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作者: 葛城 隼
残酷な描写あり
第6話 ありがと
「コイツに間違いない、ウチを襲ったヤローだ! けど変な事はしなかったタマナシヤロー!」
「輪ちゃんに手出ししてたらマジのタマナシに……いや女の人だよ!?」

 敵リンカーの本体はすぐに意識を取り戻した。探偵の格好をしている自分がいきなりグルグル巻きに、しかもリンカー能力を使う為の手を使えぬよう雁字搦めに縛られているというのに、全然慌てる様子はない。というより、納得さえしているような、そんな大人しさであった。

「あのだな。年頃のレディがそんな口汚い言葉を使うものではない」
「あ? うるせェぞ誰のせいだと思ってんだドアホウがッ! 今さら紳士ぶってんじゃねぇぞこの薄味顔ッ!」
「紳士ではなく、淑女と言うのが──」
「どの立場で物申してんだクソアマッ! 寝ションベンでも漏らしてろッ!」
「い、いいぞぉ輪ちゃん……?」
 妹が口悪くてお姉ちゃんショックだよ……!
「タマナシって聞くと、ちょっとタマキの事かと勘違いするわね」
 ヒカリさん……!?
「マジのタマナシ根性なしってこと?」
 別にいーんですっ、僕だって女の子なんだからタマなんて元から無いですー!
「まー……。今回の一件で見直したし、タマありタマキって感じかな」
 褒められた気がしないーっ!

 なんてずっとコントして「タマナシ」とか品のない話題をして呆れられたのだろう……。探偵風の女の方から口を開いた。

「いいか、私の名は深里みさとだ。親から貰った立派な名前さ。こんな身なりの通り、普段は事務所で探偵業を営んでいる。『深層心理に溶け込む深里探偵事務所』というキャッチコピーさ。名前というのは、個人を判別する重要なキーワードだよ、君たち……」
 下の名前を事務所に使うなんてとんだ自尊心……!

 輪ちゃんが少し顔をしかめてるし。ヒカリはもっとイヤそうな顔だ!
 だから扇動するような事を言うのだ。

「そういえば一つ、思ったのだけど。こいつの能力が『触れたものを操る』事である以上、輪に触れたのは間違いなくて?」
「確かにそうだ! このっ、舐めやがってっ!」
「いつの間にか気持ちわりぃ手で触ってやがったんだなこのヒョロガリッ!」
「年頃の乙女に触って何が淑女よ、エセ探偵っ!」
「やめろっ、このっ! チンピラ共っ!」
 しまった、深里さんがボコボコのボロボロになってしまった。
「おっと、こんな事やってる場合じゃないんだ……。あのっ、深里さんって言いましたっけ? 聞きたい事があるんです、色々……」

 ようやくマトモに話ができるのか、そう捉えたからか深里さんは、しかし、真っ先に会話を切り出す。

「その前に一つ、君に聞いておきたい事がある」
「あっ、ハイ」

 僕も僕で自分の意志が弱いもんだから、簡単に話の主導権を渡しちゃうし……。
 
 ──それが、新たな謎とアイデンティティの迷路に迷う事になろうとは考えず──

「変な質問なんだが──いや、それ自体はどうだっていい。要は君の受け取り方次第なのだし、私の知的好奇心を満たして欲しいというのが本質なのだ。とにかく『Yes』か『No』で答えてくれれば、私はそれで納得しよう」
「はぁ」
 また回りくどいし、この立場で偉そうだし……。
「君は──我妻 タマキ、と言ったか──何者・・なのかハッキリさせたい。例えば以前、会話を交した事があっただろうか? 君のような人物なら覚えてる筈が印象に残らない。それとも、君のその控えめさを考えれば、私に声をかけるような事もできないか?」

 ──どうしてこの探偵は一言余計なのだろうか、カチンときた。何者・・かというワードに神経を逆撫でされたからだ。自分を分かった気になってベラベラ偏見を騙るからだ。溜め息混じりに深呼吸し、言葉を発する。

「…………ホントに変な質問ですね。聞いてる意味が分からない。僕が聞きたかったのは、アナタが僕を攻撃した理由だった。輪ちゃんを利用した事、僕は許していないんですよ。まさか、僕を襲撃したのも知り合いに似てたからって、そんな御方便で済ませようってんじゃあないでしょうね?」
「まさか見間違う訳がない。妹の事は今は関係ないだろう。そうじゃないんだ、ちゃんと答えてくれ。些細な質問じゃないか。君は君自身の事も答えられないのか?」

 僕は眉を歪ませた、自分で分かるほどに。
妹の事は関係ない・・・・・・・・だって? 僕の妹を巻き込んでおきながら?
 自分勝手に話を進め、相手の気持ちを鑑みる事をしない女探偵に、苛立ちを隠しきれなかった。

「私は探偵だ。捜索とは考えられない。この家にイヌネコとかのペットは確認できないし、その痕跡だって無い。落し物か? それともリンカー絡みの事件か? 私はそういう警察には対処できない事件をよく取り扱っているんでね」

 僕も、輪ちゃんとヒカリも。全員が一瞬、面食らっていた。
 怒りを抑えきれなかった。呼吸が苦しいほどだった。肩を掴んで問い詰める。

「ちゃんと答えろだって? 余計な話をして混乱させてるのはどっちだ? 妙な事言って話を曖昧にしないで下さいよ、聞きたいのは僕の方なんだ……! いいですか、答えてやると僕はアナタの事なんて知らないし、探偵に依頼を出した覚えだってない。用事が無いからだ、シンプルな答えだろう。それに警察じゃ対処できないリンカー事件だって? 自慢じゃないけど、つい昨日警察の知り合いだってできたんだ、リンカー能力者のね……! アナタの胡散臭い化けの皮なんてすぐにひっぺがせる! 通報だってもうしたんだ! 答えるのはアナタだ、僕じゃないっ!」

 苛立ちが治まらない、頭グチャグチャだ! 支離滅裂だって分かってても捲し立ててこの人に詰め寄った。対してあくまで冷静なトーンで話す、それが尚更腹が立ってしょうがなかった。

「……依頼者の事は個人情報だ。普通なら話せない。君のような付け焼き刃のリンカー能力者など信頼がない、なおさらだ。けど今回は普通じゃない。個人情報を守る上ではある意味、アレは完璧だよ」
「勿体ぶった言い方するなっ! これだから人と話すのは嫌いなんだ、だから単刀直入に言えっ!」
リンカー・・・・だよ」
「……は?」
「依頼者はリンカー・・・・だったんだ。昨日の夜の事だった。私が事務所で寝泊まりをしていると、闇の中から人影が現れた。幽霊絡みの事件も取り扱う私は最初、そんな事件簿を解決してきたばかりに見た夢なのかと考えた。だがその人影の所作には意思が宿っていた。手をゆっくりと上げようとした時、私は心臓を掴まれたような感覚がした。何かされるのかと、野性的なカンが漲ったよ。寝惚けた頭を叩き起こし、攻撃を加えた」

 *

「何者だっ! 土足で私の事務所に上がろうとはっ!」
 お世辞にも直接戦闘向きではない私のリンカーは、そいつに手のひらで容易く拳を受け止められた。拳を受け止められたと表したが、それも奇妙な感覚だった。というのも、まるでシャドーボクシングのような、虚空に拳を振るったような──とにかく無かった・・・・んだよ、拳を受け止められた感覚が。
 だがそもそも、一般人に拳を受けられる筈が、もっと言えば見える筈もなかった。その時、私は理解した。──リンカー、だとね。
 そのリンカーは、ゆっくりと、私の耳元に寄り、囁いたんだ。腹の底にまで泥を垂らされたような、そんな不可思議で不愉快な声だった。

個人ひとハ誰しモ、宿命やくわりヲ持って生まれてくるのだといウ。あるのだろうナ、私には私ノ、君には君ノ役割ガ……。何も云わずこの封筒ヲ受け取リ、内側なかみヲ確認するといイ。君ガ良けれバ、前金ノ倍以上ノ報酬を与えル』

 その音調はフィルターがかかったようになっていた。声色や喋りから性別を判断することは不可能だった。気づけばリンカーは消えていた。まさに闇の中へ、だ。
 同封されていたのは『百万円』と『依頼内容』だった。これが前金で、倍以上の報酬。パソコン印刷された文字で内容が記され、封筒、金、依頼内容の紙、何れにも指紋は勿論、特定されるようなものは残されていなかった。
 未だ青い探偵である私でも、これが単なる人探しではない黒い依頼だと理解できたが、同時に断る事も許されぬ事件であると理解できた。

 *

「だから私は君に問うのさ。依頼者を突き止めようっていうんじゃない。依頼者とて事件の犯人ではなく、あくまで個人だ。むしろ私の方が今回の事件の犯人になるだろうね」

 本当に理解不能な話だ。少しだけ呼吸を整えても、そんな話を自分のペースで始めて脱線する我の強い探偵への感情が、脳の中でグツグツと煮えたぎってきていた。

「……さっきから、何の話をしてるんですか。いいですか、僕はアナタに会った事は無いし、その話との関連性だって分からない。納得してくださいよ、アナタが言った事だ……!」

 もう一度だ。もう一度、深呼吸をして、気持ちを少しだけ落ち着けよう。

「それより僕の質問をさせて頂きます。ちゃんと、簡潔に答えて下さいよ。依頼の内容は何なんですか? 目的は分かるんですか?」
「『写真の人物』──つまり君のリンカー能力を調査してくれという内容さ。しかも死の間際がいいときた。依頼者はどうしてか、君がリンカー能力者である事を知っているようだ。依頼者もリンカー能力者なのは当然としてもね」
「──リンカー能力、僕の……」

 そこまでは予想がついていた。他人から見たら何も無くてつまらない、何者でもない自分を襲う理由なんて、リンカー能力以外に考えられなかったからだ。そして、一番の問題は──僕自身の不安に直結する事だ。

「ふぅ。……これを、もう一度警察に自供しなくてはならないのか。君の言うリンカー能力者の警察が捜査してくれれば良いんだがな。もう一度言うが、私は辟易してるんだ、自分が事件の犯人という立場になってしまった事に……。探偵が警察に捕まって自供する。そんなバカげた事を考えなくてはならないなど、恥ずかしくて探偵の看板を背負えないよ」
「長いんだよ、話がっ! なんで僕が得体の知れないリンカーに狙われなくちゃならないんだ!? そいつに心当たりはあるんですか!? 一番の懸念はそこだ、誰が僕なんかを狙ってくる!?」
「質問をしたいのは私の方だと言ってるんだ。君は昨夜リンカー能力に目覚めたばかりだと、君自身のリンカー──ヒカリ、だったか──に言っていたね? 君は何者・・なんだ? 君のリンカーはどうして人を惹きつける魅力を持っている?」

 ……論点をすり替えやがって。結局、自分の疑問を解消したいだけ。その一点張りじゃないか。

 もう、叫んで怒ったところで、不安の感情が塗り潰される事はない。『何者かが自分を狙っている』という事実に変わりはないのだから。……この人に、何言ったってしょうがないんだ。

「いいか、もう一度考えてくれ。私は前に何処かで、君に会った・・・・・事がある。君の左腕の金のバングルに見覚えがある。緑の髪に見覚えがある。輝く金の瞳にも。これは君を知る為でもあるんだ。君の方こそ理解したまえ。私の話も、君自身も」
「……話は終わりです。もう、聞ける事は無さそうですから」

 僕は怒り沈まらないまま部屋を出て、廊下の階段に腰掛けた。
 さすがの輪ちゃんも怒った姉に遠慮してしまってるのか「あー……ヒカリとゲームしてるわ」と言い残し、当の襲撃した犯人が縛り付けられているにも関わらず、リビングに籠ってしまった。
 それがなおさら僕の胸を締め付ける。

 何者か、だって? ヒカリが? 僕が? そんなの僕が知りたいぐらいだ。突然発現した謎のリンカー、ヒカリ。
 最初こそカワイイような、得体の知れないもののような、そんな複雑な感情を抱いていた。けど今回の戦闘でよく理解できた。この子は信頼できるって。この子もまた、僕を信頼しているように。
 けどリンカーとは、リンカー能力者の心を反映しているのだという。つまりヒカリとは──僕自身の心、という事だ。こんなにもハッキリと、自分の意志を持った子が、僕の心だって? この子を理解できてきたというのに?
 僕自身が何者でもない、何者にもなれない。そんな事をずっとずっと感じてきてるっていうのに──。
「そんなの、僕が知りたいんだよっ……!」

 *

 しばらくして──
 警察もとい、再寧さんがやってきた。通報なんて息巻いたけど、個人に掛けたら再寧さん一人でやって来た。
 再寧さんは僕の顔を見るなりギョッとした。おかげで少し反感を覚えてしまった。……ほとほと自分がイヤになる。
「……連絡、ありがとう」
 再寧さんから出た言葉はその一言だった。言いたい事があっただろうところを、言い淀んで、選んで出した言葉だったのだろう。再寧さんは小さいながら背伸びして、僕の頭にぽん、と手を乗せて宥めた。

 そしてリビングでふん縛られた女の姿を再寧さんは認め、再びギョッとする。

「おや。警察のリンカー能力者と言うから誰かと思えば」
「馴れ馴れしくするな。あと一発殴らせろ」
「おおぅ、もう足が出てるぞ……! 君の暴力は女子高生らと違って冗談ならない、よすんだ」
「ほぉ〜う、お前如きが口答えするとはずいぶんと偉くなったものだなぁ? え? 探偵ごっこで吸ってたキセルのヤニがついに脳みそに詰まったか? すぐむせるクセに熱心だったもんなぁ? 私には嫌いなものがある。全身ヤニ臭いヤツと、酢豚に入ってるパイナップルだ」
 再寧さんの蹴りが、グチグチ文句を垂れ流しながらなお深里さんへと続く! あまりにバイオレンス! 一人悩んでる場合じゃないぞ、我妻 タマキ!
「あっ、えと、知り合いなんですか……?」
「残念ながら知り合いだ。行く先々でトラブルを起こす変人。どうせああだこうだで名乗っただろうから説明は割愛するし、名乗ってなくても覚えなくったっていい」
「そんなー」
「黙れ。どうせある事ない事言ってこの子を惑わせたんだろ。だがついに犯罪者の仲間入りとはな」
 見透かされてるんだ……。

 再寧さんは縛られた深里さんにダメ押しとばかりに手錠をかけ、その身を担ぎ上げる。深里さんのブーツがズルズルと引き摺られるほど小さいのに、大した力持ちだなぁ。

 ふと、一つの疑問に思い当たった。

「あの、再寧さん。先日、変な宗教勧誘だとか、変な二人組に気をつけろと仰っていましたけど。その人は……?」
「その事なら心配いらない。コイツはその件とは全く関係ない。君はただ何も気にせず、普段通りの日常を過ごせばいいんだ」
「……そうですか」
 疑ってる訳じゃあないんだ。探偵さんも、再寧さんも。けど探偵事務所に現れたとかいう『謎のリンカー』。それがもしかしたら、再寧さんの言う『宗教』とか『二人組』の関係者なのかも……。

 そんなふうに思考を巡らせていたら、再寧さんが念押しするように話しかける。

「いいか、タマキさん。コイツの言った事は気にしなくていい。詳細はコイツから聞くし、どうせ話を誇張してる」
「はぁ」
「それと、改めて。……守るべき市民などと見栄を切っておきながら、こんな失態を犯してスマナかった」

 僕はドキッとしてしまった。再寧さんが頭を下げて謝罪をしたからだ。僕は──失礼かもしれないけど──この人のことを、強情で、人の意見を聞かずにドンドン話を進める勝手な人だと思っていた。というか僕と会った人々のほとんどがそうだとすら思っていた。

 けれどどうだろうか。目の前にいる小さな警察官さんは、誠実かつ真摯に頭を下げているのだ。決して自分の過ちではないのに、自分の宣言を果たせなかったからって。「市民を守る」だなんて、それも一個人を守るだなんて。24時間体制で監視でもするか? そんなムチャクチャできないの、誰だって分かるのに。

 案外他人ってのも、僕が気づかなかっただけで、いい人に溢れているのかも──なんて。

「痛いっ! 痛い痛いっ!!」

 ……ドキッとしたのはもう一つあった。頭を下げるのと共に、抱えた深里さんに反省を促すように、床へ顔面を打ちつけていたからだ。しかも頭を下げながら腕を上下させて何度も打っているのだ。おかげで戦闘の爪痕以上に我妻家のフローリングと深里さんは血まみれだ。ヘタな恐怖映像よりよっぽど怖い。

「では、失礼する」
「あっ、ありがとう……ございま……」
「また来るよ、我妻 タマぎゃあぁぁっ!」
「二度と来させん」

 再寧さんが深里さんを壁に叩きつけて黙らせ、車へ戻っていった。
 この街の大人、クセが強い人しかいないのかも……。

 *

 血まみれのフローリングを拭き終えて一息ついた。戦闘による家屋の被害は存外少なく、壁に空いた一筋の傷が気になる程度。むしろ手の甲に裂けた傷がある輪ちゃんと、頬の切り傷、腹部の強打、腿を毒ヘビに噛まれて熱線消毒と、ボロボロな僕らの方が心配されそうな状態であった。

「とりあえずお父さんお母さんが帰ってきてもいい状態かな……。壁と僕らの事はゲームでハシャいだからってことにならないかな……」
「ムチャだろ」
「あっ、あはは……」
「それよりお前、脇腹やられたんだろ? しょうがないから、今夜はウチが作る。お前はソファーで休んでたら? ほら、氷」
「えっ、えー? 輪ちゃんだって、左手にケガして……」
「もう全然痛くないし。ナメんな。……バンソウコを」
「絆創膏の方か〜……」

 でも痛いのは事実だし、お言葉に甘えてソファーで横になったり、なんて。氷袋がレンガで殴打されたお腹に染みる……。骨折してないといいけど。

 にしても輪ちゃんの料理かぁ……。エプロン巻いて頭巾までして、大マジメな輪ちゃん。せっせと準備をする様子を見てると母性がくすぐられるよ。
「輪ちゃんの手料理……。愛する妹の……。ウヘッ、ウヘヘヘヘッ……」
「きンもっ、ニチャニチャすんな」
 心が痛い……!

 なんてやってたら、輪ちゃんがムスっとしながらも話を続ける。
「……なんか色々あったけどさ。ウチ、気にしてないから。お前にはお前の事情あるって、分かってるし。それと──」
 輪ちゃんは顔を逸らした。照れくさいのが自分でも分かっているのだ。けれど、大切な言葉を紡ぐ。
「──ありがと。パン、とか色々」
「優しいね、輪ちゃん」
 僕はただ一言、それだけを返した。
「タマキ」
 ソファーで寝転がる僕のお腹に、ヒカリがポンと乗っかった。見上げるヒカリを、見下ろす僕。二人の目が合う。
「タマキはタマキよ。私たちはアナタだから好きなの」
「ありがと。僕も二人が大好きだ」
 深く呼吸をして安静にしてる内にぐらり、僕はウトウトしていた。ここ二日の出来事に、心身の疲れが溜まっていたのか。
「ちょっと、一眠り……」
 僕は意識を眠りに向けて漕ぎ始めた。
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