第20話 こもん
久子の筋肉痛も快癒した事で睦美と久子も変態し、意気揚々と街に繰り出そうとする3人。
そこに部室の扉を開けて1人の人物が現れた。歳の頃30代半ばと見受けられる黒髪テンパで碧眼、筋肉質体型のスラブ系と思しき外国人男性だ。
「おや、皆さん今日は早いですね。うん? おぉ! 貴女が噂の大型新人ですね?!」
全く外人訛りの無い流暢な日本語でつばめの手を取った男性は、握った手を大きく上下に振りながらつばめに微笑んだ。
「え? あの…?」
つばめとて若い婦女子である。いきなり見知らぬ男性にキツく手を握られて当惑していた。
「あ、申し遅れました。僕はこの同好会の顧問やってます『アンドレ・カンドレ』と申します。あと教科は英語を教えています」
手を離さずにつばめを見つめたまま熱く自己紹介するカンドレ教諭。
「あー、アンドレは物凄い女ったらしだから1分以上手を握られると妊娠するわよ」
睦美の言葉にカンドレ教諭から思いっきり手を引き抜くつばめ。警戒度100%の目つきになって教諭と相対する。
「そんな酷いですよ、こんな好青年を捕まえて性犯罪者みたいに扱うなんて…」
カンドレ教諭が睦美に抗議するも、睦美は知らん顔で自らの枝毛探しをやっていた。
「あ、あの、新入生の芹沢つばめと言います、宜しくお願いします。先生、日本語お上手ですね。あと3m以内に近寄らないで下さい…」
つばめが大きく距離を取り挨拶をする。完全に変質者相手の対応だ。
「酷い! こんな屈辱は生まれて初めてだ!」
頭を抱えて懊悩するカンドレ教諭、いやアンドレ。やや芝居がかってはいるが、本気で傷ついている様にも見える。
半分冗談ではあったのだが、つばめは悪ふざけが過ぎたと少し反省する。
「つばめちゃん、大丈夫だよぉ、アンドレ先生に触られても妊娠なんてしないから」
久子が横から現れて、いとも自然にアンドレの手を握る。
「ね? 私はずっとアンドレ先生と手を握ってるけど妊娠なんてしたこと無いよ?」
「久子くん… 君とも付き合いは長いけど、とても素直で素敵な女性になったねぇ」
『付き合いが長い』? まぁ久子も在校年数は8年と長い訳だし、それなりに親交はあるか……。
つばめが感心していると久子の目が若干細くなる。
「でも女ったらしは本当ですよねぇ先生? この間一緒にいた女はどこのどちら様ですかぁ?」
久子の手に力が篭もる。恐らく魔法で強化されているのだろう、身長差にして30cm以上大柄でプロレスラー体型なアンドレが顔を真っ青にして悶え始める。
「いたたたたたたっ! マジ痛いマジ痛い。ギブギブ、助けて。ゴメンナサイ、マジ助けて!!」
握った手をそのまま握りつぶさんとする、初めて見る久子の激情に肝を冷やすが、同時に久子の気持ちが少しだけ透けて見えてほっこりするつばめ。
『なるほど、そういう人間関係なのね…』
他人が痛い目に遭っているのを純粋に第三者視点から楽しむ術を、つばめは既に心得ていた。
『それにしても、声だけ聞いてると普通に日本人みたいに喋る人だな。日本育ちとかなのかな…?』
少し余裕が出てきてアンドレの事を観察するつばめ。同好会の顧問としてどういった活動をしているのか皆目見当も付かないが、あの2人の滅茶苦茶ぶりに毎度毎度振り回されているのは想像に難くない。
付き合いが長い故に対処方法もしっかりと身についている、という感じだろうか? そういった気心の知れた仲間といった存在につばめは密かに憧れていた。
『女同士って一見仲良さそうに見えて、その実グループ内でもマウント取り合ったり仲間外れにしたりとか多いからなぁ、こういう男子みたいな雑な関係ってちょっと良いよね…』
「痛たたた… じゃあ改めてつばめくん、宜しく頼むね。頑張ってエナジーをたくさん集めてきて下さい」
久子から解放されて痛む手を擦りながらアンドレはつばめに宣した。
この物言いから推測できる事は、アンドレは睦美らに言いくるめられて訳も分からずに顧問をしているのでは無く、会の目的を理解した上で顧問として振る舞っている、という事だ。
「あの、先生。先生は『エナジーとは何か?』とか『何の為に集めるのか?』の理由を知ってるんですか? わたし何にも聞かされてないんです。良かったら教えてもらっても…」
そこまで言ったところで睦美に肩を叩かれる。
「焦らなくてもそのうち教えてあげるわよ。でもそれを聞いたら本当に『後戻り』出来なくなるからね…?」
忠告、というよりも脅しに近い口調。睦美の冷やかな視線は、興味本位で首を突っ込み事情を探ろうとする事を拒絶していた。
「んー、まだ聞いていないのなら僕から語る事は特に無いですねぇ。とにかく今は頑張って下さい!」
どうにも大事な所ではぐらかされる。そのエナジーとやらはそんなに秘匿性の高い情報なのだろうか? 今まであまり真面目に考えてこなかったが、エナジーの正体及び使用方法が悪事に関する事では無いと誰も言い切れないのだ。
『マジボラの活動はちょっと慎重にやった方が良いかもしれない…』
つばめが不信感を募らせた所で奇妙なやり取りを耳にする。
「じゃあ行ってくるわアンドレ。後は宜しく」
そう言った睦美に対するアンドレの返答は、
「はい、行ってらっしゃいませ睦美様、お気をつけて」
と胸に手を当てて軽く頭を下げながら、侍従の様にうやうやしく3人を送り出したのだった……。
そこに部室の扉を開けて1人の人物が現れた。歳の頃30代半ばと見受けられる黒髪テンパで碧眼、筋肉質体型のスラブ系と思しき外国人男性だ。
「おや、皆さん今日は早いですね。うん? おぉ! 貴女が噂の大型新人ですね?!」
全く外人訛りの無い流暢な日本語でつばめの手を取った男性は、握った手を大きく上下に振りながらつばめに微笑んだ。
「え? あの…?」
つばめとて若い婦女子である。いきなり見知らぬ男性にキツく手を握られて当惑していた。
「あ、申し遅れました。僕はこの同好会の顧問やってます『アンドレ・カンドレ』と申します。あと教科は英語を教えています」
手を離さずにつばめを見つめたまま熱く自己紹介するカンドレ教諭。
「あー、アンドレは物凄い女ったらしだから1分以上手を握られると妊娠するわよ」
睦美の言葉にカンドレ教諭から思いっきり手を引き抜くつばめ。警戒度100%の目つきになって教諭と相対する。
「そんな酷いですよ、こんな好青年を捕まえて性犯罪者みたいに扱うなんて…」
カンドレ教諭が睦美に抗議するも、睦美は知らん顔で自らの枝毛探しをやっていた。
「あ、あの、新入生の芹沢つばめと言います、宜しくお願いします。先生、日本語お上手ですね。あと3m以内に近寄らないで下さい…」
つばめが大きく距離を取り挨拶をする。完全に変質者相手の対応だ。
「酷い! こんな屈辱は生まれて初めてだ!」
頭を抱えて懊悩するカンドレ教諭、いやアンドレ。やや芝居がかってはいるが、本気で傷ついている様にも見える。
半分冗談ではあったのだが、つばめは悪ふざけが過ぎたと少し反省する。
「つばめちゃん、大丈夫だよぉ、アンドレ先生に触られても妊娠なんてしないから」
久子が横から現れて、いとも自然にアンドレの手を握る。
「ね? 私はずっとアンドレ先生と手を握ってるけど妊娠なんてしたこと無いよ?」
「久子くん… 君とも付き合いは長いけど、とても素直で素敵な女性になったねぇ」
『付き合いが長い』? まぁ久子も在校年数は8年と長い訳だし、それなりに親交はあるか……。
つばめが感心していると久子の目が若干細くなる。
「でも女ったらしは本当ですよねぇ先生? この間一緒にいた女はどこのどちら様ですかぁ?」
久子の手に力が篭もる。恐らく魔法で強化されているのだろう、身長差にして30cm以上大柄でプロレスラー体型なアンドレが顔を真っ青にして悶え始める。
「いたたたたたたっ! マジ痛いマジ痛い。ギブギブ、助けて。ゴメンナサイ、マジ助けて!!」
握った手をそのまま握りつぶさんとする、初めて見る久子の激情に肝を冷やすが、同時に久子の気持ちが少しだけ透けて見えてほっこりするつばめ。
『なるほど、そういう人間関係なのね…』
他人が痛い目に遭っているのを純粋に第三者視点から楽しむ術を、つばめは既に心得ていた。
『それにしても、声だけ聞いてると普通に日本人みたいに喋る人だな。日本育ちとかなのかな…?』
少し余裕が出てきてアンドレの事を観察するつばめ。同好会の顧問としてどういった活動をしているのか皆目見当も付かないが、あの2人の滅茶苦茶ぶりに毎度毎度振り回されているのは想像に難くない。
付き合いが長い故に対処方法もしっかりと身についている、という感じだろうか? そういった気心の知れた仲間といった存在につばめは密かに憧れていた。
『女同士って一見仲良さそうに見えて、その実グループ内でもマウント取り合ったり仲間外れにしたりとか多いからなぁ、こういう男子みたいな雑な関係ってちょっと良いよね…』
「痛たたた… じゃあ改めてつばめくん、宜しく頼むね。頑張ってエナジーをたくさん集めてきて下さい」
久子から解放されて痛む手を擦りながらアンドレはつばめに宣した。
この物言いから推測できる事は、アンドレは睦美らに言いくるめられて訳も分からずに顧問をしているのでは無く、会の目的を理解した上で顧問として振る舞っている、という事だ。
「あの、先生。先生は『エナジーとは何か?』とか『何の為に集めるのか?』の理由を知ってるんですか? わたし何にも聞かされてないんです。良かったら教えてもらっても…」
そこまで言ったところで睦美に肩を叩かれる。
「焦らなくてもそのうち教えてあげるわよ。でもそれを聞いたら本当に『後戻り』出来なくなるからね…?」
忠告、というよりも脅しに近い口調。睦美の冷やかな視線は、興味本位で首を突っ込み事情を探ろうとする事を拒絶していた。
「んー、まだ聞いていないのなら僕から語る事は特に無いですねぇ。とにかく今は頑張って下さい!」
どうにも大事な所ではぐらかされる。そのエナジーとやらはそんなに秘匿性の高い情報なのだろうか? 今まであまり真面目に考えてこなかったが、エナジーの正体及び使用方法が悪事に関する事では無いと誰も言い切れないのだ。
『マジボラの活動はちょっと慎重にやった方が良いかもしれない…』
つばめが不信感を募らせた所で奇妙なやり取りを耳にする。
「じゃあ行ってくるわアンドレ。後は宜しく」
そう言った睦美に対するアンドレの返答は、
「はい、行ってらっしゃいませ睦美様、お気をつけて」
と胸に手を当てて軽く頭を下げながら、侍従の様にうやうやしく3人を送り出したのだった……。