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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百四七話 華陽の戦い 前篇
 魏冄の命を受けた将軍王稽は、華陽から撤退する魏軍を追撃するも、返り討ちに遭う。魏冄は魏軍に何か企みがあると睨み、それを利用する為、白起率いる別働隊に追撃を任せる。
 華陽 魏冄
 華陽の城外にて、魏冄は自身が率いる秦軍本隊で、魏軍を撃退しようと考えていた。
「本隊は五万で、魏軍も五万。敵軍は背後に後詰めも置いているようだが、率いる将は無名だ。烏合の衆は、私の敵に非ず!」
 魏冄は魏軍の芒卯と、正面衝突した。魏軍は中原の優れた重装歩兵を全面に展開して、秦軍の優れた騎兵の動きを止めようとした。しかし魏冄はあえて歩兵を広げて対抗し、歩兵の練度の高さと、重装歩兵と比べて高い機動力を活かし、陣形に穴を開けた。その隙間を突き刺すように、秦の騎兵が雪崩込み、本陣へ突撃した。
 魏軍はその一撃に耐えきれず、芒卯は逃亡した。
 逃亡した芒卯とを、魏冄の腹心であり副将の王稽は追撃した。魏冄は韓軍の現状を把握すべく、華陽城の中へと入った。

 王稽は騎兵で追撃を急ぐも、付近の森林で、伸びきった部隊の線を切られるように奇襲を受け、自ら剣を振るい敵を斬らなければならない程の、窮地に追い込まれた。
 なんとか少数の側近と共に城まで帰還するも、魏将芒卯を捕らえることはできず、魏の敗残兵の合流を許してしまったばかりか、大勢の味方を失ったことで、彼は自らを縄で縛って魏冄に詫びた。
「申し訳ありませぬ、穣候。どうぞ私を罰してください」
「いいや、追撃を命じたのは私だ。王稽よ、そなたに罪は無い」
「恩情に感謝申し上げます……!」
「気にするな。そなたの誠意は、その縄で巻かれ処罰を乞う姿からも見て取れる。ところで、魏軍は先程から、太鼓や銅鑼で、連絡を取りあっている。それがなぜか、分かるか」
「敗残兵をまとめ、撤退の準備をしているのではないでしょうか」
「いいや違う。敵は我が軍と、ここで雌雄を決しようとしている。かつて合従し我が軍を苦しめた芒卯程の優れた将ならば、とうに敗残兵をまとめ上げているはずだからな。本隊は歩兵の損害もあり、城内を掌握する必要もある。魏軍の迎撃は、白起の別働隊に任せよう」
「白起は政敵です。任せてもいいのですか……!」
「やつの求心力を落とす、良い機会かもしれん。まあ見ておれ」


 華陽 白起

 白起は森林へ進み、魏軍を探した。しかし日が暮れても、見つけることはできなかった。
「将軍、夜になります。城へ入りましょう」
「そうだな蒙驁殿。無防備な状態で夜襲を受けては、ただでは済まぬな」

 秦軍は翌日も、魏軍を見つけることはできなかった。
 この時魏軍は、斥候のみを残し、一時的に後退していた。
 芒卯は、暴鳶を討った白起に対する個人的な私怨を晴らしたいという思いがあった。そして、魏の将兵に対し、秦にも一矢報いることができるという体験をさせ、自信を付けさせる必要があるとも考えていた。
「趙に援軍の申請はしてある。我が軍は大梁が攻められる可能性は少ないと考え、全ての兵を動員している……。一兵でもいいのだ……。趙兵の力を借りて、秦軍を撃退してやるのだ……!」
 数日後、趙将の賈偃は、精鋭二万を連れて華陽付近の森林の外れで、芒卯と合流した。芒卯は隠していた後詰めと敗残兵を趙兵と合わせ、総勢十五万の軍勢で華陽へ進軍した。
「待っておれ白起。そなたの首を取って、亡き悪友の墓前に添えやる!」
賈偃(生没年不詳)……戦国時代、趙の将軍。
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