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作者: ちありや
第127話 どようび
「やぁ、君が野々村くんだね。今日はよろしく頼むよ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
 
 翌朝9時半、南瓢箪岳駅近くのまだオープン時間前の大型ショッピングモール前で、御影と野々村は久子から受けた指令のままに合流していた。
 沖田に恋慕していた様に元からイケメン好きな野々村は、βベータイケメンである御影の顔にときめきを隠せない。自然と挙動不審な声が出る。
 
 そしてなぜか御影にくっついて離れない女子高生が7名いるが、それについては野々村は全く何も聞かされていなかった。
 彼女達も彼女達で野々村の乱入にも一切動じること無く「よろしく〜」などと気安く受け容れていた。
 
 今更1人増えた所で揺るぎもしない御影ファンクラブのふところの広さに驚愕する野々村。これが沖田親衛隊だったら呪い殺されそうな程の悪意の暴風を浴びるに違い無いと言うのに。
 
 ただ、野々村はその7名の中のギャルっぽい1人が見知った顔であった様なおぼろげな記憶があったのだが、ついぞ思い出す事が出来ずにいた。
 
『やっべー、なんで千代美ちゃんが御影様と待ち合わせしてんの? 千代美このこもマジボラに入って魔法少女になったのかしら…? とりあえず目立たん様にしとこ』
 
 そして一方の相手はしっかりと野々村の事を覚えていた。そう、彼女の正体は門倉かどくら まどか、魔法少女の捜査の為に瓢箪岳高校に潜入していた婦人警官である。
 
 その彼女がなぜここに居るのか? 答えは簡単、御影と集団デートの約束をしていたからである。
 なぜ御影と集団デートをするのか? 答えは簡単、御影ファンクラブの一員だからである。
 仕事である捜査とデートに関連性はあるのか? 答えは簡単、『ある訳ねーだろ』である。
 
 要は完全に個人的な欲求のままに御影の追っかけをやっているのであり、今のまどかはプライベートタイムなのであった。
 
 一応上司である武藤には「マジボラ連中が何かするみたいなので調べてくる」と嘘の報告を上げ、仕事の振りをして出てきた。
 奇しくもまどかの報告は後に真実となるのだが、睦美も久子も「本日は2箇所で襲撃がある」旨を武藤へ連絡しておらず、武藤は朝になってからあたふたとあちこち動き回る羽目になるのであった。
 
「あの、御影様… 一応『敵の襲撃に備えて』と言う事と『大豪院くんの監視』と言うダブルミッションな訳ですが、女の子たくさん連れて安全性とか隠匿性とか大丈夫なんですか…?」
 
 始まる前から不安しかないこの状況に野々村が御影にツッコむ。
 同学年なのに『様付き』で呼んでいる野々村も大概だが、御影も御影でいつもの様にマイペースに、
 
「まぁ何とかなるでしょ。最悪私の魔法で皆を、もちろんキミも含めて逃がす隙くらいは作ってみせるよ」
 
 と野々村の顎を軽く掴んで目を見ながら言い放ち、彼女の後ろに控えるファンクラブから「いいなぁ〜」と言う声が上がる。
 その御影の仕草に、野々村はもはや返事も出来ない程に正気では居られなくなっていた。目がハートの形をしている事から証拠としては十分であろう。
 
「それにしても人を呼びつけておいて近藤先輩たちは遅いねぇ。って言うかそもそも来るのかな…?」
 
「睦美様たちはここには来ません。代わりに僕が派遣されました」 
 
 ニヤケ顔でその場に登場したのはマジボラ顧問の英語教師アンドレである。御影も野々村も英語教師としてのアンドレは知っていたが、マジボラ顧問として顔を合わせるのは初めてで少なからずの動揺があった。
 
「アンドレ先生… 先生も関係者なら何か魔法が使えるんですか…?」
 
 しかしアンドレは野々村の質問に申し訳無さそうな顔をする。
 
「あー、いえいえ、男はどう頑張っても魔法は使えません。恐らく戦闘になっても僕は役立たずでしょう。今日は大豪院くんを見に来たのが主目的です… で、彼はどこに?」
 
 それに答えて野々村は、1階層下の吹き抜けになっている広場を指差す。そこには今の御影の様に複数の女子に囲まれた大豪院と、傍目にはモテモテ状態の大豪院を、一歩離れた場所から不思議そうに、かつ冷ややかな目で見る鍬形がいた。
 
 早くから来ていた大豪院らは野々村が御影やアンドレの到着する以前から『この状態』のまま言わば膠着状態となっており、疑問に思った野々村も鍬形に電話で状況の説明を求めたのだが、当然鍬形自身も状況の理解度などゼロに等しく、難しい顔をしたまま「知んねーよ」と返すのが精一杯だった。
 
 もちろん大豪院とその周りの女子達全員を含めて状況を理解している者は皆無である。
 周りの女子達、すなわちアグエラの部下である淫魔部隊であるが、昨日の今日で有効な作戦など思い付く訳も無く『とにかく数で囲んで隙を窺い、誰かの技で大豪院を魅了する』と言う力業、しかし現状最も効果的であろう手段に訴えていた。
 
「へぇ、彼が大豪院くんですか、なかなか強そうだ。そしてずいぶんモテますねぇ、いやぁ羨ましい」
 
 その軽口とは裏腹に、アンドレの目は獲物を追う狩人の様に妖しく細められていた。
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