再始動
伊賀の紹介で応募し、社長の南裕次郎との面接を経て、桃山は無事にジュエルソフトウェアに入社することとなった。南にとって、桃山は若手の時期に世話になった大先輩だ。恩を売っておいたような形になるようで気は引けたが背に腹は変えられず、また南にとっても経験豊富なベテランであり、信頼できる桃山の加入は大歓迎だった。
入社早々に既に開発は終盤だった『パズルモンスターズ』に投入され、たかがパズルと疑ってかかっていた桃山だったが、意外とシンプルかつやり込みの懐の深さがある面白さで、単純なもので一気に夢中になってしまったのだった。
締め切り前の残業と休日出勤地獄を経験したものの、やはり小さい会社ゆえの自由度もあり、体力的な厳しさはあれど、精神的にはかなり前向きにリリースまで走り切ることができた。
そうして新しい職場での仕事にも慣れ、余裕も出てきたある日曜日。
「あんたたち、また『パズモン』やってるの?」
珍しくアルバイトが休みで昼食後の洗い物をしている陽子が、リビングでゴロゴロしながらダラダラとスマホゲームをプレイしている二人に問いかける。
「いいじゃん、これお母さんもやってみたら、ハマるよ。お父さん、石尽きたんだけどまたもらえたりしない?今回のピックアップマジで欲しいんだけど」
思った以上の大ヒットで、春子の同級生の間でも流行りはじめているほどだという話は聞いている。
「明日でいいか?あんま大っぴらにやるとアレだからな、絶対誰にも言うなよ」
開発者特権で、社内から特定のアカウントに向けて、運営用ツールを使ってアイテムを配ることができるのだ。もちろん褒められたことではないのも分かっている。
「あら、いいの?公私混同じゃないの」
「公も私もどっちもゲームみたいなもんだ、それに小さい会社はその辺ゆるいし、まあ大丈夫だろ」
ゲームを通じて娘との会話も最近は増えているのが嬉しく、ついつい甘くなってしまう桃山だった。
「そう、ならいいけど。暇してるんだったらそろそろあのダンボール片付けたら。仕事はだいぶ落ち着いたんでしょ?」
リビングに置きっぱなしだったダンボールを指さしながら陽子が言う。リリースを無事に終え、桃山に余裕が出るまで待ってくれていたのがわかるので、蔑ろにはできない。
「へいへい、やりますよ」
ゲームを中断し、ずっと後回しにしていた作業にとりかかる。もともとデスク周りにおいていたゲームのグッズやノート、その他文房具、キャラクターのフィギュアなどが乱雑に詰め込まれている。キャリア強化ルーム送りになる際に、人事の社員が入れたのだろう。
だが、一通り確認してみて、あるはずのものがいくら探しても見つからないことに気がついた。
(あれ、春子の描いてくれた絵がないな、まさか野間ちゃんが取るわけないしなあ)
「なあ、誰も中開けたり捨てたりしてないよな?」
春子がゲームに夢中になりながら「知らないよ」と答える。
「私も知らないけど、なにか大事なものでもあったの?」
「いや、大事っていうか、まあ大事なんだが」
春子ももう高校生になる。小学生の時に描いた”ゲームをするパパ”の絵を会社の机に置いていたなんて知っても、「そんなの早く捨ててよ」なんて言われてしまいそうだ。そう考え、なにが無いか明言するのは避けた桃山だった。
「人事のやつに捨てられちゃったかもなあ、レシートやら、破って丸めたノートのページなんかも大量に引き出しに入れてたし」
「だから普段から整理整頓って言ってるじゃないのよ」
「そりゃそうなんだがよ」
全くその通りで反論できない。しかし、どのグッズを見ても当時の思い出が蘇ってきて、なかなか捨てる決断ができそうにない。
「ああもう、明日会社に全部持ってくわ!」
そうして、物を捨てるのが苦手な桃山は安易な力技で解決することにした。
◆◆◆
結局、三人はなんとなく『パズモン』とテレビでそれぞれダラダラ過ごした後、久しぶりに全員揃って陽子お手製の気合の入った夕食を取っていた。食べながらチラチラとスマホを見ている春子に、陽子が注意をする。
「こら春子、食事中はスマホしないの」
今度はゲームではなくSNSに夢中のようだ。
「ほら、みんなで食べるときは禁止って、一応そういう決まりにしただろ?」
「はーい」
春子が渋々ながらスマホを離れた場所に置く。桃山自身もついつい触ってしまうことが多かったが、示しがつかないと思えばすんなり離れることができるものだ。
「でも何をそんなに夢中になってたんだ、またスイッターか?」
「なんか即売会で事件があったみたい。刃物を持った男が暴れたとかで、ちょっと炎上してる。フォローしてるイラストレーターの人が、そのサークルのイラスト手伝ってるらしくて」
「SNSも怖いわよね、春子も気をつけてよ。何年か前もあったでしょう?ほら、オフ会で男女のトラブルで刺されたみたいな事件」
「大丈夫だよ、心配しすぎだよお母さんは」
その事件は桃山も覚えていた。確か二人が刺されて一人は重体、もう一人の女の子は顔を刺されて重傷だったような記憶がある。近い年頃の娘がいるとなれば、親としては気が気ではない。
「そうは言っても親は心配するものなんだよ。気をつけろよ、変なやつはどこにでもいるからな」
「たしかに変な人はいるけど、2人で会ったりしなきゃ大丈夫でしょ、リプライとか見てればヤバさはわかるよ」
「そんな明らかにヤバいやつじゃなくて、ちょっと気を許した相手のほうが危ないんだよ。でもゲーム開発ってんなら、うちに来てくれたらいくらでも採用するんだがね。なんてサークルなんだ?」
ゲームを作っているサークルに心当たりがあった桃山は、まさかとは思ったが念のため尋ねてみた。
「えっと、確か『サークルRK』とかだったかな」
「なんだって!そいつは大丈夫だったのか!?」
そのまさかだった。特にSNSはやっていない桃山だったが、月本に以前アカウントを教えてもらったときに、一度軽く見てみたことがある。そんな事になっていたとは驚きだった。
思わずつかみかからんばかりの勢いで春子に尋ねる。
「えっ、なになに?大丈夫だと思うけど、何で?」
春子が目を丸くして固まっている。かなり驚かせてしまったようだ。
「ああ、悪い、そいつ、前の会社で面倒見てた若手なんだ」
「そうだったの!?怪我したみたいな話はなかったよ」
「そうか、ならいいんだ」
落ち着いて座り直す。
「その後輩の方、何事もなければいいけど……」
陽子も心配している様子が伝わってくる。
「そうだな、ちょっと連絡してみるか。お、最後のカツいただきっと!」
せっかくの3人揃った夕食の家族団らんを壊しては良くないと、意識しておどけた調子で、空気を切り替える。
「えっ、まだ私2個しか食べてないんだけど」
「なんだ、スマホばっか見てるからだぞ。ほら、食べ盛りなんだからどんどん食べな、ご飯おかわりはいいのか?」
「えー、でも太りそうだしなあ」
またも娘には甘くなってしまうのだった。
◆◆◆
「よう亮太、変わりないか?ネットで炎上したとか聞いたぞ、怪我はしてないか?」
「桃山さん、すみません。僕は大丈夫です。実は、ちょうど連絡しようと思っていて」
夕食後に寝室に戻った桃山は、早速当の月本に電話をかけていた。特に落ち込んだ様子はない声に安心する。
「ん、ってことは何かあったのか?」
「はい。以前言ってた話、まだ間に合いますか」
月本が退職後も、桃山は何度か連絡を取っていた。特にジュエルソフトウェア入社後は会社自体の人手不足、またチーム自体も若く良い雰囲気なこともあって、一度経験を積みなおすのも悪くないのでは、と提案して声をかけていたのだ。
「そりゃもちろん大歓迎ではあるんだが、本当にいいのか?」
月本に心変わりがあったとすれば、それは辛い体験を通してのことだろう。手放しに喜ぶのも憚られ、不幸につけ込むようで気が引けるのというのもまた正直な気持ちだった。
「はい。やっぱり甘かったっていうか、二人でやれてたから大丈夫だろなんて、思ってたんですけど。それはあいつがすごかっただけなんですよね。メンバーとちょっと揉めちゃって、かなり危なかったんです。でも、雨振って地固まるというか、結果的にいい経験になりました。人生、近道はできないですよね」
月本なりに色々考えて行動する中で、一回り成長したということだろうか。危ない経験さえ前向きに話すどこか大人びた声に安心し、自分の手柄でもなんでもないのに誇らしい気分になる。
「そうか。大変だったな。SNSも変なやつ沢山いるからなあ」
「はい、実感しました。特にちょっと仲良くなって気を許した相手が危ないですね」
さっき話したばかりの内容を月本の口から再確認して、思わず笑いがこぼれる。
「ははっ、そのとおりだ。じゃ、そういうことなら明日にでも来てくれていいぞ!何なら、こっちで引き続き異世界大戦、やってみるか?」
「いいんですか!?」
実際、『パズモン』の売上次第では新企画を動かしたいという話は既に南ともしており、そうなれば採用など全部桃山に任せるとの合意は取れている。そもそもが桃山が『パズモン』を担当していたのも、南にとってはまず会社に慣れてもらうための意味合いも強かったようだ。だからこれはどちらにとっても渡りに船、お互いWinWinの話だ。
「ちょうどこの後どうしようか途方に暮れてたところなんです。やっぱりあんなことがあったあとだし、このまま続けてもなって。貯金も減る一方だし。信頼できるメンバーも二人ほど見つかったんですけど……」
「なるほど。だったらそいつらも声かけてみたらどうだ?まとめてウェルカムだぞ」
「じゃあ話してみます!一人はイラストお願いしてて、彼女、腕は確かなんです」
「可愛いのか?」
「はい、それも間違いないです!人妻ですけど」
月本の見えないところで「なんだよ」とずっこける。
(これで色々整ってきたな。――見てろよ沼田の野郎)
伊賀から話が来て以来、行き過ぎなくらいトントン拍子に進んでいる中でも、どこか昏い感情がまだ胸の内にくすぶっているのを感じる。桃山は首を振って邪念を払うと、
「よし!早速週明け面接来られるか?形式的なもんだけどな。詳細はこのあとメールする。異世界大戦、再始動だな!」
と努めて明るく言う。
「はい、100万ダウンロード目指しましょう!」
「何いってんだ、夢はでっかく。1000万だろ?」
電話の先で月本の笑い声が聞こえる。
(夢、か。今ならまた信じてもいいのかも、なんてな)
こうして、『異世界大戦』はジュエルソフトウェアという後ろ盾を得て、桃山の指揮下で再び動き出すこととなった。
入社早々に既に開発は終盤だった『パズルモンスターズ』に投入され、たかがパズルと疑ってかかっていた桃山だったが、意外とシンプルかつやり込みの懐の深さがある面白さで、単純なもので一気に夢中になってしまったのだった。
締め切り前の残業と休日出勤地獄を経験したものの、やはり小さい会社ゆえの自由度もあり、体力的な厳しさはあれど、精神的にはかなり前向きにリリースまで走り切ることができた。
そうして新しい職場での仕事にも慣れ、余裕も出てきたある日曜日。
「あんたたち、また『パズモン』やってるの?」
珍しくアルバイトが休みで昼食後の洗い物をしている陽子が、リビングでゴロゴロしながらダラダラとスマホゲームをプレイしている二人に問いかける。
「いいじゃん、これお母さんもやってみたら、ハマるよ。お父さん、石尽きたんだけどまたもらえたりしない?今回のピックアップマジで欲しいんだけど」
思った以上の大ヒットで、春子の同級生の間でも流行りはじめているほどだという話は聞いている。
「明日でいいか?あんま大っぴらにやるとアレだからな、絶対誰にも言うなよ」
開発者特権で、社内から特定のアカウントに向けて、運営用ツールを使ってアイテムを配ることができるのだ。もちろん褒められたことではないのも分かっている。
「あら、いいの?公私混同じゃないの」
「公も私もどっちもゲームみたいなもんだ、それに小さい会社はその辺ゆるいし、まあ大丈夫だろ」
ゲームを通じて娘との会話も最近は増えているのが嬉しく、ついつい甘くなってしまう桃山だった。
「そう、ならいいけど。暇してるんだったらそろそろあのダンボール片付けたら。仕事はだいぶ落ち着いたんでしょ?」
リビングに置きっぱなしだったダンボールを指さしながら陽子が言う。リリースを無事に終え、桃山に余裕が出るまで待ってくれていたのがわかるので、蔑ろにはできない。
「へいへい、やりますよ」
ゲームを中断し、ずっと後回しにしていた作業にとりかかる。もともとデスク周りにおいていたゲームのグッズやノート、その他文房具、キャラクターのフィギュアなどが乱雑に詰め込まれている。キャリア強化ルーム送りになる際に、人事の社員が入れたのだろう。
だが、一通り確認してみて、あるはずのものがいくら探しても見つからないことに気がついた。
(あれ、春子の描いてくれた絵がないな、まさか野間ちゃんが取るわけないしなあ)
「なあ、誰も中開けたり捨てたりしてないよな?」
春子がゲームに夢中になりながら「知らないよ」と答える。
「私も知らないけど、なにか大事なものでもあったの?」
「いや、大事っていうか、まあ大事なんだが」
春子ももう高校生になる。小学生の時に描いた”ゲームをするパパ”の絵を会社の机に置いていたなんて知っても、「そんなの早く捨ててよ」なんて言われてしまいそうだ。そう考え、なにが無いか明言するのは避けた桃山だった。
「人事のやつに捨てられちゃったかもなあ、レシートやら、破って丸めたノートのページなんかも大量に引き出しに入れてたし」
「だから普段から整理整頓って言ってるじゃないのよ」
「そりゃそうなんだがよ」
全くその通りで反論できない。しかし、どのグッズを見ても当時の思い出が蘇ってきて、なかなか捨てる決断ができそうにない。
「ああもう、明日会社に全部持ってくわ!」
そうして、物を捨てるのが苦手な桃山は安易な力技で解決することにした。
◆◆◆
結局、三人はなんとなく『パズモン』とテレビでそれぞれダラダラ過ごした後、久しぶりに全員揃って陽子お手製の気合の入った夕食を取っていた。食べながらチラチラとスマホを見ている春子に、陽子が注意をする。
「こら春子、食事中はスマホしないの」
今度はゲームではなくSNSに夢中のようだ。
「ほら、みんなで食べるときは禁止って、一応そういう決まりにしただろ?」
「はーい」
春子が渋々ながらスマホを離れた場所に置く。桃山自身もついつい触ってしまうことが多かったが、示しがつかないと思えばすんなり離れることができるものだ。
「でも何をそんなに夢中になってたんだ、またスイッターか?」
「なんか即売会で事件があったみたい。刃物を持った男が暴れたとかで、ちょっと炎上してる。フォローしてるイラストレーターの人が、そのサークルのイラスト手伝ってるらしくて」
「SNSも怖いわよね、春子も気をつけてよ。何年か前もあったでしょう?ほら、オフ会で男女のトラブルで刺されたみたいな事件」
「大丈夫だよ、心配しすぎだよお母さんは」
その事件は桃山も覚えていた。確か二人が刺されて一人は重体、もう一人の女の子は顔を刺されて重傷だったような記憶がある。近い年頃の娘がいるとなれば、親としては気が気ではない。
「そうは言っても親は心配するものなんだよ。気をつけろよ、変なやつはどこにでもいるからな」
「たしかに変な人はいるけど、2人で会ったりしなきゃ大丈夫でしょ、リプライとか見てればヤバさはわかるよ」
「そんな明らかにヤバいやつじゃなくて、ちょっと気を許した相手のほうが危ないんだよ。でもゲーム開発ってんなら、うちに来てくれたらいくらでも採用するんだがね。なんてサークルなんだ?」
ゲームを作っているサークルに心当たりがあった桃山は、まさかとは思ったが念のため尋ねてみた。
「えっと、確か『サークルRK』とかだったかな」
「なんだって!そいつは大丈夫だったのか!?」
そのまさかだった。特にSNSはやっていない桃山だったが、月本に以前アカウントを教えてもらったときに、一度軽く見てみたことがある。そんな事になっていたとは驚きだった。
思わずつかみかからんばかりの勢いで春子に尋ねる。
「えっ、なになに?大丈夫だと思うけど、何で?」
春子が目を丸くして固まっている。かなり驚かせてしまったようだ。
「ああ、悪い、そいつ、前の会社で面倒見てた若手なんだ」
「そうだったの!?怪我したみたいな話はなかったよ」
「そうか、ならいいんだ」
落ち着いて座り直す。
「その後輩の方、何事もなければいいけど……」
陽子も心配している様子が伝わってくる。
「そうだな、ちょっと連絡してみるか。お、最後のカツいただきっと!」
せっかくの3人揃った夕食の家族団らんを壊しては良くないと、意識しておどけた調子で、空気を切り替える。
「えっ、まだ私2個しか食べてないんだけど」
「なんだ、スマホばっか見てるからだぞ。ほら、食べ盛りなんだからどんどん食べな、ご飯おかわりはいいのか?」
「えー、でも太りそうだしなあ」
またも娘には甘くなってしまうのだった。
◆◆◆
「よう亮太、変わりないか?ネットで炎上したとか聞いたぞ、怪我はしてないか?」
「桃山さん、すみません。僕は大丈夫です。実は、ちょうど連絡しようと思っていて」
夕食後に寝室に戻った桃山は、早速当の月本に電話をかけていた。特に落ち込んだ様子はない声に安心する。
「ん、ってことは何かあったのか?」
「はい。以前言ってた話、まだ間に合いますか」
月本が退職後も、桃山は何度か連絡を取っていた。特にジュエルソフトウェア入社後は会社自体の人手不足、またチーム自体も若く良い雰囲気なこともあって、一度経験を積みなおすのも悪くないのでは、と提案して声をかけていたのだ。
「そりゃもちろん大歓迎ではあるんだが、本当にいいのか?」
月本に心変わりがあったとすれば、それは辛い体験を通してのことだろう。手放しに喜ぶのも憚られ、不幸につけ込むようで気が引けるのというのもまた正直な気持ちだった。
「はい。やっぱり甘かったっていうか、二人でやれてたから大丈夫だろなんて、思ってたんですけど。それはあいつがすごかっただけなんですよね。メンバーとちょっと揉めちゃって、かなり危なかったんです。でも、雨振って地固まるというか、結果的にいい経験になりました。人生、近道はできないですよね」
月本なりに色々考えて行動する中で、一回り成長したということだろうか。危ない経験さえ前向きに話すどこか大人びた声に安心し、自分の手柄でもなんでもないのに誇らしい気分になる。
「そうか。大変だったな。SNSも変なやつ沢山いるからなあ」
「はい、実感しました。特にちょっと仲良くなって気を許した相手が危ないですね」
さっき話したばかりの内容を月本の口から再確認して、思わず笑いがこぼれる。
「ははっ、そのとおりだ。じゃ、そういうことなら明日にでも来てくれていいぞ!何なら、こっちで引き続き異世界大戦、やってみるか?」
「いいんですか!?」
実際、『パズモン』の売上次第では新企画を動かしたいという話は既に南ともしており、そうなれば採用など全部桃山に任せるとの合意は取れている。そもそもが桃山が『パズモン』を担当していたのも、南にとってはまず会社に慣れてもらうための意味合いも強かったようだ。だからこれはどちらにとっても渡りに船、お互いWinWinの話だ。
「ちょうどこの後どうしようか途方に暮れてたところなんです。やっぱりあんなことがあったあとだし、このまま続けてもなって。貯金も減る一方だし。信頼できるメンバーも二人ほど見つかったんですけど……」
「なるほど。だったらそいつらも声かけてみたらどうだ?まとめてウェルカムだぞ」
「じゃあ話してみます!一人はイラストお願いしてて、彼女、腕は確かなんです」
「可愛いのか?」
「はい、それも間違いないです!人妻ですけど」
月本の見えないところで「なんだよ」とずっこける。
(これで色々整ってきたな。――見てろよ沼田の野郎)
伊賀から話が来て以来、行き過ぎなくらいトントン拍子に進んでいる中でも、どこか昏い感情がまだ胸の内にくすぶっているのを感じる。桃山は首を振って邪念を払うと、
「よし!早速週明け面接来られるか?形式的なもんだけどな。詳細はこのあとメールする。異世界大戦、再始動だな!」
と努めて明るく言う。
「はい、100万ダウンロード目指しましょう!」
「何いってんだ、夢はでっかく。1000万だろ?」
電話の先で月本の笑い声が聞こえる。
(夢、か。今ならまた信じてもいいのかも、なんてな)
こうして、『異世界大戦』はジュエルソフトウェアという後ろ盾を得て、桃山の指揮下で再び動き出すこととなった。