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作者: 葛城 隼
残酷な描写あり
第23話 気楽にアメでも
「という訳でぷらなはリンカー能力者でした」

 僕です、我妻 タマキです。何故か桜川病院にいた再寧さんに、今日ちょうど会いに来たぷらながリンカー能力者だった事を成り行きで伝える事になりました。

「……は、はぁ〜ん? それで、なぜ私にそれを?」
「私、変な男の人に襲われたんです! リンカーとかいう漫画みたいなバトルモノまでやって! 『土偶・アマグラ』とかいう人がやったって言ってました! お巡りさん達もリンカーなんでしょ? また襲われたらどうしよって、タマキちゃんと相談してそれで! ね!?」
「あっ、ハイ」
「お人形のヒカリちゃんが実はリンカーで大きくなれるのも聞いたし!」
「どうも」

 いやそりゃ色々聞かれましたけど……! でもこう、再寧さんにも立場というものがありまして! 『ドグラマグラ』が狙ってるって聞いた時点でリンカー能力者だと予想はついたけど、教団の事は言えないし、やっぱこんなにキャピキャピしてる人巻き込めないよ〜!
「どしたの? あ、もしかしたら何か言いたい事あるんじゃないの?」
「えぅっ、あぅっ」

 どうしたものか。自分の頭の中に言葉を閉まってオロオロしてたら、再寧さんは毅然とした態度で話し出す。

「ぷらなさんと言ったな」
「はいっ!」
「いい返事だ。いいか、君は民間人だ。タマキさんも、ヒカリさんも。そんな市民を守るのが我々警察の役目だ。もし今度リンカー能力者に、そうでなくとも不審者に襲われたら、遠慮なく私達に通報してくれ。必ず力になる」
「けど警察が来るのだって、時間が……」
 再寧さんは、言葉を遮るように手のひらを前に出す。指を5本、立てているのだ。

「5分だ。それを言われると確かに悔しい。だが我々は5分で到着してみせる。聞けば君の能力は移動に応用が利くそうだな。それで今回もまずは逃げ回ったとか」
「あ~、そうですね! 5分ぐらいならシュバっ! って逃げられます!」
「必ず来てみせる」

 再寧さん、自信満々だ。確か警察が到着する目安は5分だけど、実際には平均8分とか聞いたことがある。それを目安の方だけを伝えて安心させようとするのはやっぱ、再寧さんの正義感のおかげかな。

「いいじゃないか華蓮先輩!」
 水を差す!

 『華蓮先輩』と呼んだのは、ずっと再寧の隣にいた探偵風の格好をした女の人だ。
 深里みさとさん。以前、僕の家に襲撃することになって返り討ちに合った人物。
 ……正直、僕とヒカリからの印象は良くない。

「彼女は貴重なリンカー能力者、戦力だ! 聞けば彼女はパワータイプのリンカー。前線に立たせてグフっ!?」
 肘打ち!?
「お前はいい加減その名探偵ごっこを直せ、ハリボテ探偵が」
 なんて酷い呼び方……。

「ていうか……深里さん、でしたよね?」
「名前を覚えて頂いて光栄だ、我妻さん」
「あっ、ハイ」
 ケロっと直ったな。
「再寧さんと貴女は、先輩と後輩、なんですか?」
「中学時代からの先輩さ、素敵な縁だろう」
「残念なことに敬語も使えないポンコツだ」
「心を許した間柄さ」
「私は許さん」
 スゴくズレてるなぁ……。

 ともかくと、再寧さんが手を叩いて話を切り替える。

「ま、そういう訳だ。君は何も気にせず過ごしてくれればいい。そうだろう、タマキさん」
「あっ、ハイ!」

 僕に目配せを……。やっぱり再寧さんとしても、ぷらなを巻き込みたくはないんだろうな。

 そもそもぷらなのリンカー……『ラブずっきゅん』、とか言ったっけ? 変な名前だけど……。
 こんなに等身大キャピキャピJKなぷらなが、まさかそんなパワフルなリンカーだなんて。もっとこう、『幸せになりますように〜☆』みたいな感じかと思ってた。それが『触れたものを吹っ飛ばす』とかいうやつらしい。

 強い力がぷらなの願いって事なのかな? なおさら自分の力を過信して無鉄砲に突っ込んだりなんて……。
 上手いことぷらなが平和利用しないか……! こう、それとなく誘導できないものか……!

「あの、ふとした質問なんですけど……」
「なんだ」
「あっ、戦闘向きじゃないリンカー能力もあるんじゃないのかな~……なんて。超能力でいうのなら透視みたいな、あっ、あと僕らが戦ったティナなんてリンカーのビジョンが本人と同化してたし、能力プラスそういうのだったらロクに戦えないよな~……って」

 再寧さんが口に指を当てて考えてる。深里さんも首を傾げて。やっぱそんなの無いのかな……?
「「確かに~……!」」
 めっちゃ納得するじゃん……! しかも二人揃って!

「安心して! 私がタマキちゃんの前に立って戦うから! 『土偶・アマグラ』なんてボコボコにするからっ!」
「えっ、怖っ、色々と……」
 若気の至りが起きませんようにっ!

 *

 そんな事があった次の日の昼休み。
 退院初日だけあってか、ぷらなはクラスの人達に囲まれていた。その華やかさはまるで、お祝いの花輪のようだ。

「調子どうなのー?!」
「バッチリだよ!」
「おー、じゃあ放課後空いてる?」
「ちょっと用事あって!」
「いまイカスタで流行ってるヤツ知ってるコレ?」
「ヒマ過ぎてずっと見てたわ!」

 なお僕は……蚊帳の外である。教室の隅で本を読むフリをしながらずずぃーっと体を寄せて聞き耳立てていた。

「タマキ」
 そんな僕に話しかけたのはそう、カバンの中のヒカリだ。
「せっかくお友達のぷらながやってきたのに、話しかけないなんてあんまりじゃない」
「あっ、いやその、違くて。あんな超キラキラ陽キャ空間、直視しただけで光になって消える」
「いやそういう? 話しかけたいのと、目立ちたくないの。その両方があるんじゃないの?」
「あっ、イヤ……ぷらなと話したい……ですけども」
「なら……」
「タマキちゃんっ」
「ひゅっ!?」
 そんなこんなしてたらぷらなの方から話しかけてきた。あまりに突然でいつもみたく奇声を挙げてしまった。
「ホントリアクションが独特……。あ、一緒にお昼なんて、どう?」
「えっ、はっ、へっ!?」

 奇跡か!? 僕が誰かとお昼ご飯を共にしていいのか!? しかも、ぷらなに誘われて!

「ぜひっ! ぜひぜひぜひぜひっ! 勝負っ!!」
「勝負!?」
 片腕でヒカリを抱え、その手で弁当を持ち、もう片方の手でぷらなの手を取り、いざ連れ出す!

「って、教室じゃないの!?」
「あっ、ハイ! あっ、僕はいつもここで昼休み過ごしていまして……」
 階段下で……!
「階段下……!?」
「あっ、ちゃんと掃除してるので安心ですよ」
「私ら二人でいつも掃除してるのよ」
「あ、ヒカリちゃん……。そ、そうなんだぁ〜……」

 な、なぜ階段下に対してそんなビミョーな反応を……!?
 そうか! 明るく振る舞ってるっていっても、それがムリしてるってワケじゃなくてやっぱ明るい場所がいいんだ! こんなところ受け入れるの僕みたいな根暗ぐらいなんだ!

「冗談でぇ〜す……」
「えぇ〜!? ちょちょっと、いいよここで大丈夫だからっ!」
「ふふっ、二人揃って賑やかね」
 ヒカリが他人事みたいにぃ〜……! いや他人事ではあるかも……。

 そうこうして机を合わせてお弁当タイム。
 ヒカリも等身大サイズになって僕の机に肘をつき……。
「あっ、卵焼き食べる?」
「いただくわ」
 ぱくり、もぐもぐ。美味しそうに頬張るヒカリ。

 そんなこの子をぷらなが不思議そうに見つめていた。
「リンカー……なのよね?」
「ちょっと特別みたいだけどね……」
「私とタマキ。繋がりはあるけど私、タマキから完全に自立した存在みたいなのよ。コントロールされてるでもなく、けどタマキの能力──『ユートピアユー』から誕生した、自由な友達。それが私」
「へ、へぇ……? わかんないけどわかったわ」

 ああ、多分仲間ができる度にこの「何言ってんだこいつ」みたいな反応が来るな……。

「まあ要するに仲良しの友達みたいな感覚よね? 私の『ラブずっきゅん』なんて、行けー! て思ったら動いてくれるし、全然違うのかな?」
「そうね。私はいくらでも逆らえるわ」
「ひ、ひどい……」
「あはは、ホントに仲良しさん! 気持ちが通じ合ってるなんて羨ましいなぁ~。タマキちゃんは控えめな子だものね、なんで?」
「えっ、コミュ症に理由なんていりますか?」
「え、なんかゴメンなさい……」

 まずい、うっかり圧を出してしまった……! ぷらなはつい謝ってしまってる、そんな自分に疑問も抱いてる! なにかこう、気の利いたジョークでも……!

「ウッ」
「「う?」」
「…………ソでぇ~す……。ただなんかこう話すのが苦手なだけでぇ~す……」
「「……へぇ~」」
 クッソ大失敗!

「それより。ぷらな」
「なぁに、ヒカリちゃん?」
「最近、いや、入院する前かしら? 変わった事とかなかったかしら? 単刀直入に言えば、私らみたいなリンカー能力者なんじゃないかって不思議な現象とか」
「あー、そうねぇ。最近の変わったところといえば……あ」
「おっ?」
「あの人そうだ……そういえばおかしいわ……!」
「何かしら?」

 まさかこんな簡単な切り出しで情報を得られるのか……!?
 ゴ……ゴクリ。とか心の中で言ってみたり!

「いつも……キャンディ舐めてるわ……!」
「ただの糖分過多っ!」
「ま、こんなものよね。教団のことは再寧さんに任せて、焦らず調査するが吉ってところね」
「また向こうから敵が来るかな?」
「あっ、さすがに僕らの調査も終えただろうからその可能性は低いと思います……」
「そうなの?」
「タマキはこういう時、ちゃんと考えてる子なのよ」
「ウヘヘ、ありがと」
「変な笑い方……」
 ぷらなにツッコまれた……。
「あ、ウワサをすればなんとやら!」
「うえっ!?」

 ぷらなが手を振るその方向には、金髪で頭のてっぺんだけ染まってない、あのプリン頭と呼ばれるギャル!? そして手には棒付きキャンディ……さっきぷらなの話で出た人!?

「おー? 何やってんのこんなトコで」
「秘密基地みたいでいいでしょ!」
「退院すぐでハシャいでんねー」
「だってだって! ず~っとお友達とのお昼ご飯に憧れてたもの!」
「それでここかよー」
 ギャルは僕なんぞに興味を持つはずもなく……。
「てか双子だれだよー」
 目をつけられた!?
「わっ……ひゃ……怪しい者では……」
「怪しすぎー」
「この子タマキちゃん! こっちは双子の……妹だっけ?」
「姉よ。私ヒカリ」
「どもー。あたしゃ胡桃くるみ
 ぷらなとは真逆に一般的な名前……。
「あっ、苗字とか……」
「んー? 森永だけど」
「あっ、じゃあ森永さんで」
「そんなん気にすんなしー、くるみでいーよ」
 距離感バグってるんか?

「ま、気楽にアメでもどう? 双子ちゃん、なんか肩に力入りすぎってか? タマキはなんか子犬みたく警戒してるってか?」
 ついでにヒカリも巻き込まれるし。
「ちょっとね。変なヤツを調査中なのよ。私たち、学校の正義の味方同盟」
「双子どっちも変なヤツじゃーん」
 否定できないし……!
「それこそもかがさぁ~、最近変なヤツを調査中っていうか? アイツ、目立つじゃん? それも一人を相手にしてっからさー」

 一瞬の硬直だった。
 くるみさんの言葉に、僕ら三人は顔を見合わせた。
「もかさんって、神子柴 もかさんが?」
「そりゃもかはもかよー。……え? なに?」

 *

「その調べてる人が……ここか」

 放課後、僕らは外の女子更衣室に来ていた。場所は校庭脇の倉庫みたいなトコだ。星乃花高校のスポーツ部は、ここで部活動の準備をしてる。

神崎 巳華かんざき みか。テニス部の2年、副部長。寡黙でクールな人だとウワサされてて、才色兼備の美少女。前部長、現部長の両名を陰ながらサポートしてきたとか。そのミステリアスで献身的なところから男女共に人気……てな感じ」
「スゴーイ! 放課後までの間によくそんなに調べたね!」
「あっ、へへっ、大した事じゃないですよ……。あっ、写真はコレです、共有しますね……」
「ポニテの美人お姉さんって感じね〜」
 褒められて悪い気はしないかもなぁ……。ただ、あと一個、問題が。

「じゃ、早速調べましょ」
「うん!」
「あっ、じゃあ僕は外で見張って……」
「タマキ、アナタに来てもらわなきゃ」
「うぐっ」
「私が見張ってるね!」
 あれよあれよとぷらなが見張りを代わってしまった……。

「あっ、あとね、二人とも!」
「ふぅっ!?」
「何かしら?」
「あっ、あのね! このあとどこか遊びに行かない? とりあえず、神崎先輩のロッカー調べ終わったらでいいから!」
「あっ、ハイ」
「いいわよ」
「やった!」
 二つ返事だな僕ら……!

 そうしてぷらなはキリリっ、と脚を肩幅ほど開いて見張りを始める。
 ……なんか、妙に嬉しそう? なんで? 遊びに行けるから?

「じゃ、ロッカー開けるわよ」
「あっ、ハイ」
「で、なんでさっきから目を伏せてるわけ?」
「いやあの女の人の着替えとかそういうのを見るわけにはいかないといいますかですね……」
「何照れてんのよ、スケベねぇ」
 開けたっ、音っ!
「ほらほらほら大した物入ってないわよかえって困るわね教団会員カードみたいなの無いのかしらね」
「ぎえっ!? 布当たった布!!」
「タオルよ、パンティじゃないわよムッツリタマキ」
「てか人の物をポイポイ投げたりなんて……」

 思ったより何もないんだと一安心。ヒカリの投げ捨てたロッカーの物を拾おうと、覆った顔を上げる。
 ふと目についた。長方形のゲーム機みたいな、妙な機械。
 何だこれ?
 そう思って拾おうと、手を伸ばす。

 

「コイツ……!? いつから!?」
「え? ……タマキ!?」

 葉っぱのような筋が目立つ両手、両足の指で、ソイツは重力をムシし、ロッカーを垂直に這っていたのだ。人型のフォルムだ。
 音もなく、気配もなく。表情の伴っていない顔を、空洞となっている口に当たる部分を拡げて僕らへ向ける。──まさに、食虫植物のように!

Horororrrホロロォォォ!!』

 リンカーだ! 神崎 巳華のロッカーを守るようにして、現れたのか!?
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