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作者: konoyo
R-15
きっしょ
「遅くまで待たせてすまないな。まあ、座ってくれ。」

そう言いながら彼は手元の書類をパラパラとめくりだした。あたしのこれまでの模試や定期テストの成績を見ているのだろう。彼がなにかを口にする前にあたしが先に切り出した。話の主導権を彼に握られて余計な話になるのが嫌だったからね。

「先生。あたし第一高校を受けようと思います。」

県内最優秀の高校だ。

「もう少し頑張らないと学力が足りないのは自覚していますがどうしても受けたいんです。滑り止めに私立を2校くらい受けようと思っていますが、具体的にはどこを受けるかは決めていません。自分の成績の分析も出来ていると思っています。数学と理科は比較的安定していい成績がとれていますが、英語と社会が少し苦手だと思っています。それから…。」

俯いたまま早口で話をするあたしを制止して先生の言葉が割り込んでくる。まじでうざい。

「まあまあ。慌てるな。そんなに慌てる必要はない。でも先生も第一校を受験することは賛成だ。確かに合格安全圏内とは安易には言えないが、これからの頑張り次第でなんとかなるだろう。ところでどうして的間は第一校に行きたいんだ?」

あたしは少し戸惑ったが、こんな質問も来るのではないかと思い、あらかじめ考えておいた理由、いや、言い訳を話した。

「正直、これと言った理由はありません。ただ、いい高校に入っていい大学を出ておけば将来の選択肢が広がると思っています。」

残念ながらこの答えでは彼は納得しないよね。

「うん。確かに将来の選択肢は広がるかもしれない。だけど、そういった理由で進んで行けるのは高校に入学するまでだ。第一校はもちろん、最近の高校では二年生になると文系クラス、理系クラスに分かれる仕組みを採用している学校が多い。何故か。なるべく早い段階で生徒個々の持つ才能を見つけ出し、その個性を強くするためだ。今の世の中はなにかの分野におけるスペシャリストを求めている。もしくはその道のプロフェショナルを求めている。」

かなりイライラする。しかし、なにも気が付かずにデッドとはまったく違う顔の悪魔は雄弁に続ける。

「だから、全教科の成績がある程度平均以上に、でいいのはせいぜい高校一年生までなんだ。それから先は自分が社会でなにをするべきか、なにをしたいのかビジョンをはっきりと持つ。具体的な、可能な限り数値的な目標を持って生きることが大事なんだ。数値的な目標を持つということはだな…。」

変な汗が額に溜まってきたのを鬱陶しいと感じている。膝の上に置いた拳を強く握り締めることで、自分を無理やり抑えつけなければいけない。

「設定した目標が100だとすると今の自分はどれだけ目標に近づいているのかを明確にすることが大事だと言うことだ。80なのか、それともまだ70までしか到達していないのか。自分の現在地をしっかり確かめて、目標に向かって進んで行くことが大事だと言うことだ。先生がいつもしつこく言っているだろう。はっきりとした具体的な将来の目標や夢を持てと。的間には中々理解されにくいときもあったが、今なら分かってくれるんじゃないのか。」

そう言って彼は俯くあたしを覗き込み、とても気持ちの悪い笑みを浮かべた。だからあたしはキレた。あまりにキショかったから。理由はただそれだけ。両の掌で机を強く叩いてあたしは立ち上がった。
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