第26話
神の塔を出たコウルとエイリーン。
「さて、これからどうしようか?」
「そのことなんですけど――」
エイリーンはコウルの目をまっすぐ見つめる。
「――コウルは元の世界に未練はありませんか?」
「え……?」
コウルには質問の意図が分からない。
「それは、全く未練がないかといったら噓になるけど……。でもそれを承知で、あの時こっちに残ることを選んだつもりだよ」
「ええ。それはわかっています。けれど……」
エイリーンは一冊の本を取り出した。
「これは塔にあったものですけど、これによるとこちらの世界とあちらの世界を行き来できる方法があるみたいです」
「えっ」
「もちろん簡単ではないみたいですけど、どうします?」
コウルは頷こうとして少し考える。
(なんかここであっさり頷くのもあの時の決断が無意味っぽくて困るな……)
「どうしました?」
「い、いや何でもないよ。せっかくエイリーンが見つけてきてくれたし、それを調べようか」
「はい!」
二人は歩き出す。一方、塔では……。
「二人は行きましたか」
「ええ。そして世界の飛び方を調べるようです」
エイナールにワルキューレが報告を挙げていた。
「あちらの世界との繋がりですか。となると行き先は遺跡の塔……」
エイナールが空を見つめる。
「さっそくあの二人に壁が立ちふさがりますね……」
エイナールの予想通り、二人はかつてのカーズとの決戦地である遺跡の塔へ来ていた。
「ここでどうするの?」
「はい。ここは以前カーズが開けて、私たちが閉じた空間の歪みがありましたね」
「うん。それを開くの?」
「それでうまくいけばあっさり終わるんですけどね」
「やってみよう」
二人は以前空間の歪みがあった場所に手をかざし集中する。
しばらくかざしてみるが何も起きない。
「何も起きないね……」
「そうですね。……っ、コウル危ない!」
エイリーンがコウルに飛びつき、二人で倒れる。
そこを魔力弾が通過していった。
「魔力弾!?」
「この魔力の反応は!?」
二人の前に男が現れる。その男は――。
「「カーズ!?」」
「久しぶりだな」
まぎれもなく二人が倒した男、カーズであった。
「あの時、確かに消えたはずじゃあ……」
「そうだ。確かに俺は一度消えた。今ここにいる俺はゾンビに近い」
自虐気味に笑うカーズ。だがその後ろからさらに別の声が響く。
「せっかく復活できたのにそんな言い方はいけませんわ、お兄様」
そこに現れたのは少女。コウルやエイリーンより一回り小さい。
「『お兄様』?」
「じゃああの子が、ジンさんが言っていたカーズの妹?」
その質問に答えるように少女『シズク』は前に出ると礼をする。
「初めまして。和……いえカーズ兄様の妹『シズク』です」
礼儀正しい振る舞いに戸惑うコウルとエイリーン。だが――。
「お兄様が大変お世話になったそうで」
シズクの冷たい目が二人を射抜く。二人は背筋が震えるのを感じた。
(こ、この威圧感――!)
(コウル……。彼女が……怖いです)
二人の様子を見て、シズクはまたニコッと笑った。
「怖がらせてしまいましたね。でも貴方たちがいけません。お兄様に酷いことをするから」
「酷いこと……」
コウルはシズクへの恐怖を抑え向き直る。
「確かに僕らは君のお兄さんを倒した。けど君のお兄さんは――」
「あちらの世界を滅ぼそうとしたのでしょう?」
「っ!?」
何の感情もない一言に二人は絶句する。
「私はあの時のことについて何も思うところはありませんが、お兄様が私を思ってやってくれたことを止める権利は誰にもありません」
シズクの言葉には何一つ迷いがない。ただ兄を思っているだけであった。
「君の言うことは分かった。その前にひとつ聞きたい。君もカーズと同じ……ゾンビなのか?」
「そう見えます?」
シズクはくるりと回り、自分を見せる。
「ゾンビには見えない……。けど君自身が言った『あの時』。君はジンさんの話では死んだと……」
「死んでいなかったのです。私はお兄様たちより先にこの世界にいたのですわ」
シズクは語る。死のうとしたらいつの間にかこの世界にいたこと。
病気のせいで動けなかったところをとある老婆に助けられたこと。
その老婆は今は亡くなったが、その老婆の研究のおかげで今は元気に動けることを。
「そして……これがお婆さまのもう一つの研究。死者の復活ですわ」
「死者の――」
「――復活!?」
シズクがカーズを指す。
「お兄様が亡くなったと知ったのはついこの前……。この術の研究成果を確かめるために魔力を集めていた時でした。
その中の魔力にお兄様を感じたのです。それを辿り研究成果を使ったらお兄様が復活なさいました」
シズクの話に、コウルはエイリーンに問う。
(死者の復活ってそんなに簡単に?)
(い、いえ。そんな簡単に……)
二人の様子に気づきカーズが口を挟む。
「さっきも言ったが復活といってもゾンビに近い。深く考えても無駄だ。それに――」
カーズが剣を抜き迫る。
「お前たちにはここで死んでもらうからな!」
「っ!」
コウルも剣を抜き攻撃を防ぐ。
「エイリーン!」
「わかっています!」
エイリーンがコウルを援護するように、カーズに向けて魔力弾を放つ。しかし――。
「させません」
シズクも魔力弾を放ち、エイリーンの魔力弾を相殺する。
(この威力……。あのシズクという少女も並みの魔力ではない!)
エイリーンの驚きなど関係なく戦闘は続く。コウルは次第にカーズに押され始める。
「どうした! 女の援護がなければこの程度か!」
「くっ……なら!」
コウルは後ろに飛ぶとエイリーンと息を合わす。
「女神聖剣!」
聖剣の魔力がシズクの魔力弾を打ち消す。
それと同時にコウルは一気にカーズに接近する。
「これは……あの時の剣か! 忌々しい!」
カーズが剣を振るうが、聖剣を装備したコウルはそれを回避し逆に剣を振るう。
シズクがそれを止めようと魔力弾を放つが、今度は逆にエイリーンがそれを止める。
「ちいっ!」
「お兄様!」
「これで! 今度も!」
コウルの一撃はもう止まらない。再びカーズは沈む。そう思われた。
「ぐっ!?」
突然の一撃。コウルは吹っ飛ぶ。
「な、なにが……」
立ち上がろうとするコウルだが何に攻撃されたかわからない。
「あ、ああ……」
エイリーンが驚きの表情で指さす。
「え……な、何故……」
コウルも驚き固まる。
カーズの横に立ち、コウルに一撃を入れた者。それはジンだった。
「さて、これからどうしようか?」
「そのことなんですけど――」
エイリーンはコウルの目をまっすぐ見つめる。
「――コウルは元の世界に未練はありませんか?」
「え……?」
コウルには質問の意図が分からない。
「それは、全く未練がないかといったら噓になるけど……。でもそれを承知で、あの時こっちに残ることを選んだつもりだよ」
「ええ。それはわかっています。けれど……」
エイリーンは一冊の本を取り出した。
「これは塔にあったものですけど、これによるとこちらの世界とあちらの世界を行き来できる方法があるみたいです」
「えっ」
「もちろん簡単ではないみたいですけど、どうします?」
コウルは頷こうとして少し考える。
(なんかここであっさり頷くのもあの時の決断が無意味っぽくて困るな……)
「どうしました?」
「い、いや何でもないよ。せっかくエイリーンが見つけてきてくれたし、それを調べようか」
「はい!」
二人は歩き出す。一方、塔では……。
「二人は行きましたか」
「ええ。そして世界の飛び方を調べるようです」
エイナールにワルキューレが報告を挙げていた。
「あちらの世界との繋がりですか。となると行き先は遺跡の塔……」
エイナールが空を見つめる。
「さっそくあの二人に壁が立ちふさがりますね……」
エイナールの予想通り、二人はかつてのカーズとの決戦地である遺跡の塔へ来ていた。
「ここでどうするの?」
「はい。ここは以前カーズが開けて、私たちが閉じた空間の歪みがありましたね」
「うん。それを開くの?」
「それでうまくいけばあっさり終わるんですけどね」
「やってみよう」
二人は以前空間の歪みがあった場所に手をかざし集中する。
しばらくかざしてみるが何も起きない。
「何も起きないね……」
「そうですね。……っ、コウル危ない!」
エイリーンがコウルに飛びつき、二人で倒れる。
そこを魔力弾が通過していった。
「魔力弾!?」
「この魔力の反応は!?」
二人の前に男が現れる。その男は――。
「「カーズ!?」」
「久しぶりだな」
まぎれもなく二人が倒した男、カーズであった。
「あの時、確かに消えたはずじゃあ……」
「そうだ。確かに俺は一度消えた。今ここにいる俺はゾンビに近い」
自虐気味に笑うカーズ。だがその後ろからさらに別の声が響く。
「せっかく復活できたのにそんな言い方はいけませんわ、お兄様」
そこに現れたのは少女。コウルやエイリーンより一回り小さい。
「『お兄様』?」
「じゃああの子が、ジンさんが言っていたカーズの妹?」
その質問に答えるように少女『シズク』は前に出ると礼をする。
「初めまして。和……いえカーズ兄様の妹『シズク』です」
礼儀正しい振る舞いに戸惑うコウルとエイリーン。だが――。
「お兄様が大変お世話になったそうで」
シズクの冷たい目が二人を射抜く。二人は背筋が震えるのを感じた。
(こ、この威圧感――!)
(コウル……。彼女が……怖いです)
二人の様子を見て、シズクはまたニコッと笑った。
「怖がらせてしまいましたね。でも貴方たちがいけません。お兄様に酷いことをするから」
「酷いこと……」
コウルはシズクへの恐怖を抑え向き直る。
「確かに僕らは君のお兄さんを倒した。けど君のお兄さんは――」
「あちらの世界を滅ぼそうとしたのでしょう?」
「っ!?」
何の感情もない一言に二人は絶句する。
「私はあの時のことについて何も思うところはありませんが、お兄様が私を思ってやってくれたことを止める権利は誰にもありません」
シズクの言葉には何一つ迷いがない。ただ兄を思っているだけであった。
「君の言うことは分かった。その前にひとつ聞きたい。君もカーズと同じ……ゾンビなのか?」
「そう見えます?」
シズクはくるりと回り、自分を見せる。
「ゾンビには見えない……。けど君自身が言った『あの時』。君はジンさんの話では死んだと……」
「死んでいなかったのです。私はお兄様たちより先にこの世界にいたのですわ」
シズクは語る。死のうとしたらいつの間にかこの世界にいたこと。
病気のせいで動けなかったところをとある老婆に助けられたこと。
その老婆は今は亡くなったが、その老婆の研究のおかげで今は元気に動けることを。
「そして……これがお婆さまのもう一つの研究。死者の復活ですわ」
「死者の――」
「――復活!?」
シズクがカーズを指す。
「お兄様が亡くなったと知ったのはついこの前……。この術の研究成果を確かめるために魔力を集めていた時でした。
その中の魔力にお兄様を感じたのです。それを辿り研究成果を使ったらお兄様が復活なさいました」
シズクの話に、コウルはエイリーンに問う。
(死者の復活ってそんなに簡単に?)
(い、いえ。そんな簡単に……)
二人の様子に気づきカーズが口を挟む。
「さっきも言ったが復活といってもゾンビに近い。深く考えても無駄だ。それに――」
カーズが剣を抜き迫る。
「お前たちにはここで死んでもらうからな!」
「っ!」
コウルも剣を抜き攻撃を防ぐ。
「エイリーン!」
「わかっています!」
エイリーンがコウルを援護するように、カーズに向けて魔力弾を放つ。しかし――。
「させません」
シズクも魔力弾を放ち、エイリーンの魔力弾を相殺する。
(この威力……。あのシズクという少女も並みの魔力ではない!)
エイリーンの驚きなど関係なく戦闘は続く。コウルは次第にカーズに押され始める。
「どうした! 女の援護がなければこの程度か!」
「くっ……なら!」
コウルは後ろに飛ぶとエイリーンと息を合わす。
「女神聖剣!」
聖剣の魔力がシズクの魔力弾を打ち消す。
それと同時にコウルは一気にカーズに接近する。
「これは……あの時の剣か! 忌々しい!」
カーズが剣を振るうが、聖剣を装備したコウルはそれを回避し逆に剣を振るう。
シズクがそれを止めようと魔力弾を放つが、今度は逆にエイリーンがそれを止める。
「ちいっ!」
「お兄様!」
「これで! 今度も!」
コウルの一撃はもう止まらない。再びカーズは沈む。そう思われた。
「ぐっ!?」
突然の一撃。コウルは吹っ飛ぶ。
「な、なにが……」
立ち上がろうとするコウルだが何に攻撃されたかわからない。
「あ、ああ……」
エイリーンが驚きの表情で指さす。
「え……な、何故……」
コウルも驚き固まる。
カーズの横に立ち、コウルに一撃を入れた者。それはジンだった。