残酷な描写あり
R-15
第百二五話 思いついた攻略法
地図を作成し、地形を把握した白起。しかし攻めがたい地形である為、軍議難航する。
鄢 項叔
鄢にて黔中郡での戦況の報告を待つ項叔の許に、伝令が走ってきた。伝令は泥だらけの甲冑で息を切らしながら走ってきた。よく見れば流血もしており、戦況が芳しくないことが、容易に想像できた。
「報告、黔中郡の各軍は結集し決戦を行うも壊滅! 各城は陥ちました! 大将軍麾下の龍幼将軍も敗死しました!」
伝令兵は報告すると、気絶し倒れた。
「裏へ運べ。起きたら粥を食わせてやるのだ」
「大将軍、やはり敵は強く、我が方は打って出るべきではないように思います。このまま鄢に篭もりましょう」
「私もそうすべきだとは思う。だがな、このまま鄢に篭っていれば、王は焦り、出撃命令を出してくるだろう。我々はまだ大きな功を立てておらず、信頼が足りない。燕の楽毅のように、離間の計をかけられるやも知れぬ」
「それをするのは敵軍ではなく、昭陽という味方かもしれぬとは……情けない!」
「敵はここまで進軍してくる際、必ず川を渡る。そこで数度撃退出来れば、その小さな勝利が、王の信頼を勝ち得る大勝になるだろう。今はとにかく、戦うしかないのだ」
登城 白起
白起は斥候が作成した地図に目を通し、すぐさま砂や石で高低差のある地形を再現した。
将軍らと模型を眺めるも、誰もが閉口したままで、良い攻撃策は見つからなかった。
「かように複雑な地形なれど、川や沼地を崖が貫く形であることは一貫していて、兵を進められる道は狭く少ない。よって我が軍が攻め入れば、少数の敵兵に容易に防がれてしまう……。楊摎殿、そなたは兵法に見識が深いが、なにか案は思いつくか?」
「申し訳ございません。どう足掻いても、鄢にまで兵を進める算段が思いつきませぬ」
「左様か……」
軍議は解散となり、白起は鄢が東の方を見つめた。
「存外に冷えるな、齕」
「左様にございますね。南方は暖かいと聞いていましたが、寒いです。兵にとっては関中と同じ気候の方が体調を崩しにくくて、いいのかもしれませぬが」
「そうやもしれぬな。天が我らに味方しているように思えてきた。天か……生前、司馬錯殿と話したことを思い出した。司馬錯殿は、巴蜀に伝わる夏の時代の伝説について語ってくれた。天帝の子供である太陽を弓で射て、落としたのだという。神業だ」
「それは不思議なお話ですね旦那様。……旦那様?」
白起はなにかを閃いたような顔をしていた。
「巴蜀……神業……李冰だ。李冰ならば、この河川ばかりの山岳地帯を御する方法を知っているやもしれん!」
鄢にて黔中郡での戦況の報告を待つ項叔の許に、伝令が走ってきた。伝令は泥だらけの甲冑で息を切らしながら走ってきた。よく見れば流血もしており、戦況が芳しくないことが、容易に想像できた。
「報告、黔中郡の各軍は結集し決戦を行うも壊滅! 各城は陥ちました! 大将軍麾下の龍幼将軍も敗死しました!」
伝令兵は報告すると、気絶し倒れた。
「裏へ運べ。起きたら粥を食わせてやるのだ」
「大将軍、やはり敵は強く、我が方は打って出るべきではないように思います。このまま鄢に篭もりましょう」
「私もそうすべきだとは思う。だがな、このまま鄢に篭っていれば、王は焦り、出撃命令を出してくるだろう。我々はまだ大きな功を立てておらず、信頼が足りない。燕の楽毅のように、離間の計をかけられるやも知れぬ」
「それをするのは敵軍ではなく、昭陽という味方かもしれぬとは……情けない!」
「敵はここまで進軍してくる際、必ず川を渡る。そこで数度撃退出来れば、その小さな勝利が、王の信頼を勝ち得る大勝になるだろう。今はとにかく、戦うしかないのだ」
登城 白起
白起は斥候が作成した地図に目を通し、すぐさま砂や石で高低差のある地形を再現した。
将軍らと模型を眺めるも、誰もが閉口したままで、良い攻撃策は見つからなかった。
「かように複雑な地形なれど、川や沼地を崖が貫く形であることは一貫していて、兵を進められる道は狭く少ない。よって我が軍が攻め入れば、少数の敵兵に容易に防がれてしまう……。楊摎殿、そなたは兵法に見識が深いが、なにか案は思いつくか?」
「申し訳ございません。どう足掻いても、鄢にまで兵を進める算段が思いつきませぬ」
「左様か……」
軍議は解散となり、白起は鄢が東の方を見つめた。
「存外に冷えるな、齕」
「左様にございますね。南方は暖かいと聞いていましたが、寒いです。兵にとっては関中と同じ気候の方が体調を崩しにくくて、いいのかもしれませぬが」
「そうやもしれぬな。天が我らに味方しているように思えてきた。天か……生前、司馬錯殿と話したことを思い出した。司馬錯殿は、巴蜀に伝わる夏の時代の伝説について語ってくれた。天帝の子供である太陽を弓で射て、落としたのだという。神業だ」
「それは不思議なお話ですね旦那様。……旦那様?」
白起はなにかを閃いたような顔をしていた。
「巴蜀……神業……李冰だ。李冰ならば、この河川ばかりの山岳地帯を御する方法を知っているやもしれん!」