▼詳細検索を開く
作者: 犬物語
【音楽】ティンパニに頭突っ込んでください、ホルン音はずしてください
クリエイターってのは常に戦いの日々を送ってるのですよ

ライバルが多い業界でアタマひとつ飛び出すにはね、もうこんくらい素っ飛んでなきゃアカンのですよ

ンなこたぁないか
 おとたのしむと書いて『音楽おんがく』と書きます。古くは自らの身体を叩く打楽器にはじまり、そのヘンの貝殻や鳥の骨を用いた吹奏楽器などがあり、遠距離コミュニケーション手段でしかなかったそれが、いつの間にか音そのものを楽しむためのツールに変化していきました

 音楽は信仰と深く結びついています。いま、わたしたちが世界共通で楽しめる音楽は『楽譜』と呼ばれるもので設計されており、歴史をたどるとローマの人々が聖歌――神に捧げる歌――を揃って唄えるようになるため作成されたモノがモデルになっていますね。それからあれよあれよという間に進化を遂げ、5つのラインにオタマジャクシがちらほら浮かんでるあの景色はすっかりおなじみとなっております

 楽譜をもって曲を作る作曲家たち。だれもがオリジナリティー溢れる曲を世に送り出そうと躍起になり、楽譜のあちこちに音符をひろげ、みんなが使わないような楽器をつかったり、新しい奏法を注文したり、なんだったら「ここで指揮者が倒れる」とか「ティンパニ担当さん、最後にアタマから突っ込んでください(真顔」的なワケワカメ指示を送ってくる作曲家もいらっしゃいます

 いやマジで。だからさ、今回はそんな素っ頓狂な作曲家を紹介していこうと思うの





:指揮者は倒れ、ティンパニはアタマから突っ込まれる:

 アルゼンチン出身、ドイツで活躍した作曲家『マウリシオ・カーゲル(1931~2008)』は独特の演出を交えることで有名です。たとえば入場の仕方、演奏中に特定の表情をすること、演奏中に他の演奏者となんかすることなど、いうなれば"演劇的指示"が多かったのです。彼は音楽学校の試験に合格できなかったため、音楽関連に関しては個人レッスンを受け、作曲は独学で学んだようです。こういった経緯なので彼はガッツリ作曲ひとすじ! っていうよりは、まあ作曲家だけど映画作品の作曲をしたり、文学や哲学的要素をふんだんに盛り込んだりしたのですね

 上記ふたつはぜんぶ彼のしわざです。たとえば『フィナーレ』には指揮者に対する指示が書かれています

「指揮者さん、ちょっと指揮中に身体を硬直させてね。右腕は上にあげて、左手でネクタイを緩めて、胸をさすって――譜面台をつかんで、演奏を聞いてる人たちに頭を向けて倒れてください。まあ、譜面台はアナタの上に倒れ込むことになるね」

 こんな塩梅。音楽自体は25分弱なんだけど、18分ごろに、こう、なんか"デデン!"って感じのメロディーがあってそこから指揮者に異変が起きる。そっからきな臭くなってきて、なんか指揮者が妙なムーブを起こすようになって、けど演奏は続けられる。最後はちゃんとフィナーレ・・・・・まで演奏されていく

 指揮者不在で演奏を続けるなんともシュールな光景。演出だと知ってるからそうなんだろうが、当初の聴衆たちはどんな目で観てたのだろうね? あるいは「あれ? ――指揮者いなくても演奏できてるし指揮者いらなくね?」とか思ったんじゃなかろうか?

 いや実際指揮者の存在はおっきいので勘違いせぬように、どうぞ。楽曲は『カーゲル フィナーレ』で検索すればいくらでも出てきますのでどうぞどうぞ

 んでもうひとつ、彼の楽曲のなかに『ティンパニとオーケストラのための協奏曲』ってのがあります。これ、曲の最後にティンパニ奏者がティンパニに頭を突っ込むワケワカメな音楽なんだけど――だいたいカーゲルのせいです

 ティンパニ奏者、楽譜的には最後どんどん強く演奏していくのよね。クレッシェンド(記号は"<"。だんだん強くという意)してって最後はフォルティッシッシッシモな感じ。えーっと楽譜には『ffff』って書かれてる。fが"強く"という意味なのでまあ強くやるようだね

 んで最後にはなんとも親切に『ティンパニに頭を突っ込む』の図解付きで、しかも"fffff"の演奏記号で指示されております。あまりにも有名なので『カーゲル ティンパニ』で検索すれば出てくるレベル。みなさんも興味あるでしょうからぜひ検索してみてください

 なお、実際の演奏ではマジにティンパニぶっ壊すわけにいかんので、きちんと(?)表面に紙を張った『叩き破り用ティンパニ』を別途用意してございます。演奏者は最後、ソコに頭をぶっこんでエンドとなります。きっとアレだよ、ほかの演奏担当者が「あーやってるよ」的な視線で見届けてると思うのでその様含めてお楽しみください





:すべてがおかしい曲:

 学校でかならず習う『ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)』さん。オーストリア周辺で活躍したこの時代を代表する作曲家ですね

 彼は短い生涯のなかで大量の曲をつくりました。あまりにも多いので楽曲番号が振られています。たとえば『フィガロの結婚』は『K.492』という番号が振られています

 今回紹介するのはK.522――『音楽の冗談』と呼ばれるものです。原題は[ Ein musikalischer Spaß ]

 一般に「未熟な演奏者を揶揄した楽曲」とされていますが、モーツァルト自身はそう名言しておらず、その説の根拠となったこの曲の別名『村の音楽家の六重奏・農民交響曲』などはモーツァルトが没した後に名付けられたものです

 これはおもしろいのでぜひ聴いていただきたい。ふつうに『モーツァルト K.522』で検索すれば出てきますし、上記タイトルでも出てきます。いやいっそここでシェアりんぐかな。いちおう

YouTubeチャンネル、archiandr
ttps://youtu.be/hU-HwW3R2pU

 おそらく、メインターゲットにされてるのは『ホルン』演奏者でしょう。ホルンは「世界一難しい金管楽器」と呼ばれるほどで、っていうか実際ギネスブックに認定されるレベルの難易度で、プロの方でも演奏がむずかしいほどです。音のキーが4つしかないのに幅広い音域をもち、それらを口の形、息遣いなどで調整しなければならないとかどんだけだよっつー楽器。でも音がキレイなんで今後も使われ続けるでしょう

 世のホルン奏者に脱帽アンド敬礼でございます。曲の楽器構成は以下の通り

・ファイオリン
・ヴィオラ
・ホルン

 いろいろ調べたらどの情報源でも上記楽器が必須。ほかベース、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなどがあります。で、なんでホルンがターゲットにされてるかっつーと『ホルンの音程があまりにもアレ』って感じになってます

 魅せ所はことごとく音を外し、ハーモニーはぶっ壊し、意味のないところに響きわたり、モーツァルトさんホルンに恨みでもあるんかってくらい妙なバランス設計になっております。それを計画的に書き込めるモーツァルト氏の天才っぷりに脱帽。いやわたし専門家じゃないからわからんけど

 楽曲全体もなかなかジョークじみています。ちょっと専門的な感じになるけど楽曲は全体で20分程度。ソナタ→メヌエット→アダージョ→プレストという順になります。それらの解説は割愛するとして、それらの楽曲形式がどんなモノか? を知ってる方にとってこの楽曲を聴くと「ん?」ってなっちゃう部分が多すぎるのです

 不自然な『デンデンデン!』の繰り返し、本来の楽曲形式ではやらない転調、絡み合わないハーモニー、高音領域の演奏に苦労してる風、とくにホルンの魅せ場のズッコケ具合は素人でも昭和のお笑い番組ばりにずっこけること請け合いです。気になった方は楽曲の3分45秒あたりから聴いてみてください。ほんと初めて聴いたときズッコケたわ、こころが

 ああいう演奏までできちゃうってほんとプロだなぁ~って感じました



 作曲家は己のパッションを刻もうとしたり、あるいは聴く人のココロをつき動かそうとしたり、もしくはひたすら人の耳に残そうとありとあらゆるテクニックを楽譜に込めています。なかには今回紹介したようなスタイルで挑む方々もいらっしゃいますが、多くの作曲家はまっとうに? 曲を作成していますので、ぜひ安心して? ご聴取いただければ幸いです

 これを機にオーケストラの楽曲を聴いてみてはいかがでしょう? 世の中には「モーツァルトの楽曲はアタマが良くなる」という説もあるしっていうか心理学でもけっこー研究されていたりするし、クラシックを聴く習慣は用意しておいても損ではないと思います

 音を楽しむ。これは人間が開拓した娯楽です。犬や猫にとって音楽は"雑音"でしかないかもしれないし、その逆かもしれない。わたしたちはわたしたちが「たのしい!」と思える音楽を聴いて、たのしんで、みんなとその喜びを分かち合っていきましょう

 アナタの人生に音楽があらんことを
Twitter