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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第四九話 伊闕の戦い 三
 白起は一部の部隊に戦術的撤退を命じる。それを攻めようとする周、韓、魏軍だったが、機を逃す。
 洛陽 周陣営

 魏、韓、東周は新城への攻撃の際、誰が先鋒を担うかで口論となっていた。先鋒は最も功績を立てやすいが、最も被害が出やすく、韓と魏は、宗主国である東周にその役目を負わせることを避けた。しかし、互いに国力を大きく削られているため、その役目を擦り付けようとしていた。
 そんな中、急報が届けられた。
「報告! 新城の秦軍五万が、関中へ撤退を始めました!」
 魏将公孫犀武と、韓将暴鳶は唖然とした。
「城壁を破壊できぬと考え……策を練り直すつもりなのか……?」
「それは分からぬが……公孫犀武将軍、今すぐ城を出て攻めましょう!」
「しかしどこの軍が先鋒なのだ、暴鳶将軍よ!」
「どこでもよいわ! 戯け!」
「なんだと!」
「えぇいもういい。先鋒としての手柄は魏軍にやろう。我が韓は、急いで兵馬を整え、後方から新城を攻めよう!」
「挟撃か……よかろう! 急いで兵馬を整えられよ!」

 韓は洛陽に向かわず国内に待機していた五万の兵を動員する為、早馬を出した。しかし全く予想していなかった事態に際し、準備は遅れた。
 白起の予想通り、彼らは撤退する秦軍を襲うという勝機を逃したのである。
 その後魏軍は、韓との挟撃作戦を見限り、三カ国連合軍は洛陽を出て新城へ向け出撃した。


 新城 秦陣営

 洛陽を出た敵軍を迎え撃つ為、将軍任鄙は崖上から伊闕を見下ろして矢を射掛けた。それを抜け、崩れた崖を駆け上がって攻める敵軍を、将軍任鄙配下の五百主胡傷や張唐が迎え撃った。
 その配下の百将驁は部隊の先頭に立ち、自らも戟を振るい懸命に戦った。返り血を浴びても威勢よく声を上げ、誰よりも多くの敵を斬った。
「屍の山で、渡河できぬようにしてやるのだ! !」
 驁に続き、周囲の兵も勇ましく戦い、遂に敵軍は渡河できずに撤退を始めた。

 その動きを城壁から眺めていた総帥の将軍白起は、屍が積み重なる血で染った河に、目を奪われた。
「河のお陰で敵軍は足取りが悪く、迎撃され屍の山を築くに至った。水が……戦の役に立った。命を育むはずの水が……命を奪った……!」
「報告! 伊闕の崖を迂回した敵軍と、任鄙将軍本隊が交戦中です!」
「想定内だ。城内の兵二万を連れて、援護に向かわせろ」
「御意!」
 命令を下した後、白起は腕を組み戦場を見つめながら、呟いた。
「ここで敵を挫くだけでいいのだ。ここで注意を引けば、新たに出撃した秦軍が、兵力の乏しい魏国を奇襲する……!」 
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