらと校内を歩いていただけなので目的もない。あえて言うなら三年間過ごす学校に何処に何があるか知っておこうかなぐらいの気持ち。

 もっと言うとこれから新しい生活が始まるという期待感と高揚感が足を動かしたんだろう。このまま帰るのは勿体ないって。

 そんな感じで適当に歩いていると、校庭に着いたので、一休みしようとした時に偶然、彼女を目にした。

 校庭で目をキラキラさせながら何故か写真を撮りまくっていた佐城さん。一体何が楽しいのか端から見ても分からない。

 ただ……綺麗な黒髪を靡かせながら楽しそうに無邪気に笑っている彼女の姿に目が離せなくなった。

 そんな彼女に僕は惹かれてしまった。

 これが僕の初恋のきっかけだった。

 それからすぐに初恋は一応実った形になったのだが……。

「さて、それじゃあ早速デートしようか!」

「えぇ!? いきなり!?」

 何も脈絡もなしに唐突に放課後デートを提案してくる佐城さん。

 知的好奇心が強いのか、はたまた行動力が高いのか、あるいはその両方なのか彼女の突発的な提案に僕は驚く。

「うん、善は急げって言うし、それにあたしは今すぐにでも恋を知りたいの」

「そ、そうなんだ……」

「ほらっ、行こうよ!!」

 そう言って佐城さんは僕の手を引いて歩き出す。一先ずはなるがままに彼女に付いて歩く。

 自分の手汗で不快感出してしまわないかとか気にするけど、彼女は全く気にしてる素振りはない。

「ちょっ、待って、心の準備が……」

 正直、急に手を握られて内心ドキドキしている。それに彼女の柔らかい手の感覚が僕の心を狂わせる。

「そんなの必要ないでしょ? あたしたちは恋人同士なったんだから」

「いや、それはそうだけど……」

「それに、君があたしに恋を教えるんでしょ? 早く教えて欲しいなぁ」

 グイグイ引っ張られる僕をチラリと見やりながら、クスクスと笑う佐城さん。

 なんか完全に遊ばれてる気がする。とは言え、結局、僕はこの人に惚れてしまったのだ。

 そして何より、僕が恋をしたのはこの人の笑顔なのだから。

「はあ……分かったよ……」

「そうこなくっちゃ」

 そう言って微笑む彼女はやっぱり可愛かった。彼女の恋人になる以上、こういった無茶振りとか増えていくんだろう。それはそれでやっていくしかない。

「それで、どこに行くの?」

「んー、あたしは別にどこでも良いんだけどね」

「いや、そう言われても……」

 どうやら本当にノープランのようだ。

「あっ、じゃあ、あたしが行きたいところがあるからそこに連れて行ってあげる」

「それで、どこに連れて行くつもり?」

 無難にカフェとかショッピングモール辺りだろうと考えてた。軽く佐城さんの好みとか趣味を知って、今後のデートプランに繋げようとしていたが、僕の目論みは外れることになる。

「あたしの家」

「…………は?」

「あたしの家に行くの」

「いや、なんで!?」

 初デートの場所が予想の斜め上過ぎて頭を抱えたくなる。普通は四、五回くらい外でデートしてからお家デートじゃないのか。ぶっちゃけ他の人の感覚が分からないから四、五回でお家デートするのかすらも分からないけど。

 ただ初手でお家デートはあり得ない。というかハードルが高い。下手したら親に紹介される流れになる。

「だって、あたしは恋を知りたいんだよ? 恋人になったらまず最初に何をするの?」

「いや、まあ、それは……デートとか?」

「それもあるけど、ほらっ、恋人同士の定番と言えばキスじゃない? だからあたしは君とキスがしたい!!」

「いやいやいやいや、ちょっと待って!? 僕らまだ付き合って初日だよ!? いくらなんでも早すぎるよ!!」

「大丈夫!! あたしに任せて!!」

「何を任せろと!?」

「良いから行くよ!!」

 そう言ってまたもや僕の手を引っ張る佐城さん。

「ちょっ、本当に待って!? もうちょっと話し合おう!?」

「そんなの必要ないよ」

「どう見てもあるって!!」

「しょうがないなぁ~、百歩譲ってキスはなしとして、一先ずあたしの家に行くでいい?」

「何か間違っていると思うけど……それでいいよ」

「ほらっ、行くよ!!」

 結局、僕は佐城さんに押し切られる形で彼女の家に行くことになった。

 そうして校門前まで歩くと、突然佐城さんは立ち止まり、自分の鞄を漁り始める。

「どうしたの?」

「ちょっと探し物……あった」

 佐城さんが取り出したのは、四角い箱みたいなものだった。

「何これ?」

「フフフ、まあ見ててよ」

 不敵に笑いながら佐城さんは手に持っている四角い箱に付いているボタンを押すと、箱からギイギイと機械音みたいのが聞こえ始める。

 そのまま佐城さんは箱を地面置き、放置された箱は意味の分からない変形すると、まるでセグウェイに似た何かになった。

「……」

「これこそが沙知ちゃん万能アイテムの一つ『楽々移動くんバージョン10. 1』だよ」

「何そのネーミングセンスのないマシン……というかセグウェイだよねこれ?」

 得意気にドヤ顔をしている佐城さんにツッコミを入れる。

「確かに一見そう見えるが、甘いよラインハルトくん」

「いや、僕の名前は頼那だよ」

「このマシンは何といっても軽量で持ち運び楽なのと一時間充電すれば半日は走れる優れものなんだよ」

「話を聞いてよ」

「しかし、バッテリーの残量を確認できないという欠陥があるけどね」

「今時あり得ない欠陥だよねそれ?」

「いや~軽量化するのに拘り過ぎて、すっかり失念したよ」

 ハハハと笑う佐城さん。この会話だけでも彼女がどんな人なのかよく分かる。

「というかこれ佐城さんが作ったの?」

「これはお姉ちゃんとの合作、あたしが設計してお姉ちゃんが組み立てるって感じでね」

「なるほどね、二人で作っておいて、バッテリー残量を表示させるのに気づかなかったと」

「ハハハ、ホント笑っちゃうよね」

 二人して天然な感じがするけど、とはいえこんなものを作れるなんて佐城姉妹恐るべし。

「まあ、そんなことは置いておいて、ほら行くよ」

「ちょっと待ってよ佐城さん」

 彼女はマシンに乗って走り始めるから僕は慌てて彼女を追いかける。というかそれ一人用なんだ。

 僕が徒歩なのを一応考慮しているのか佐城さんはそれほどスピードを出していない。ただ徒歩で歩く僕とセグウェイ的な物に乗っている佐城さんが並んでいるこの状況は異常だった。

 他の通行人の邪魔にならないかとか、周囲から変な目で見られないかとか、色々と考えていたが、そんなことよりも一番引っ掛かっていることが一つある。

 彼女と一緒に下校ってこんなんだっけ!? 

「ねぇ……佐城さん……」

「そういえばライトくんの家って逆方向とかじゃないよね」

「今のところ方向は一緒だよ……あと僕の名前は頼那だよ……」

 この状況について彼女に聞こうとしたが、彼女は僕とは全く違う心配をしていた。あとまだ名前間違えてるし。

「あの……佐城さん……」

「なに?」

「他の人の邪魔になるし、それ降りない?」

 この状況を変えたい僕はもっともらしい理由を付けてそう提案すると、佐城さんはこの世の終わりみたいな顔をしていた。

「えっ!? 何その顔、こわっ!!」

「ひどっ!! ……ライブラリーくん、あたしに死ねって言ってきたんだよ!! そんなこと言われたらこんな顔にもなるよ!!」

「そんなこと言った覚えはないよ!! あと僕の名前は頼那だって!!」

「だってあたしにこの『楽々移動くんバージョン10. 1』に降りろって言ったよね、それはつまりあたしに歩けと言ってるんだよね!!」

「まあ、そうなるね」

「やっぱり、あたしに死ねって言ってるんじゃん!!」

「はあ!? 全然意味が分からないんだけど!!」

「あたし自慢じゃないけど、体力全くないんだよ、三分歩いただけで息上がるんだから!!」

「それは全く自慢なんかじゃないよね!! そんなどこかの光の巨人みたいな……」

 ウソだよねと言いかけたときにあることを思い出した。そもそも佐城さんと恋人同士になった切っ掛けは彼女が廊下で死にかけてたのが原因。

 僕たちの教室から彼女を連れて行った第二科学室までおよそ五分くらいで着く距離。

 そして佐城さんが倒れていたのは、その二つの教室のおおよそ半分くらいの距離。限界と言った三分くらい歩いた距離とほぼ合致する。

 これらから導き出される答えはただ一つ。マジなのか、佐城さん。

「一応確認するけど……今日廊下で倒れてたのって……」

 恐る恐る僕は佐城さんに確認をしてみる。きっと僕の予想は点で的外れなだけなんだよね。というか的外れで合ってくれ。

「それはもちろん、体力が無くて死にかけてただけだけど?」

「……」

 マジかよ、佐城さん。

 突き付けられた事実に僕は呆然とするしかなかった。

 僕が衝撃受けているのと反対に佐城さんは何言ってるのこの人みたいな顔をしている。

「何か……ごめんなさい」

「分かればよし!!」

 一先ず謝ると、満足げな顔をして許す佐城さん。

 そんな変な会話をしてあることを思った。

 もしかして僕はとんでもない人と付き合ってしまったのでと。
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