第57話 ますださん
互いに『敵と味方』という関係にありながら、数奇な運命に導かれて友人となったつばめと蘭。
彼女たちは今、靴屋と同じフロアにあるイタメシ系のファミリーレストランで、優雅に談笑を行っていた。
「芹沢さんはさっきの彼とは付き合い長いの?」
「いえいえ、入学してからだからまだ一週間ですよ。それに『買い物に』付き合っただけで、ロマンスなんて全然… 増田さんは誰かと一緒じゃ無かったんてす?」
「ん? 私は始めから一人だから気にしないで」
『ジジィが新しい怪人をボディガードに付けようとして全力で断ったけどね…』
どうやら外出する直前に繁蔵とひと悶着あったらしい。
「その靴もハイヒールですよね? 同い年なのになんか大人っぽいなぁって思って…」
「え? あぁハイヒールはなんつーか舞台衣装? 的な物で普段履きはしないわよ…?」
実は昨日の戦いの時に意識を失ったウマナミレイ?を繁蔵が遠隔操作で操った際、着地時に勢い余ってハイヒールの踵を折ってしまっていたのだ。
今日の蘭の買い物はその新たな備品の調達にあった。蘭自身が店まで赴いたのは『靴と下着は必ず店で具合を確かめながら買う』という彼女の信条によるものである。
「へぇ… お芝居やるんですか?」
「う、うーん… まぁ『役柄を演じている』のは確かかな…? あと同い年なんだから敬語やめようよ」
こんな所でウマナミレイ?の素性を明かす訳にはいかない。新しく出来た友人を前にしては尚更である。
「でもいいなぁ、わたしも芹沢さんみたいに『男の為に泣ける』様な恋をしてみたいわぁ」
「そんな… 片思いで泣かされたって辛いだけです… あ、だけだよ…」
「でも向こうから誘ってきたんだから、全く脈無しって訳でも無いんじゃないの?」
「う〜ん、わたしもそう思いたいんだけど、どうにも何を考えているのか掴めない人でさ…」
「ふ〜ん、一度私がその… 沖田くんだっけ? 彼にガツンと言ってあげようか?」
「え? いや良いよ良いよ! 増田さんに悪いし、沖田くんもいきなり知らない娘にガツンと言われても困るだろうし…」
『増田さんみたいなキレイな子を前にしたら、また沖田くんの浮気症が出てきちゃう…』
口にこそ出さないが、不二子の一件がつばめの胸をよぎる。不安要素は初手から切り捨てるに限るのだ。
「そぉ? まぁあまりお節介するのも良くないか…」
「う、うん、気持ちだけ貰っておく。凄く嬉しいよ」
その後しばらく益体もない事を2人でダラダラと話し合う。
やがて蘭が腕時計で時間を確認し、つばめに向き直る。
「さて、そろそろ帰らないとクソジ… お爺ちゃんが心配しちゃうから、私もう帰るね。今日は楽しかったよ芹沢さん、また明日学校でね」
「あ、うん。こちらこそ話を聞いてくれてありがとう。増田さんが居てくれなかったら、わたしどうなっていたか…」
「んー、芹沢さんなら多分私がいなくても1人で立ち直れてたよ。今日会ったばかりだけど『強い子だな』って分かるもん」
冗談交じりの蘭の笑顔と言葉がとても暖かく感じる。悲しい思いもしたが、それを帳消しにできる程の素敵な出会いがあったとつばめは思った。
「わたしそんなに強いかな…? 泣いてばかりのただの女子高生だよ…?」
「強いよ、私が保証する。だから自信持って」
「うん、本当にありがとう…」
この増田蘭という娘はとても不思議な娘だとつばめは思う。綿子のフレンドリーさとも、沖田の先の読めなさとも、御影のイケメンぶりとも違う、それでいて全てを包括しているような『懐の広さ』を感じる。
『この出会いは一生の宝物になりそう…』
上機嫌でそう考えたつばめも店から退出するべく席を立った。
その時だ。窓の外から自動車、恐らくは大型のトラックの物と思われるクラクションのホーン音が周囲に鳴り響いた。
音の主を探して窓の外を覗き込む2人。
駅前のロータリーで自動車の出入りはそれなりに多い場所だ。それでもクラクションの音というのは、あまり聞いて気持ちの良いものではない。
「事故かしら…? 最近物騒よねぇ…」
蘭の呟きに心底同意するつばめ。今はまだ何とか事なきを得ているものの、入学してからの一週間ほぼ毎日交通事故に逢いかけているのだ。
一昨日だって学校の前で女生徒がトラックに轢かれて……。
ここでようやくつばめは『増田蘭』という名前に思い当たる。一昨日に交通事故で重傷を負い、病院に搬送されたまま行方不明になっていた女生徒とは目の前の彼女では無いのか? 自己紹介の時にF組と言っていたので、もはや間違いは無いだろう。
脚の骨を骨折している、という情報ではあったが、目の前の蘭は問題なさそうに自然と歩いている。
まぁ、これはきっと情報が錯綜してガセネタが跋扈してしまった結果なのだろう。何にせよ怪我が軽いならそれに越したことはない。
そう結論づけて、つばめはそれ以上深く考える事をしなかった。
蘭は新たな魔法少女候補として、マジボラとしても行方を追っていた人物だ。まさかこんな所で発見出来ようとは。ましてや親交を結べるとは予想だにしていなかった。
意を決してつばめは蘭に声をかけた。
「ねぇ増田さん… 明日の放課後、ちょっと付き合って貰ってもいいかな…?」
彼女たちは今、靴屋と同じフロアにあるイタメシ系のファミリーレストランで、優雅に談笑を行っていた。
「芹沢さんはさっきの彼とは付き合い長いの?」
「いえいえ、入学してからだからまだ一週間ですよ。それに『買い物に』付き合っただけで、ロマンスなんて全然… 増田さんは誰かと一緒じゃ無かったんてす?」
「ん? 私は始めから一人だから気にしないで」
『ジジィが新しい怪人をボディガードに付けようとして全力で断ったけどね…』
どうやら外出する直前に繁蔵とひと悶着あったらしい。
「その靴もハイヒールですよね? 同い年なのになんか大人っぽいなぁって思って…」
「え? あぁハイヒールはなんつーか舞台衣装? 的な物で普段履きはしないわよ…?」
実は昨日の戦いの時に意識を失ったウマナミレイ?を繁蔵が遠隔操作で操った際、着地時に勢い余ってハイヒールの踵を折ってしまっていたのだ。
今日の蘭の買い物はその新たな備品の調達にあった。蘭自身が店まで赴いたのは『靴と下着は必ず店で具合を確かめながら買う』という彼女の信条によるものである。
「へぇ… お芝居やるんですか?」
「う、うーん… まぁ『役柄を演じている』のは確かかな…? あと同い年なんだから敬語やめようよ」
こんな所でウマナミレイ?の素性を明かす訳にはいかない。新しく出来た友人を前にしては尚更である。
「でもいいなぁ、わたしも芹沢さんみたいに『男の為に泣ける』様な恋をしてみたいわぁ」
「そんな… 片思いで泣かされたって辛いだけです… あ、だけだよ…」
「でも向こうから誘ってきたんだから、全く脈無しって訳でも無いんじゃないの?」
「う〜ん、わたしもそう思いたいんだけど、どうにも何を考えているのか掴めない人でさ…」
「ふ〜ん、一度私がその… 沖田くんだっけ? 彼にガツンと言ってあげようか?」
「え? いや良いよ良いよ! 増田さんに悪いし、沖田くんもいきなり知らない娘にガツンと言われても困るだろうし…」
『増田さんみたいなキレイな子を前にしたら、また沖田くんの浮気症が出てきちゃう…』
口にこそ出さないが、不二子の一件がつばめの胸をよぎる。不安要素は初手から切り捨てるに限るのだ。
「そぉ? まぁあまりお節介するのも良くないか…」
「う、うん、気持ちだけ貰っておく。凄く嬉しいよ」
その後しばらく益体もない事を2人でダラダラと話し合う。
やがて蘭が腕時計で時間を確認し、つばめに向き直る。
「さて、そろそろ帰らないとクソジ… お爺ちゃんが心配しちゃうから、私もう帰るね。今日は楽しかったよ芹沢さん、また明日学校でね」
「あ、うん。こちらこそ話を聞いてくれてありがとう。増田さんが居てくれなかったら、わたしどうなっていたか…」
「んー、芹沢さんなら多分私がいなくても1人で立ち直れてたよ。今日会ったばかりだけど『強い子だな』って分かるもん」
冗談交じりの蘭の笑顔と言葉がとても暖かく感じる。悲しい思いもしたが、それを帳消しにできる程の素敵な出会いがあったとつばめは思った。
「わたしそんなに強いかな…? 泣いてばかりのただの女子高生だよ…?」
「強いよ、私が保証する。だから自信持って」
「うん、本当にありがとう…」
この増田蘭という娘はとても不思議な娘だとつばめは思う。綿子のフレンドリーさとも、沖田の先の読めなさとも、御影のイケメンぶりとも違う、それでいて全てを包括しているような『懐の広さ』を感じる。
『この出会いは一生の宝物になりそう…』
上機嫌でそう考えたつばめも店から退出するべく席を立った。
その時だ。窓の外から自動車、恐らくは大型のトラックの物と思われるクラクションのホーン音が周囲に鳴り響いた。
音の主を探して窓の外を覗き込む2人。
駅前のロータリーで自動車の出入りはそれなりに多い場所だ。それでもクラクションの音というのは、あまり聞いて気持ちの良いものではない。
「事故かしら…? 最近物騒よねぇ…」
蘭の呟きに心底同意するつばめ。今はまだ何とか事なきを得ているものの、入学してからの一週間ほぼ毎日交通事故に逢いかけているのだ。
一昨日だって学校の前で女生徒がトラックに轢かれて……。
ここでようやくつばめは『増田蘭』という名前に思い当たる。一昨日に交通事故で重傷を負い、病院に搬送されたまま行方不明になっていた女生徒とは目の前の彼女では無いのか? 自己紹介の時にF組と言っていたので、もはや間違いは無いだろう。
脚の骨を骨折している、という情報ではあったが、目の前の蘭は問題なさそうに自然と歩いている。
まぁ、これはきっと情報が錯綜してガセネタが跋扈してしまった結果なのだろう。何にせよ怪我が軽いならそれに越したことはない。
そう結論づけて、つばめはそれ以上深く考える事をしなかった。
蘭は新たな魔法少女候補として、マジボラとしても行方を追っていた人物だ。まさかこんな所で発見出来ようとは。ましてや親交を結べるとは予想だにしていなかった。
意を決してつばめは蘭に声をかけた。
「ねぇ増田さん… 明日の放課後、ちょっと付き合って貰ってもいいかな…?」