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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第三九話 函谷関の戦い 十
 隴関、函谷関では死闘が続く。総帥羋戎は隴関にて奇策を用いて徹底抗戦をするも、函谷関の司馬昌は魏将に遅れをとっていた。
 投石器は通常、城壁や関の壁、櫓(やぐら)を破壊するための攻城兵器であり、それを人に使うことはなかった。しかし、入れ知恵をされた凶暴な蛮族相手に、人道など無意味だと、総帥羋戎は考えた。
「秦は虎狼の国……追い求めるのは、勝利のみである! 副官……!」
「ここに!」
「敵を蹴散らし、人員の確保ができれば、あれを使え。ここにあるすべてのあれを……兵器ではなく蛮族めがけて使え」
「……御意!」

 将軍任鄙が敵本陣を攻めあぐねる中、総帥羋戎は、板楯族の攻城兵器を破壊し終えたのち、床弩と呼ばれる兵器を用意した。これは巨大な弓を台に固定し、数名の兵士が弦を引き、巨大な矢を数本同時に放つという兵器であった。
 こちらも通常は攻城兵器として用いるものである。総帥羋戎はこれに火を着け、数台同時に弦を引き、構えた。
「蛮族の強みは馬に乗り、死を恐れず突撃する蛮勇にある。城攻めは兵をよく調練し、同じ目的のために互いを信じ合い、役割を分担し初めて成し遂げられる攻撃なのだ。それは蛮族にはできぬ。蛮勇と馬の速さは城攻めには役に立たぬ。義渠県令よ……尻尾を捕まれまいとして、己の兵士を参加させなかったことが……そなたの敗因だ。……やれ!」
 床弩から放たれた巨大な火矢は、板楯族の体を貫き、串刺しにした。肉が焼ける臭いが周囲に立ち込め、赤黒い流血の海には、破損した体が浮かんでいた。

 将軍任鄙は弱体化した板楯族を徹底的に攻めた。
 玉が輝く剣を振り、手負いの板楯族を斬り、叫んだ。
「これは白家村への復讐!」
 背を向け逃げる板楯族を斬り、叫んだ。
「これは李雲らを追い詰めたあのときの復讐!」
 武器を振りかぶる板楯族を突き刺し、首を跳ねて叫んだ。
「これは秦を攻めるすべての敵への報復だ!」

 トサカのような被り物を付けた板楯族の指揮官は、馬を射殺され、落馬した。任鄙の命令で、逃走を諦めたトサカの男を捕縛しようとする秦兵だったが、トサカの男は自らの首を鎌で切り裂き、自刃した。
「トサカのようなものを身につけた複数の男は、いずれも指揮官のような立ち回りをしていた。今自刃した男が、この軍の総大将であったか……!」
「任鄙様! 蛮族が退いていきます!」
「総帥の命令だ。追撃し、再起を測れぬ程の打撃を与えるぞ!」
 こうして隴関戦線は秦軍の勝利に終わるも、一夜にして両軍ともに犠牲が激しく、勝利の為に負った傷はあまりにも深かった。また隴関は一部が破損し、その一帯も荒廃した。そのため、しばらくは復興のため、封鎖されることとなった。


 函谷関 合従軍

 他戦線と異なり、函谷関は陥落していた。司馬昌と異なり、魏将の芒卯、公孫犀武は将としての経験値が高く、数日の決戦を経て司馬昌の首を跳ねていた。
「父親の面汚しめが! 司馬錯大将軍であれば、かような醜態を晒すことはなかったのだぞ、このボンボンめ!」
 芒卯は司馬昌の首を前にし、嘲笑った。
 公孫犀武は、秦兵を掃討したのち、補給のため函谷関内部の城である塩氏城を陥した。そして、略奪の限りを尽くした。
「犀武よ、あとは本国からの援軍を待つ。あるいは秦との交渉を有利に進めるあいだ、ここに留まるのみだな」
「左様にございますな。函谷関という要害を失ったのであれば、虎狼の国も、牙や爪を失った……猫に過ぎませぬ!」
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