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作者: ちありや
第21話 かいぶつ
 部室からの地下トンネルを抜け街に出るマジボラの3人。今日はどんな事件が待っているのか?

『言うてもどうせ睦美先輩のマッチポンプで偽物の感謝を集めるだけなんだろうけどさ…』

 粗方の流れが分かっているが故に、つばめのモチベーションはなかなか上がらない。

 セコい真似をしてセコい稼ぎに満足するよりも、もっと若者らしい大きな目標に向かってみたい気もする。
 しかしそれ以上にマジボラ自体の怪しさに気を許してはならないと、心で警鐘が鳴っているのも確かなのだ。

「つばめ、アンタ分かってるかどうか怪しいけど、久子の筋肉痛を引き継いでいるんだから、今全身の筋肉が断裂している状態なのよ? だから今日は肉体フィジカル面では何もしなくて良いわ」

 睦美の言葉に平静を装いながらもつばめは戦慄していた。確かに痛みは全く無いのだが、体にダメージを受けているのは間違い無いのだ。
 昨日の膝の擦り傷の様に絆創膏で対処出来る程度の傷なら問題は無いが、更に重篤な損傷を引き継いだ時に、その後の生活が脅かされる様では本末転倒だ。

 今更ながらに恐怖を覚えるつばめ。痛いのは嫌だからと安易に損傷の方を引き継ぐのもかなり危険であると認識する。

「でも筋肉痛なら安静にしていれば、後から超回復でそれまで以上の筋肉が付くし、回復に多量のカロリーを使うからダイエットにはなるかもねぇ」

 久子の言葉に興味を惹かれるつばめ。女子としてあまり筋肉は付けたくないのだが、婦人疾患の多くは体力不足から起こるものもあるらしいし、労せずして筋肉が強化されダイエットにもなるのなら、筋肉痛の回復は推奨活動では無かろうか?

 またそんな都合の良い事を夢想していたつばめに遠くからの叫び声が聞こえた。

「助けてーっ!」
「怪物だーっ!」
「警察を! 自衛隊でもいい! 誰かーっ!」

 どうやら尋常ならざる事態の様だが、睦美も久子も想定外の事らしく2人とも怪訝そうな顔をしていた。

「…行くわよ!」

 睦美が先陣を切って走り出す。引き締められたその顔には『稼ぎのチャンス』という意図はまるで入っていなかった。

「オーホッホッホッホ! さぁクモ怪人よ、我々の初舞台を美しく飾りなさい!!」

 事件現場である広場に若い女の哄笑が鳴り響く。周囲には多数の高さ2m程のワタゴミを連想させるオブジェが無造作に幾つか置かれている。
 よく見るとそのオブジェの中には人が捕らわれているらしく、皆一様に苦しそうに呻いていた。

 そしてそれを現在進行系で量産しているのがクモ怪人と呼ばれた蜘蛛を模したと思われるデザインの怪人であった。

 顔つきは虫の蜘蛛そっくりのリアルな造形で、上半身は背中から4本の足を生やし、それらがワシャワシャとうごめいている。正直等身大のサイズでやられると生理的な嫌悪感がかなり強く出るデザインだ。

 手から鳥黐トリモチ状の物体を射出して、それに当てられた人は先程のワタゴミオブジェにされてしまうのだ。
 ちなみに怪人の下半身は黒タイツに半長靴という極めてシンプルなデザインだった。

 そしてその横に立ち、怪人の指揮をしていると思われる女性、背中に至る長い黒髪、露出の高い黒いレオタード、手にした乗馬鞭、歩きにくそうなピンヒール、目元を隠す為の派手なマスクと「どこのお店の女王様ですか?」と問いたくなる外見をしていた。

 顳顬こめかみ辺りから生えた天にそびえる様な長い角と、背中から生えた翼竜の様な翼、更には臀部から生えた狐の様にモフモフした尻尾をフリフリさせているのを除けば、だが。

 スタイルは想像する程に良くはない。山崎保健教諭にこの格好をさせたら世界を征服できるのでは無いかと思える程に蠱惑的であろうが、残念ながらこの女幹部(?)のスタイルにはそこまでのボリュームは無い。

 よく見ると角とヒールを込まない素の身長も160cm有るか無いかで、あまり迫力が無くむしろチンチクリンに見える。
 というよりも見た目より若くて体型も発展途上、つばめと変わらない年齢なのかも知れない。

 兎にも角にもこんなにも大っぴらに悪事を働かれると却って清々しい程である。

 さて、こんな時に我らがマジボラの取るべき行動は…?

 久子は目の前の巨悪に対して怒りをあらわに拳を握る。つばめはこういった異常事態に慣れていない為か2、3歩後ずさる。

 睦美は得物のキャンディスティックで自らの肩をポンポン叩きながら歩き始め、相手との距離を縮める。

「ちょっと!」

 睦美の声にクモ怪人と女幹部が同時に睦美を見る。

 睦美と女幹部の視線が合い、やがて2人は同時に声を出した。

「「変な格好してアンタ何者?!」」
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