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作者: トッキ―
残酷な描写あり
第34話 スパイ同士のミザイルとフューゲル、研究者の情報収集活動

 ハーネイトがヴァンと弟子であるリリー、忍者の南雲たちと忍の里に向かっていたその頃、敵の幹部フューゲルは、本部から派遣されている上司のミザイルとある店のバーで話をしていた。

 迷霧の森でハーネイトにメッセージを伝えた後、ミザイルが探している人物に関しての情報を手に入れたからと言う理由でフューゲルは彼に連絡をし、話を持ち掛けたのであった。

「ここ最近妙な男がいるのですが、ミザイルさんは何か心当たりはありますか? 」

 彼は1枚の写真を、ミザイルと言う男にそっと見せた。彼はそれを手に取り、ウィスキーを片手によく見た。しかし彼はかすかに笑いながら写真を返した。

「知らないな。これがどうかしたのか? 」

「実は、この男がDGの作戦を邪魔しているのです」

 その言葉に、ミザイルは表情を変化させながら興味を示し、写真を返しつつ

「ほう、それは面白いな」

 と静かにそう言い、彼の言葉にさらにフューゲルは一言付け足した。

「しかも、この男からは普通の人とは大きく異なる気を強く感じるのですよ。ミザイルさんも以前この星の古代人と言っていましたよね。それに、執行官や徴収官たちから感じる霊気ですか、あれをこの男からも感じました」

「確かにそうだが。そうか、それは一度見てみたいな。同じ能力者ならば、勧誘または誘拐しなければならないだろうしな」

 ミザイルはそう言い、酒を飲み続けていた。知らないと言いつつも、ミザイルはその写真の男を知っていた。

 彼にも大きな秘密があるが、それは古代人であること。尚且つ、この世界とは違う場所にある「天神界」という所からDGや霊量士らを監視に来たスパイであること。それを隠すため似たような、しかし霊界人とは違う邪悪な気を感じるフューゲルについて、こいつはDGとは違うが嫌な気がすると感じ、少しはぐらかしながらそう答えたのである。

 彼の名はミザイル・グリムノーツ・シュブレンガーという。彼は天神界からDGの監視を主に任務を受けていた。かなり高度な創金術(イジェネート)能力を行使でき、戦闘時は両腕を変形させ、自在に稼働する片腕に3枚ずつ展開できる金属羽を組み合わせた鋼拳で大地を破壊するほどの一撃を与えるという。そしてDGやその中にいる霊量士たちを目の上のたん瘤として見ていた。

 白い服の男とミザイルは知り合いであり、同じ任務を言い渡されていた。世界を乱す存在を倒し、あるアイテムを回収しろという内容である。

「この先会う可能性もありますね。気を付けておいた方がいいかと思いまして」

「そうだな、分かった。ほら、これで何か食べていくといい。よく働いているからな、私からの選別だ」

「ありがとう、ございます」

 ミザイルは机の上に少しのお金を置き、先に自身の会計を済ませ外に出た。フューゲルは先に店を出るミザイルに一礼し、また席に座る。

「白い服の男、オーダインも探している対女神用神造兵器。神気で探れなかったため時間を費やしたが……。恐らくまだ、あいつは力を眠らせている。だからあいつも探すのに苦労していたわけだ、ははは。埋め込まれた、旧世界の支配者の力がどれほどか気になるな、ククク。うまく制御できるように仕向けなければ」

 ミザイルはそう考えながら夜の街に消えていった。ミザイルのもう一つの任務は他の天神界人と協力し、行方不明になった神造兵器の捜索であった。その糸口をようやくつかんだミザイルは、フューゲルに感謝をしながらも、彼の素性について調べるべきだと考えていた。

 そんな中バーにまだいたフューゲルは飲み物を頼んで、炭酸のきついコーラを少しずつ飲みながらミザイルの件やハーネイトについて考えていた。

「しかし、ミザイルは食えない男だ。かつてDカイザー様が天神界を攻めたというが、彼もその天神界出身とは何を考えているのだろうか。だがDGが相当忌み嫌われているのだけはわかる。そして霊界人と言う存在。好きには、させない。ハーネイト、あの時のメッセージは伝わっているか?お前は、女神も、あの龍をも倒せる、いや、倒すために生まれてきた男だ」

 このフューゲルと言う男も相当厄介と言うか、存在自体が問題のある人物であった。この星特有の問題、異世界からの侵略が1つに挙げられるが彼はその侵略者の一人、Dカイザーと言う悪魔王の義理の息子である。つまり簡潔に言えば異世界から来た人型の悪魔である。

 DGについて、彼の父であるDカイザーは息子に潜入捜査をさせていた。そして時にその侵略者である力を使い、悪魔に変身しながら活動していたのである。

 それと同じく、陰ながら父と共にハーネイトの成長を見届けていたのである。そして今回彼はハーネイトに対しヒントとなる言葉を与えたのであった。それがリンドブルグや迷霧の森での一件であり、徐々に覚醒しているハーネイトの姿にほっとしていた。

 しかしなぜ直接言わなかったのか、それはもし存在がばれると自身らが討伐されかねず、徐々に接触を増やそうと考えていたカイザーの作戦であった。

「女神に対抗できる存在、ハーネイト……か。早く、力に、あの旧支配者の力を自覚して、真に目覚めてくれ」

 そう考えながら彼は外の景色を見ていた。このミザイルとフューゲルも、のちにハーネイトと言う存在の元に集うことになるとはこの時予想もしていなかった。

 さらに付け足すと、霊量士の力を極限まで身に着けることもまた、想像すらしていなかったのであった。

 その力は本来、人が持ってはいけない神気の力。しかしそれを持つ人間たちこと霊量士をフューゲルもミザイルも危険視していた。だからこそ討伐しようとしていたが、フューゲルはあえて彼らとハーネイトをぶつけることで内なる最強の力を目覚めさせた方がいいと方針転換したと言う。

 その少し前、DGの元で研究をしていたボルナレロは他の研究員の目を盗み、拠点にあるデータをこっそりコピーしていた。

「ふんふふふん、ふう、大体終わったな。さて、どうしようかこれから」

 ノリノリで鼻歌を歌いながらDGに関する情報を回収していたその時、ボルナレロの背後から一人の女性が声をかける。

「ボルナレロ?少し話があるんだけど」

 ハインレイシア・ルクレリス。彼女も同じ研究所のメンバーで、彼の上司にあたる。ボルナレロはハインレイシアの前に立つ。このハインレンシアも只者ではなく、ボルナレロと同じ目的を持っていた。

「どうしましたか、ハインレイシア局長」

「ねえ、拠点の移動の話なんだけど。どうする? 」

 ハインレイシアは、ボルナレロに移動の話を持ち掛ける。さらに大きな研究所を、日之国の先にあるとある古城に設けたという。今いる拠点よりも設備がよく、多くの情報が入りやすいところであると説明する。

 ボルナレロは一瞬躊躇するも、ハーネイトにこっそり付けた発信機による動向の分析結果とさらに別の拠点でデータの回収ができると考え、二つ返事で了承した。近いうちにその研究拠点で合流できると彼は予想していた。

「では、準備を行うように。それと、あまり妙なことを考えてはだめよ?あの魔法使いに目を付けられないように」

 ハインレイシアが、釘を刺すようなことを言いながらその場から立ち去った。

「これはいい風が吹いているな。この機会を利用し、DGの技術をごっそり自分のものにして、ハーネイトの役に立てるようにしないとな。しかし合流できるのは先の話になりそうだ、ハハハ」

 ボルナレロはそう思いながら、薄ら笑みを浮かべる。彼の資産額が末恐ろしいものであることを思い出しながらDGが持つ幾つかの技術について元手にビジネスができないか考えていた。

「しかしジュラルミンと魔法使いか。これについての情報だけはまるで手に入らない。よほど何かあるな。さて、早くハーネイトに楽させながらこっちも悠々自適に祖父が行っていた研究を進めたい。互いに幸福になる関係で、彼とはずっとありたいものだ」

 ボルナレロはそう考えつつ、資料を抱え部屋を後にした。そうして彼は別の拠点に向かおうと準備をしていたころハーネイトたちは、忍者たちの案内で迷霧の森の中を高速で駆け抜けていた。

 忍たちにしかわからない道。険しい岩や絡みつくような草木をよけながら、夜明けの森を5人は駆け抜ける、

「あと5分ほどでつきます。このままついてきてください」

 風魔が手で行き先を指示しながら先行する。

「しかし助かったぜ。風魔が来てくれてよ? 」

「ふん、藍之進様から頼まれていっただけ。方向音痴癖が治らないわね南雲は」

「しかたねえだろ、誰だって1つや2つは苦手なものがある」

 風魔の言葉に彼はやや諦めたようにそう言い放つ。その方向音痴に関して、ハーネイトが気になった点を2人に確認する。

「方向音痴が酷いみたいだが、単独行動させなければ良いのではないか?風魔は方向音痴ではないのだろ? 」

 ハーネイトの指摘に2人ともハッとする。方向音痴でない人をつけておけば、そのような問題は別に生じない。しかしそれを2人は長年気づくことができなかった。

 と言うのもこの世界の忍者たちは、単独行動が基本となるため、ペアを組ませようとかという考えには至りにくかったという背景があったからである。

「確かに、道に迷うときはいつも1人だったな」

「そうか、確かに相棒の言うとおり、南雲は1人にならないよう意識するのがいいかもな」

「常に作戦中は味方から離れないほうがいいと思うわ、きっとそうね」

「もう問題の1つを解決するなんて、よかったわね南雲。ハーネイト様からアドバイスが頂けるなんてね。それと里に到着しました。お疲れ様です」

そうしてハーネイトらが風魔の元に追い付くと、そこには周りの雰囲気とは似合わないほどの巨大な建物や集落が存在していたのであった。

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