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作者: 七霧 孝平
第14話-if-
「僕は……」

コウルは考える。確かにエイリーンと別れたくない。しかしもとの世界の家族も気になる。

「……元の世界に帰ります」

「コウル……」

「そうか」

エイリーンは少し悲しみ、リヴェルは淡々と呟き歩き出す。

「来い。歪みを閉じるぞ」

「は、はい!」

「ま、待て」

倒れていたカーズが呼ぶ。

「な、なんだ」

「警戒するな。これを持っていけ」

カーズは闇の宝玉をコウルに押し付けると倒れた。

「気にするな、いくぞ。時間がない」

リヴェルが急かすので宝玉をしまう。

リヴェルに続き、機械を上るコウルとエイリーン。

高い機械を上り終えるころには、機械の時間は2分を切っていた。

「コウル、あの歪みに向け飛べ」

「え?」

コウルは驚く。機械の上に登ったとはいえ、歪みまではかなりの高さがある。

「魔力を足に集中させれば行けるだろう」

「あ、そうですね」

コウルは魔力を足に集中する。飛ぶ前にエイリーンを見た。

「じゃあね……エイリーン」

「コウル……。いいえ、わたしが必ず会いに行きます!」

エイリーンが宣言する。コウルはそれを聞いて頷いた。

「こういうの逆な気がするけど……待ってる」

「はい」

コウルはジャンプする。少し飛距離が足りない気がしたが、空間の歪みは吸い込むようにコウルを中に送り込んだ。



「いてっ」

コウルが落下する。そこはーー。

「ここは確か、学校近くの神社……」

コウルは確かに現実世界に帰ってきていた。

(コウル、まだ聞こえるな?)

「リヴェルさん?」

コウルの脳内にリヴェルの声が響く。

(まだ歪みは閉じていない。魔力を集中して歪みにかざすんだ!)

確かにコウルの上にはまだ異世界エイナールが、エイリーンとリヴェルの姿が見えていた。

「やってみます」

コウルは手を掲げる。

現実世界に戻って、魔力の感覚が少しわからない。

だが確かに、魔力は歪みに向け発射された。歪みが消え、ただの空に戻る。

「終わったんですよね……。リヴェルさん」

だがもうリヴェルの声は聞こえなかった。



コウルが異世界エイナールに行っていた時間はまるでなかったかのように、現実世界では時が過ぎていなかった。

(あれは夢だったのかなあ……)

コウルが元の世界に戻ったとき、服も制服に戻っていた。

何も変わらない日常。それはまるで夢そのものだった。

だが3日後。

「突然だが本日、転校生を紹介する」

(こんな時期に転校生?)

先生に連れられ、少女が入ってくる。その姿はーー。

「エ、エイリーン!?」

教室中の注目がコウルに集まる。

コウルは顔を隠すように下を向こうとするが、少女は、コウルの方を向いて言った。

「はい……コウル!」

エイリーンはコウルに飛びつく。

教室中に騒ぎが広がる。

「あー、おほん。二人は知り合いかね? 関係は知らんがそういうのは余所でやりなさい」

先生に注意され二人は顔が真っ赤になる。

こうして朝の一騒動が終わった。



昼休み。エイリーンの周りは大所帯だった。

「ねえ。エイリーンちゃんはどこ出身?」

「エイリーンちゃん、その銀髪素敵です」

「コウルくんとはどういう関係?」

質問責めにされるエイリーン。一方コウルも……。

「おい、コウル。エイリーンちゃんとどういう関係だ」

「あんな可愛い子が知り合いにいるなんて聞いてないぞ」

柄の悪そうな連中に絡まれていた。

以前のコウルだったら、そこから逃げ出せずにいただろうが、今のコウルは違う。

連中を無視するとコウルは逃げるように図書室へ向かう。

「あ、コウル」

コウルを追うように、エイリーンも人の輪を抜ける。

図書室の隅でコウルとエイリーンは話していた。

「必ず会いにくるって言ってたけど、こんなに早く来るなんて思わなかったよ」

「実はわたしも、こんなに早く行けるとは思っていませんでした。あの後、エイナール様にこちらの世界に行く許可をもらいに行ったのですが、すぐに許可が出て」

「へえ……」

「ところで、エイリーン。どこに住んでるの?」

「あなたの隣の家ですよ」

「えっ」

コウルは思い出す。

昨日、いきなり隣に引っ越しの車が来たことを。

「あれ、エイリーンだったのか……」

その後、二人はこれからのことを話し合った。

帰るときも、二人は多数に囲まれて、慌てて抜け出す。

「こ、こちらの世界も大変ですね」

「エイリーンはこっちでは珍しい髪の色だからね。それに、か、可愛いし」

二人は赤くなる。そのまま立ち止まっていると、また生徒が追ってくる。

「おっとまずい。逃げよう」

「はい」

二人は慌てて帰るのだった。



それから数ヶ月、いろいろありながらも二人は平穏を過ごしていた。

だがその裏である組織による計画が進んでいることには、二人は気づくよしもなかった。
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