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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第七三話 蘇秦、喬と過ごす
 喬を女給として側に置いた蘇秦は、彼女に、魏冄を黙らせ秦を合従軍に引き込む必要について話す。
 蘇秦は喬を女給として側に置き、より一層、政務に励んだ。全ては、燕の復讐を果たす為。しかし政や策略というのは、そんなに簡単なものではないと、彼は知っていた。
 それには、大国の斉を滅ぼす為には、六国全てが手を取り合い、合従することが必定だ。普段は敵対する全ての国が納得し、互いのことを信用して多くの金と人の命を費やす為には、この合従の前に、それ相応の成果を出す必要があった。

 蘇秦は政務を執り終えたのち、寝所に入った。喬の膝枕に頭を乗せ、くつろいでいた。
「ねぇ秦、その合従というのは、どうして、すぐにできないの?」
「理由は色々とある。互いに敵対している国同士が、力を合わせる為には、互いの背を襲わないと信じられるほどの利が必要なのだ。合従し、ともに同じ敵と戦っているあいだは、それが最も大きな利益である必要があるのだ。そうであれば、誰も小さな利の為に仲間割れを起こそうとはしない」
「その利というのが、大国の斉を滅ぼせるということなのね」
「そうだ。だがそれだけではない。多くの資金を国庫から出しても、それを上回る財宝が回収できる。それが全ての国の王を納得させられる。しかし……」
 蘇秦はそういうと、喬の膝枕から頭を起こし、隣に座った。
「しかし……ってことは、他にも問題があるの?」
「今、最も天下の均衡を乱しているのは、西の大国秦だ。秦は、斉を滅ぼせば、天下において実力が並び立つ国がなくなる。それは一見すると大きな利益だが、そうではない。それは第二の斉として、他の国に攻められる結果を招くだけなのだ。だから秦の魏冄は……合従軍の妨げになるような攻撃を、他国に行っているのだ」
「魏冄という人は……賢い人なんだね」
「信用できぬ楼緩を罷免させたはいいものの、魏冄は賢すぎて、一筋縄ではいかぬ。だが魏冄を御する方法はある」
 そういうと蘇秦は、喬が差し出した茶を手にとり、少し飲んだ。
「魏冄はその賢さ故に、身を滅ぼすことになる。秦は今、宮廷が割れているが、魏冄は自分の地盤が絶対でないことを分かっているから、公の金よりも、私財にできる賄賂や領地の拡大を好むのだ。数ヶ月間、韓や魏への侵攻が止まっているのも、表向きは合従の為だが、本心は賄賂を貰ったことで攻めるのを憚(はばか)っているだけなのだ」
「秦……私は政については詳しくないし、女だから難しいことはよく分からない。でもね、あなたが必ず勝つと信じてる。だってあなたは……私が出会ってきた人の中で、最も賢く、最も志が高い人だから」
「ありがとう」
 そういうと蘇秦は、再び膝枕に頭を乗せた。
「魏冄を丞相の位から引きづりおろし、魏冄を再任した秦王の面子も汚しながら、混乱の極みとなった秦国をさっさと合従軍に引き入れてやる」
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