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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百六十話 白起、義渠涼を処断す
 義渠県を平定して咸陽へ帰還した白起は、宮殿の義渠涼を捕らえる。
 白起は、武器を手にして暴れ回る板楯族を皆殺しにした。馬から落とされ、統率なく暴れる板楯族は、最早秦兵の敵ではなかった。
 白起はその後、武霊城の包囲に参加した。
 武霊城の義渠の兵は、幾度となく騎馬で出撃をするも、司馬靳の歩兵に阻まれ、突破できなかった。
 数日後、楊摎、胡傷、張唐の軍は本軍に合流し、義渠の首府武霊城を完全に包囲し、兵糧攻めにした。
 白起は武霊城の民の安全と、兵糧を分け与えることを約束し、開城させた。
 義渠県を完全に下し、秦軍は咸陽へ帰還した。

 白起は帰還するや否や、秦王の命令で、宮廷内で兵を率い、義渠涼を捕縛させた。 
 白起は満足であった。念願の板楯族への復讐を果たしたばかりか、この手で、義渠涼を縄で縛ることができたのだから、喜ばない方が難しいだろう。

 後日、白起は秦王より、義渠涼を処断するように命令を受けた。
 秦王は、白起が義渠涼に対しての私怨があることを知っていた。白起の心を掴む為、義渠涼の処断の号令をかける役目を与えたのである。
 白起は、処刑場にて、縄に縛られながら正座をする義渠涼を見て、ほくそ笑んでいた。
「義渠涼よ、私はそなたを義渠県令とは呼ばぬぞ。義渠県は既になく、そなたはただの反逆者だからだ」
「下らんことを長々と話すな。早う殺せ」
「そうはいかん。そなたには、怒りがある。秦は義渠国に苦しめられた。私もまた、故郷を板楯族に襲われ、故郷は死屍累々の有様となったのだ。板楯族に私の故郷を襲わせたのは、そなたら義渠の鼠どもだ」
「強き者が弱き者を食う。それが世の倣いだ」
「左様。私が舐めた辛酸など、そこら中に転がっておる。そなたのように、亡国の君主が国を失い無様に死ぬことさえも、ありふれていることだ」
「貴様……! もういい! さっさと首を刎ねろ!」
「首は刎ねぬ。すぐに死ねると思うなよ、外道め! 誰か! 四肢を馬に繋げい!」
 白起は、車裂きの刑をいい渡した。それは、かつて蘇秦も処された処刑方法であり、国家転覆を狙った逆賊が処される、最も重い刑罰の一つであった。
 義渠涼は、四肢を紐で縛られ、その紐が四頭の馬に括り付けられる。そして馬はそれぞれ体とは反対方向に走り出し、義渠涼は呻きながら、体が引き裂かれ、死んだ。

 その後、義渠県の跡地には、上郡と北地郡が設置された。義渠の民には改めて秦の法を発布し、これからは、郡守の意向による例外などないということを認識させた。秦王はこうして、彼らが真に秦人となる様に、中央の役人を派遣した。
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