第30話
コウルと鈴花、いや『リンカ』は、異世界エイナールの平原に降り立つ。
降り立ったその時だった。
「ぐっ!?」
コウルに何とも言えない苦しみが走る。油断してると意識がなくなりそうな苦しみが。
「だから言ったでしょう。あなたにも影響が出るって」
エルドリーンが呆れながら現れる。
コウルは苦笑いを浮かべながらも、立て直すと聞いた。
「エイリーンは?」
エルドリーンは近くの森を指した。ついでのようにコウルに剣を投げる。
「ありがとう」
礼を言うとコウルはふらつきながら、森へ向かう。
それをリンカは横から支え一緒に歩く。
「なんか増えてるし……」
エルドリーンはリンカを見つつ、結局二人についていく。
森は深い闇に覆われていた。
森が元からこうなのか、エイリーンに浸食している闇の魔力の影響なのかはわからない。
そんな闇の森をコウルは迷わず進んでいく。
「道はあっているのですか?」
リンカの言葉に頷きながら、コウルは歩を急がせる。
そして――。
「はあ……はあ……」
その先の一角に、一人苦しそうに闇を押さえるエイリーンの姿があった。
「エイリーン」
コウルは自身もふら付きながらエイリーンに近づく。
「コウル……どうして……戻ってきたんですか」
エイリーンが苦しそうに呟く。
「向こうの世界にいてくれれば……あなたは平気だったのに」
「馬鹿なことを言わないで、エイリーン」
ゆっくり近づきながらコウルは言葉を続ける。
「そんなことしてもダメだ。僕にはエイリーンが必要だ」
エイリーンが首を横に振る。
「ダメなんですコウル。今のわたしは闇の魔力に侵されている。暴走してしまうんです」
「それがどうしたの」
コウルはさらに語る。
「それを抑えるのにも協力する。僕たちはそれくらい乗り越えられる」
「でも……もう……!」
エイリーンが闇に包まれながら剣を抜く。
「抑え……られない!」
エイリーンが突撃してくる。
コウルは剣を抜きそれを防ぐ。そして――
「エイリーン!」
コウルは剣を弾くとエイリーンを抱き寄せた。
「そんなことしたら!」
エルドリーンが叫ぶ。
エイリーンを抱き寄せたコウルに、エイリーンが抑えていた闇の魔力が流れていく。
「ぐうぅ……」
「いけない。コウル、離れて――」
「離れない!」
コウルは顔をエイリーンに向ける。その顔は闇の魔力を受けながらも、綺麗な微笑みだった。
「大丈夫。僕は大丈夫だから。そして、こんなになるまで気が付かなくてごめん」
それを聞くとエイリーンは涙を浮かべた。
「いいんです、コウル。黙っていたのは私ですから。でもこのままだとこの魔力が……」
「聞いて。エイリーン。確かにこの闇の魔力は強大だ。最初は苦しかった。
でも思ったんだ。闇は誰だって持ってるものだって。
カーズみたいなのは極端だけど、僕にだって元の世界での嫌なこととかを考えると暗いことを考えることがある。
闇は絶対悪じゃないんだ。この魔力もなんとか受け入れればいいんだよ」
「受け……入れる……?」
それはエイリーンにはない考えだった。
女邪神のエルドリーンと違い、エイリーンは純粋な正の女神。
光と闇は決して交わらないと思っていたから。
「それだよ」
エイリーンの思いを読みコウルは答える。
「光のエイリーンかもしれないけど、エルドリーンさんという闇とも姉妹だ。
エイリーンがこの闇の魔力を受け入れても問題ないと思うよ」
その答えにエイリーンはエルドリーンを見る。
「そうよ。私という存在と姉妹なのにお姉さまは何を今更闇の魔力の扱いに苦労してるの。
さっさと何とかして元のお姉さまに戻りなさい、まったく」
「エルドリーン……」
呆れて顔を振るエルドリーン。それを見るとエイリーンも思いを決めた。
「わかりました。コウル、力を貸してください」
「うん」
コウルとエイリーンが集中すると、膨大な闇の魔力が二人の中に入っていく。
「う、言っておいてなんだけど、やっぱり結構キツイね……」
「それだけの量ですから……」
苦しむ二人に近づくエルドリーン、ではなく。
「わたしも、協力させてください」
「リンカさん!?」
「あなたは? ……いえ、後にしましょう。協力してくださるなら、コウルと私に手を触れてください」
言われた通りリンカは二人に手を触れる。二人への闇の魔力が三人に分割される。
「そして。お姉さまはまず私に言えばいいのよ」
さらにエルドリーンが加わり四分割された闇の魔力は、ゆっくりと次第に落ち着き、四人の中に入っていった。
「ふう……。終わった、かな?」
「はい。ありがとうございます。コウル、エルドリーン。そしてそちらの……」
「リンカです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。リンカさん」
二人は互いに礼をする。
(やっぱり、なんか似てるなあ)
こっそりコウルはそう思った。
「でも、もうほんとにこんなことはなしだよ。エイリーン」
「はい、わかっています、コウル」
これで一件落着……。
「ところでコウル。あのリンカさんという方とはどういう関係ですか?」
エイリーンが突然聞いた。
「え? 元の世界のクラスメートだけど」
それを聞くとエイリーンはほっとした。
「私はコウル君のこと、気になってますよ」
「「「えっ」」」
リンカの発言に、コウル、エイリーン、そしてエルドリーンも驚きの声が出る。
「そ、それはどういう意味ですか!?」
エイリーンが慌てて問う。
「フフ、そういう意味です」
リンカは意味深な笑みを浮かべると、コウルを見る。
「え、えっと」
コウルも嬉しいやらよくわからない。
「おほん!」
エルドリーンが大きく咳ばらいをする。
「とにかく一件落着ね。お姉さま、この魔力については引き続き調査しておくわ」
「お願いします。エルドリーン」
エルドリーンは頷くと、飛び立っていく。
「じゃあ僕たちも旅に戻ろうか」
「はい」
「よろしくお願いします」
エイリーンがリンカを見る。
「ついてくるんですか?」
「ほかにどこに行くんです? 私ここ初めてなのに、一人置いていくんですか」
「ま、まあまあ、いいじゃないエイリーン。ね?」
エイリーンは渋々頷く。
こうして三人になって旅は続いていくことになる。
しばらくの間のことである。
降り立ったその時だった。
「ぐっ!?」
コウルに何とも言えない苦しみが走る。油断してると意識がなくなりそうな苦しみが。
「だから言ったでしょう。あなたにも影響が出るって」
エルドリーンが呆れながら現れる。
コウルは苦笑いを浮かべながらも、立て直すと聞いた。
「エイリーンは?」
エルドリーンは近くの森を指した。ついでのようにコウルに剣を投げる。
「ありがとう」
礼を言うとコウルはふらつきながら、森へ向かう。
それをリンカは横から支え一緒に歩く。
「なんか増えてるし……」
エルドリーンはリンカを見つつ、結局二人についていく。
森は深い闇に覆われていた。
森が元からこうなのか、エイリーンに浸食している闇の魔力の影響なのかはわからない。
そんな闇の森をコウルは迷わず進んでいく。
「道はあっているのですか?」
リンカの言葉に頷きながら、コウルは歩を急がせる。
そして――。
「はあ……はあ……」
その先の一角に、一人苦しそうに闇を押さえるエイリーンの姿があった。
「エイリーン」
コウルは自身もふら付きながらエイリーンに近づく。
「コウル……どうして……戻ってきたんですか」
エイリーンが苦しそうに呟く。
「向こうの世界にいてくれれば……あなたは平気だったのに」
「馬鹿なことを言わないで、エイリーン」
ゆっくり近づきながらコウルは言葉を続ける。
「そんなことしてもダメだ。僕にはエイリーンが必要だ」
エイリーンが首を横に振る。
「ダメなんですコウル。今のわたしは闇の魔力に侵されている。暴走してしまうんです」
「それがどうしたの」
コウルはさらに語る。
「それを抑えるのにも協力する。僕たちはそれくらい乗り越えられる」
「でも……もう……!」
エイリーンが闇に包まれながら剣を抜く。
「抑え……られない!」
エイリーンが突撃してくる。
コウルは剣を抜きそれを防ぐ。そして――
「エイリーン!」
コウルは剣を弾くとエイリーンを抱き寄せた。
「そんなことしたら!」
エルドリーンが叫ぶ。
エイリーンを抱き寄せたコウルに、エイリーンが抑えていた闇の魔力が流れていく。
「ぐうぅ……」
「いけない。コウル、離れて――」
「離れない!」
コウルは顔をエイリーンに向ける。その顔は闇の魔力を受けながらも、綺麗な微笑みだった。
「大丈夫。僕は大丈夫だから。そして、こんなになるまで気が付かなくてごめん」
それを聞くとエイリーンは涙を浮かべた。
「いいんです、コウル。黙っていたのは私ですから。でもこのままだとこの魔力が……」
「聞いて。エイリーン。確かにこの闇の魔力は強大だ。最初は苦しかった。
でも思ったんだ。闇は誰だって持ってるものだって。
カーズみたいなのは極端だけど、僕にだって元の世界での嫌なこととかを考えると暗いことを考えることがある。
闇は絶対悪じゃないんだ。この魔力もなんとか受け入れればいいんだよ」
「受け……入れる……?」
それはエイリーンにはない考えだった。
女邪神のエルドリーンと違い、エイリーンは純粋な正の女神。
光と闇は決して交わらないと思っていたから。
「それだよ」
エイリーンの思いを読みコウルは答える。
「光のエイリーンかもしれないけど、エルドリーンさんという闇とも姉妹だ。
エイリーンがこの闇の魔力を受け入れても問題ないと思うよ」
その答えにエイリーンはエルドリーンを見る。
「そうよ。私という存在と姉妹なのにお姉さまは何を今更闇の魔力の扱いに苦労してるの。
さっさと何とかして元のお姉さまに戻りなさい、まったく」
「エルドリーン……」
呆れて顔を振るエルドリーン。それを見るとエイリーンも思いを決めた。
「わかりました。コウル、力を貸してください」
「うん」
コウルとエイリーンが集中すると、膨大な闇の魔力が二人の中に入っていく。
「う、言っておいてなんだけど、やっぱり結構キツイね……」
「それだけの量ですから……」
苦しむ二人に近づくエルドリーン、ではなく。
「わたしも、協力させてください」
「リンカさん!?」
「あなたは? ……いえ、後にしましょう。協力してくださるなら、コウルと私に手を触れてください」
言われた通りリンカは二人に手を触れる。二人への闇の魔力が三人に分割される。
「そして。お姉さまはまず私に言えばいいのよ」
さらにエルドリーンが加わり四分割された闇の魔力は、ゆっくりと次第に落ち着き、四人の中に入っていった。
「ふう……。終わった、かな?」
「はい。ありがとうございます。コウル、エルドリーン。そしてそちらの……」
「リンカです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。リンカさん」
二人は互いに礼をする。
(やっぱり、なんか似てるなあ)
こっそりコウルはそう思った。
「でも、もうほんとにこんなことはなしだよ。エイリーン」
「はい、わかっています、コウル」
これで一件落着……。
「ところでコウル。あのリンカさんという方とはどういう関係ですか?」
エイリーンが突然聞いた。
「え? 元の世界のクラスメートだけど」
それを聞くとエイリーンはほっとした。
「私はコウル君のこと、気になってますよ」
「「「えっ」」」
リンカの発言に、コウル、エイリーン、そしてエルドリーンも驚きの声が出る。
「そ、それはどういう意味ですか!?」
エイリーンが慌てて問う。
「フフ、そういう意味です」
リンカは意味深な笑みを浮かべると、コウルを見る。
「え、えっと」
コウルも嬉しいやらよくわからない。
「おほん!」
エルドリーンが大きく咳ばらいをする。
「とにかく一件落着ね。お姉さま、この魔力については引き続き調査しておくわ」
「お願いします。エルドリーン」
エルドリーンは頷くと、飛び立っていく。
「じゃあ僕たちも旅に戻ろうか」
「はい」
「よろしくお願いします」
エイリーンがリンカを見る。
「ついてくるんですか?」
「ほかにどこに行くんです? 私ここ初めてなのに、一人置いていくんですか」
「ま、まあまあ、いいじゃないエイリーン。ね?」
エイリーンは渋々頷く。
こうして三人になって旅は続いていくことになる。
しばらくの間のことである。