第2話 であい
「いやぁ危ないところだったねぇ。あたしが助けなかったら、今頃アンタ潰れたヒキガエルみたいになってたよ?」
『言い方……』
つばめは心でツッコむ。
まぁ確かにその通りだから強い事も言えない、とりあえず頭を下げる。
「…は、はい、おかげ様で助かりました、本当にありがとうございます」
つばめの言葉に目の前の魔法少女(?)の胸元の水色の宝石がテラテラと点滅した。
「うん、やっぱり命の掛かった感謝のエナジーは最高ね。アンタ、良いもの持ってるわ」
と、ご満悦な魔法少女(?)。もうこの辺で解放してほしいんだけどな、とつばめは思う。
魔法少女(?)はキャンディースティックの様な魔法の杖(?)を手でクルクルと回しながら口を開いた。
「アタシは3年生の近藤 睦美、あっちのちんちくりんは2年生の土方 久子よ。肘・肩・膝子で覚えても良いわ」
「はぁ、コンドー…」
つばめが言い切る前につばめの首に刃渡り25cm程の刃物が当てられていた。
見れば近藤と名乗る女が先程振るっていたキャンディスティックが仕込杖になっていたらしい。
純粋に物理的な仕組みで、魔法は関係なさそうだ。
「それ以上言ったら、今せっかく拾った命を無駄に散らす事になるわよ…?」
言い放つ睦美の瞳には慈悲の気持ちなど欠片も映っていなかった。もしここでつばめが「ム」と一言漏らしたら、次の刹那にはつばめの頭は胴体と切り離され、首から凄まじい量の血液を吹き出しながら、地面を転がっていただろう。
恐怖と重圧に押しつぶされそうになりながらも、つばめは目を見開いたままゆっくりと頷いた。
頷いた動きで首筋に刃が触れる。つばめの首の薄皮が一枚斬られ、一筋の血が浮き出て流れる。
睦美は怯えるつばめを面白そうに見つめながら剣を納める。元の無害なキャンディスティックの出来上がりだ。
「で? アンタの名前は?」
体が竦んで声の出ないつばめであったが、また殺されかけては堪らない。何とか声を振り絞る。
「い、1年の芹沢つ、つばめっ、です!」
「『つばめ』ね。オッケー、今日は入学式だけでしょ? 明日の昼過ぎに迎えに行くから首を洗って待っていなさい」
オーッホッホッホッホと高笑いをしながら去っていく睦美、その後をテケテケと追いかけていく久子。
久子はつばめに向き直り再び深く会釈をする。そしてニッコリと微笑んで
「つばめちゃん、また明日ね!」
と手を振って去っていった。
…一体何だったのだろう?
そもそもこれまでの一連の事件は本当に現実だったのか? 実はまだ自宅のベッドの中で見ている夢なのではないか?
再びそう思い、恐る恐る首筋に指を当てる。
鈍い痛みと共に戻した指先に、少量の血がこびり付いていた。
…怖すぎる。
入学初日だと言うのに、躊躇なく女の子の首を切り落とそうとするオバサンに目を付けられてしまった。
ん? 入学初日…?
おっと、それどころでは無い!
こちらは入学式に遅刻しそうな状況だったのだ。
再びつばめは全力で走った。もう校門との距離は100メートルを切っている。
前方30メートル程に同じ様に遅刻を回避すべく走っている男子生徒が居た。
「やっ、おはよう! キミも遅刻しそうになったのかい?」
つばめが彼に追いつき追い越そうとした瞬間に声を掛けられた。
『あ、カッコイイ人…』
つばめは思う。少女漫画のヒーローの様な茶髪のサラサラヘアーで線の細い、やや軽薄な感じのする青年ではあるが、足は長いし微笑む顔はとても優しそうだ。その造形はつばめ的には十二分に『イケメン』と呼べる形をしていた。
しかし今は一刻を争う時でもある。正面に見える校門では、赤いジャージに身を包んだ、如何にも体育教師然とした生活指導教諭が、腕時計とにらめっこしながら、スライド式の鉄門扉に手を掛けて、今にも閉めようと待ち構えている。
並走しつつ速度を上げる2人。
初めて会ったばかりなのに、この同調感は何だろう? まるで生まれた時から一緒に過ごしてきた様な安心する空気を、隣にいる男性は持っている。
『これは、運命の人に出会っちゃったかも…』
自分の左を走る男に、つばめははにかむ様な微笑みを見せる。
それに気づいた男もつばめに優しい笑顔を向ける……。
「ごわぁっ!!」
並走して見つめ合っていた2人、つばめはそのまま校内に走り込めたが、男の方はラストスパート直前につばめに微笑む為に右を向いていた。
そして前方を不確認のまま、その体を門扉に激突させたのだ。
門扉に貼り付いたまま数秒固まっていた男は、やがてそのまま下方へズレる様に倒れ込んだ。
つばめは突然の出来事に対応できずに止まっていた。
ついさっきまで元気に自分に微笑んでくれた彼が、今は物言わぬ骸となって… は居ないが、白目を剥き鼻から血を流し倒れている。
介抱しようとようやく体が動き出した頃には、彼はその場にいた指導教諭によって担がれていた。
「こいつは俺が保健室に連れて行くから、お前は早く教室に行って入学式に出なさい」
指導教諭はそう言って奥の校舎を指差す。
「は、はい」と答えてつばめも校舎に向かう。今は入学式が第一だ。
『さっきの男の子、大丈夫かなぁ? 後で保健室にお見舞いに行かなくちゃだよね…』
最早つばめの関心から入学式の事はスポンと外れていた。
『言い方……』
つばめは心でツッコむ。
まぁ確かにその通りだから強い事も言えない、とりあえず頭を下げる。
「…は、はい、おかげ様で助かりました、本当にありがとうございます」
つばめの言葉に目の前の魔法少女(?)の胸元の水色の宝石がテラテラと点滅した。
「うん、やっぱり命の掛かった感謝のエナジーは最高ね。アンタ、良いもの持ってるわ」
と、ご満悦な魔法少女(?)。もうこの辺で解放してほしいんだけどな、とつばめは思う。
魔法少女(?)はキャンディースティックの様な魔法の杖(?)を手でクルクルと回しながら口を開いた。
「アタシは3年生の近藤 睦美、あっちのちんちくりんは2年生の土方 久子よ。肘・肩・膝子で覚えても良いわ」
「はぁ、コンドー…」
つばめが言い切る前につばめの首に刃渡り25cm程の刃物が当てられていた。
見れば近藤と名乗る女が先程振るっていたキャンディスティックが仕込杖になっていたらしい。
純粋に物理的な仕組みで、魔法は関係なさそうだ。
「それ以上言ったら、今せっかく拾った命を無駄に散らす事になるわよ…?」
言い放つ睦美の瞳には慈悲の気持ちなど欠片も映っていなかった。もしここでつばめが「ム」と一言漏らしたら、次の刹那にはつばめの頭は胴体と切り離され、首から凄まじい量の血液を吹き出しながら、地面を転がっていただろう。
恐怖と重圧に押しつぶされそうになりながらも、つばめは目を見開いたままゆっくりと頷いた。
頷いた動きで首筋に刃が触れる。つばめの首の薄皮が一枚斬られ、一筋の血が浮き出て流れる。
睦美は怯えるつばめを面白そうに見つめながら剣を納める。元の無害なキャンディスティックの出来上がりだ。
「で? アンタの名前は?」
体が竦んで声の出ないつばめであったが、また殺されかけては堪らない。何とか声を振り絞る。
「い、1年の芹沢つ、つばめっ、です!」
「『つばめ』ね。オッケー、今日は入学式だけでしょ? 明日の昼過ぎに迎えに行くから首を洗って待っていなさい」
オーッホッホッホッホと高笑いをしながら去っていく睦美、その後をテケテケと追いかけていく久子。
久子はつばめに向き直り再び深く会釈をする。そしてニッコリと微笑んで
「つばめちゃん、また明日ね!」
と手を振って去っていった。
…一体何だったのだろう?
そもそもこれまでの一連の事件は本当に現実だったのか? 実はまだ自宅のベッドの中で見ている夢なのではないか?
再びそう思い、恐る恐る首筋に指を当てる。
鈍い痛みと共に戻した指先に、少量の血がこびり付いていた。
…怖すぎる。
入学初日だと言うのに、躊躇なく女の子の首を切り落とそうとするオバサンに目を付けられてしまった。
ん? 入学初日…?
おっと、それどころでは無い!
こちらは入学式に遅刻しそうな状況だったのだ。
再びつばめは全力で走った。もう校門との距離は100メートルを切っている。
前方30メートル程に同じ様に遅刻を回避すべく走っている男子生徒が居た。
「やっ、おはよう! キミも遅刻しそうになったのかい?」
つばめが彼に追いつき追い越そうとした瞬間に声を掛けられた。
『あ、カッコイイ人…』
つばめは思う。少女漫画のヒーローの様な茶髪のサラサラヘアーで線の細い、やや軽薄な感じのする青年ではあるが、足は長いし微笑む顔はとても優しそうだ。その造形はつばめ的には十二分に『イケメン』と呼べる形をしていた。
しかし今は一刻を争う時でもある。正面に見える校門では、赤いジャージに身を包んだ、如何にも体育教師然とした生活指導教諭が、腕時計とにらめっこしながら、スライド式の鉄門扉に手を掛けて、今にも閉めようと待ち構えている。
並走しつつ速度を上げる2人。
初めて会ったばかりなのに、この同調感は何だろう? まるで生まれた時から一緒に過ごしてきた様な安心する空気を、隣にいる男性は持っている。
『これは、運命の人に出会っちゃったかも…』
自分の左を走る男に、つばめははにかむ様な微笑みを見せる。
それに気づいた男もつばめに優しい笑顔を向ける……。
「ごわぁっ!!」
並走して見つめ合っていた2人、つばめはそのまま校内に走り込めたが、男の方はラストスパート直前につばめに微笑む為に右を向いていた。
そして前方を不確認のまま、その体を門扉に激突させたのだ。
門扉に貼り付いたまま数秒固まっていた男は、やがてそのまま下方へズレる様に倒れ込んだ。
つばめは突然の出来事に対応できずに止まっていた。
ついさっきまで元気に自分に微笑んでくれた彼が、今は物言わぬ骸となって… は居ないが、白目を剥き鼻から血を流し倒れている。
介抱しようとようやく体が動き出した頃には、彼はその場にいた指導教諭によって担がれていた。
「こいつは俺が保健室に連れて行くから、お前は早く教室に行って入学式に出なさい」
指導教諭はそう言って奥の校舎を指差す。
「は、はい」と答えてつばめも校舎に向かう。今は入学式が第一だ。
『さっきの男の子、大丈夫かなぁ? 後で保健室にお見舞いに行かなくちゃだよね…』
最早つばめの関心から入学式の事はスポンと外れていた。