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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百十五話 宣太后、魏冄を呼び出す
 白起が攻撃目標を趙から韓へ変えたことを、魏冄は、不忠だと謗るが、秦王は不忠ではないと否定する。
 宣太后は魏冄の反抗的な態度に怒り、魏冄を叱りつける。
 白起は前線から咸陽へ、戦況報告を行った。そこで趙ではなく、三晋の南端である韓の地へ攻撃目標を変える旨が記載されていた。
 秦王は軍事の全権は国尉に帰属するとし、白起の行動を認めた。
 しかし魏冄は、それに反対をした。
「臣下を信用するのは正しいことです。しかし、秦軍の貴重な兵力の大半を率いる国尉が、国策である趙攻略の変更を事後報告したというのは、一大事です。仮に今反乱を起こされれば、どのように対処するのですか。国内に兵は少ないのです。大軍の兵権を有しているのであれば、なに事も王へ伺いを立て、忠誠心を表すのが筋というものです」
「丞相よ、確かに一理あるがな……」
 秦王はため息を吐いた。戦況は刻一刻と変わるものであるというのは、魏冄ほどの将軍であれば、分からないはずがない。魏冄が派閥争いに焦り、今更、求心力を高めようとして臣下の道を説こうとしているだけであるのは、秦王の目には明らかであった。
「国尉というのは軍の主だ。軍のことは全て白起に委任している。それは余の意思であり、此度の国尉の判断に不忠の要素は一つもない」
 秦王は終始、魏冄の不満そうな態度に、気だるさを感じた。

 朝議の後、朝議の様子が宣太后の耳に入った。宣太后は激怒し、魏冄を宮殿の自室に呼び寄せた。
 魏冄は憂鬱そうに部屋に現れ、席に座った。魏冄は萎縮していた。宣太后は一言目から、声を荒げた。
「あなたは幾つになっても、自分が一番可愛いのか! 君臣が一つに纏まりだしたというのに、連日、朝議で秦王に対立しては、それを乱していると聞くわよ!」
「王を諌めるのも臣下の務めです! 臣下である前に王の母親である姉上には、それが分からぬのですか!」
「無論分かっているわ。その上であなたの諫言が、的外れで、王の利ではなく己の利の為であると言っているのよ!」

 激怒する宣太后の相手に疲れた魏冄は、部屋を出た。
 宣太后は羋戎を呼び出した。
 やがて現れた羋戎へも、宣太后は同様に激怒した。
「どうして冄に最も近いはずのあなたが、冄を諌めてやれないのよ!」
「幾度となく兄上を諌めたことはあります。兄上の、幼い男女を好む悪癖を諌めました。しかし治ったと思えば、美女を数人を同時に侍らせ、幼くなければ良いのだと言い出す始末。それでは殷の紂王と変わらぬと諌めれば、聞く耳を持って、以後はなくなりました」
「あなたの言うことなら聞くという実例ではないか。どうしてあなたは、王を支えるようにと、冄に伝えてあげないの!」
「姉上! 私とて考えというものを持っています。良いですか、即位から合従軍による侵攻、白起の登用に至るまで、私や兄上の功績は大きい。にも関わらず姉上は、もっと秦王様へ遜(へりくだ)れとばかりいう!」
 羋戎の不満を聞き、宣太后の怒りは更に増した。宣太后は「この不忠者が!」と吐き捨て、羋戎を部屋から叩き出した。
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