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作者: 柊 雪鐘
残酷な描写あり
0-1 日常の裏側
小説家になろうで本編執筆中、エブリスタでは小説の他に趣味で書いてる小説のキャラ絵を纏めたりなどをしております。
本編は200万字を越えた作品となっておりますが、まったりと読んでいただければと思います。決してまったりとした気分で、じゃないです。どうぞ心を擦りつぶしてください。
読者の皆様よろしくお願いします。
 △△県篠崎しのさき市。
 ここは人口8万2千人の県庁所在地から離れ、山奥に囲まれた小さな市。
 中でも一番の盛りを見せる商店街に隣接するオフィス街は今、平和な日常からかけ離れ、異質な空気に包まれていた。
 空は暗く、ビルの灯りが付いている。
 本来であれば人の気配がある筈の町中で、異質の音は響く。
 重たい空気の中、三つの影がうごめいていた。

夏樹なつき、見つけたか?」
「2時の方向に一匹います!」
「了解」

 地上と屋上、二人の少年がそれぞれ声を掛け合い、同じ方向へと走る。
 二人の先には明らかに人の形ではない黒い影が、ビルの合間を縫って駆け抜けていた。

「そっちに向かってます! 大丈夫ですか?」
「そのままお前の風でこっちに寄せてくれ」
「はい!」

 街中で風を切り、地面やビルを蹴る音に混じって二人の少年の声だけが風に乗って空間に響く。
 ビルの屋上を飛びながら走る、夏樹と呼ばれた少年は腕を振った。
 するとびゅう、と風は舞い、逃げる黒い影は突風にさらわれるように地面へと落ちていく。

「――……だめだ、一度打ち上げる。もう一度」
「了解です、飛ばします!」

 地上に立つ少年はその姿を確認していた。
 しかし何処か気に入らない様子で両手を強くアスファルトの地面に叩きつける。
 すると両手の先でアスファルトがばきりと音を立てて割れ、中から鋭く固い岩が隆起した。
 空から落ちてきた黒いヒョウのような生き物はごりゅ、と骨を砕くような鈍い音を立てて再び空へ飛び上がっていく。
 を見逃さなかった夏樹は足を止めて強い風を呼んだ。

「こっちに来たな。そのまま落ちてこい……」

 地面を隆起させた少年は冷静に、再び風に飛ばされる豹の着地地点に来ていた。
 右手を差し出し地面に触れ、アスファルトだった地面は直径1メートル程が砂場へと変化する。
 そこへ黒い豹はいざなわれる様に落ちていく。
 砂はゆっくりと渦を巻き始めた。
 中へと入った影は砂の渦に巻き込まれ、ずず、ずず、とゆっくり体が埋まり始める。
 一度入れば抜けなくなる蟻地獄ありじごく状の場所で、豹は少しずつ姿を失っていく。

「ゴアアァァァァ……!!!」

 豹は砂に身体を飲み込まれていった。
 そして首を残して全てが沈み、最後に獣の遠吠えの如く悲鳴を上げ、影は霧散した。
 その様子を最後まで見ていた土を操る少年の横に夏樹が並ぶ。

正也まさやさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、助かった」

 正也と呼ばれた少年は小さく頷き、開いた手を握り締める。
 豹を飲み込んだ砂は一瞬にして何事も無かったかのようにアスファルトの道路に戻っていく。
 日常にある景色の中で明らかに異質だった場所は、一握り分の黒い結晶を残して消えた。

「あ、欠片出てますよ」
「ん……」「正也、夏樹! そっちはどうだった?」

 夏樹に言われ、妖が残した黒い結晶を正也が手に取った頃。
 青い髪を一つにまとめた少年が声を上げて二人の元へ駆けてきた。

れいさん、こっちは終わりました。そっちはどうでした?」
「こっちはいなかったんだ。波音なみねは返事待ちだよ」

 走ってきたというのに息を切らす様子のない青髪の少年・玲は、ポケットからスマートフォンを取り出し画面を見せる。
 そこには地図が映り、現在地を示す二重丸から少し離れた場所に赤い丸が示されていた。

「ここから5分くらいかな……応援に行った方が良いですか?」
「……あいつはそういうのを嫌うから…待とう」

 首を傾げる夏樹に正也は即座に返事をする。
 玲の「それもそうだね」という納得と夏樹の「確かに」と頷く声が重なり、正也はちらりと玲に視線だけを向けた。

「ところで玲、用事は?」
「今は家に帰ってるだろうから多分大丈夫だよ。残りの見回りは僕が帰りに軽くやっておくね」

 玲は心配無用とでも言うようににこりと微笑む。
 そんな高峰たかみねれいは高校2年の水を扱う術士だ。
 柔らかい物腰で優しい表情をした少年だが、彼には今現在、正也と夏樹が行っていた仕事とは別の特別な仕事がある。
 一緒に街を見回るかたわらその仕事もこなしているらしい。

「……そう」

 学年が玲の1年後輩である置野おきの正也まさやは話し方はぶっきらぼうな上、ほぼ無表情の土を操る術士だ。
 普段から何を考えているか分からないように周囲からは思われがちだが、仕事は一番真面目に熟している。
 そんな正也の隣に立つのは風を操る術士、小鳥遊たかなし夏樹なつき
 共に仕事をしている中学3年で、術士の中では最年少の少年。
 爽やかさのある表情とは裏腹にあまり自を出すことが得意ではない性格で、常に周りに気を遣っている。
 その為か、常にサポートとして居る立ち位置だ。
 集合した三人は互いに顔を見合わせると、少しの沈黙が流れた。

 ―ピピピピッ!!

 そんな中、突如玲のスマートフォンが目覚ましのようなけたたましい音で鳴りだした。
 あまりにも大きな音に正也と夏樹は耳を押さえる。

「わ、びっくりした。波音から連絡来たよ」
『今やっと終わったわ!そっちは何、もう集まってるの? 今行くからそこで待ってなさい!!』

 玲が着信を取ると大音量で女の声が響く。
 スマートフォンの奥から響く声はそれだけを伝えてブツ、と勝手に電話が切れた。
 一瞬の電話が終わって数秒、スマートフォンの持ち主である玲は『ぼーっとしてました』と言わんばかりにやっとスマートフォンを耳から離してへにゃりと笑う。

「……あっ、まぁいっか。波音なら1分で来られそうだね」
「術士が揃うなら今日はもう解散ですかね?」

 先程の電話主、炎の力を操る波音は台風のような女だ。
 夏樹の顔が少し強張こわばり疲れた表情を見せる。
 その瞬間。

 ――ドゴォッ!

 夏樹の真後ろで隕石が落下するような光を放って何かが落ちた。
その風圧が3人の髪をなびかせる。

「10秒くらいだけど……」
「さすが波音、流星みたいだね」
「波音さんはいつも流星落下そうですよね……」

 さらっと正也が呟くのと同時に玲はにこりと笑う。
 夏樹は困惑の表情を浮かべ、深くため息を漏らした。
 もわもわと落下位置から上がっていた煙は少しずつ晴れて、そこにはショートカットの少女が腕を組み高慢な態度で立っている。
 その表情は明らかに機嫌が悪そうだ。

「何をさっきからゴチャゴチャ言ってるのよ? それに終わったなら終わったってこっちにも報告しなさいよね!」
「ごめんごめん。僕も今、この二人に合流したところだったんだ」
「ふんっ! 別に良いけど。私もちょっと手こずってたし」

 玲の言葉にそっぽを向く少女。その表情は未だ不機嫌のままだ。
 少女は水鏡みかがみ波音なみね、正也と同じ高校1年で火使いの術士である。
 その手を燃やし武力で戦うのと同様に、性格も中々攻撃的で高飛車な面がある。
 そしてそんな性格である為に、よく玲には呆れられる。
 正反対の性格である夏樹とは全くと言っていいほど相性が悪い。

「……それで、そっちはどんな奴だったの」

 そんな波音に対し、正也は先ほど手に入れた黒い結晶を見せる。
 仏頂面のその表情からは、やる気も見えないだるそうな気配を感じ取れた。
 扱いを把握されている波音は表情を戻し、腰につけたポーチから同じような大きさの黒い結晶を取り出す。

「あら、同じ黒色ね。こっちはまだ女王化しそうにないと思うけど怪しい猫のような姿があったわ。でも逃げられちゃって黒い虎と戦ったわね」
「そっちは虎かぁ。ま、一度報告に行こうよ、ね?」

 二人の結晶を確認した玲はにこりと笑って歩き出す。
 その背を三人は頷いてついて行く。
 先陣を切る玲の後ろ、波音はこそりと正也へ小声で話かけた。

「……ところで玲の仕事って何なの?」
「さぁ……?」
「あんたも知らないの? 昔から抱えてるわよね…」
「誰かの護衛でもしてるんじゃない?」
「ふぅん……?」

置野正也(おきの まさや)
2月10日・男・15歳
身長:170cm
髪:砂色
目:茶
家族構成:父・母
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:野菜(出たら食べる)

そこそこ筋肉がついてがっしりめな体型。でも着やせするタイプ。
髪は短めでわりとつんつんしてる。
表情筋が硬い。朝に弱くて昼前まで常に眠そうな顔をしている。
喋るの苦手で押しが強い人も苦手。そもそも人付き合いが得意でない。
勉強も苦手なので極力学校に行きたくない人。
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